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少年隊入隊試験編
25.正義とヒーローと勝利
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終了まで、、00:30:00
沼地
「かかれぇぇぇえ!!」
受験者6名がいっせいに紫色の侍道着を着用した男に囲んで襲いかかるが、
「とろいな…」
カンッ!ゴンッ!ガンッ!ダダダンッ!
6人をあっという間に木刀で打ち倒した
特攻班班長 村上 信二
その様子を観戦席で観戦用端末で見ているシジマが確かに笑った
あの時に泣くことしかできなかった少年がここまで成長したことに少しの感動があるのだ
「リーダー」
「ん、なんだ」
仲介班班長 片桐 哲人が水を差して話しかけてきたが全く驚くこともせず背中を向けたまま返した
「驚かないんですね」
「気づいてたからな けど、感傷に浸ってるところを不用意に話しかけるのはあまり良くない」
注意されて癪に触ったのか顔を顰めた
「すみません 本当は試験が終わった時に話したかったのですが、早めに伝えておいた方がいいと思いまして」
「このドームの貸切代だろ すぐに支払う」
「いえ、今回は現金でなく働き払いが良いと」
「ほう?」
カタギリはライターをつけてタバコに火を灯す
「このドームの経営、及び管理をしている【Z】の代表取締役兼社長の元に娘を殺すという予告が送られてきたようです」
カタギリは言葉を区切ると煙を細く吹く
「それはまた物騒な話だ」
「娘さんは自然な学校生活を送りたいらしく、ボディガードや警備を断っているとのこと」
「そこでウチか」
「そうです ウチの少年隊を娘さんの学校に潜入させる これが今回のドーム貸切条件です」
「検討しよう 今年の子らは見ての通り強いからね」
工業地帯
二丁拳銃のキリマの背後の建物に身を隠しているセツナが息を整えた
逃げ回ってても埒が明かない…!
勢いよく飛び出して飛び蹴りでキリマを背後から襲う
「やっと来たね!!」
バレてた…!
背後をとって完全に油断していると思わされていた
自分の体は空中、この体勢では銃弾を避けるすべは、、
セツナの方を向いたキリマとは背後にタカマサが銃を構える
俺がとる…
タカマサ…!いやいい、どうあれムナさんは絶対にダメージを…
パァン!
実弾の発砲
嫌い合う2人の思考が奇跡的に噛み合った
しかし、狂気なる乙女はそれを見越している
「知ってるよ…おふたりさんっ」
キリマは背後から銃弾、正面からセツナの足裏と挟まれた状況
2つの攻撃が目標に直撃する瞬間、彼女は身を捻って跳んだ
「「……!」」
ジュバッ…!
「ナッ…!」
タカマサの銃弾はキリマの向こうにあったセツナの足裏を貫通する
「マズった…!」
空中で逆さになっているキリマがタカマサに2つの銃口を向けた
「バァンバァン!」
擬音語と同時に放たれたパチンコ玉はタカマサの両肩を貫く
着地に失敗したセツナが地面に転がるとキリマはかかと落としをセツナの腹に蹴り下ろした
「ヌァ"ッ!!」
キリマのかかとがセツナの腹に食い込む
苦しみが増し、セツナの顔が青くなるのを見ても彼女の優しげな笑顔は絶えない
「はいはーい そのままおやすみぃ」
さらに一度、足を浮かせて勢いつけた踏みつけをセツナの腹に落としたと思われた
しかし、隙に背後をとったタカマサが刀を無防備な背中に振る
「あまーい」
セツナを踏みつけようとしていた足裏は後ろを向き、タカマサの顎を蹴りあげる
脚は完全に伸び切り、その足裏が空に向けられた直立したフォームを維持
「足燕返っ!」
伸び切った足を勢いよく地面に振り下ろすと同時にタカマサの頭を踏みおろした
グチャッ…!
