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冒険者編

43 side フェーイ公主③

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 タラスを追い出してから数日が経った。

 あれから、何も報告がないということは、王国に行ったということだろう。

 あんな贅肉だらけの男に忌み子探索は無理だろうが、追い出すいい口実になったものだ。

 『剣士』スキル持ちを捨てるのはやや惜しい気もするが、あいつはダメだ。

 スキル以前の問題だ。

 それに我が公家にはもう一人、息子がいる。トリフォンだ。

 未だ、12歳で成年まで時間がある。

 この時間に鍛錬を積めば、きっといいスキルを手に入れることが出来るだろう。

 後継者問題が片付けば、残るは……忌み子だ。

 問題解決までの残りの時間も然程ない。

 かといって、これ以上探索のための予算も捻出したくない。

「誰か、おらぬか!!」

 執事のセバスがすぐさまやってきた。

「ガッソー男爵を呼んでこい。忌み子の件だと伝えておけ」

「畏まりました」

 ガッソーには忌み子対策の切り札を一任している。

 そろそろ報告が欲しいところだな。

 ……

「ガッソー。只今到着いたしました。お呼びでしょうか? 公」

「早速報告を聞こう」

「畏まりました。現在、候補は三人。どれもが美しいと評判の娘であります。身長やスタイルが似ている者ですから、その点については問題ありませんが……やはり、問題は……」

 肌の色か……褐色の肌色というのは、この大陸ではまず見ない。

 それゆえ、忌み子と呼ばれる所以でもあるが……

「とにかく、誤魔化せればよい。一ヶ月後、再び王国の侍従長がやってくるであろう。その時に、いればよいのだ。ただ、あの者であれば、袖の下でなんとかなるやも知れぬが、他が来ないとも限らぬからな。その時の備えが必要なのだ」

「でしたら……日焼けをさせるというのは?」

 なんと安直なことを考えるんだ。これだから、この男は男爵止まりなのだ。

「それで見破られぬ自信はあるのか? 私にはそうは思わぬ。よいか? これは公国の威信にかけても、成功させねばならない。宝物殿に魔道具もいつくかあるはずだ。それを使う許可を与えよう。よいな?」

「ははぁー!!」

 これでなんとかなるだろう。

 あとはトリフォンだな。

……

「お呼びでしょうか? 父上」

「うむ。よく来たな」

 トリフォンは、実に従順な息子に育ってくれている。

 タラスとは大きな違いだ。

「来てもらったのは他でもない。後継者のことだ。このまま、タラスが行方不明であれば、トリフォンに継いでもらうことになるだろう。そのことを覚悟しておいてほしいのだ」

「僕が……ですか?」

「うむ。動揺するのも無理はない。後継者争いとは関係ないところで暮らしていたからな。だが、お前は三男だ。公家の男子として生まれた以上は、そのこと覚悟してもらわねばならぬ。よいな?」

 やはり、トリフォンこそが後継者にふさわしいような気がするな。

 全く……上二人は出来が悪かったからな。

 トリフォンが似なくて良かった。

「分かりました……けど、僕の考えを言ってもいいですか?」

 ほお。トリフォンも言うようになったという訳か。

 これはいよいよ楽しみになってくるな。

「僕は……兄上こそ、後継者に望ましいと思っています。今一度、兄上と会い、真価を見定めるべきだと思います」

 ……やはり、子供だな。

 甘い戯言をこの時点で言うとは。

 上二人の何を見定めよというのだ。

 タラスはスキルこそ優秀だが、人格、風格、才覚……どれを取っても最悪ではないか。

 一方……名すら忘れたわ。

 考慮に値しない無能者。いや、クズだ。

 とはいえ、ここでにべもなく断れば、これからの教育に支障が出てきてしまうかも知れぬ。

 あと三年は、私のもとで教育をする時間が必要なのだ……

「トリフォンの言葉は考慮に値するやも知れぬ。ただ、どちらにしろ行方不明の者をどうにかすることもできぬであろう。今は待つ。それでよいか?」

 喜色を浮かべおって。

 こんな簡単な言葉に騙されるとは……

 だが、安心しろ。私のような優秀な公主に育て上げてやる!!

 上二人の愚は二度と繰り返してはならぬ。

「トリフォン。明日より鍛錬に入れ。そして、よりよいスキルを得るのだ。家庭教師には……」

 公国で随一の家庭教師軍団をトリフォンにつけてやった。

 ふふっ。一時はどうなるかと思ったが、なんとなるものだな。

 忌み子対策さえ、なんとかなれば、憂いはない。

 その時こそ、必ずや王国の利権を公国に引っ張ってきてやる!!

 そして、いずれは……初代を凌ぐほどの功績を世に残してくれる。

 ……

 ただ、フェーイ公主は知らなかった。

 トリフォンがロスティと連絡を取り合っていることを。

 ロスティが無能者ではないことを。

 そして、タラスが王国で静かにしているわけがないことを……。
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