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第12話
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手元から離してしまったワンちゃんは厩でぐったりとした姿で発見された。
「あらら」
「あらら、じゃないよ!! なんで、こんなことに……」
ワンちゃんを抱きかかえること、数分。
ワンちゃんはすぐに体調を回復させ、元に戻ってくれた。
「分かってくれました? これが神の力を持つ人と天使の関係なのです!!」
「まぁ……なんとなく?」
正直、訳が分からない。
こんな事を理解しろって言う方が無理があるだろう。
出来れば、普通にご飯を食べて元気でいて欲しい……。
朝から騒々しかったが、一晩明けてから、僕達は領都ビーゼルに向かうことにした。
「もう出立なされるのですか?」
「はい。急ぐ旅って訳ではないのですが……」
もう数日はこの街に滞在してもいいとは思っていた。
なにせ、ここの料理は食べたことがないものばかりで、全て食べてしまいたいと思うほどだ。
しかし、現実的にそれが難しかった。
金がなかったのだ。
もちろん、多少の路銀は持っていたがそれでも心もとない。
出来れば、日銭でも稼ぎたい。
しかし、この街では仕事を急に見つけることは難しいみたいだ。
そこはやっぱり、領都で探したほうがいいだろうという結論になったのだ。
「残念ですね……また、この街に立ち寄った際には『緑草亭』をご利用くださいね」
「ええ。もちろんです。また来ますね」
女亭主の見送りを受けて、短い滞在だったデリンデ街を後にした。
目指すは領都だ。
「ロレンス様。ちょっと聞いてもいいですか?」
街道を歩きながら、彼女が何気なく声を掛けてきた。
正直、ずっと歩き通しで暇だったせいか、つい彼女の言葉に耳を傾けてしまった。
「あの衛兵の妹さんをどう思いましたか?」
どう言う意味だ?
どう思ったも何も……。
ふと、考え違いをしていることに気付いた。
彼女は意外にも真実を見つけることが得意だ。
相手の何気ない会話からいくつもの情報を取ってくる。
今回もその類なのかもしれない。
そして、その真実に僕が気付いているかを試しているのかも知れない。
思い出せ……女亭主との会話を。
考えろ……女亭主の真意を。
……ダメだ。分からないぞ。
女亭主が実はあの街の影の支配者だってことくらいしか……
「分からない、かな? 正直、掴めない人だったから」
「そう、ですか……それは残念です」
やはり試されていたのか。
恥ずかしいが、ここはちゃんと聞いておいたほうがいいだろう。
「セフィトスはどう思ったんだい?」
「そうですね……私としてはレベルが高いと思ったんですよ」
ほう……レベルが。
実はこの世界にはレベルというものが存在する。
まぁ、あまり気にして生きている人は少ないが、冒険者や騎士など戦闘を主とした仕事をしている人は気にするものらしい。
レベルは潜在的に持つ能力がどれほど開花しているかを測る数値のようだ。
レベル1は初期数値。
何も開花していない状態だ。
レベル100になると、潜在能力を100%使えるらしい。
実はその上。レベル100以上も存在するらしいが……今はどうでもいいか。
ちなみに僕のレベルは……おそらく 1 だろう。
「どれくらいなの?」
「ざっと街トップ10くらいには入るでしょうか」
そんなに……やはり侮れない女亭主だな。
そんなに強そうには見えなかったけど……実は凄い怪力とか?
いや、考えようによってはありうるか。
街で女手一つで宿屋を切り盛りしているんだ。
相当な苦労があるはず……。
「そうは見えなかったけど……」
「ロレンス様はああいう女性は好みではないんですか? やや年上ではありますが、顔は相当なもの……」
ん? こいつは何を言っているんだ?
好みって……ん?
