1 / 69
追放
第1話 ゴミスキルの輝き
しおりを挟む
「お前なんか、出ていけ!! この役立たずが!!」
僕は家を飛び出していた。
悔しかった。
今まで僕はたくさんの修行をしてきた。
たくさんの名剣を作る鍛冶師になることを夢見ていた。
なのに……神様から与えられたスキルは……『研磨』だった。
鍛冶師の数多ある工程の一つに過ぎない。
鍛冶師となる者は『鍛冶師』スキルがなければ、なることは出来ないのだ。
……
僕は街をトボトボと歩いていた。
代々鍛冶師を家業にしていた家を追い出され、行く宛もない。
持っているお金にも余裕はない。
手にしているのは……小さな砥石のみだった。
「どうにかして、食べていかないと……」
僕は考えていた。
研磨は決して悪いスキルではない。
たしかに剣を作ることは難しい。
だけど、刃こぼれした剣を『研磨』のスキルで修復することできる。
そうすれば……日銭くらいなら稼げるだろう……
……
僕は思いつくままに、武器屋に足を運んでいた。
「おう、いらっしゃ……なんだ、ライルの坊主じゃねぇか。おっと、貴族様に失礼だったな。で、どうしたんだい。そんな顔をして」
「……ああ、おじさん。……剣を譲ってくれないかな?」
「何、言ってやがる。家に帰れば、いくらでも手に入るだろ。ここの武器はみんな、お前さんの家から卸しているんだからよ」
「僕は家を追い出されたんだ。これからは一人で生きていかなくちゃならないんだ。ねぇ、頼むよ」
おじさんの渋面になっていた。
それもそうだろう。
こんな家族問題に関わって、面倒事が迷い込むのが嫌なんだろう。
「……好きに持っていけ。何があったか知らねぇが、男が決めたことだ。俺は応援するぜ」
「おじさん……」
優しさに涙が溢れそうになる。
だけど、泣いてばかりはいられない。
この武器探しがこれからの僕の命運を分けるんだから。
「たしか……」
あった……。
この武器屋は新品の武器以外にも中古も取り扱っている。
もっとも、誰も見向きもしないせいか、奥の方で埃をかぶっていることが多い。
「これを頂戴」
「これ……か? 刃こぼれが酷くて、使い物になるのか?」
これでいいんだ。
僕のスキルがあれば、これくらい……
「えっと……銀貨1枚だよね……ちょっと待って」
手持ちは銀貨が1枚……。
これで失敗したら……。
「まぁ、出ていくと決めた男の門出の日だ。タダでいいぜ」
「いいんですか! ありがとうございます! あの、もう一つ頼みが……」
武器屋の裏にある小屋を少しの時間だけ借りることにした。
何もない倉庫だけど、集中できる場所ってだけでありがたい。
『研磨』
スキルを発動する。
剣のあちこちに見られる傷やへこみが瞬時に理解できる。
そして、最適な研磨を導いてくれる。
……出来た。
数度の研磨だけではありえない、まるで新品のような輝きを放つ。
これが……
『研磨』スキルなんだ。
僕は新品然となった剣を再び武器屋のおじさんのところに持っていく。
「これを買い取ってくれないかな?」
「あん? なんだ、もういらなくなったのか? しょうがねぇ。銀貨一枚な?」
僕の剣を受け取った瞬間、おじさんの表情が一変する。
沈黙が流れ……
「坊主……何をしやがったんだ? これはさっきのあれか?」
「そうだよ。僕が研いだんだ」
「研いだ? 信じられねぇ。まるで新品……いや、そうじゃねぇ。武器屋30年の勘が告げているぜ。これは名品の予感だ」
何を言っているんだ?
僕はただ研いだだけだ。
切れ味が戻ったくらいなものだろ?
