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少年隊入隊試験編
24.骨折と兄妹と否定
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00:40:00
荒地
「……!」
仰向けで気絶していたガオが突如、目を開いて起き上がった
「あかん 気ぃ失っとった…」
目の前には倒れたキドウがいて目をぱちぱちさせる
「お、起きたか」
視界から外れていた横にガイが座っていた
「あんちゃん…キドウさん倒したんかいな」
「あぁそうだよ なんか文句でも……!」
突然、肩を組まれて声が詰まった
「あんがとさん!あんちゃんがおらな今頃、俺ボロボロや!」
高笑いしながら自分を褒めてくるガオに驚く
「ガイだ…」
「ん?なんやて」
「名前…ガイだ」
「おうおう!そうか!よろしくなガイ!!」
「こっちこそだ ガオ」
2人は立ち上がって並んで歩き始めた
高層ビル地帯 あるビル内 15階
狙撃から逃れるためにこのビルに入り込んだコウマはビル内を散策していた
オフィス机や起動していないパソコン、散らばった紙類など会社内を再現させるものがある
「このビルそろそろ出るか…」
ビル内に逃げ役がいると思い散策をしていたのだが、階を上っても誰一人見つからなかったためオフィスから出ようとするとなにか影が動いた
「……!」
気配がした方に視線を向けると今度は横、次は後ろとかなり低い姿勢で素早く動いていることがわかった
なにかいることを確信し、楽しくなってきたコウマは両手首に装着したバンドの3つの突起から指よりも長い鉤爪を伸ばした
鋭い6本の鉤爪を研ぐように擦り合わせると金属音がオフィスに広がる
その瞬間、影が動いた
その先にある机に向かってコウマが飛びつき、机を前方に蹴り飛ばすとそこには何もいなかった
「いない…!?」
隙だった
その男は既に彼の背後をとっていたのだ
逆手持ちのサバイバルナイフが無防備なコウマの首を狙った
「……!」
寸前で気づいたコウマが振り返って鉤爪でナイフを弾く
カチンッ!という音がオフィス内に広がった
鉤爪で追い討ちをすると影はバク宙で後退してかわした
コウマは高揚しはつらつに笑う
「ヘヘッ!お前強そうだな!誰だ!!」
影は静かに横顔を覗かせる
「教えねぇよガキ」
ビルの強化ガラスからさす光がその影の背中を照らす
根元まで染めきれていない金髪と鋭い黄色の片目が輝き、背中に貼られた「特別!」の弾幕がコウマの興味と闘争心を更に燃やした
「ぜってぇとってやるw」
工業地帯 ある工場内
黒炭まみれになった2人が爆発でついた傷の痛みに耐えながらサトシに食らいつく
2人の攻撃をのらりくらりと余裕でかわし、拳を後ろから振りかぶってきたゴウの後隙にもも上げで膝を腹に打ちつける
「ヌッ…!」
苦しみを見せるゴウを間髪入れずに蹴り飛ばす
上手く受け身をとって左手首を右手で掴む
やっぱりか…
何かを察したのかゴウを指さして口を開く
「キミ…ガツンッ!!
話そうとした瞬間、頭部を背後から回し蹴りされ飛ばされる
「やっと、いいの、、入った……!」
満身創痍のレナが動きの止まったサトシを見逃さず攻撃したのだ
「イテテ…」
なんの痛がる様子も見せず立ち上がるサトシにレナは嫌気がさす
余裕なのウザイ…!
