爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第235話 視察の旅 その39 里との契約

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 老人の頼みで、僕は黒装束達を穴から救出することにした。穴から這い出た黒装束達は、老人の前で正座になり説教を受けていたのだった。まるで、子供に物を教えてるような口調だが、彼らは立派な兵士なのだろう。そこまで言うことはないだろうに。僕が老人の方に向きながら、考えているとそれに察したのか、黒装束達に頭巾を取るように指示を出した。

 僕は頭巾を取った者達を見て驚いてしまった。黒装束達の正体は、あどけなさが残る少年少女達だったのだ。あれほどの身体能力は少年少女のものではなかった。この者たちは一体何者なのだ。教えてくれ、老人よ。

 「儂らは……情けないことじゃ」

 そういって、老人が急に泣き出したのだ。僕は何のことか分からず困っていると、ガムドが僕に説明をしてくれたのだった。この里は、王国に抱えられていた集団だった。主に各地の諜報や工作、暗殺などを生業としたようだ。王国の暗い部分を一手に引き受けていたため、里は大いに繁栄をしていた。しかし、その時代も先の大戦からガラリと変わってしまった。

 王国からの仕事がなくなったのだ。一切の連絡がなく、里のことを忘れたかのようだった。里の者は仕事がなくなり窮していた。それでも、今まで蓄えていた食料を小出しにしながら農業をして、なんとか食いつないでいた。しかし、更に追い打ちをかけるように近年になって、土壌が荒れ始めていたのだ。なんとか持ち直そうと様々な手を講じたが、徐々に荒廃していくことに指を咥えているしかない状況だった。

 そこで里の者と相談して、一つの結論に辿り着いた。このままでは里の者は餓えて死んでしまう。そうなる前に、里の者の超越した身体能力で各地から食料を強奪してくることにしたのだ。生きるためとは言え、先祖代々、権力者の暗い部分を担い、自分たちこそ王国を支えている大きな柱であると自負していた誇りを汚してしまうことに躊躇するものは少なくなかった。

 僕はそこまでの話を聞いて、老人の涙の理由が分かってきた。老人たちが培ってきた技術を盗賊の真似事をすることに使うことに耐えきれなかったのだろう。荒廃したこの時代とは、何人に対しても厳しく、容赦なく貶めてくるのだ。それに耐えられないものは、自らを壊していくのだ。

 とりあえず、ここで話は出来そうにないだろう。僕達は老人の案内で、里でも一番大きな屋敷へと向かっていった。黒装束達も僕達を警戒するように付いてきたが、屋敷前で立ち止まった。一人、叫んでいた少年だけが屋敷に入ってきた。その屋敷には、とても懐かしい雰囲気が漂っていた。まるで古き日本家屋のようだった。土間や囲炉裏、板張りの部屋に畳まである。なんとも懐かしい気持ちになり、つい涙を流してしまいそうになった。

 老人が僕が屋敷に入ってから立ち尽くしていたものだから、心配して声をかけてくれたのだ。それがなんとも優しく、心が和らいでいく感覚に襲われていた。これから交渉をしなければならないのだ。僕はなんとか現実に戻り、案内された部屋に向かって歩き出した。

 その場には、僕とガムド、シラーと老人と叫んでいた若者だけだ。僕達が対面していると、初めに口を開いたのは老人だった。

 「自己紹介をさせてもらおう。ワシはこの里の長老を務めているゴモンと申す。こっちの子はワシの孫でハトリと言う。一応はこの里の長老の後継者の一人ということでこの話し合いに参加させてもらうことにした。その前に、ハトリたちが仕出かしたことを深くお詫び申し上げます。この者たちは世間知らずですが、里のことを思っての行動でしょう。どうか、お許しください」

 ゴモンとハトリか。この世界ではなんとも変わった名前ではないか。そこに少し気を取られてしまった。

 「いや、ハトリの行動は正しかっただろう。逆の立場で考えれば自明だ。謝罪などする必要もない。こちらとしては実害が生じてもいなかったのだから、これ以上言うつもりはないぞ。むしろ、こちらの方こそ謝罪すべきなのだろう。里の者に危険を感じさせることあったのだから」

 両者で謝罪をしだすと切りがない。そこはガムドは上手く取り持ってくれて、本題に移ることが出来た。僕は、この里については特に何かを思っていることはない。こちらに敵対的な行動をしなければ良いと考えているだけだ。

