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鍛冶の街 グレンコット

第33話 グレンコットを去ります

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魔女の館……そんな説明を受けた。

といっても古ぼけた建物という以外に特に感想はない。

強いて言うなら、屋敷中央に置かれた大きな窯……

それくらいしか、目を引くものはなかった。

「ウィネット様は眠りにつきました」

別室に案内されていた僕達の前に姿を表したのは女剣士……イディアだった。

今は先程の格好とは変わり、なんというか露出の多い格好だった。

ちょっと、目のやり場に困る……。

ん?

「あの……どうなさいました?」

急に僕の前で膝を折って……まるで国王陛下の前にいる騎士のような……。

「この度は様々な非礼……本当に申し訳ありませんでした!」

うるさっ!

声でかいな。

「えっと、許しませんよ? そんなことをしても。斬られたんですから」
「いや、その……分かりました。どうぞ、これで」

どうして、剣を渡してくるんだ?

僕にこれでどうしろと?

剣を受取り、柄を持つ手に力を加える。

……。

「やっぱり、いい剣ですね。これ」

恐怖を感じながらだったから、少ししか観察できなかったけど……。

冷静に見れば、やっぱり上質な剣のようだ。

「はい? ええ、これは我が家に伝わる伝統的な剣で……三百年以上、一度も研いだことがないというのが自慢で」

それは凄いな。

研がずにこれだけの状態を維持できるなんて。

「剣士として腕は一流なんですね」
「いや、その……お恥ずかしい。我々は魔女を護衛するのが仕事で。戦うことしか能がないというか……」

だけど、やっぱり気になるな。

細かい刃こぼれが……。

放っておくと、ここから剣がダメになっていくんだ。

やっぱり、メンテナンスは重要だよ。

「これ、研いでいい?」
「え? いや、その……分かりました!! その子で許してもらえるなら……」

いやいや。そんな言い方は止めてよ。

まぁいいか。

「じゃあ……」

ジュッ……ジュッ……。

ん? ちょっと音が違う?

シュッ……シュッ……。

いい感じに仕上がってきたな。

「はい、これ。刃こぼれは完璧に無くなったよ。一応、確認してもらえる?」
「はぁ……」

そういうや、華麗な剣さばきを目の前で披露された。

長身の彼女が振るう剣はまさに自由自在と言った感じだ。

これなら、数多の兵を前にしても悠々と倒してしまいそうだ。

「すごい、です。こんなに手に馴染むのは初めてです。ですが……」

ん?

何か問題でもあるのかな?

「どうしたの?」
「いや、この子の力が少し弱くなったような気が」

どう言う意味だ?

剣としての性能は研いだことで高まったはずだ。

今まで、『研磨』でイヤと言うほど経験してきた。

だが、こんな感想は初めてだ。

「どういうこと?」
「この子には力が宿っているんです。剣が大きく成長したと言うのに、この子は全く変わらないと言うか、弱くなっている?」

全く分からない。

これはエルフ族だけが感じるものなのだろうか?

「これは失礼しました。余計なことを言ってしまって。とにかく、これで許していただけるということで……」
「許すなんていいましたっけ?」

「そんなぁぁ」

しばらくはこれでいいだろう。

許す許さないはともかく、この人に僕が何かしようとは思っていない。

でも、ちょっとは反省してもらわないと。

やっぱり、初対面の人に剣を突き立てるのは絶対にやってはいけないと思う。

「ライル。そろそろ私達も帰りましょう。随分と予定が狂ってしまったわ」

……あっ!!

最後の工房見学が……。

「ダメですよ。時間がありませんから」

「そんなぁぁぁ」

僕はとぼとぼとした足取りで魔女の館を離れた。

最後にイディアが言っていた。

「魔女ベローネは貴方方に深く感謝します。いずれ、お礼に参ります」

……なんとも、不思議な表現だった。

まるで……違う人が話しているみたいだった。

「イディアさん。最後、不思議でしたわね?」
「僕もそう思います」

「ああ、あれは念話と言われるものらしいですよ。エルフ族に伝わる技法だとか」

それって、つまり……。

「あの話をしていたのは魔女だったってこと?」
「多分……そうではないですか? でも、凄いことですよ。ベローネ様から感謝されるのは」

あまり実感はないけど、これはデルバート様から投げられた仕事みたいなものだ。

魔女なんて、訳の分からないものはデルバート様に全て投げるに限る。

「さあ、着きました。これからどうなさるんですか?」

そんなのは決まっている!

工房見学!!

「私達は帰らせてもらいますわ」
「そうですか……まぁ、ここにはダンジョンと鍛冶があります。また、いらしてください」

どうやって、鍛冶工房に行くか……。

だけど、フェリシラ様は帰ろうとしている。

どうやって説得するか。

「ライル! 帰りますわよ」
「えっ……はい」

もう逆らえなさそうだ。

しょうがない。

もう一度、ここにやってくるか。

今度はフェリシラ様にはお留守番をしてもらって……。

ん?

アリーシャに袖を何度も引っ張られていた。

「どうしたんだ?」
「何か来るよ。すごく嫌な感じ」

なんだよ、嫌な感じって。

「ライル!! また会ったね」

この人は……マリアさん!!

「宿屋は本当に助かりました!」
「いいんだよ。それにしても連れって、その二人? 凄い美人じゃん! ライルもやるねぇ」

マリアさんの視線が二人を一瞬だけ捉えていた。

その時、フェリシラ様にだけ、鋭い眼光に変わった気が。

次の瞬間には笑顔になった、いつものマリアさんだった。

「もう帰るの?」
「え? ええ」

僕はちらちらとフェリシラ様を見つめる。

「絶対に帰りますからね。帰りが遅いとお兄様が煩いですから」

……諦めよう。

「そうなんです」
「チッ!!」

あれ? 舌打ち?

「マリアさん?」
「ああ、えっと……残念だなぁ。一緒にダンジョンに入ろうと思っていたんだけど」

この人はダンジョン攻略者だったのか。

まぁ、格好からすれば当たり前か。

「僕は鍛冶師ですから。ダンジョンには入りませんよ」
「そっか。でも、また来るんでしょ? 鍛冶師なら、ここは聖地みたいなものだもんね」

「そうですね。近々」

一人で……。

「じゃあ、その時は私が守るから一緒にダンジョンに入ろうよ」

随分とダンジョン押しが強いな。

「えっと、僕は……」
「上質な鉄が材料が手に入るよ」

えっ?

「鍛冶で使うんでしょ? 鉄。すごい上質なのがこのダンジョンから採れるんだって。もっと奥には、もっと凄い鉄が出てくるかも」

……凄い鉄。

それって……僕の鍛冶のレベルを一段上げてくれるんじゃないか?

「行きます!!」
「そうこなくちゃ!! じゃあ、またね。後ろのお姫様がご立腹みたいだからね」

僕は手を振って、マリアさんを見送った。

あれ?

フェリシラ様をお姫様って呼んだ?

知らないはずだよな……。

うん、きっと気のせいだ。
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