「ゴウ!だいじょぶ!」
「あぁ…」
顎に伝った一滴の汗を手の甲で払う
投げするために防護チョッキ着たっつーのにこの人相手だとただ減速させてるだけになってんな…
得意である投げ技をキメやすくするために着用したチョッキに後悔しているが、それは建前であり実際、最も動きを鈍らせているのは左手首の骨折である
左手首を庇うような動きでただでさえ動きにくいチョッキを着た状態をさらに悪化させている
すると、サトシが声を上げた
「レナ~」
自分の妹へ話しかける
レナも少し力を抜いて返事する
「なに」
「お前、本気出せてないでしょ…」
レナの横にいる男を指した
「ソイツのせいで」
指をさされたゴウは一瞬、強ばった
「は!?お兄ちゃん何言ってんの!」
「そのまんまの意味だ レナはもっと動けるし、力も強いはずなのに全然こもってない」
「それはゴウじゃなくて、、さっきの爆発が…」
「言い訳はいいんだよレナ」
兄の厳しい言葉が妹の口を塞がせた
「自分より弱い奴に合わせる癖 治せってずっと前から言ってるよな」
「ちがう、、!ゴウは弱くなんて…」
「レナ!!」
ゴウがレナの言い訳を遮った
「サトシさんの言う通りだ 俺は今、お前の足でまといになってる」
「そんな、、そんなこと、、!」
レナが否定しようとした瞬間、ゴウの眼前に鋼鉄の脚が迫った
「じゃあ先に寝てろ」
ボゴォン!!
頬を蹴り付けられたゴウは勢いよく吹き飛び、機械同士の間にある柱に背中を打ちつける
「ゴウ!」
「よそ見厳禁!!」
「……!」
迫る拳を両腕で受けて弾く
レナが距離をとりその場にしゃがんだ
「ふぅー…」
セツナと初めて闘った時に繰り出されたレナの得意が来る
膝をバネにして跳び、空中半回し蹴りをサトシの頭に食らわせようとするが、構えていたサトシは右腕を盾にして衝撃を緩和
しかし、緩和が足りず勢いで体がふらつく
「思ったより…」
晒された隙、がら空きの全身、まずは顎に右拳を打ち上げる
「クッ……!」
サトシの足が地から離れた
ここ…!!
レナ渾身の右足のミドルキックが体勢が不安定なサトシの腹に直撃し、前に吹き飛ぶ
しかし、サトシもこの勢いを逆手に取り空中で前転を繰り返して上手く低い姿勢で地面に着地
「……!」
「やっぱこうでなくっちゃな!!」
不敵な笑みのサトシはそのまま地面を蹴り、空中半回し蹴りをレナよりも速くレナの頭に打ち込んだ
左脚はレナの頭部を捕らえる
「グハッ…!」
少量の血を吐き出して転がり倒れる
「立てよレナ!俺とやれるのは妹であるお前だけだろ!!」
レナがゆっくりと立ち上がる
彼女の瞳は怒りに満ちていた
「友達を侮辱するのは許さない」
4年前、、
父は武闘家だった
道場の師範でそれはそれは強かった
そんな父は自分が子供の頃、武道場で育ったらしいのだけど使えないという理由で追い出されたらしい
それから我流の武闘を磨いて喧嘩じゃ誰にも負けない男になったのだと
そんな父の血を受けた私たち兄妹は幼い頃から運動能力が他の子供たちよりもずば抜けて高かった
私もお兄ちゃんも特別、稽古を受けたわけじゃないのに友達の喧嘩に仲裁するため手を上げると嘔吐や骨折を引き起こさせてしまう
仕舞いには「レナちゃん怖いよ、、」「こっち来んな暴力おんな!!」と顔を見られれば言われる始末
「俺たちはみんなより強いから暴力をするのはやめよう」
そう言ったお兄ちゃんに私も強く賛同した
私もお兄ちゃんも友達を傷つけるのは嫌だったし、これ以上、みんなから嫌われるのが嫌で嫌で仕方なかったから
でも、、その考えは父には理解されなかった
「強い奴が上、弱い奴は下、着いて来れない奴はいらない」
稽古をつけている弟子にそう厳しく伝えている姿は鬼畜の所業を押し付ける鬼でその鬼が私たちにも牙を向けてきた