顔面が地面に直撃し、頭から飛び散るように血液が地面に付着した
起き上がろうとするタカマサの顔は目が腫れ、傷だらけで血をゆっくりと垂らしている
「なぁ"っ!」
タカマサが起き上がろうと頭を上げるが、キリマはそれを上から腰を下ろしておしりに引く
「タカマサッ!」
足裏の痛みと衝撃で立ち上がれないセツナの背中にキリマは足を伸ばしてかかとを置いた
2人を座布団にして座っているようになる
「タカマサくんとセツナちゃんさ~」
実力格差からくる余裕で椅子に使っている2人に悠長に話しかける
「さっき喧嘩してたよね」
2丁の試験用拳銃にパチンコ玉を転がすように3弾入れる
「なんで仲間割れなんてしてるのかなぁ」
「ンンンンンッ!」
口が地面に押さえつけられていて言葉になっていないタカマサ
「んーなんてぇ?」
軽い言葉とは裏腹に右手に持った拳銃の銃口を伸びた右腕に当てた
これから話すことに反論をさせないための威圧だ セツナには背中につけたかかとに力を入れて自分の話す場を整える
「まぁどんな理由であれぇ試験中にやることじゃないよねぇ」
ゆっくりな説教がキリマの怖さを際立たせる
かかとを背中に着けた足をそのまま反対の左脚を組んだ
「キミらさぁ…」
冷酷の視線がセツナの目に刺さる
「受かる気ある?」
その瞬間、無表情なキリマがこの世で最も怖いものだとセツナは強く錯覚した
反論すれば殺される、いや、口を開けば背中に置かれたかかとで背骨を砕かれる
そんな恐怖がセツナに生まれる
パァンッ!
「ン"ン"ン"ッ!!」
タカマサの右腕に当たれらた銃口から弾が発射され円形に抉る
「うるさーい」
パァンッ!
「ン"ン"ン"ッ!!」
さらに右肘を撃たれる
ただただ、ひたすら恐怖に苛まれているセツナは目の前の光景を目に焼きつけることしかできず、呼吸と心拍の速さが上がり続ける
「はぁ…ハァッはぁっはァッ」
パァンッ!
「ン"ン"ン"ッ!!」
右手のひらに弾が貫通する
「次、背中ね あ、安心して貫通してもしなくても死なないとこに撃つから」
左手の拳銃がタカマサの背中に向けられる
「ハァッ!はぁっ!ハァ…ハァ…!」
動け…動け動け…!
痛い目にあっているのは嫌悪をしている相手だ
しかし、セツナはそんな相手にも信念を貫く
自分が味わったような苦しい生活や想いを強いられている人たちを少しでも減らすために強くなる
キリマの人差し指が引き金を押し込むその瞬間、彼女の足が大きく浮いた
「……!」
強くなるために…人を助けるんだ…!
恐怖を押し殺して立ち上がった強い信念がキリマの目に刺さる
「そっか…気づけたんだね…」
拳銃をタカマサから離し、セツナを正面にして立ち上がる
「じゃあ真剣勝負してあげる」
両手にナイフを逆手持ちして構えるセツナに対して2丁の銃を地面に向けて全く構えをとらないキリマ
パァン!
「……!」
初手、発砲
銃口をこちらに向けていないことから選択肢として捨てていたが、乙女は一切の躊躇を許さなかった
右手の拳銃から放たれた玉が瞬時にしてセツナの眼前に現れる
ガシッ!バフンッ!
セツナの驚異的な動体視力が反射的に右手を動かして高速のパチンコ玉を握り止めた
強い衝撃で暴圧し、手の中が痺れる
「わーお」
呆気にとられるキリマの頭に左足裏が迫った
キリマはセツナの飛び蹴りを軌道に沿うようにしてかわし、お互いの立ち位置が反対になる
セツナは着地と同時にナイフを投げつける
そのナイフを拳銃で弾くがその隙にセツナは舞っていた
「回転兎!」
縦回転の勢いをつけたかかと落としがキリマに振り下ろされるが、キリマが寸前に回転飛びをすることでかわされる
かかとが地面に直撃する痛みも束の間、空中で高速回転するキリマの銃口が光る
「旋回乱砲」
回転しながら玉が周囲に乱暴に発射される
その多く玉から頭を守るため腕に力を込めて顔の前に置く
頭部への直撃を免れるが、左肩と右頬に玉がかすり、切り傷のように血が散る
キリマは着地と同時に上方に拳銃を1つ投げる
セツナの真上に位置したその拳銃に警戒する
しかし、キリマは自分の手にある銃でセツナを意識の外から撃った
だが、この発砲はセツナの動体視力があれば回避される
「フフッ…」
狂気なる乙女にそんな妥協はない
発砲した瞬間、キリマは手に残していた拳銃から手を離し、跳んだ
セツナの真上にある拳銃を流れるように手に取りセツナの背後で銃口を向けた
しまった…!
