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公爵家付き工房
第18話 念願の工房が手に入りました
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意味が分からなかった。
「僕が王国のコンテストに……ですか?」
いつかは目指すところだと思っていたが、たった三年?
どこから、その数字が出てきたのかは分からない。
それを聞くと……。
「ライル君にはフェリシラの事で返しきれない恩が出来てしまった。それをどう、返すか考えていたんだよ」
……?
僕は恩を売ったつもりもないし、フェリシラ様のことで売るつもりもない。
「いえ、結構です!!」
ここはきっぱりと断っておいたほうがいいだろう。
この人と絡むと碌な事がない。
「仕方がない……お兄さんと呼ぶことを許可してやろう」
話聞いていないのかな?
いや、そもそも……。
「僕はデルバート様をお兄さんと呼ぶつもりは今後ありません」
「ほお。言うではないか。公爵当主である私が許可しているのだぞ? 普通だったら、ひれ伏せて感謝するものだぞ?」
どこの魔王だ。
お兄さんと呼べて、喜ぶやつなんてどこにいるんだ?
「まぁ、冗談だ。君には工房を与えようと思っている。覚えているかな? 我が敷地の工房だ」
……あの……
「工房を……僕に、ですか?」
「おや? 喜びが足りないな。もっと、喜んでくれると思ったんだが。それとも迷惑だったかな?」
僕は興奮を抑えられなかった。
奉公時代の記憶が呼び起こされる。
活気に満ちた工房の景色……。
赤く輝く、熱しられた鉄……。
そして、横には大好きな彼女……。
いや、最後は違うか。
「本当に……?」
「ああ。どうせ、使っていない物だ。取り潰そうとも考えていたんだが……どうだ?」
そんな事は言われるまでもない。
ただ、どうしても信じられなくて。
「も、もちろんです!! 使わせて下さい!!」
「そうか。それなら、いい。さて、さっきの質問に戻ろう」
……何の話だ?
「三年、というのは工房の寿命だ。すでに老朽が激しい。三年後には取り壊してしまう。私としても、せっかく与えるのだから、成果が欲しいのだ」
だから、三年後のコンテストに?
そんな短い間に入賞できるほどの実力が身につくだろうか?
王国のコンテストは鍛冶師部門だけ。
つまり、一から作り上げなければならない。
それを僕が出来るのか?
でも……。
これを逃せば、マイ工房はもっと先の話になってしまうだろう。
だったら……。
「分かりました。不眠不休で修行をします。そして、三年後には……」
「それを聞いて、安心したよ。是非とも……頼むよ?」
なんなんだ?
この異様な威圧は。
はっきりいって、この話にデルバート様にメリットはないと思う。
それなのに……どうして、そこまで真剣になれるんだ?
この裏には何かあるのか?
だが、考えても僕の結論は変わらない。
夢にまで見た工房が手に入るのだから。
「そうそう、フェリシラには内緒で頼みたいんだが……工房には居住スペースが……」
デルバート様との話は終わった。
僕にとってはこれ以上ないほど有意義で、楽しい話だった。
ドアを出ると、フェリシラ様と目が合った。
「何か言われました?」
「はい。工房をお借りすることになりました」
「工房って……あの使われていない?」
多分、そうだよね?
「はい。おそらく……」
「そう……」
僕が側にいるのは嫌なのかな?
表情を見せたくないって、そういうことだよね。
「あの……子供の時のようにはいかないと思いますけど……時々、工房に遊びに来てくださいね」
……。
なんだ、この間は。
なんか、変なことを言っちゃったかな?
「行ったら、また教えてくれるのかしら?」
「ええ。もちろんですよ」
「だったら、行ってやってもいいわよ」
「はい!!」
僕は嬉しかった。
工房でまたフェリシラ様と話が出来ることに……
屋敷を離れ、大きな庭園を抜けた先に工房はあった。
すでに火を落としてから、どれくらいの時間が経過しているのだろうか?
