神の能力を宿した少年と駄天使〜幼馴染を救う旅のゴールは世界創造

秋田ノ介

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第11話 旅の醍醐味

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ここの食事はたしかに美味しかった。

村では食べたことのないいわゆる洗練された味っていうやつなのかも知れない。

村では大抵は味付けに塩だけだ。

皆言っていた。

「不味いだと? だったら、塩をぶっかけておけ」

それで大抵のことは片付けてきた。

塩の加減だけで味の良し悪しを決める料理。

それが村の料理だった。

しかし、それがどうだろうか。

たった2日。

たった2日歩いただけで到達できるこの街の料理は。

どうして、こうも違うんだ?

いや、違いすぎないか? 

何だ、この味は。

薄い塩味の中に広がる野菜の甘味……

軽くかじるだけで滲み出る肉汁……

喉を通り過ぎるまで味わい深い謎の料理……もはや、異国!! 

そんな料理が目の前のテーブル一杯に広がっている。

だが、気になることがある。

さっきまで、彼女と一緒の部屋になってしまったことに動揺していた……

が、今は違う。

「食べ……ないの? 美味しいよ?」

用意された料理に彼女は一切手を入れなかった。

それはワンちゃんも同じだった。

店の好意でワンちゃん用のご飯も用意してもらった。

お皿に大きく盛られた肉。

見るからに美味しそうだ。

百歩譲ってワンちゃんが手を付けないのは理解しよう。

ワンちゃんは元を辿れば魔獣。

もしかしたら人間が食べる食べ物を受け付けないのかも知れない。

しかし、彼女は別だ。

もしかして、体調でも崩しているのだろうか? 

それを僕に言えないで、我慢していたのではないか。

彼女は首を振るだけだった。

料理には全く見向きもせずに、僕の方ばかり見てくる。

正直、食べづらい。

「あの……料理は口に合いますでしょうか?」

女店主だ。

「はい。とても美味しいです。こんな料理がこの世にあっただなんて、信じられないですよ」
「まぁ!! 大袈裟ですね。だけど嬉しいです。ありがとうございます。……ところで。お連れ様はお食べにならないんでしょうか? さっきから、手を付けていないご様子ですが……」

言われても無理はないか。

これだけ用意してもらったのに、彼女は一切手を付けないのだから。

せめて、一口でも食べてくれれば……とも思うが、何か理由があるのだろう。

「すみません。実は彼女の体調が優れないみたいなんです」
「それは大変ですね。お医者様でも呼びましょうか?」

医者はどうだろう? 

彼女は普通の人間ではないから、医者が役に立つかどうか未知数だ。

彼女は首を振り、女店主に少し微笑んだ。

「大丈夫です」
「そう……ですか。もし、体調が戻られて食事が必要なら、おっしゃってください。簡単なものだったら、お作りしますから」

なんて、いい人なんだ。

こんな宿屋を紹介してくれた衛兵には感謝をしなければな。

「ありがとうございます。その時は遠慮なく言わせてもらいますね」

女店主が去ってからも食事は続く。

といっても、見つめられながら一人で食べるというなんとも言えない食事になってしまった。

女店主にお礼を告げてから、部屋に向かうことにした。

「すみません。その犬の件なんですが……」

女店主に呼び止められてしまった。

どうやら犬は客室に入れないようだ。

一応、行商人用の馬小屋があるらしいので、ワンちゃんはそこで一泊させることになった。

「ごめんな。朝、すぐに迎えに来るからな」
「くぅーん」

ものすごく辛そうな顔をしているが、こればかりはどうしようも出来ない。

勝手に連れ込んで、女店主に迷惑を掛けるわけにはいかない。

後ろ髪を引かれる思いがするが、彼女と部屋に向かった。

彼女はこんなときでもワンちゃんに勝ち誇った表情を見せることを忘れることはなかった。

部屋に入り、彼女はゆっくりと鍵を閉めた。

「これでやっと二人っきりになれましたね」
「えっ!?」

たしかにこの状況は……良くない。

良くないぞ。さっきまで料理のことで忘れていたが、今晩は彼女と二人っきりで過ごさなければならない。

しかも、この部屋のベッドは一つしかない……どうしてだ!!

女店主は何を勘違いしているんだ!! 

まさか、彼女と夫婦とでも? 

いや、そんな訳がない。

こんな成人したての夫婦なんていてたまるか。

「ロレンス様? 何を動揺しておられるのですか?」

彼女が意味深にゆっくりとこちらに近づいてくる。

ダメだ……動揺が隠しきれない。

(彼女はマリーヌじゃない……彼女はマリーヌじゃないんだ)

そう思い、なんとか平静を保つ努力をしてみた。

無理だ!!