「セフィトス。その続きは話さなくていいぞ」
「どうしてですか? 私は知りたいんです。ロレンス様の異性の趣味を」
本当に下らないことに興味を持つんだな。
「君に教えるつもりはない」
「ああ! 分かりました。マリーヌ一筋って奴ですね。それ以外は眼中にない……みたいな?」
こ、こいつはどうして、そういうことを……
「やっぱり、そうなんですね。そうですか、そうですか。それならば、色々と簡単そうです」
「ん? 何か言ったか?」
「いえいえいえ」
なんだろう? 彼女から悪巧みの香りしかしない。やはり、悪魔としか思えない。
「くうーん」
おっと、そろそろワンちゃんに元気を与えてやらないとな。
ワンちゃんには左手を添えてやると元気を与えられる。
残念だが、ワンちゃんは小さいから足元にこそ来れるが、左手に好きな時に触るということが出来ない。
だから、こうやって定期的に左手でワンちゃんを撫でてやる必要がある。
ちなみに彼女は時々右手に手を繋いでくる。
最初こそ、驚いたが元気をもらうためには仕方がないということだ。
「休憩でもしよう」
「ええっ!! さっきもしたばかりじゃないですか。私は元気ですから。どんどん先に進みましょう。これは……その辺に捨てていきましょう。これからの旅に邪魔ですから」
彼女はワンちゃんを相当嫌っている……同族嫌悪と言うやつなんだろうか?
「そう言わないでくれ。ワンちゃんはマリーヌの大切なペットなんだ」
「はいはい。ところでワンちゃん、ワンちゃんって変じゃないですか? まあ、こんな奴……あれ、これ、で十分ですけど」
確かに言われてみれば……
あれ、これ、で呼ぶつもりはないが、名前はあったほうがいいな。
女亭主もワンちゃんと呼ぶ姿に怪訝そうにしていたからな。
「とはいえ、名前か……何が良いかな? なぁ、ワンちゃん。何て名前が良いか、教えてくれないか?」
「バッツだ」
ほう……バッツね。
いい名前だ。
いかにも強そう……違う!
何かが違う!!
「ワ、ワンちゃんが喋ったぁ!!」
「不思議か? ロレンスよ」
また、喋った!!
しかも、ものすごく流暢だ。どういうことだ?
魔獣も喋る時代になったということか?
「全く、ようやく喋れるようになったわい」
なったわい? まるで爺さんだな。
「儂はずっと喋ることを禁じられていたのじゃ」
誰に? 首を傾げる。
「無論、マリーヌ様だ。この体を気遣ってくれての、喋れば何をされるか分からない。だから喋るなと言われていたのじゃ」
駄目だ。驚きすぎて、内容が頭に入ってこない。
喋っているよ……魔獣が。今は子犬の姿だけど。
「さて、ロレンスよ。儂をこれからはバッツと呼ぶが良いぞ」
「はあ……」
子犬が喋っている……
どうしても、その驚きから抜け出せない。
「ようやく喋ったわね。それにしてもバッツですって? ふざけた名前を。あなたには我ら天使が名乗る名前があるでしょう!!」
「吼えるな。駄天使が!! お前と話すと耳が腐るわい」
「なっ……!! 駄、駄天使ですって!? 聞き捨てなりませんわ!!」
なりませんわ……って。
初めて聞いた。
「ふん!! この名はな……マリーヌ様がつけてくれたんじゃ。いや、名乗ることを許してくれたんじゃ。だから、この名を大切にしようと思う」
許してくれた、なんて尋常ではなさそうだ。
「どういうことだい?」
「言っても信じるかどうか……儂は……マリーヌ様の父親だったんじゃ」
ん? んん? 何を言って……。
「そんなバカな。マリーヌの父親ってたしか……十年以上も前にマリーヌを置き去りにして、いなくなったって……」
「捕まっていたんじゃ。何処とも知れぬ場所じゃった。そこで……ダメじゃ。そこだけは思い出せん。儂が気づいた時はマリーヌの側にいたんじゃ。じゃが、姿は……この身は魔獣になっておった」
そんなことがありえるのか?
父親が魔獣?
その子であるマリーヌは……いや、ありえない。
マリーヌは人間だ。
そして、マリーヌから父親が魔獣であったなんて聞いたこともない。
だとすると……。
「おそらく人間の魔獣化といったところでしょうね。あなたからは人間因子も感じるもの。正確には人間に魔獣因子を入れられた……ってところででしょうか?」
彼女がなにやら知的なことを言っている。どうした?
「そうじゃろうな。おそらくはそういうことじゃろう。そうでなければ、説明がつかん。人間はとんでもないことを……神の作ったこの世界の規律を堂々と破りおって!!」
どうやら話しについていけていないのは僕だけだったようだ。
つまり人間を改造したってこと? 一体、何のために?