「お前ら!!そんな弱い考えしてやがったのか!」
私とお兄ちゃんが私たちの想いを理解して欲しくて暴力をやめることを伝えた時、鬼の怒号が鳴った
正座している私たちに対して怒鳴り声を上げながら屈強な体で私たちを見下す父が怖くてたまらなかった
沸点を振り切った父の拳が私の頭に振り下ろされた時、横にいたお兄ちゃんが私を庇った
「オ"ェ"ッ!!」
拳を腹で受けたお兄ちゃんは大量の反吐を吐き垂らして私に言った
「走れッ!!」
私もお兄ちゃんもその日から家から逃げ出した
かなりの距離を走って途方に暮れていた私たちに声をかけたのがムナさんだった
それからというもの訓練生として私とお兄ちゃんは研鑽を積んだわけだけど私は嫌われるのが怖くて本気を出せてなかった
でも、そんな私にお兄ちゃんは言ってくれた
「お前が好きなようにやればいいと思う」
その一言が私をどれだけ救ったことか
私は未だにあまり本気を出さない
だけど、それはして悪いことではないのだと
お兄ちゃんは父と違った私を理解して尊重してくれる優しい兄なんだとそう思ってた
思ってたのに、、、
現在
今のお兄ちゃんは違う
私の本気を無理矢理引き出して喧嘩を、暴力を楽しんでるように見える
「ハアァァァア!」
嫌悪と怒りのこもった右拳がサトシの腹に食い込む
「ンッ!!」
何かを吐き出しそうになるがそれを強引に呑み込んでレナの頭を掴む
「オラァッ!!」
「……!」
額と額が強く衝突し、レナの額の中心から血が垂れる
「なぁレナ!!」
ゴンッ!
「お前まだ!力抜いてんのか!!」
ゴンッ!
「……!」
ボゴンッ!!
「ナハッ……!」
頭突きの連続から左脚の回し蹴りがレナの頭部に直撃する
レナがふらつきながら後退するとサトシは言葉を続ける
「なんで手抜いてんだ」
満身創痍で今にも倒れそうなレナが何とか地に足をつけて踏みとどまる
「だって……誰にも…嫌われたく…ない…から…」
掠れた声の回答にサトシは何故か涙を流した
「そうか…そうだよな…」
流れた涙を擦る
「お兄ちゃん…?」
「前みたいに友達から嫌われるのが嫌だったんだろ…?」
涙声でそう言われるとレナは少しの期待を孕んで笑みを浮かべ、、
ボゴンッ!
「オ"ェ"ッ!!」
何よりも強い右足のミドルキックがレナの腹を貫かんばかり刺さった
そんな強烈な威力の攻撃をしても慈悲を向けるかのような表情で涙ぐみながら話を続ける
「だけどぉ!それは苦しいだろ!?」
「……!」
レナが図星を突かれたように固まる
「だから俺はそんなのやめた!誰も自分の本気に着いて来れなぁい!そんなの!!もう飽き飽きになるだろ!!」
「私は……」
言葉を探す
兄を否定する言葉を回らない頭で、、だが出てこない
「わがままにいこうぜ!!親父は正しかった!それだけだろ!!」
「黙れ!!!」
私の本気に誰も追いついてくれない…それは本当に苦しいよ…周りの目を気にして自分も本気を出せなくて……
否定できない…否定できないよお兄ちゃん…
それは間違ってる…違うから昔のお兄ちゃんに戻ってよって言いたいのに……!
私に言う資格なんて……
「ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"!」
何がしたいのか分からなくなったレナの言葉にならない叫びが工場に響き渡る
「そうだ!!来いレナ!!」
涙を振り切ったサトシが立ち向かってくるレナの拳を受け止めようと腕を広げた
「ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"!!」
迫り来るレナに泣き上がりの笑顔を魅せる
「今ここで全部吐き出しちまおうぜ!」
その瞬間、サトシの背後で左拳を握った男がいた
「……!」
コイツ…いつの間に…!
