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第307話 はぐれエルフの噂
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僕達が村に戻ると屋敷では大騒ぎだ。体調不良でエルフの里に行ったリードが子供を連れて帰ってきたのだから。事前には伝えていたが、エルフの子供の可愛さにエルフたちは悶絶しているようだ。特にオコトとミコトの食いつきが物凄く、二人で抱っこを争うようにしていたのだ。しかも、何を思ったのか乳母を申し出てきたのだ。どうやら忍びの里では長の子供は乳母が育てるという習慣があるようだ。
これにはリードが困ったような様子をしていたが、オコトとミコトの圧力が凄まじく、ついにリードが折れてしまった。リードの子供であるリースの食事だけはリードがやり、オコトとミコトが非番の時に世話をすることで決まった。きっと、エリスだったら折れないだろうな。僕から見て、エリスのホムデュムとサヤサへの愛情は並々ならぬものだ。
僕は一応リードに確認だけした。
「私も最初はどうかと思いましたけど……もしリースがハイエルフとしての人生を生きていくのなら他の人に育ててもらったほうがいいような気がします。エルフとは生き方が根本的に違いますから」
そういうものなのか。僕にはやはりピンとくるものではないが、皆が納得しているのであれば何も言うことはないな。それにしても、見ないうちにオリバが皆にかなり溶け込んでいることに驚いた。皆にオリバのことを何も紹介せずにエルフの里に向かってしまったからな。
オリバにそのことを謝罪すると全く気にする様子もなく、却って自分の言葉で色々伝えられたから良かったと言われる始末だ。なんともしっかりとした女性だな。
それから二ヶ月という時が流れた。春の作付けが一段落付き、麦の収穫を目前に控えた頃。
新村のテドから連絡が来た。新造船が出来たという報告だ。新村と三村の間を結ぶ運搬船のことだ。チカカが様々と注文を付けたようで随分と形も変わったみたいだ。しかし、テドの造船所は仕事の速さに驚いてしまう。まさか二ヶ月で船を作ってしまうとは。この調子で行けば、年間六隻か。それだけあれば、物資の輸送に漁業と十分に賄うことができるな。
そういえば、手紙の末尾に違う筆跡の文字で南の島について書いてあったな。きっとチカカの字だろうな。まだ、諦めきれていなかったのか。僕は音沙汰がなかったから、てっきり……。そんな話を何気なく家族で食事をしている時に話した。するとエリスが食いついてきた。
「南の島って響きが素敵ですね。是非、行ってみたいものですね。ホムデュムとサヤサがもう少し大きくなったら、どこでもいいから旅を経験してもらいたいです」
激しく同意だ。子供を連れて旅が出来たら、どれほど楽しいだろうか。しかし、エリス。南の島は漁師や調査団が帰ってこれなかったという魔境だ。そのような場所に子供を連れていくわけにはいかないぞ。僕達がそんな話をしていると、さっきからずっと考え事をしているような顔をしているリードがいた。僕は気になって聞いてみた。
「リード。さっきからどうしたんだ? 食事の手が止まっているではないか。どこか体調でも悪いのか?」
「いいえ。そんなことはないですが。先程の南の島について、ちょっと考え事をしていたんです。今のエルフの里が出来る前に大きな里があったようなのです。そこからリリ様が率いるエルフの集団ともう一人のハイエルフの集団に別れたようなのです」
そんなことがあったのか。リードは最近みたいな言い方だが、きっとはるか昔の話をしているのだろうな。
「リリ様は魔の森に里を構えたのですが、もう一つの集団はどこに行ったのか不明だったのです。しかし、ボロボロになったエルフが一人、リリ様の里にたどり着き、もう一つの集団の顛末を伝えたのです。それはハイエルフの死とエルフたちが渡海したというものでした」
つまり、もう一つの集団はリーダを失いながらも海を渡っていったということか……まさか、南の島に?