かろうじて、草に覆われていないと言うだけで、中は埃だらけだった。
だけど、そんなものは気にならない。
「これが僕の工房……」
そう思うと、すべてが愛おしくなる。
このホコリだって、ここが使われていた証みたいなものだ。
だが……。
「掃除でもするかな!」
まだ、帰るには日が高い。
少しでも再開を早めるためにも……。
ゴシゴシ……。
ゴシゴシ……。
汚れが落ちないな。
……。
ゴリッ……。
ゴリッ……キュッ!
こんなことってあり得るのか?
落ちない汚れが……砥石で綺麗になってしまった。
それだけなら、砥石って凄いなって思うだけだ。
そうじゃない……
「なんで、新品同然になっちゃうんだ?」
一箇所だけではない。
いろいろな箇所も砥石で磨いた。
慎重に……。
「信じられなくらいに綺麗になってしまった……」
鍛冶で使う設備は、初めて使うと思わせるほど真新しい色を放っていた。
だけど……
消耗品というか、道具はどれもボロボロになってしまった。
もともと使い込まれていたせいで寿命が来てしまったのかもしれない。
買いに行かないとダメかな。
僕は残りの時間も砥石で磨き続けた。
「お兄ちゃん!! ただいま!!」
「今まで、どこにいたんだ?」
もぐもぐと何かを食べながら、屋敷の方を指差した。
「まったく……今日はもう帰ろうか」
「ふぁい!!」
なんだよ、その返事は。
僕は晴れやかな気分で公爵屋敷を離れた。
足が軽い。
「アリーシャ。今日は何でも食べていいからな! お祝いをしよう」
「もぐもぐもぐ。ふぁい!」
デルバート様はアリーシャに餌付けでもしているのだろうか?
背負いきれないほどの食料を持たせるだなんて……。
「公爵様の屋敷は好きか?」
「ふぁい!! とっても、しゅきです!!」
完全に餌付けされたな。
まぁいいか……。
僕達はこれから公爵屋敷の敷地に引っ越すのだから。
「僕が王国のコンテストに……ですか?」
いつかは目指すところだと思っていたが、たった三年?
どこから、その数字が出てきたのかは分からない。
それを聞くと……。
「ライル君にはフェリシラの事で返しきれない恩が出来てしまった。それをどう、返すか考えていたんだよ」
……?
僕は恩を売ったつもりもないし、フェリシラ様のことで売るつもりもない。
「いえ、結構です!!」
ここはきっぱりと断っておいたほうがいいだろう。
この人と絡むと碌な事がない。
「仕方がない……お兄さんと呼ぶことを許可してやろう」
話聞いていないのかな?
いや、そもそも……。
「僕はデルバート様をお兄さんと呼ぶつもりは今後ありません」
「ほお。言うではないか。公爵当主である私が許可しているのだぞ? 普通だったら、ひれ伏せて感謝するものだぞ?」
どこの魔王だ。
お兄さんと呼べて、喜ぶやつなんてどこにいるんだ?
「まぁ、冗談だ。君には工房を与えようと思っている。覚えているかな? 我が敷地の工房だ」
……あの……
「工房を……僕に、ですか?」
「おや? 喜びが足りないな。もっと、喜んでくれると思ったんだが。それとも迷惑だったかな?」
僕は興奮を抑えられなかった。
奉公時代の記憶が呼び起こされる。
活気に満ちた工房の景色……。
赤く輝く、熱しられた鉄……。
そして、横には大好きな彼女……。
いや、最後は違うか。
「本当に……?」
「ああ。どうせ、使っていない物だ。取り潰そうとも考えていたんだが……どうだ?」
そんな事は言われるまでもない。
ただ、どうしても信じられなくて。
「も、もちろんです!! 使わせて下さい!!」
「そうか。それなら、いい。さて、さっきの質問に戻ろう」
……何の話だ?
