爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第252話 航路

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 大海原に向け、船が前進していく。波が穏やかなため、思ったよりも揺られなくてよかった。僕もクレイのことを笑っていられないほど、船には弱いかったはず。しかし、こっちの世界に転生した際に手にいれたこの体ではどうやら船酔いには強いようで、全く酔うような気配がない。むしろ、海風が心地よいと感じるほどに余裕がある。

 僕は船長のチカカの側にいる。ここは船の中でも一段高い場所にあるおかげで船を一望できる。と同時に海を遠くまで見通せることが出来るので気に入っている。甲板では、船員たちが忙しなく動き、帆船ゆえか帆の向きを調整したりしている。チカカの側には各部署に伝令を送る者の他に船長候補となる六人がチカカの一挙手一投足を見逃さないようにしている。そんなに見られていたのでは、チカカも仕事がしづらかろうと思ったが、本人はあまり気にしている様子はなさそうだ。

 チカカが言うのに、新村からだいぶ離れたので、そろそろ辺りを旋回するように移動するらしい。今回は、漁の試験と初航海を兼ねているので遠くには行くつもりはないみたいだ。僕はふと、三村に行けるかチカカに聞いてみた。チカカは難しそうな表情を浮かべていた。

 「ロッシュ様の頼みでも難しいかも知れませんね。もう少し船が小さければ、何とかなったかも知れませんけど。今の私には海底の状況が全く分かっていないので、沿岸航行すると、もしかしたら座礁してしまうかも知れません」

 なんてことだ。それでは、僕が考えている新村と三村の航路を開拓するというはまだまだ先になってしまうということではないか。僕が悩んでいると、チカカが残念そうに話しかけてきた。

 「なんだか期待させてしまったみたいですね。これほどの船となると、なかなか移動することも難しいんですよ。特に沿岸は。沖に出てしまえば、海底地形なんて問題にはならないんですけど。これから測量したとなると、三村までだと大体一年くらい見てくれれば航路図は完成すると思うんですけど」

 一年か。待つしかないだろうな。座礁してしまう危険を冒すことはできない。そうなると、三村に船を運び込むことさえ難しいということか。当分は新村での漁が中心となってしまうということか。それも仕方がないか。しかし、チカカが王国時代に船頭をやっていた頃はどうやっていたのだ?

 「昔は当然、航路図を頼りに船を動かしていましたよ。この辺の海域についても王国は航路図を持っていたはずですよ。確か、王都の公爵家にその地図はあったはずですよ。海運については公爵が取り仕切ってましたから。取りに行ければいいんですがね。そうすれば、すぐにでも三村までの航路を結べるんですけど」

 ほお。それはいいことを聞いた。なんとか、その地図を手に入れたいものだが。この辺りの海は公国の勢力圏も同然だ。そうなると、もはや、王国にとってはその航路図は無用の長物だろう。だったら、有効利用してやらない手はないな。うん、きっとそうだ。

 僕はチカカから有益な情報を得て、甲板に降り、船員たちの動きを見ながら船首の方に向かって歩いていった。流石に船首に近づくにつれ、波の影響を強く受けるため大きく縦に揺れる。波が荒らければ、きっと僕くらいなど簡単に投げだされてしまうだろうな。周囲に人気がないことを確認して、ハトリを呼び出した。

 ハトリは音もなく現れた。ここ数日で随分と腕を上げたのか、姿が現われるまでどこにいるか分からなくなってきた。一年もすれば、僕にはとても探知することが出来ないほど腕を上げそうだ。それ自体は頼もしいと感じるのだが、ハトリに四六時中見られていると思うとちょっと怖いな。

 「ロッシュ殿。どうなされました?」

 背後に現れたハトリの姿を見て驚いた。顔が真っ青なのである。どうやら、船酔いをしているようで、姿が見えなかったのは単に隠れていたんではなく、吐いていたからのようだ。まだまだ、腕は上がっていなかったようだ。

 「大丈夫か? マグ姉から預かっている薬があるからそれを飲んだらどうだ?」

 「いえ、里秘伝の薬があるので大丈夫です」

 とても大丈夫なようには見えないが。その秘伝の薬というは大丈夫なのだろうか。まぁ、本人が大丈夫という以上は無理に勧めるつもりはないが。船酔いで命を落とすなど聞いたことないからな。

 「そうか。まぁ無理だけはするなよ。それと吐いてもいいが、海に落とされないようにな。実はな、里に頼みがあるのだ。聞いていたか分からないが、この海域の航路図が王都の公爵家にあるというのだ。それを拝借してきてくれないか?」

 「盗んでくるということですか?」

 「いやいやいや。そんな人聞きの悪いことをいうな。あくまでも拝借だ。拝借。頃合いを見て、ちゃんと返すつもりだぞ」

 ハトリの冷たい目線が僕を突き刺してくる。一応は建前というものは重要だ。特に僕の場合は。これはルドから事ある毎に言われて行きたことだ。一応は実践しておかなければ、また何か言われるかも知れないからな。