「分からないですが、はぐれエルフとなった者たちはとかく暴走気味です。近寄るものに攻撃を加えるなど当り前ですし、人間の男ならば容赦はしませんから。話を聞いていて、そう思っただけですから確信は全くありませんけどね」
それが本当ならば、捕まった男たちはさぞかし無念であっただろうな。しかし、はぐれになった集団はなぜリリの里に向かわなかったのだろうか? それに伝えに来たというエルフは仲間と共にいかなかったのかが分からない。
「リリ様ともう一人のエルフの間で何があったかは誰も知らないのです。リリ様もあまり触れたがらないですから。伝えに来たエルフは、魔の森から離れることを嫌がったみたいです。我々からすれば、魔の森を出るのは恐怖しかありませんからね」
しかし、これで南の島の謎が少しは分かってきたがするな。仮に南の島にはぐれエルフが住んでいるとしたら僕達が船団を率いて向かう必要性はないだろう。きっと、静かに暮らしているだろうからな。僕が一人で納得していると、リードは忠告のようなことをしてきた。
「一応、ロッシュ殿のお耳に入れておきます。もし、はぐれエルフたちが南の島に移住していたとしたら……全滅しているかも知れませんよ。エルフの寿命は長くても500年ほどです。これほど長生きするエルフはほとんどいませんが。確か、海を渡ったのは400年ほど前です。南の島では世代交代も難しいですから」
つまり僕達が南の島に行かなければ、南の島のはぐれエルフが死に絶えてしまうということか? もちろん、いればの話だが。どうする……まずはリリに相談したいところだが、未だに連絡はない。里の混乱も未だに収まらないということだろうな。リードもそれ以上のことは言わず、僕に判断を委ねているようだ。
南の島は、公国の領土とはいえない。しかし……僕はリードに抱かれているリースを見つめ、苦しんでいる姿を想像したら助けないという選択肢がなくなっていく。
……助けに行こう。はぐれエルフがいなければ、それでいい。とにかく死に瀕しているかもしれない、はぐれエルフを助けに行くんだ。僕が決断すると、リードが少しうれしそうに笑い、僕に一通の手紙を差し出してきた。実はこの手紙はリリから預かったものだと言う。僕がもし南の島に行くといったら渡すように言われていたらしい。
リリがなぜ僕が南の島に行くと……思い起こしてみると、うん、確かに南の島の話をしていたな。その時のリリの態度は素っ気ないものだったが、少なくともリードと同じ結論に達していたことは間違いないな。
「この手紙を見てもいいのか?」
「ええ。いいと思いますが……」
なんとも歯切れが悪いな。僕は手紙を覗き込むとリードの態度に合点がいった。読めない。全くと言っていいほど読めない。なんだ、この文字は。いや、楽譜か?
「実は私にも読めません。おそらく古代のエルフ語だと思います。今は全く使っていませんが、昔は音で言葉を表現していたという話を聞いたことがあります。ちょっと信じられないですが、その手紙は実際にあったということなのでしょうね」
なるほどな。古代エルフ語か。なんとも良い響きだ。といっても全く読めないのであれば興味もわかないな。僕は手紙をカバンにしまい込み、南の島に向かうための準備を進めることにした。手紙を認め、ハトリに手渡した。エリスには出来る限りのお菓子を作ってもらうことにした。エルフって甘い物好きでしょ?