一瞬の思考がセツナの中で回る
前を止めれても後ろから抜かれる…!回避してもムナさんは対応してくる…!ヤバイ…!!
詰みを感じたその時、赤が吹いた
ブシャーーッ!!
「ナッ……!」
キリマの背中から血が斬り出る
セツナは前方に迫る玉を回避し、背後の様子を確認するとキリマの背後に立つタカマサが弱々しく刀を振り下ろしたことを理解した
「クソがッ!」
右腕の痛みが刀を振り下ろしたことで悪化し、刀をそこに落とす
動きの止まったタカマサに表れる大きな隙
キリマは背中の痛みに歯を食いしばって銃口を向けた
発砲された瞬間、セツナはタカマサを横から押し倒し、ギリギリで玉を回避する
「立って!!」
セツナの指示で立ち上がり、2人は正面にある工場の倉庫に向かって走る
「敵前逃亡かな…!」
銃を向けるが、玉切れに気づいた
そこでセツナが玉の数を数えながら退避するタイミングを伺っていたことを理解した
倉庫内
高く積まれた資源が陳列されている影に2人は腰を下ろす
2人とも息が上がっており、タカマサについては痛みと脳震盪の余波で限界寸前と言ったところだ
「なんで…俺を…助けた…」
天井を向いて息を切らしながら聞いた
セツナは一度、大きな咳払いをしてそれに応える
「アンタが痛そうだったから…それだけ」
「立ち上がれたんなら…俺を置いて逃げる選択肢があったはずだ…なぜ、そうしなかった」
「じゃあ言わせてもらうけど…アンタもなんで私を助けたの…」
「は?」
「え、自覚なし?」
キリマに背後をとられた時、キリマを攻撃してセツナの危機を救ったことに自分でも理解できていないようだ
「アンタだって私が闘ってる時に逃げれば良かったのに…」
「俺は単純に点が欲しくて…」
「さっきまでライバル倒ししてた人とは思えないセリフだ」
「ダマレェ!!」
タカマサの息を切らした後に出るかすれた大声が倉庫内に響く
セツナの態度が気に食わなかったのか怒りを召している
「俺は受かればいいんだ!!お前みたいに人助けしたいとか思ったことなんてねぇよ!!」
「そっか…じゃあさ…」
続く確信的な質問がタカマサの声を縮こませる
「アンタの目指すヒーローってなに」
「それは…!」
言葉に詰まった
自分が目指しているもの、それはなんなのか迷ったからだ
「どんな奴にも勝って、勝つことで正義をかざす…負けを認めず勝ちだけを狙う…それが…俺の中の…」
ボゴォンッ!!
「ドハッ…!!」
タカマサの右頬に強烈なストレートが入った
頬を抑えて驚きを隠せず倒れたままのタカマサが戸惑いながら声を上げた
「な…なにしやがる!」
「うるせぇ!!!」
いや絶対、今のはセツナの方がうるさ(((
「勝つことが正義のヒーロー?そんなの聞いた事ねぇよ!!」
「………」
言葉が出なかったのは確かに自分の目指している像が揺らいだからだ
「私もそんな詳しくないけどな!!ヒーローっていうのは!!自分を蔑ろにしてでも!!仲間や人々を守る!!そんな正義を持った奴のことだろ!!」
「……!」
タカマサは思い出したことがあった
幼少期に見ていた画面の中の戦士は確かにボロボロだったこと
だが、それに醜さを覚えたことは一度もなかったこと
ヒーローの正義は、、
「さっきのアンタ、、タカマサは私を助けるために動いた それが心の中にある本当のヒーローで正義ってヤツじゃないの?」
その問いかけに心を打たれ、身動きが止まった瞬間、キリマの声が倉庫に響いた
「タっカマっサくーん!」
明らかに恐怖の笑みを浮かべて言っている
声を聞いたセツナがタカマサに背を向ける
「私が行く…私は強くなるために行く…タカマサも自分の信念に従ってね」
セツナが積まれた資源の影から出た
「俺の…信念…」
資源が積まれている列の間のトラックを入れるために作られた入口からまっすぐに伸びる道でセツナはキリマと対面する
「タカマサくんはどこ?」
「キレてますねムナさん」
「フフッ…そう思うならご勝手に!」
パァン!ビュンッ!