 「承知しました。それでは、拝借、をしてくるということで里の方には伝えておきます。結果はすぐに来るでしょう」

 僕は頷いた。忍びの里とはよく言ったものだ。僕だけだけど。きっと、良い結果をもたらせてくれるだろう。忍びの里にも食料の一部に海産物を入れてやったほうがいいな。あんな山里では十分な栄養を取ることは難しいだろうからな。ふと、顔色の悪いハトリを見て、体調が心配になった。先日、自ら毒を飲んで命を絶とうしていたのだ。

 「そういえば、体調の方は大丈夫なのか? 酔いもひどそうだが毒で随分と体力が奪われてしまっただろ?」

 ハトリは僕が心配することが少し意外だったのか、びっくりとした表情を浮かべてきた。そんなに変なことを言ったのだろうか。

 「あ、いや。すみません。我らの里を下賤なものと蔑む者が多いと聞いておりましたので。心配してくれるなどとは思ってもいませんでした。体調は大丈夫です。マーガレットさんという方が調合した薬が効いたのか、一晩ですっかり回復していました。あれほどの薬、里でもお目にかかれませんよ。是非とも、調合方法を教えてもらいたいところですが、秘伝でしょうから、諦めたほうがいいですね」

 分からないけど、マグ姉なら喜んで教えてくれるんじゃないかな? まぁ、確証はないから諦めずに聞くだけ聞いてみたら? と助言だけはしておいた。それでもハトリの表情は明るくならなかった……それもそうか。酔ってるんだもんな。それはそうと、少し気になっていたのが里の掟についてだ。僕が疑ったくらいで命を絶たれていたら、正直困るのだ。他に掟に背きそうなことを聞いておかなければ。

 「里の掟というものについて、聞いてもいいか? それを破れば、皆、お前みたく命を絶つものなのか? それとオコトについてだが、あの者は何者なのだ? 僕には、里の人間と言うだけではないと思うのだが。お前に命を絶つように命じた時、そう感じたのだが」

 ハトリは僕の質問に対して、どう答えて良いものか考え込んでいた。話してはいけないこともあるのだろう。話してくれようとしている姿勢にハトリの良さが滲み出ている。

 「里の掟と言っても難しいことじゃないんです。里の者たちは殆どが個人で行動していることが多いので、掟に反するかどうかは個人の判断に委ねられているんです。だから、雇い主に疑われても命を絶とうと思うものは少ないかも知れません。しかし、伯母上はその点は厳格な人ですから、見逃せなかったのでしょう。私も伯母上の命令とあれば、反抗は出来ませんから」

 ほう。僕が思い描いていた掟とは少し違って、かなり緩いようだな。僕が見た光景はハトリからしても珍しい部類なのか。まぁ、あれを見せられたおかげで忍びの里を信頼しようと思えたのも事実だけど……だが、ちょっと待て。伯母上って誰のことだ? まさか、オコトのことだというのか。確かめてみると、どうやらオコトはハトリの父親の妹らしい。つまり、里の長老の家系ということになる。長老の娘⁉

 いいのか? 長老の娘がこんな場所にいて。考えようによっては、長老の子供孫全てが公国の人質になっているようなものではないか。それほどまで、長老は公国への関係を求めようとしていたということなのか。今度、行った時、今一度確認しなくてはならないな。ふと、今更ながらオコトって僕を誑かそうとしていたんだよな。あのまま、関係を持っていたら、僕は里の長老と姻戚関係になっていたかも知れないんだな。複雑だ。

 しかし、オコトがハトリの伯母になるということはクイチはハトリの従兄弟ということになるのか。そうか……。

 「……クイチは、実は伯母上の実の子じゃないんだ。伯母上の旦那さんの親友の子供なんだ。クイチが子供の頃に両親とも流行病で亡くなってしまって伯母上夫婦で預かることにしたんだ。それでオレと許嫁になったんだ。最近、こっちに来てからクイチは笑うようになったよ。本当に感謝しているんだ」

 なるほど。確かにクイチとオコトは顔の作りが違うような気がしていたのだ。そういうことだったのか。しかし、ハトリのクイチを思う気持ちに一端を覗くことが出来た気がした。なんだか、ハトリを応援したくなるほどいい子のようだ。それから、僕はハトリと男の相談をすることになった。

 しばらくすると、船は帆を畳み始め、停船をしようとしていた。僕はまさかと思い、チカカのもとに向かった。僕の予想通りだ。漁が始まるようだ。ついに、海の魚を拝む時がやってきたというわけか。こっちの海の魚は見たことがないので楽しみだ。
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