「理由なんぞ、知るか。おろかな人間に一刻も早く、この所業を止めさせねばならない。そうでなければ、神の鉄槌が……」
「ちょっと!! 何を言っているの?」
「ん? ああ、済まない。それはありえないんじゃったな。すまん、すまん。つい昔のように言ってしまったわい」
話が見えなくなってきたな。
「ちょっと聞いてもいいかな?」
二人がこちらを振り向く。まぁ、どっちに聞いてもいいか。
「結局、バッツ? は何者なの?」
「儂か? 儂はさっきも言った通り、マリーヌの父親……の記憶を持っている天使。十二天使の一人。ガリントスじゃ」
やっぱり天使を名乗るのか。
もう一つ聞きたいことがある。
「記憶を持っているっていうのは……やっぱり……」
「ああ。マリーヌの父親は死んでいる。儂が覚醒して見たのは、目の前でマリーヌ様が血だらけの姿じゃった。儂を治そうとな……魔法を使っていた。儂よりも自分のほうが酷かったのにのぉ……いい娘じゃった」
炭鉱長が言っていた話とぴったりだな。
マリーヌと魔獣を殺したって……そうだったのか。
「マリーヌが治癒魔法を使ったの?」
「ああ。その通りじゃ。神の左手。治癒を司る神の力じゃ。その力で自身も治し、そこを離れた。それは物凄い火の中じゃったが、治癒魔法を手にした我らには脱出はそう難しい話ではなかったの」
そんなに酷い事を経験したのか……マリーヌは。
「それからマリーヌ様と少し話したのじゃ。儂の正体。そしてマリーヌ様の力と役目を」
そうか。彼女と会ったときと同じなんだな。
「それで? マリーヌはどんな反応を?」
「ん? 驚いておったよ……」
それはそうだろうな。
「じゃがな、嬉しがってもいたわい。これでロレンスを守れるんだってな……自身がこれほど打ちのめされているのに、自分よりロレンス……いい娘じゃ」
……マリーヌ。
君はいつも、そうやって僕を守ろうとするんだな。
僕はずっと君を守るって言っていたのに……。
「ありがとう。バッツ。その話を聞けただけで嬉しかったよ」
「なんのなんの。さて、道のりはまだまだ遠い。少しでも距離を稼いでおかんと日が暮れてしまうぞい」
その通りだ。道のりは遠い。
マリーヌがまた姿を現してくれる、その日まで……。
「あらら」
「あらら、じゃないよ!! なんで、こんなことに……」
ワンちゃんを抱きかかえること、数分。
ワンちゃんはすぐに体調を回復させ、元に戻ってくれた。
「分かってくれました? これが神の力を持つ人と天使の関係なのです!!」
「まぁ……なんとなく?」
正直、訳が分からない。
こんな事を理解しろって言う方が無理があるだろう。
出来れば、普通にご飯を食べて元気でいて欲しい……。
朝から騒々しかったが、一晩明けてから、僕達は領都ビーゼルに向かうことにした。
「もう出立なされるのですか?」
「はい。急ぐ旅って訳ではないのですが……」
もう数日はこの街に滞在してもいいとは思っていた。
なにせ、ここの料理は食べたことがないものばかりで、全て食べてしまいたいと思うほどだ。
しかし、現実的にそれが難しかった。
金がなかったのだ。
もちろん、多少の路銀は持っていたがそれでも心もとない。
出来れば、日銭でも稼ぎたい。
しかし、この街では仕事を急に見つけることは難しいみたいだ。
そこはやっぱり、領都で探したほうがいいだろうという結論になったのだ。
「残念ですね……また、この街に立ち寄った際には『緑草亭』をご利用くださいね」
「ええ。もちろんです。また来ますね」
女亭主の見送りを受けて、短い滞在だったデリンデ街を後にした。
目指すは領都だ。
「ロレンス様。ちょっと聞いてもいいですか?」
街道を歩きながら、彼女が何気なく声を掛けてきた。
正直、ずっと歩き通しで暇だったせいか、つい彼女の言葉に耳を傾けてしまった。
「あの衛兵の妹さんをどう思いましたか?」
どう言う意味だ?