玉の発砲とナイフの投擲が重なる
2つが交差して互いの狙いに迫る
セツナは玉を回避し直進、キリマはナイフを拳銃で弾くがその隙にセツナがキリマの右手首を掴んだ
「……!」
手首を掴んだまま、強く握り拳銃を落とさせる
ムナさん力が入ってない!背中の切り傷が効いてる!このまま左も…!
左手の銃を落とそうと手首に手を伸ばした時、握っていた右手がすっぽ抜けた
「え…」
キリマは股が地面につかんばかりに開脚し、右手を強く握った
バゴンッ!
「ンッ…!」
開脚状態から股を勢いよく閉じて立ち上がると同時に顎にアッパーを入れる
「拳燕返!」
撃ちあげた拳を振り落とし、頭部を殴りつけた
脳が揺れ、視界が眩む
マズイ…!これ…隙だらけ…!
左手の銃の銃口が腹に向けられた時、正義は輝きの声を上げた
「セツナァァァ!!」
「……!」
振り向かずともわかる
今、セツナの後ろにはタカマサがいる
パァンッ!
発砲だ
セツナは今、試されている
タイミングが噛み合わなければ自分が傷を負う
セツナは一瞬、視線を後ろに向けた
迫る実弾
ここだ……!
セツナは跳んだ
頭の揺れと視界の悪さを振り切って
セツナの胸部を貫かんとしていた実弾はセツナが壁になって前の様子が分からなかったキリマに迫る
「うっそ…!」
寸前、キリマは体を反らしたが左肩に銃弾が貫く
なぁセツナ…俺間違ってたわ…
セツナの右かかとがキリマの後頭部を捕らえる瞬間、タカマサは彼女に感謝を思う
俺の信念は…自分殺してでも誰かを救う…
そしてそれが!俺の正義であり、俺の…!!
セツナのかかとがキリマの後頭部に直撃し、地面に振り下ろした
「俺のヒーロー道だ…!」
ドォン!
「ダハッ…!」
キリマは地面にうつ伏せとなって倒れた
セツナは足を退かす前に手錠をキリマの左手首にかけた
セツナ 親衛班班長 狂気なる乙女 桐間 無奈を確保し、30点獲得
沼地
「かかれぇぇぇえ!!」
受験者6名がいっせいに紫色の侍道着を着用した男に囲んで襲いかかるが、
「とろいな…」
カンッ!ゴンッ!ガンッ!ダダダンッ!
6人をあっという間に木刀で打ち倒した
特攻班班長 村上 信二
その様子を観戦席で観戦用端末で見ているシジマが確かに笑った
あの時に泣くことしかできなかった少年がここまで成長したことに少しの感動があるのだ
「リーダー」
「ん、なんだ」
仲介班班長 片桐 哲人が水を差して話しかけてきたが全く驚くこともせず背中を向けたまま返した
「驚かないんですね」
「気づいてたからな けど、感傷に浸ってるところを不用意に話しかけるのはあまり良くない」
注意されて癪に触ったのか顔を顰めた
「すみません 本当は試験が終わった時に話したかったのですが、早めに伝えておいた方がいいと思いまして」
「このドームの貸切代だろ すぐに支払う」
「いえ、今回は現金でなく働き払いが良いと」
「ほう?」
カタギリはライターをつけてタバコに火を灯す
「このドームの経営、及び管理をしている【Z】の代表取締役兼社長の元に娘を殺すという予告が送られてきたようです」
カタギリは言葉を区切ると煙を細く吹く
「それはまた物騒な話だ」
「娘さんは自然な学校生活を送りたいらしく、ボディガードや警備を断っているとのこと」
「そこでウチか」
「そうです ウチの少年隊を娘さんの学校に潜入させる これが今回のドーム貸切条件です」
「検討しよう 今年の子らは見ての通り強いからね」
工業地帯
二丁拳銃のキリマの背後の建物に身を隠しているセツナが息を整えた
逃げ回ってても埒が明かない…!
勢いよく飛び出して飛び蹴りでキリマを背後から襲う
「やっと来たね!!」
バレてた…!
背後をとって完全に油断していると思わされていた
自分の体は空中、この体勢では銃弾を避けるすべは、、
セツナの方を向いたキリマとは背後にタカマサが銃を構える
俺がとる…
タカマサ…!いやいい、どうあれムナさんは絶対にダメージを…
パァン!