「はァァァ…」
振りかぶる左拳、サトシの1秒にも満たない思考
コイツ…!左手首、怪我してんだろ…つまりフェイント…!警戒すべきは!右手…!
ボゴォン!
思考はハズレた
ゴウの左拳は確かにサトシの頬を振り抜いた
「ボヘッ…!!」
完全な不意打ちに体勢を崩し、あまりの威力に脳震盪で視界がぼやける
「ァ"ァ"ア"!!」
倒れる寸前のサトシの背後から暴れたレナが空中回し蹴りで頭部を右から蹴り飛ばす
「ゴハッ…!」
吹き飛んだサトシは塗装された鉄骨の柱に背中を強く打ちつけた
「ナッ……!」
瞬時に起きた痛みの連続で気を失った
「「はぁ…はぁ…はぁ…」」
静まった工場で2人の疲れきった息が粗く吐かれる
「ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"!」
先に勢いよく息を吸ったレナがまたしても絶叫してサトシの方へ走る
正気の沙汰でないことを反射で理解したゴウも走った
「喰らえやァ!!」
レナの拳が気を失って無防備なサトシの頭に振り下ろされたかに思えた瞬間、、
「レナ待て!!」
ゴウが間に入り込んだ
「ドケェ!!」
レナの拳の行き先がゴウに代わったが、ゴウはそこから動くことはせず、強い表情でレナの目を見た
「……!」
レナは気を取り戻し、拳を止めた
「ご、ごめん!ゴウ!」
拳を開いて腕を下ろす
「当たってないから気にすんな」
謝罪に笑顔で許しを示すと、左手首に激痛が走り、右手で抑えた
「……!」
レナは突然、狼狽えたゴウに手を伸ばす
「だいじょぶだ 怪我が悪化はしたが骨折程度で済んでる」
「そ、そう…」
自分のせいで無理をさせたと感じているレナが申し訳なく手を引いた
「自分のせいで…とか思ってんだろ」
「え…」
気持ちを読まれたレナの動きが止まる
「少なくともこの怪我してのは試験前だし、悪化させたのも俺だ 左をフェイントに使うことはこの人に読まれると思っての判断 だからお前のせいじゃない」
「でも、、私がタイマンで勝ってれば、、」
「30点保持者相手に訓練生がタイマンで勝てる構成にされてるわけがない」
「それは、そうだけど、」
「それに俺が明らかな足手纏いだったからな お互いそういうの気にしないでいこーぜ」
「う、うん」
ゴウの言葉に下向きだった気持ちが少し前に向き直した
それを表情で理解したゴウが意見をあげる
「この30点は俺がもらってもいいか」
「なんで?」
「これ以上、怪我の悪化を進めたくないからな この人に手錠をかけて戦線離脱したいんだ」
「そっか いいよ全然! まだ試験時間もあるし」
「あぁ悪いな」
ゴウが手錠を気を失ったサトシの腕にかける間、レナは小さく口を開いた
「ごめんね…ゴウ」
「ん?なんか言ったか?」
あまりの小声で聞こえなかったゴウが聞き直したがレナは笑顔を向けた
「ううん!なんでもない!」
彼女のその鈍い笑顔には何か不完全燃焼なものを消火しないまま進もうという誤った決意を宿しているように見えた
ゴウ 少年隊隊長 基山 聡 確保 30点獲得
一方、、
左手に持った拳銃を回しながら、右手の拳銃を肩に当ててカチカチ鳴らし、何かを探す乙女が口を開いた
「ねぇ~ セツナちゃんとタカマサくーん どこに行ったのかなぁ」
工場同士の間が狭く、かなり入り組んだ場所まで逃げたセツナがキリマの後方にある建物の影で息を荒らげている
「はぁ…はぁ…!」
ムナさん…!想像の何倍も…
また、キリマの前方にある建物の影で同じ状況にあるタカマサ
この人…思ったより…
苦肉にも2人の思考が被る
((コワイ…!!))