僕は思わず、彼女を抱き締めていた。

「……」
「……」

抱きしめる腕の中で彼女は忍び笑いをしだした。

「ロレンス様も男なんですね。でもダメですよ。この体は私のでも、私だけのものではないんですから。そういう事はしっかりとマリーヌに許可を貰わないとダメですよ」

……その通りだ。

一体、何をやっているんだ……。

後悔が押し寄せてくる。バカだ……。

すると、頬に暖かな感触が伝わってきた。

彼女の唇が頬に当たっていたのだ。

「な、なにを……」

いたずらっぽく笑って、彼女は一歩離れる。

「それくらいならマリーヌも許してくれると思いますよ。分からないですけど……体が喜んでいるような気がしますから」
「それって……」

彼女は首を横に振る。

「この体にはマリーヌはいませんよ。だから、私の気持ちかも……知れません……よく分からなんです。私には……私達、天使には恋愛感情というものはありませんから」

なんと答えればいいんだろうか。

「ごめん」
「何を謝っているんですか? 抱きしめるくらいなら許してあげますよ。だけど、それ以上は……」

それ以上って……急に体が熱くなってしまった。恥ずかしい……

「ウブなんですね。まぁ、それはさておき……ようやく二人っきりになったのでお話が出来ますね」

何を言っているんだ?

「ワンちゃんはいたけど、話そうと思えばいくらでも話せただろ。村を出てからずっと一緒だったんだから」
「気付いてなかったんですよね? 私がずっと話しかけていたの……ロレンス様はずっと考え事をしていたみたいでしたから」

……そういうことか。

「ごめん。色々と考えてしまって」
「そんなに謝らないでください。分かっているつもりですから。今はお話できますよね?」

そうか。さっきまでのことは彼女なりに励まして……元気を出させるためにしてくれたことだったのか。

「ありがとう。もちろんだよ」
「そんな……お役に立てて何よりです。えへへ」

なんで、コロコロと態度を変えるんだ? ちゃんとしていれば、ちゃんと見えるのに……

「じゃあ、お話しますね。私達、天使のことを……」

また嘘くさい話が始まるのかと、ちょっと嫌な気持ちになった。

「我々は神の力を宿した者の守護をするために神より遣わされた存在、というのは話したと思います。我々の存在が神の力があるという証明です。ロレンス様の右手もまさに神の力なのです」

それは聞いた。

何度聞いても、胡散臭さは拭えないけど……

「大事なのはこれからで、マリーヌの能力のことです。ホグース村での話をまとめると一つの結論が出てくるんです」

「マリーヌの能力?」

「ええ。マリーヌの能力はおそらく……治癒……もしくはそれに近い何かということになります。マリーヌは殺されたと言われていましたが、この体にその時に与えられた傷はありませんでした。それは間違いありません。そうなると、どこかで治療されたことになります」

治癒魔法……

「場所は牢獄。とても治療できる人が側にいたとは思えません。だとすると、結論は神の力がマリーヌに宿ったこと。そして、その力は殺されるほどの傷を無傷にしてしまうものなのです」

そうか……そうだったら、なるほど……

マリーヌが平然と僕の前に姿を現したのも納得できるな。

「そして、その時に一緒に殺されてしまった魔獣。それが……」
「ワンちゃんか!!」

「魔獣はマリーヌに慣れていたと言っていましたね。おそらく、孤独になったマリーヌの唯一の支えが魔獣だったのかも知れません。魔獣とそんな事が出来るかは謎ですが、状況からしたらそれしか説明が出来ないと思います」

それなら辻褄はあうな。

あの魔獣と心を通じ合わせる……

今こそ、不思議ではないが、魔獣と仲良くなれるなんて話、聞いたこともない。

「マリーヌはロレンス様の体の中にいます。もしかすると……ロレンス様はマリーヌの能力を受け継いでいるかも知れません」
「つまり、僕が治癒魔法が使えると?」

「分かりません。私も初めてのことで……発動する条件も調べる必要がありますね」
「発動条件?」

ああ、なるほど。

この右手もなんで消滅させる魔法が発動するわけではない。

相手に敵意がないとダメなんだったな。

だとすれば、治癒魔法の発動条件とは?

「あまり考えすぎないほうがいいかも知れません。そもそも発動するかどうかも怪しいですから」

確かにその通りだな。

むしろ、この右手のことを詳しく考えたほうがいいだろう。

「それだけか?」
「えっ? ええ。それだけです。今のところ、分かったのは。これから色々分かってくるでしょう」

話が済んだところで、彼女に気になっていたことを聞いてみた。

「なんで食べなかったんだ? 天使は人間の食べ物は食べれないのか?」
「そうじゃないですよ。必要がないんです。我々天使は食事が不要ですから」

そうなのか……。

人間は食べ物で栄養を摂取しなければ生きてはいけない。

だったら、天使は……?

「神から力を頂いているんですよ。でも、今は……」

彼女はそう言うと、再び近づいてきて、右腕にしがみついてきた。

「ここから力を貰っているんです」

そういうことだったのか。

一緒の部屋にしたのも……なんて勘違いだったんだ。

ずっと恥ずかしい思いをしてばっかりだ。

「でも、そうじゃなくても離れたくないってこの体が言っている気がするんですよね」
「それって……」

彼女はにやっと笑う。

不覚にもドキッとしてしまうのが本当に嫌だ。

「分かりません。マリーヌのほんの少し残った残滓のせいなのか、それとも私の気持ちなのか……」

一体、どっちなんだ!!

その夜は静かに更けていった……。

翌朝、ワンちゃんがぐったりしているのを発見して、大騒ぎするところから次の日が始まった。
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