実弾の発砲
嫌い合う2人の思考が奇跡的に噛み合った
しかし、狂気なる乙女はそれを見越している
「知ってるよ…おふたりさんっ」
キリマは背後から銃弾、正面からセツナの足裏と挟まれた状況
2つの攻撃が目標に直撃する瞬間、彼女は身を捻って跳んだ
「「……!」」
ジュバッ…!
「ナッ…!」
タカマサの銃弾はキリマの向こうにあったセツナの足裏を貫通する
「マズった…!」
空中で逆さになっているキリマがタカマサに2つの銃口を向けた
「バァンバァン!」
擬音語と同時に放たれたパチンコ玉はタカマサの両肩を貫く
着地に失敗したセツナが地面に転がるとキリマはかかと落としをセツナの腹に蹴り下ろした
「ヌァ"ッ!!」
キリマのかかとがセツナの腹に食い込む
苦しみが増し、セツナの顔が青くなるのを見ても彼女の優しげな笑顔は絶えない
「はいはーい そのままおやすみぃ」
さらに一度、足を浮かせて勢いつけた踏みつけをセツナの腹に落としたと思われた
しかし、隙に背後をとったタカマサが刀を無防備な背中に振る
「あまーい」
セツナを踏みつけようとしていた足裏は後ろを向き、タカマサの顎を蹴りあげる
脚は完全に伸び切り、その足裏が空に向けられた直立したフォームを維持
「足燕返っ!」
伸び切った足を勢いよく地面に振り下ろすと同時にタカマサの頭を踏みおろした
グチャッ…!
顔面が地面に直撃し、頭から飛び散るように血液が地面に付着した
起き上がろうとするタカマサの顔は目が腫れ、傷だらけで血をゆっくりと垂らしている
「なぁ"っ!」
タカマサが起き上がろうと頭を上げるが、キリマはそれを上から腰を下ろしておしりに引く
「タカマサッ!」
足裏の痛みと衝撃で立ち上がれないセツナの背中にキリマは足を伸ばしてかかとを置いた
2人を座布団にして座っているようになる
「タカマサくんとセツナちゃんさ~」
実力格差からくる余裕で椅子に使っている2人に悠長に話しかける
「さっき喧嘩してたよね」
2丁の試験用拳銃にパチンコ玉を転がすように3弾入れる
「なんで仲間割れなんてしてるのかなぁ」
「ンンンンンッ!」
口が地面に押さえつけられていて言葉になっていないタカマサ
「んーなんてぇ?」
軽い言葉とは裏腹に右手に持った拳銃の銃口を伸びた右腕に当てた
これから話すことに反論をさせないための威圧だ セツナには背中につけたかかとに力を入れて自分の話す場を整える
「まぁどんな理由であれぇ試験中にやることじゃないよねぇ」
ゆっくりな説教がキリマの怖さを際立たせる
かかとを背中に着けた足をそのまま反対の左脚を組んだ
「キミらさぁ…」
冷酷の視線がセツナの目に刺さる
「受かる気ある?」
その瞬間、無表情なキリマがこの世で最も怖いものだとセツナは強く錯覚した
反論すれば殺される、いや、口を開けば背中に置かれたかかとで背骨を砕かれる
そんな恐怖がセツナに生まれる
パァンッ!
「ン"ン"ン"ッ!!」
タカマサの右腕に当たれらた銃口から弾が発射され円形に抉る
「うるさーい」
パァンッ!
「ン"ン"ン"ッ!!」
さらに右肘を撃たれる
ただただ、ひたすら恐怖に苛まれているセツナは目の前の光景を目に焼きつけることしかできず、呼吸と心拍の速さが上がり続ける
「はぁ…ハァッはぁっはァッ」
パァンッ!
「ン"ン"ン"ッ!!」
右手のひらに弾が貫通する
「次、背中ね あ、安心して貫通してもしなくても死なないとこに撃つから」
左手の拳銃がタカマサの背中に向けられる
「ハァッ!はぁっ!ハァ…ハァ…!」
動け…動け動け…!
痛い目にあっているのは嫌悪をしている相手だ
しかし、セツナはそんな相手にも信念を貫く
自分が味わったような苦しい生活や想いを強いられている人たちを少しでも減らすために強くなる
キリマの人差し指が引き金を押し込むその瞬間、彼女の足が大きく浮いた
「……!」
強くなるために…人を助けるんだ…!
恐怖を押し殺して立ち上がった強い信念がキリマの目に刺さる
「そっか…気づけたんだね…」
拳銃をタカマサから離し、セツナを正面にして立ち上がる
「じゃあ真剣勝負してあげる」
両手にナイフを逆手持ちして構えるセツナに対して2丁の銃を地面に向けて全く構えをとらないキリマ
パァン!
「……!」
初手、発砲
銃口をこちらに向けていないことから選択肢として捨てていたが、乙女は一切の躊躇を許さなかった
右手の拳銃から放たれた玉が瞬時にしてセツナの眼前に現れる
ガシッ!バフンッ!
セツナの驚異的な動体視力が反射的に右手を動かして高速のパチンコ玉を握り止めた
強い衝撃で暴圧し、手の中が痺れる
「わーお」
呆気にとられるキリマの頭に左足裏が迫った
キリマはセツナの飛び蹴りを軌道に沿うようにしてかわし、お互いの立ち位置が反対になる
セツナは着地と同時にナイフを投げつける
そのナイフを拳銃で弾くがその隙にセツナは舞っていた
「回転兎!」
縦回転の勢いをつけたかかと落としがキリマに振り下ろされるが、キリマが寸前に回転飛びをすることでかわされる
かかとが地面に直撃する痛みも束の間、空中で高速回転するキリマの銃口が光る
「旋回乱砲」
回転しながら玉が周囲に乱暴に発射される
その多く玉から頭を守るため腕に力を込めて顔の前に置く
頭部への直撃を免れるが、左肩と右頬に玉がかすり、切り傷のように血が散る
キリマは着地と同時に上方に拳銃を1つ投げる
セツナの真上に位置したその拳銃に警戒する
しかし、キリマは自分の手にある銃でセツナを意識の外から撃った
だが、この発砲はセツナの動体視力があれば回避される
「フフッ…」
狂気なる乙女にそんな妥協はない
発砲した瞬間、キリマは手に残していた拳銃から手を離し、跳んだ
セツナの真上にある拳銃を流れるように手に取りセツナの背後で銃口を向けた
しまった…!
一瞬の思考がセツナの中で回る
前を止めれても後ろから抜かれる…!回避してもムナさんは対応してくる…!ヤバイ…!!
詰みを感じたその時、赤が吹いた
ブシャーーッ!!
「ナッ……!」
キリマの背中から血が斬り出る
セツナは前方に迫る玉を回避し、背後の様子を確認するとキリマの背後に立つタカマサが弱々しく刀を振り下ろしたことを理解した
「クソがッ!」
右腕の痛みが刀を振り下ろしたことで悪化し、刀をそこに落とす
動きの止まったタカマサに表れる大きな隙
キリマは背中の痛みに歯を食いしばって銃口を向けた
発砲された瞬間、セツナはタカマサを横から押し倒し、ギリギリで玉を回避する
「立って!!」
セツナの指示で立ち上がり、2人は正面にある工場の倉庫に向かって走る
「敵前逃亡かな…!」
銃を向けるが、玉切れに気づいた
そこでセツナが玉の数を数えながら退避するタイミングを伺っていたことを理解した
倉庫内
高く積まれた資源が陳列されている影に2人は腰を下ろす
2人とも息が上がっており、タカマサについては痛みと脳震盪の余波で限界寸前と言ったところだ
「なんで…俺を…助けた…」
天井を向いて息を切らしながら聞いた
セツナは一度、大きな咳払いをしてそれに応える
「アンタが痛そうだったから…それだけ」
「立ち上がれたんなら…俺を置いて逃げる選択肢があったはずだ…なぜ、そうしなかった」
「じゃあ言わせてもらうけど…アンタもなんで私を助けたの…」
「は?」
「え、自覚なし?」
キリマに背後をとられた時、キリマを攻撃してセツナの危機を救ったことに自分でも理解できていないようだ
「アンタだって私が闘ってる時に逃げれば良かったのに…」
「俺は単純に点が欲しくて…」
「さっきまでライバル倒ししてた人とは思えないセリフだ」
「ダマレェ!!」
タカマサの息を切らした後に出るかすれた大声が倉庫内に響く
セツナの態度が気に食わなかったのか怒りを召している
「俺は受かればいいんだ!!お前みたいに人助けしたいとか思ったことなんてねぇよ!!」
「そっか…じゃあさ…」
続く確信的な質問がタカマサの声を縮こませる
「アンタの目指すヒーローってなに」
「それは…!」
言葉に詰まった
自分が目指しているもの、それはなんなのか迷ったからだ
「どんな奴にも勝って、勝つことで正義をかざす…負けを認めず勝ちだけを狙う…それが…俺の中の…」
ボゴォンッ!!