キリマのナチュラルで優しい笑顔がその場に冷気を漂わせているように2人の恐怖を扇ぎあげていた
「バァンバァン!撃ち抜いちゃーうぞ☆」
親衛班班長 狂気なる乙女 桐間 無奈
荒地
「……!」
仰向けで気絶していたガオが突如、目を開いて起き上がった
「あかん 気ぃ失っとった…」
目の前には倒れたキドウがいて目をぱちぱちさせる
「お、起きたか」
視界から外れていた横にガイが座っていた
「あんちゃん…キドウさん倒したんかいな」
「あぁそうだよ なんか文句でも……!」
突然、肩を組まれて声が詰まった
「あんがとさん!あんちゃんがおらな今頃、俺ボロボロや!」
高笑いしながら自分を褒めてくるガオに驚く
「ガイだ…」
「ん?なんやて」
「名前…ガイだ」
「おうおう!そうか!よろしくなガイ!!」
「こっちこそだ ガオ」
2人は立ち上がって並んで歩き始めた
高層ビル地帯 あるビル内 15階
狙撃から逃れるためにこのビルに入り込んだコウマはビル内を散策していた
オフィス机や起動していないパソコン、散らばった紙類など会社内を再現させるものがある
「このビルそろそろ出るか…」
ビル内に逃げ役がいると思い散策をしていたのだが、階を上っても誰一人見つからなかったためオフィスから出ようとするとなにか影が動いた
「……!」
気配がした方に視線を向けると今度は横、次は後ろとかなり低い姿勢で素早く動いていることがわかった
なにかいることを確信し、楽しくなってきたコウマは両手首に装着したバンドの3つの突起から指よりも長い鉤爪を伸ばした
鋭い6本の鉤爪を研ぐように擦り合わせると金属音がオフィスに広がる
その瞬間、影が動いた
その先にある机に向かってコウマが飛びつき、机を前方に蹴り飛ばすとそこには何もいなかった
「いない…!?」
隙だった
その男は既に彼の背後をとっていたのだ
逆手持ちのサバイバルナイフが無防備なコウマの首を狙った
「……!」
寸前で気づいたコウマが振り返って鉤爪でナイフを弾く
カチンッ!という音がオフィス内に広がった
鉤爪で追い討ちをすると影はバク宙で後退してかわした
コウマは高揚しはつらつに笑う
「ヘヘッ!お前強そうだな!誰だ!!」
影は静かに横顔を覗かせる
「教えねぇよガキ」
ビルの強化ガラスからさす光がその影の背中を照らす
根元まで染めきれていない金髪と鋭い黄色の片目が輝き、背中に貼られた「特別!」の弾幕がコウマの興味と闘争心を更に燃やした
「ぜってぇとってやるw」
工業地帯 ある工場内
黒炭まみれになった2人が爆発でついた傷の痛みに耐えながらサトシに食らいつく
2人の攻撃をのらりくらりと余裕でかわし、拳を後ろから振りかぶってきたゴウの後隙にもも上げで膝を腹に打ちつける
「ヌッ…!」
苦しみを見せるゴウを間髪入れずに蹴り飛ばす
上手く受け身をとって左手首を右手で掴む
やっぱりか…
何かを察したのかゴウを指さして口を開く
「キミ…ガツンッ!!
話そうとした瞬間、頭部を背後から回し蹴りされ飛ばされる
「やっと、いいの、、入った……!」
満身創痍のレナが動きの止まったサトシを見逃さず攻撃したのだ
「イテテ…」
なんの痛がる様子も見せず立ち上がるサトシにレナは嫌気がさす
余裕なのウザイ…!