「金貨10枚……」
「え?」
ますます何を言っているのか分からない。
「この剣を金貨10枚で買い取る」
「おじさん……ほ、本当にいいの!!?」
剣を大切に抱えながら、裏に向かったおじさんが戻ってきた。
金貨10枚……それがテーブルに置かれた。
「代金だ……」
「ありが……どうしたの? おじさん」
なぜか、おじさんに手を掴まれていた。
あれ?
もしかして、これは何かの冗談だったのかな?
そうだよね……あんなボロい剣が研いだくらいで金貨10枚なんかに……
「坊主。他も研げるか? あそこにある武器を全部やってくれたら……金貨100枚出すぞ」
「ひゃ、100枚!? 本当に? 本当にいいの?」
「ああ、構わねぇよ。それだけの価値を見たぜ」
信じられない幸運だ。
僕は武器屋に眠るボロ武器を蘇らせる作業に没頭した。
数日後……疲れ果てた表情で武器屋を訪ねた。
「出来たか!!?」
「はい……なんとか」
いくら、簡単に研げるとは言え……百本以上はあったよな?
途中から数えるのを止めたくらいだ。
「やっぱり、凄い出来だな。おめぇ、行くとこないんだろ? ここにいてもいいんだぜ。これだけの事が出来たら、一生安泰だ」
僕は受け取った金貨100枚を小袋にしまい込んでいた。
おじさんの提案を考えていたんだ。
すごく嬉しい申し出だと思うよ。
行く宛もない僕にこんな優しい言葉を掛けてくれる人なんて……。
でも、考えは変わらないかな……
「おじさん、ごめん。僕はやっぱり、自分で剣を作りたいんだ」
鍛冶師の家に生まれた。
鍛冶師として育てられた。
僕は鍛冶師として生きていくことを選んだんだ。
たとえ、スキルが『研磨』だったとしても……。
僕はライル=ウォーカー。
『研磨』というゴミスキルを持つ15歳の少年。
このスキルで剣作りを極めるための旅を始める。
数カ月後……おじさんの武器屋は冒険者の間で有名になっていた。
国宝級の剣が格安で売られている店だと……。
僕は家を飛び出していた。
悔しかった。
今まで僕はたくさんの修行をしてきた。
たくさんの名剣を作る鍛冶師になることを夢見ていた。
なのに……神様から与えられたスキルは……『研磨』だった。
鍛冶師の数多ある工程の一つに過ぎない。
鍛冶師となる者は『鍛冶師』スキルがなければ、なることは出来ないのだ。
……
僕は街をトボトボと歩いていた。
代々鍛冶師を家業にしていた家を追い出され、行く宛もない。
持っているお金にも余裕はない。
手にしているのは……小さな砥石のみだった。
「どうにかして、食べていかないと……」
僕は考えていた。
研磨は決して悪いスキルではない。
たしかに剣を作ることは難しい。
だけど、刃こぼれした剣を『研磨』のスキルで修復することできる。
そうすれば……日銭くらいなら稼げるだろう……
……
僕は思いつくままに、武器屋に足を運んでいた。
「おう、いらっしゃ……なんだ、ライルの坊主じゃねぇか。おっと、貴族様に失礼だったな。で、どうしたんだい。そんな顔をして」
「……ああ、おじさん。……剣を譲ってくれないかな?」
「何、言ってやがる。家に帰れば、いくらでも手に入るだろ。ここの武器はみんな、お前さんの家から卸しているんだからよ」
「僕は家を追い出されたんだ。これからは一人で生きていかなくちゃならないんだ。ねぇ、頼むよ」
おじさんの渋面になっていた。
それもそうだろう。
こんな家族問題に関わって、面倒事が迷い込むのが嫌なんだろう。
「……好きに持っていけ。何があったか知らねぇが、男が決めたことだ。俺は応援するぜ」
「おじさん……」
優しさに涙が溢れそうになる。
だけど、泣いてばかりはいられない。
この武器探しがこれからの僕の命運を分けるんだから。
「たしか……」
あった……。
この武器屋は新品の武器以外にも中古も取り扱っている。
もっとも、誰も見向きもしないせいか、奥の方で埃をかぶっていることが多い。
「これを頂戴」