どう思ったも何も……。
ふと、考え違いをしていることに気付いた。
彼女は意外にも真実を見つけることが得意だ。
相手の何気ない会話からいくつもの情報を取ってくる。
今回もその類なのかもしれない。
そして、その真実に僕が気付いているかを試しているのかも知れない。
思い出せ……女亭主との会話を。
考えろ……女亭主の真意を。
……ダメだ。分からないぞ。
女亭主が実はあの街の影の支配者だってことくらいしか……
「分からない、かな? 正直、掴めない人だったから」
「そう、ですか……それは残念です」
やはり試されていたのか。
恥ずかしいが、ここはちゃんと聞いておいたほうがいいだろう。
「セフィトスはどう思ったんだい?」
「そうですね……私としてはレベルが高いと思ったんですよ」
ほう……レベルが。
実はこの世界にはレベルというものが存在する。
まぁ、あまり気にして生きている人は少ないが、冒険者や騎士など戦闘を主とした仕事をしている人は気にするものらしい。
レベルは潜在的に持つ能力がどれほど開花しているかを測る数値のようだ。
レベル1は初期数値。
何も開花していない状態だ。
レベル100になると、潜在能力を100%使えるらしい。
実はその上。レベル100以上も存在するらしいが……今はどうでもいいか。
ちなみに僕のレベルは……おそらく 1 だろう。
「どれくらいなの?」
「ざっと街トップ10くらいには入るでしょうか」
そんなに……やはり侮れない女亭主だな。
そんなに強そうには見えなかったけど……実は凄い怪力とか?
いや、考えようによってはありうるか。
街で女手一つで宿屋を切り盛りしているんだ。
相当な苦労があるはず……。
「そうは見えなかったけど……」
「ロレンス様はああいう女性は好みではないんですか? やや年上ではありますが、顔は相当なもの……」
ん? こいつは何を言っているんだ?
好みって……ん?
「セフィトス。その続きは話さなくていいぞ」
「どうしてですか? 私は知りたいんです。ロレンス様の異性の趣味を」
本当に下らないことに興味を持つんだな。
「君に教えるつもりはない」
「ああ! 分かりました。マリーヌ一筋って奴ですね。それ以外は眼中にない……みたいな?」
こ、こいつはどうして、そういうことを……
「やっぱり、そうなんですね。そうですか、そうですか。それならば、色々と簡単そうです」
「ん? 何か言ったか?」
「いえいえいえ」
なんだろう? 彼女から悪巧みの香りしかしない。やはり、悪魔としか思えない。
「くうーん」
おっと、そろそろワンちゃんに元気を与えてやらないとな。
ワンちゃんには左手を添えてやると元気を与えられる。
残念だが、ワンちゃんは小さいから足元にこそ来れるが、左手に好きな時に触るということが出来ない。
だから、こうやって定期的に左手でワンちゃんを撫でてやる必要がある。
ちなみに彼女は時々右手に手を繋いでくる。
最初こそ、驚いたが元気をもらうためには仕方がないということだ。
「休憩でもしよう」
「ええっ!! さっきもしたばかりじゃないですか。私は元気ですから。どんどん先に進みましょう。これは……その辺に捨てていきましょう。これからの旅に邪魔ですから」
彼女はワンちゃんを相当嫌っている……同族嫌悪と言うやつなんだろうか?
「そう言わないでくれ。ワンちゃんはマリーヌの大切なペットなんだ」
「はいはい。ところでワンちゃん、ワンちゃんって変じゃないですか? まあ、こんな奴……あれ、これ、で十分ですけど」
確かに言われてみれば……
あれ、これ、で呼ぶつもりはないが、名前はあったほうがいいな。
女亭主もワンちゃんと呼ぶ姿に怪訝そうにしていたからな。
「とはいえ、名前か……何が良いかな? なぁ、ワンちゃん。何て名前が良いか、教えてくれないか?」
「バッツだ」
ほう……バッツね。
いい名前だ。
いかにも強そう……違う!
何かが違う!!
「ワ、ワンちゃんが喋ったぁ!!」
「不思議か? ロレンスよ」
また、喋った!!
しかも、ものすごく流暢だ。どういうことだ?
魔獣も喋る時代になったということか?
「全く、ようやく喋れるようになったわい」
なったわい? まるで爺さんだな。
「儂はずっと喋ることを禁じられていたのじゃ」
誰に? 首を傾げる。
「無論、マリーヌ様だ。この体を気遣ってくれての、喋れば何をされるか分からない。だから喋るなと言われていたのじゃ」
駄目だ。驚きすぎて、内容が頭に入ってこない。
喋っているよ……魔獣が。今は子犬の姿だけど。
「さて、ロレンスよ。儂をこれからはバッツと呼ぶが良いぞ」
「はあ……」
子犬が喋っている……
どうしても、その驚きから抜け出せない。
「ようやく喋ったわね。それにしてもバッツですって? ふざけた名前を。あなたには我ら天使が名乗る名前があるでしょう!!」
「吼えるな。駄天使が!! お前と話すと耳が腐るわい」
「なっ……!! 駄、駄天使ですって!? 聞き捨てなりませんわ!!」
なりませんわ……って。
初めて聞いた。
「ふん!! この名はな……マリーヌ様がつけてくれたんじゃ。いや、名乗ることを許してくれたんじゃ。だから、この名を大切にしようと思う」
許してくれた、なんて尋常ではなさそうだ。
「どういうことだい?」
「言っても信じるかどうか……儂は……マリーヌ様の父親だったんじゃ」
ん? んん? 何を言って……。
「そんなバカな。マリーヌの父親ってたしか……十年以上も前にマリーヌを置き去りにして、いなくなったって……」
「捕まっていたんじゃ。何処とも知れぬ場所じゃった。そこで……ダメじゃ。そこだけは思い出せん。儂が気づいた時はマリーヌの側にいたんじゃ。じゃが、姿は……この身は魔獣になっておった」
そんなことがありえるのか?
父親が魔獣?
その子であるマリーヌは……いや、ありえない。
マリーヌは人間だ。
そして、マリーヌから父親が魔獣であったなんて聞いたこともない。
だとすると……。
「おそらく人間の魔獣化といったところでしょうね。あなたからは人間因子も感じるもの。正確には人間に魔獣因子を入れられた……ってところででしょうか?」
彼女がなにやら知的なことを言っている。どうした?
「そうじゃろうな。おそらくはそういうことじゃろう。そうでなければ、説明がつかん。人間はとんでもないことを……神の作ったこの世界の規律を堂々と破りおって!!」
どうやら話しについていけていないのは僕だけだったようだ。
つまり人間を改造したってこと? 一体、何のために?
「理由なんぞ、知るか。おろかな人間に一刻も早く、この所業を止めさせねばならない。そうでなければ、神の鉄槌が……」
「ちょっと!! 何を言っているの?」
「ん? ああ、済まない。それはありえないんじゃったな。すまん、すまん。つい昔のように言ってしまったわい」
話が見えなくなってきたな。
「ちょっと聞いてもいいかな?」
二人がこちらを振り向く。まぁ、どっちに聞いてもいいか。
「結局、バッツ? は何者なの?」
「儂か? 儂はさっきも言った通り、マリーヌの父親……の記憶を持っている天使。十二天使の一人。ガリントスじゃ」
やっぱり天使を名乗るのか。
もう一つ聞きたいことがある。
「記憶を持っているっていうのは……やっぱり……」
「ああ。マリーヌの父親は死んでいる。儂が覚醒して見たのは、目の前でマリーヌ様が血だらけの姿じゃった。儂を治そうとな……魔法を使っていた。儂よりも自分のほうが酷かったのにのぉ……いい娘じゃった」
炭鉱長が言っていた話とぴったりだな。
マリーヌと魔獣を殺したって……そうだったのか。
「マリーヌが治癒魔法を使ったの?」
「ああ。その通りじゃ。神の左手。治癒を司る神の力じゃ。その力で自身も治し、そこを離れた。それは物凄い火の中じゃったが、治癒魔法を手にした我らには脱出はそう難しい話ではなかったの」
そんなに酷い事を経験したのか……マリーヌは。
「それからマリーヌ様と少し話したのじゃ。儂の正体。そしてマリーヌ様の力と役目を」
そうか。彼女と会ったときと同じなんだな。
「それで? マリーヌはどんな反応を?」
「ん? 驚いておったよ……」
それはそうだろうな。
「じゃがな、嬉しがってもいたわい。これでロレンスを守れるんだってな……自身がこれほど打ちのめされているのに、自分よりロレンス……いい娘じゃ」
……マリーヌ。
君はいつも、そうやって僕を守ろうとするんだな。
僕はずっと君を守るって言っていたのに……。
「ありがとう。バッツ。その話を聞けただけで嬉しかったよ」
「なんのなんの。さて、道のりはまだまだ遠い。少しでも距離を稼いでおかんと日が暮れてしまうぞい」
その通りだ。道のりは遠い。
マリーヌがまた姿を現してくれる、その日まで……。
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