「ゴウ!だいじょぶ!」
「あぁ…」
顎に伝った一滴の汗を手の甲で払う
投げするために防護チョッキ着たっつーのにこの人相手だとただ減速させてるだけになってんな…
得意である投げ技をキメやすくするために着用したチョッキに後悔しているが、それは建前であり実際、最も動きを鈍らせているのは左手首の骨折である
左手首を庇うような動きでただでさえ動きにくいチョッキを着た状態をさらに悪化させている
すると、サトシが声を上げた
「レナ~」
自分の妹へ話しかける
レナも少し力を抜いて返事する
「なに」
「お前、本気出せてないでしょ…」
レナの横にいる男を指した
「ソイツのせいで」
指をさされたゴウは一瞬、強ばった
「は!?お兄ちゃん何言ってんの!」
「そのまんまの意味だ レナはもっと動けるし、力も強いはずなのに全然こもってない」
「それはゴウじゃなくて、、さっきの爆発が…」
「言い訳はいいんだよレナ」
兄の厳しい言葉が妹の口を塞がせた
「自分より弱い奴に合わせる癖 治せってずっと前から言ってるよな」
「ちがう、、!ゴウは弱くなんて…」
「レナ!!」
ゴウがレナの言い訳を遮った
「サトシさんの言う通りだ 俺は今、お前の足でまといになってる」
「そんな、、そんなこと、、!」
レナが否定しようとした瞬間、ゴウの眼前に鋼鉄の脚が迫った
「じゃあ先に寝てろ」
ボゴォン!!
頬を蹴り付けられたゴウは勢いよく吹き飛び、機械同士の間にある柱に背中を打ちつける
「ゴウ!」
「よそ見厳禁!!」
「……!」
迫る拳を両腕で受けて弾く
レナが距離をとりその場にしゃがんだ
「ふぅー…」
セツナと初めて闘った時に繰り出されたレナの得意が来る
膝をバネにして跳び、空中半回し蹴りをサトシの頭に食らわせようとするが、構えていたサトシは右腕を盾にして衝撃を緩和
しかし、緩和が足りず勢いで体がふらつく
「思ったより…」
晒された隙、がら空きの全身、まずは顎に右拳を打ち上げる
「クッ……!」
サトシの足が地から離れた
ここ…!!
レナ渾身の右足のミドルキックが体勢が不安定なサトシの腹に直撃し、前に吹き飛ぶ
しかし、サトシもこの勢いを逆手に取り空中で前転を繰り返して上手く低い姿勢で地面に着地
「……!」
「やっぱこうでなくっちゃな!!」
不敵な笑みのサトシはそのまま地面を蹴り、空中半回し蹴りをレナよりも速くレナの頭に打ち込んだ
左脚はレナの頭部を捕らえる
「グハッ…!」
少量の血を吐き出して転がり倒れる
「立てよレナ!俺とやれるのは妹であるお前だけだろ!!」
レナがゆっくりと立ち上がる
彼女の瞳は怒りに満ちていた
「友達を侮辱するのは許さない」
4年前、、
父は武闘家だった
道場の師範でそれはそれは強かった
そんな父は自分が子供の頃、武道場で育ったらしいのだけど使えないという理由で追い出されたらしい
それから我流の武闘を磨いて喧嘩じゃ誰にも負けない男になったのだと
そんな父の血を受けた私たち兄妹は幼い頃から運動能力が他の子供たちよりもずば抜けて高かった
私もお兄ちゃんも特別、稽古を受けたわけじゃないのに友達の喧嘩に仲裁するため手を上げると嘔吐や骨折を引き起こさせてしまう
仕舞いには「レナちゃん怖いよ、、」「こっち来んな暴力おんな!!」と顔を見られれば言われる始末
「俺たちはみんなより強いから暴力をするのはやめよう」
そう言ったお兄ちゃんに私も強く賛同した