「これ……か? 刃こぼれが酷くて、使い物になるのか?」
これでいいんだ。
僕のスキルがあれば、これくらい……
「えっと……銀貨1枚だよね……ちょっと待って」
手持ちは銀貨が1枚……。
これで失敗したら……。
「まぁ、出ていくと決めた男の門出の日だ。タダでいいぜ」
「いいんですか! ありがとうございます! あの、もう一つ頼みが……」
武器屋の裏にある小屋を少しの時間だけ借りることにした。
何もない倉庫だけど、集中できる場所ってだけでありがたい。
『研磨』
スキルを発動する。
剣のあちこちに見られる傷やへこみが瞬時に理解できる。
そして、最適な研磨を導いてくれる。
……出来た。
数度の研磨だけではありえない、まるで新品のような輝きを放つ。
これが……
『研磨』スキルなんだ。
僕は新品然となった剣を再び武器屋のおじさんのところに持っていく。
「これを買い取ってくれないかな?」
「あん? なんだ、もういらなくなったのか? しょうがねぇ。銀貨一枚な?」
僕の剣を受け取った瞬間、おじさんの表情が一変する。
沈黙が流れ……
「坊主……何をしやがったんだ? これはさっきのあれか?」
「そうだよ。僕が研いだんだ」
「研いだ? 信じられねぇ。まるで新品……いや、そうじゃねぇ。武器屋30年の勘が告げているぜ。これは名品の予感だ」
何を言っているんだ?
僕はただ研いだだけだ。
切れ味が戻ったくらいなものだろ?
「金貨10枚……」
「え?」
ますます何を言っているのか分からない。
「この剣を金貨10枚で買い取る」
「おじさん……ほ、本当にいいの!!?」
剣を大切に抱えながら、裏に向かったおじさんが戻ってきた。
金貨10枚……それがテーブルに置かれた。
「代金だ……」
「ありが……どうしたの? おじさん」
なぜか、おじさんに手を掴まれていた。
あれ?
もしかして、これは何かの冗談だったのかな?
そうだよね……あんなボロい剣が研いだくらいで金貨10枚なんかに……
「坊主。他も研げるか? あそこにある武器を全部やってくれたら……金貨100枚出すぞ」
「ひゃ、100枚!? 本当に? 本当にいいの?」
「ああ、構わねぇよ。それだけの価値を見たぜ」
信じられない幸運だ。
僕は武器屋に眠るボロ武器を蘇らせる作業に没頭した。
数日後……疲れ果てた表情で武器屋を訪ねた。
「出来たか!!?」
「はい……なんとか」
いくら、簡単に研げるとは言え……百本以上はあったよな?
途中から数えるのを止めたくらいだ。
「やっぱり、凄い出来だな。おめぇ、行くとこないんだろ? ここにいてもいいんだぜ。これだけの事が出来たら、一生安泰だ」
僕は受け取った金貨100枚を小袋にしまい込んでいた。
おじさんの提案を考えていたんだ。
すごく嬉しい申し出だと思うよ。
行く宛もない僕にこんな優しい言葉を掛けてくれる人なんて……。
でも、考えは変わらないかな……
「おじさん、ごめん。僕はやっぱり、自分で剣を作りたいんだ」
鍛冶師の家に生まれた。
鍛冶師として育てられた。
僕は鍛冶師として生きていくことを選んだんだ。
たとえ、スキルが『研磨』だったとしても……。
僕はライル=ウォーカー。
『研磨』というゴミスキルを持つ15歳の少年。
このスキルで剣作りを極めるための旅を始める。
数カ月後……おじさんの武器屋は冒険者の間で有名になっていた。
国宝級の剣が格安で売られている店だと……。
2
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。
どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!
スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!
天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる