爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第70話 第一王子来訪と騒動②

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 屋敷に到着した僕は、エリスにルドの案内を頼んだ。僕達は、今後の展開について相談しなければならない。着いてすぐにゴードンとライルとマグ姉を執務室に呼び出した。

 「ゴードン。食料の準備は出来ているか? 1000人分の食料だが」

 「ロッシュ村長。準備の方は済んでおります。1000人が数日は食べられる量はあると思いますが、本当に支援をなさるつもりですか? 私はもう少し様子を見てからがいいのではないかと思いますが」

 「その事については僕も考えたけど、疑っていたら何も始まらない。僕は、ルドを信じてみようと思う。それに、飢えている者が目の前にいるのだ。試すような真似は僕には出来ない。それではだめか?」

 ゴードンは何も答えなかったが、了承したと僕は受け取った。マグ姉の方を向くと、一言、ありがとう、と言ってきた。ライルには今後のことも考えて、情報収集を頼み、すぐに行動に移ってもらった。

 ゴードンとマグ姉を連れて、僕は応接室に入った。部屋の中にいたルドは非常にリラックスした様子だった。僕が入ったことに気付いたルドは、立ち上がろうとしたので、制止した。従兄弟の間で、ややこしい挨拶は不要だと思ったからだ。マグ姉も特に何も言わないので、間違っていなかったのだろう。

 僕がソファーに腰掛けると、ルドは目礼をしてきた。僕も、少し頭を下げて、早速本題に移った。 

 「待たせたな。こっちはゴードンだ。村の相談役をさせている。さて、話をする前に、要望通り、ラエルの街に食料を送っておいたぞ。すごい量となったが、1000人では数日分にしかならない。本格的なものは、後日となることだけ了承してもらいたい」

 僕の言葉にルドはたいへん驚いた様子で、すこし涙ぐんでいるように見えた。よほど、辛い思いをしていたのだろう。先程みたく、気持ちのいい号泣を見れることを期待したが、残念だ
 深呼吸をしたルドは、僕に礼を言ってきた。その後、ルドは思いがけないことを言ってきた。

 「ロッシュ。ここまでの好意をしてくれたのに拘わらず、こんなことを言うのは躊躇してしまうが。是非、王都奪還のための兵を起こしてもらえないだろうか」

 そうか。ルドはまだ諦めきれていなかったのか。ラエルの街の兵は再起のための兵だったのか。しかし、マッシュにも言っているから知っているはずだろう。この村には、軍を起こすほどの兵を保有していないことを。理解した上で言っているのだろうか。断られることもおそらく想定しているはずだ。

 「ルドの申し出は理解しているし、気持ちも分からなくはない。しかし、現状として、この村の出来るのは食料支援程度しかない。そこで提案なんだが、この村に移住する気はないか? もちろん、条件は付けさせてもらうが。どうだろうか?」

 ルドは、僕の提案に対して、大して驚いたりはしていなかった。むしろ、移住に興味を示してくれた。僕の言った条件というのが気になるようで、詳細を求めてきた。もちろん、村民に課している以上のことは要求するつもりはない。

 「条件というのは、二つ。村のために労働をすることと他の種族と平等に扱われることだ。これは、この村にいる皆に課せられた条件だ」

 「もし、条件を破ってしまった場合は?」

 「決まっている。罰を与えるか、村を出ていってもらうかだ」

 その言葉に少し困惑している様子だった。マグ姉が、僕の耳に小声で、おそらく兵の中には、人類至上主義者がいるため、亜人と平等に扱われることに不満を持つ者が出てくると思ったのでしょう、と言ってきた。なるほどな。王都では、主義者がかなり多いと聞いたことがある。その者からすれば、僕の条件は難しいことだろう。しかし、これを曲げる気は僕にはない。気に入らなければ、出ていってもらうしかないのだ。その者を受け入れなければならないほど、この村は人材に不足しているわけではないからな。これで話は、大体が終わった。ここからは、事務的な事をするだけだ。それなら、ゴードンに一任しておけばいいことだろう。

 僕は、ルドの生還に対して、宴を設けることにした。エリスには事前に頼んであったので、もう少しで始められるだろう。僕は、ルドに宴に参加していかないかと誘うと、ちょっと躊躇しながら、私が参加していいのかと答えたのだ。勘違いしているようだ。ルドが主賓だと言うと、ビックリしていた。

 エリスの料理は気に入ってもらえたようで、ルドは一心に食べ始めた。せっかくだから、村の酒も出すと、喜んで飲んでくれた。宴は一段落ついて頃、ルドが、王弟派との戦争について語り始めた。話り始めたものの、しばらく沈黙が続いた。あまり話したくないようだが……ついに語りだした。

 「あの戦争では、初戦はこちらが有利だった。地の利、数の利があったからだ。しかし、兵の質の違いが戦況を大きく変えていった。こちらの軍は、向こうの戦術により分断され、各個撃破され始めた。こちらの軍は、人間と亜人の混成軍だ。連携も十分に取れず、兵の多くが討ち取られてしまった。私は、撤退を余儀なくされ、地の利を捨て、王都を脱出した。郊外で集結したときには、兵は十分の一にまで減り、この戦いで第二王子と第三王子は戦死した。その後も追撃され、徐々に兵が減り、ついには敗走した。兵の殆どは、王弟派に降伏するか、脱走をしたりして、残ったのが1000人の兵だった」

 話を聞いていて、凄惨な戦争であることが容易に想像がついた。ライルも王都が廃墟と化していたと以前報告していたが、戦争の規模を考えれば、当然の結果なのだろう。兄弟を失ったマグ姉は少なからずショックを受けているようだ。マグ姉は、第一王女について、ルドに聞いていた。

 ルドは、躊躇していたが、重い口を開き、話し始めた。

 「第一王女は、私より五歳上の姉だ。姉の美貌は貴族の間でも有名だったと思う。王弟の息子が積極的に婚約を迫っていたが、断り続けていた。なぜ、断っていたかと言うと、その息子が下衆な男で有名だったからだ。女を物としか思っていなかったように女を取っ替え引っ替えして。それに嫌気が差さない女性はいない。第一王女も同じだ。しかし、王弟が王都を掌握してから状況は変わった。第一王女は、断ることができなくなり、それを悲観して、自害をしたのだ」

 またしても、兄弟の訃報に触れたマグ姉は、席を立ち、ソファーで少し休むことにした。無理もないことだ。それでも一時間もしないうちに戻ってきた。僕は、マグ姉を心配したが、マグ姉は無理に笑っていた。

 「王族は、生まれるとすぐに離れて生活するようになるの。だから、兄弟がいると聞いても、あまり実感がないの。姉だって弟たちだって、公式に会ったのは数回しかないのよ。第二王子は一緒の学校に通っていたから、少しは面識はあるけど、それだけなの。だから、死んだと聞いてもあまりショックはなかったわ。むしろ、王都に残っていたら、私も死ぬ運命だったということにショックを受けていただけ。だから、大丈夫よ。私はこうやって、生きているんだもの」

 宴が終わり、ルドはラエルの街に戻ろうとしたので、マグ姉に屋敷に泊まっていくように伝えるように言った。街道は安全だとしても、すでに外は暗い。明日でも大丈夫だろう。ルドは、泊まることになり、エリスに部屋を案内するように指示をした。

 明日からルドの部下1000人と会って、今後について決めていかなければならない。明日は忙しくなりそうだ。次の日の早朝、自警団の団員が屋敷に急な報せを告げにやってきた。

……本当に忙しい一日となった。
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