私もお兄ちゃんも友達を傷つけるのは嫌だったし、これ以上、みんなから嫌われるのが嫌で嫌で仕方なかったから
でも、、その考えは父には理解されなかった
「強い奴が上、弱い奴は下、着いて来れない奴はいらない」
稽古をつけている弟子にそう厳しく伝えている姿は鬼畜の所業を押し付ける鬼でその鬼が私たちにも牙を向けてきた
「お前ら!!そんな弱い考えしてやがったのか!」
私とお兄ちゃんが私たちの想いを理解して欲しくて暴力をやめることを伝えた時、鬼の怒号が鳴った
正座している私たちに対して怒鳴り声を上げながら屈強な体で私たちを見下す父が怖くてたまらなかった
沸点を振り切った父の拳が私の頭に振り下ろされた時、横にいたお兄ちゃんが私を庇った
「オ"ェ"ッ!!」
拳を腹で受けたお兄ちゃんは大量の反吐を吐き垂らして私に言った
「走れッ!!」
私もお兄ちゃんもその日から家から逃げ出した
かなりの距離を走って途方に暮れていた私たちに声をかけたのがムナさんだった
それからというもの訓練生として私とお兄ちゃんは研鑽を積んだわけだけど私は嫌われるのが怖くて本気を出せてなかった
でも、そんな私にお兄ちゃんは言ってくれた
「お前が好きなようにやればいいと思う」
その一言が私をどれだけ救ったことか
私は未だにあまり本気を出さない
だけど、それはして悪いことではないのだと
お兄ちゃんは父と違った私を理解して尊重してくれる優しい兄なんだとそう思ってた
思ってたのに、、、
現在
今のお兄ちゃんは違う
私の本気を無理矢理引き出して喧嘩を、暴力を楽しんでるように見える
「ハアァァァア!」
嫌悪と怒りのこもった右拳がサトシの腹に食い込む
「ンッ!!」
何かを吐き出しそうになるがそれを強引に呑み込んでレナの頭を掴む
「オラァッ!!」
「……!」
額と額が強く衝突し、レナの額の中心から血が垂れる
「なぁレナ!!」
ゴンッ!
「お前まだ!力抜いてんのか!!」
ゴンッ!
「……!」
ボゴンッ!!
「ナハッ……!」
頭突きの連続から左脚の回し蹴りがレナの頭部に直撃する
レナがふらつきながら後退するとサトシは言葉を続ける
「なんで手抜いてんだ」
満身創痍で今にも倒れそうなレナが何とか地に足をつけて踏みとどまる
「だって……誰にも…嫌われたく…ない…から…」
掠れた声の回答にサトシは何故か涙を流した
「そうか…そうだよな…」
流れた涙を擦る
「お兄ちゃん…?」
「前みたいに友達から嫌われるのが嫌だったんだろ…?」
涙声でそう言われるとレナは少しの期待を孕んで笑みを浮かべ、、
ボゴンッ!
「オ"ェ"ッ!!」
何よりも強い右足のミドルキックがレナの腹を貫かんばかり刺さった
そんな強烈な威力の攻撃をしても慈悲を向けるかのような表情で涙ぐみながら話を続ける
「だけどぉ!それは苦しいだろ!?」
「……!」
レナが図星を突かれたように固まる
「だから俺はそんなのやめた!誰も自分の本気に着いて来れなぁい!そんなの!!もう飽き飽きになるだろ!!」
「私は……」
言葉を探す
兄を否定する言葉を回らない頭で、、だが出てこない
「わがままにいこうぜ!!親父は正しかった!それだけだろ!!」
「黙れ!!!」
私の本気に誰も追いついてくれない…それは本当に苦しいよ…周りの目を気にして自分も本気を出せなくて……
否定できない…否定できないよお兄ちゃん…
それは間違ってる…違うから昔のお兄ちゃんに戻ってよって言いたいのに……!