 「僕はこの里とは友好的な関係を築きたいと思っている。我が公国は、王国とは対立関係にあるから、かつて王国と協力関係にあった貴殿らとしては難しいかも知れないが。正直に言えば、とにかく、無用な争いは避けたいのだ」

 僕の言葉に老人はふむと頷き、感心したような様子をしていた。

 「なるほど。本心を言ってくださりありがとうございます。ワシも包み隠さずロッシュ殿に本心を言いましょう。まずは王国についてですが、ワシら里は王国から長年仕事を受けておりましたが、王国以外から仕事が舞い込んでこなかっただけの話です。ワシらに王国への忠誠心はありません」

 そうだったのか。ガムドの話では、王国に対して思い入れが強い感じは受けたが、関係性としては王国から独立していることを言いたいということか。

 「そこで、ワシらを公国で雇ってはもらえぬだろうか? ワシらの技術を一旦はお見せ出来ているとは思うのじゃが」

 ほお、そうきたか。なかなか面白そうだな。たしかに、少年少女であれだけの身体能力なのだ。この里にはもっと素晴らしい者が大勢いるのだろう。僕は里の戦力について聞き出すことにした。

 「それは雇ってくれる事が確約されてからお話します。が、こちらも切羽詰まっているので情報をお教えいたしましょう。この里には五千人ほどの者が寝起きしております。そのうち、諜報活動に従事できるのは三千人ほど。ハトリ達はまだ見習いの域を出ておりません。この辺りでどうでしょう」

 思ったより凄そうだな。今まで相手方の情報がなかったために、危機的状況に陥ったことが少なくない。情報を収集することに特化した者たちを雇うことが出来たならば、公国としても有益なことになるのは間違いないだろう。ガムドの方を向くと、しっかりと頷いている。ガムドも諜報を必要性は認識しているようだ。そうなると、条件のほうが問題となるな。

 「僕は里を雇っても良いと考えている。問題は条件だ。それと信頼関係だ。はっきりと言えば、僕は貴殿らへの信頼が未だ持てないでいる。この辺りをどのように解決すればいいか、知恵を貸してもらいたいのだが」

 「条件としては、食料を安定的に供給してもらいたいと思っています。仕事をすれば、さらに食料を上乗せしてもらえば、こちらとしては文句はありません。信頼関係については、こちらとしてはなんとも言えませんが、こういうのはどうでしょう」

 ゴモンが言ってきたことは、ハトリを連絡役として僕の側に置くということだ。いわゆる人質だ。僕はハトリの方に顔を向けたが、一切表情を消して、話を聞いているだけだった。先程、感情を顕にしたのが信じられないな。しかし、ハトリ一人では不十分だ。

 「ハトリには許嫁とかいないのか?」

 僕が突飛なことを言うと、先程まで沈黙を貫いていたハトリに初めて表情が現れた。恋話に動揺してしまったのか? ゴモンは包み隠さずに許嫁がいることを認めたが、僕がなぜその質問をしたのかわかっていない様子だった。

 「その者もハトリと同様の待遇にしてもらいたい。それならば、条件を飲むことにしよう。どうだ?」

 ゴモンは悩んだ挙句、了承してくれた。それからは、仕事の依頼の仕方を確認したり、今各地で盗賊家業をしている者達の扱いについて話し合いがなされた。当然、公国で雇うからにはそのような輩を認めるわけにはいかないからな。

 里に道を通していいか聞くと、それははっきりと断られてしまった。里が外界と繋がるのは里の掟で禁じられているらしいが、その近くを通る分には問題ないようだ。それと僕が開けてしまった崖にある坑道付近に祠を作ることを認めてもらった。当然、アウーディア石を設置するためだ。これで温泉街にも効力が及んでくれるだろう。

 これでアウーディア石の効果が公国全てを覆うことが出来たであろう。これでようやく農地改革を始めることができそうだ。アウーディア石は、土地を豊かにしてくれるものだが、あくまでも土地本来の力が蘇るに過ぎない。土地を適切に管理し、肥料を工夫をしながら作物を栽培しなければ、たちまち地力は失われ石の効力があっても意味をなさない。今まで経験をしたことがない様な問題が次々と湧き上がってくるだろう。それに対処するために、きっと僕がいるのだろう。
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