マグ姉には船酔いの薬を用意してもらい、シェラには回復要員として同行をお願いすることにした。ミヤは……いっか。魔の森の城と屋敷を運動がてら往復するだけの生活をさせているのが本人にとってはいいだろう。そうなると戦闘要員としてはシラーだけか。オリバには……、と僕が悩んでいるとオリバが同行を志願してきた。
「私も是非南の島までお供したいと思っています。特に何かできることはありませんが、料理もできますし歌だって歌えます。どうかお願いします」
頭を下げてお願いされてしまった。それでも危険な場所かも知れないのだ。踏み切れない僕を見てマグ姉が厳し目の口調で話を変えてきた。
「ロッシュ。オリバさんがこれほどお願いしているんだから連れて行ったら? 危険なのは覚悟の上でしょ? きっとロッシュの役に立ちたいのよ。こんな素敵な女性の気持ちがわからないなんて、やっぱりロッシュね」
む? なにか馬鹿にされたような気がしたが。仕方がないか。
「オリバ。連れて行ってもいいが、危険な真似だけはしないでくれよ?」
オリバは首を縦に振り、了承してくれた。
さて、残るは……オコトとミコトか。彼女らにはリースの子守と家事をお願いすることにしよう。これで準備は万端に整うな。あとはテドからの返信を待とう。それからしばらくしてから、テドから準備が整った旨の返信がやってきた。僕はシラー、シェラ、オリバを連れて、新村に向かった。
新村の船着き場に向かうと、クレイやテドが出迎えにやってきた。テドはいつも通りなのだが、クレイの様子がいつもと違う。完全武装という出で立ちだったのだ。
「ロッシュ様。これから危険な旅に出ると伺っています。不肖、私にも同行をお許しください。必ずやロッシュ様をお守りします。オリバさんに負けていられません!!」
おお、なんとも勇ましいな。確かにクレイは元は姫で戦士でもある。頼もしい限りだが……絶対、最後の言葉が同行する一番に理由な気がするな。オリバもそんなクレイの態度を見て失笑していた。テドも状況をなんとなく察したようで空気を変えるために僕に話しかけてきた。
「ロッシュ公。今回用意した船は長期航海に耐えられるように作ってあります。初めての外洋ですから、大型にして揺れをなるべく抑えるようになっています。あとはチカカが上手くやってくれると思いますから信じてやってください」
「テドには感謝しかない。急な要望によく応えてくれた。君たち夫婦にはなにか恩賞を与えたいところだが……何か要望はないか?」
「そう言ってくださるのはありがたいことです。それじゃあ、ひとつだけお願いを。私が初めてロッシュ公と会った時に話したと思いますが、別れ離れになった職人を探してほしいのです。きっと王国領にまだいるとは思うのですが。彼らがこちらに来てくれれば、三村への造船所の移転も早まると思うんですが」
「なるほど。それを願うのであれば全力を尽くさせてもらおう」
テドはすごく嬉しそうに礼を言ってきた。それほど思い残しがあったのだろう。見つかればよいが。テドから船の準備が出来たと言うので、船に乗船することになった。クレイは船に乗る時、すでに顔面蒼白となっていたが本当に大丈夫なのだろうか? 南の島に近づいたら海上で何かしらの行動があると聞いているが。
船上ではチカカが出迎えてくれて、今回の予定を説明してくれた。南の島まではまる一日かかる予定のようだ。チカカが号令を上げると船は静かに波を立てて、外洋に向かって進み始めた。これからどうなるのだろうか。
これにはリードが困ったような様子をしていたが、オコトとミコトの圧力が凄まじく、ついにリードが折れてしまった。リードの子供であるリースの食事だけはリードがやり、オコトとミコトが非番の時に世話をすることで決まった。きっと、エリスだったら折れないだろうな。僕から見て、エリスのホムデュムとサヤサへの愛情は並々ならぬものだ。
僕は一応リードに確認だけした。
「私も最初はどうかと思いましたけど……もしリースがハイエルフとしての人生を生きていくのなら他の人に育ててもらったほうがいいような気がします。エルフとは生き方が根本的に違いますから」
そういうものなのか。僕にはやはりピンとくるものではないが、皆が納得しているのであれば何も言うことはないな。それにしても、見ないうちにオリバが皆にかなり溶け込んでいることに驚いた。皆にオリバのことを何も紹介せずにエルフの里に向かってしまったからな。
オリバにそのことを謝罪すると全く気にする様子もなく、却って自分の言葉で色々伝えられたから良かったと言われる始末だ。なんともしっかりとした女性だな。