私に言う資格なんて……
「ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"!」
何がしたいのか分からなくなったレナの言葉にならない叫びが工場に響き渡る
「そうだ!!来いレナ!!」
涙を振り切ったサトシが立ち向かってくるレナの拳を受け止めようと腕を広げた
「ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"!!」
迫り来るレナに泣き上がりの笑顔を魅せる
「今ここで全部吐き出しちまおうぜ!」
その瞬間、サトシの背後で左拳を握った男がいた
「……!」
コイツ…いつの間に…!
「はァァァ…」
振りかぶる左拳、サトシの1秒にも満たない思考
コイツ…!左手首、怪我してんだろ…つまりフェイント…!警戒すべきは!右手…!
ボゴォン!
思考はハズレた
ゴウの左拳は確かにサトシの頬を振り抜いた
「ボヘッ…!!」
完全な不意打ちに体勢を崩し、あまりの威力に脳震盪で視界がぼやける
「ァ"ァ"ア"!!」
倒れる寸前のサトシの背後から暴れたレナが空中回し蹴りで頭部を右から蹴り飛ばす
「ゴハッ…!」
吹き飛んだサトシは塗装された鉄骨の柱に背中を強く打ちつけた
「ナッ……!」
瞬時に起きた痛みの連続で気を失った
「「はぁ…はぁ…はぁ…」」
静まった工場で2人の疲れきった息が粗く吐かれる
「ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"!」
先に勢いよく息を吸ったレナがまたしても絶叫してサトシの方へ走る
正気の沙汰でないことを反射で理解したゴウも走った
「喰らえやァ!!」
レナの拳が気を失って無防備なサトシの頭に振り下ろされたかに思えた瞬間、、
「レナ待て!!」
ゴウが間に入り込んだ
「ドケェ!!」
レナの拳の行き先がゴウに代わったが、ゴウはそこから動くことはせず、強い表情でレナの目を見た
「……!」
レナは気を取り戻し、拳を止めた
「ご、ごめん!ゴウ!」
拳を開いて腕を下ろす
「当たってないから気にすんな」
謝罪に笑顔で許しを示すと、左手首に激痛が走り、右手で抑えた
「……!」
レナは突然、狼狽えたゴウに手を伸ばす
「だいじょぶだ 怪我が悪化はしたが骨折程度で済んでる」
「そ、そう…」
自分のせいで無理をさせたと感じているレナが申し訳なく手を引いた
「自分のせいで…とか思ってんだろ」
「え…」
気持ちを読まれたレナの動きが止まる
「少なくともこの怪我してのは試験前だし、悪化させたのも俺だ 左をフェイントに使うことはこの人に読まれると思っての判断 だからお前のせいじゃない」
「でも、、私がタイマンで勝ってれば、、」
「30点保持者相手に訓練生がタイマンで勝てる構成にされてるわけがない」
「それは、そうだけど、」
「それに俺が明らかな足手纏いだったからな お互いそういうの気にしないでいこーぜ」
「う、うん」
ゴウの言葉に下向きだった気持ちが少し前に向き直した
それを表情で理解したゴウが意見をあげる
「この30点は俺がもらってもいいか」
「なんで?」
「これ以上、怪我の悪化を進めたくないからな この人に手錠をかけて戦線離脱したいんだ」
「そっか いいよ全然! まだ試験時間もあるし」
「あぁ悪いな」
ゴウが手錠を気を失ったサトシの腕にかける間、レナは小さく口を開いた
「ごめんね…ゴウ」
「ん?なんか言ったか?」
あまりの小声で聞こえなかったゴウが聞き直したがレナは笑顔を向けた
「ううん!なんでもない!」
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「ねぇ~ セツナちゃんとタカマサくーん どこに行ったのかなぁ」
工場同士の間が狭く、かなり入り組んだ場所まで逃げたセツナがキリマの後方にある建物の影で息を荒らげている
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ムナさん…!想像の何倍も…
また、キリマの前方にある建物の影で同じ状況にあるタカマサ
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