「三年、というのは工房の寿命だ。すでに老朽が激しい。三年後には取り壊してしまう。私としても、せっかく与えるのだから、成果が欲しいのだ」
だから、三年後のコンテストに?
そんな短い間に入賞できるほどの実力が身につくだろうか?
王国のコンテストは鍛冶師部門だけ。
つまり、一から作り上げなければならない。
それを僕が出来るのか?
でも……。
これを逃せば、マイ工房はもっと先の話になってしまうだろう。
だったら……。
「分かりました。不眠不休で修行をします。そして、三年後には……」
「それを聞いて、安心したよ。是非とも……頼むよ?」
なんなんだ?
この異様な威圧は。
はっきりいって、この話にデルバート様にメリットはないと思う。
それなのに……どうして、そこまで真剣になれるんだ?
この裏には何かあるのか?
だが、考えても僕の結論は変わらない。
夢にまで見た工房が手に入るのだから。
「そうそう、フェリシラには内緒で頼みたいんだが……工房には居住スペースが……」
デルバート様との話は終わった。
僕にとってはこれ以上ないほど有意義で、楽しい話だった。
ドアを出ると、フェリシラ様と目が合った。
「何か言われました?」
「はい。工房をお借りすることになりました」
「工房って……あの使われていない?」
多分、そうだよね?
「はい。おそらく……」
「そう……」
僕が側にいるのは嫌なのかな?
表情を見せたくないって、そういうことだよね。
「あの……子供の時のようにはいかないと思いますけど……時々、工房に遊びに来てくださいね」
……。
なんだ、この間は。
なんか、変なことを言っちゃったかな?
「行ったら、また教えてくれるのかしら?」
「ええ。もちろんですよ」
「だったら、行ってやってもいいわよ」
「はい!!」
僕は嬉しかった。
工房でまたフェリシラ様と話が出来ることに……
屋敷を離れ、大きな庭園を抜けた先に工房はあった。
すでに火を落としてから、どれくらいの時間が経過しているのだろうか?
かろうじて、草に覆われていないと言うだけで、中は埃だらけだった。
だけど、そんなものは気にならない。
「これが僕の工房……」
そう思うと、すべてが愛おしくなる。
このホコリだって、ここが使われていた証みたいなものだ。
だが……。
「掃除でもするかな!」
まだ、帰るには日が高い。
少しでも再開を早めるためにも……。
ゴシゴシ……。
ゴシゴシ……。
汚れが落ちないな。
……。
ゴリッ……。
ゴリッ……キュッ!
こんなことってあり得るのか?
落ちない汚れが……砥石で綺麗になってしまった。
それだけなら、砥石って凄いなって思うだけだ。
そうじゃない……
「なんで、新品同然になっちゃうんだ?」
一箇所だけではない。
いろいろな箇所も砥石で磨いた。
慎重に……。
「信じられなくらいに綺麗になってしまった……」
鍛冶で使う設備は、初めて使うと思わせるほど真新しい色を放っていた。
だけど……
消耗品というか、道具はどれもボロボロになってしまった。
もともと使い込まれていたせいで寿命が来てしまったのかもしれない。
買いに行かないとダメかな。
僕は残りの時間も砥石で磨き続けた。
「お兄ちゃん!! ただいま!!」
「今まで、どこにいたんだ?」
もぐもぐと何かを食べながら、屋敷の方を指差した。
「まったく……今日はもう帰ろうか」
「ふぁい!!」
なんだよ、その返事は。
僕は晴れやかな気分で公爵屋敷を離れた。
足が軽い。
「アリーシャ。今日は何でも食べていいからな! お祝いをしよう」
「もぐもぐもぐ。ふぁい!」
デルバート様はアリーシャに餌付けでもしているのだろうか?
背負いきれないほどの食料を持たせるだなんて……。
「公爵様の屋敷は好きか?」
「ふぁい!! とっても、しゅきです!!」
完全に餌付けされたな。
まぁいいか……。
僕達はこれから公爵屋敷の敷地に引っ越すのだから。
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