「ドハッ…!!」
タカマサの右頬に強烈なストレートが入った
頬を抑えて驚きを隠せず倒れたままのタカマサが戸惑いながら声を上げた
「な…なにしやがる!」
「うるせぇ!!!」
いや絶対、今のはセツナの方がうるさ(((
「勝つことが正義のヒーロー?そんなの聞いた事ねぇよ!!」
「………」
言葉が出なかったのは確かに自分の目指している像が揺らいだからだ
「私もそんな詳しくないけどな!!ヒーローっていうのは!!自分を蔑ろにしてでも!!仲間や人々を守る!!そんな正義を持った奴のことだろ!!」
「……!」
タカマサは思い出したことがあった
幼少期に見ていた画面の中の戦士は確かにボロボロだったこと
だが、それに醜さを覚えたことは一度もなかったこと
ヒーローの正義は、、
「さっきのアンタ、、タカマサは私を助けるために動いた それが心の中にある本当のヒーローで正義ってヤツじゃないの?」
その問いかけに心を打たれ、身動きが止まった瞬間、キリマの声が倉庫に響いた
「タっカマっサくーん!」
明らかに恐怖の笑みを浮かべて言っている
声を聞いたセツナがタカマサに背を向ける
「私が行く…私は強くなるために行く…タカマサも自分の信念に従ってね」
セツナが積まれた資源の影から出た
「俺の…信念…」
資源が積まれている列の間のトラックを入れるために作られた入口からまっすぐに伸びる道でセツナはキリマと対面する
「タカマサくんはどこ?」
「キレてますねムナさん」
「フフッ…そう思うならご勝手に!」
パァン!ビュンッ!
玉の発砲とナイフの投擲が重なる
2つが交差して互いの狙いに迫る
セツナは玉を回避し直進、キリマはナイフを拳銃で弾くがその隙にセツナがキリマの右手首を掴んだ
「……!」
手首を掴んだまま、強く握り拳銃を落とさせる
ムナさん力が入ってない!背中の切り傷が効いてる!このまま左も…!
左手の銃を落とそうと手首に手を伸ばした時、握っていた右手がすっぽ抜けた
「え…」
キリマは股が地面につかんばかりに開脚し、右手を強く握った
バゴンッ!
「ンッ…!」
開脚状態から股を勢いよく閉じて立ち上がると同時に顎にアッパーを入れる
「拳燕返!」
撃ちあげた拳を振り落とし、頭部を殴りつけた
脳が揺れ、視界が眩む
マズイ…!これ…隙だらけ…!
左手の銃の銃口が腹に向けられた時、正義は輝きの声を上げた
「セツナァァァ!!」
「……!」
振り向かずともわかる
今、セツナの後ろにはタカマサがいる
パァンッ!
発砲だ
セツナは今、試されている
タイミングが噛み合わなければ自分が傷を負う
セツナは一瞬、視線を後ろに向けた
迫る実弾
ここだ……!
セツナは跳んだ
頭の揺れと視界の悪さを振り切って
セツナの胸部を貫かんとしていた実弾はセツナが壁になって前の様子が分からなかったキリマに迫る
「うっそ…!」
寸前、キリマは体を反らしたが左肩に銃弾が貫く
なぁセツナ…俺間違ってたわ…
セツナの右かかとがキリマの後頭部を捕らえる瞬間、タカマサは彼女に感謝を思う
俺の信念は…自分殺してでも誰かを救う…
そしてそれが!俺の正義であり、俺の…!!
セツナのかかとがキリマの後頭部に直撃し、地面に振り下ろした
「俺のヒーロー道だ…!」
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セツナは足を退かす前に手錠をキリマの左手首にかけた
セツナ 親衛班班長 狂気なる乙女 桐間 無奈を確保し、30点獲得
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