それから二ヶ月という時が流れた。春の作付けが一段落付き、麦の収穫を目前に控えた頃。
新村のテドから連絡が来た。新造船が出来たという報告だ。新村と三村の間を結ぶ運搬船のことだ。チカカが様々と注文を付けたようで随分と形も変わったみたいだ。しかし、テドの造船所は仕事の速さに驚いてしまう。まさか二ヶ月で船を作ってしまうとは。この調子で行けば、年間六隻か。それだけあれば、物資の輸送に漁業と十分に賄うことができるな。
そういえば、手紙の末尾に違う筆跡の文字で南の島について書いてあったな。きっとチカカの字だろうな。まだ、諦めきれていなかったのか。僕は音沙汰がなかったから、てっきり……。そんな話を何気なく家族で食事をしている時に話した。するとエリスが食いついてきた。
「南の島って響きが素敵ですね。是非、行ってみたいものですね。ホムデュムとサヤサがもう少し大きくなったら、どこでもいいから旅を経験してもらいたいです」
激しく同意だ。子供を連れて旅が出来たら、どれほど楽しいだろうか。しかし、エリス。南の島は漁師や調査団が帰ってこれなかったという魔境だ。そのような場所に子供を連れていくわけにはいかないぞ。僕達がそんな話をしていると、さっきからずっと考え事をしているような顔をしているリードがいた。僕は気になって聞いてみた。
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そんなことがあったのか。リードは最近みたいな言い方だが、きっとはるか昔の話をしているのだろうな。
「リリ様は魔の森に里を構えたのですが、もう一つの集団はどこに行ったのか不明だったのです。しかし、ボロボロになったエルフが一人、リリ様の里にたどり着き、もう一つの集団の顛末を伝えたのです。それはハイエルフの死とエルフたちが渡海したというものでした」
つまり、もう一つの集団はリーダを失いながらも海を渡っていったということか……まさか、南の島に?
「分からないですが、はぐれエルフとなった者たちはとかく暴走気味です。近寄るものに攻撃を加えるなど当り前ですし、人間の男ならば容赦はしませんから。話を聞いていて、そう思っただけですから確信は全くありませんけどね」
それが本当ならば、捕まった男たちはさぞかし無念であっただろうな。しかし、はぐれになった集団はなぜリリの里に向かわなかったのだろうか? それに伝えに来たというエルフは仲間と共にいかなかったのかが分からない。
「リリ様ともう一人のエルフの間で何があったかは誰も知らないのです。リリ様もあまり触れたがらないですから。伝えに来たエルフは、魔の森から離れることを嫌がったみたいです。我々からすれば、魔の森を出るのは恐怖しかありませんからね」
しかし、これで南の島の謎が少しは分かってきたがするな。仮に南の島にはぐれエルフが住んでいるとしたら僕達が船団を率いて向かう必要性はないだろう。きっと、静かに暮らしているだろうからな。僕が一人で納得していると、リードは忠告のようなことをしてきた。
「一応、ロッシュ殿のお耳に入れておきます。もし、はぐれエルフたちが南の島に移住していたとしたら……全滅しているかも知れませんよ。エルフの寿命は長くても500年ほどです。これほど長生きするエルフはほとんどいませんが。確か、海を渡ったのは400年ほど前です。南の島では世代交代も難しいですから」
つまり僕達が南の島に行かなければ、南の島のはぐれエルフが死に絶えてしまうということか? もちろん、いればの話だが。どうする……まずはリリに相談したいところだが、未だに連絡はない。里の混乱も未だに収まらないということだろうな。リードもそれ以上のことは言わず、僕に判断を委ねているようだ。
南の島は、公国の領土とはいえない。しかし……僕はリードに抱かれているリースを見つめ、苦しんでいる姿を想像したら助けないという選択肢がなくなっていく。
……助けに行こう。はぐれエルフがいなければ、それでいい。とにかく死に瀕しているかもしれない、はぐれエルフを助けに行くんだ。僕が決断すると、リードが少しうれしそうに笑い、僕に一通の手紙を差し出してきた。実はこの手紙はリリから預かったものだと言う。僕がもし南の島に行くといったら渡すように言われていたらしい。
リリがなぜ僕が南の島に行くと……思い起こしてみると、うん、確かに南の島の話をしていたな。その時のリリの態度は素っ気ないものだったが、少なくともリードと同じ結論に達していたことは間違いないな。
「この手紙を見てもいいのか?」
「ええ。いいと思いますが……」
なんとも歯切れが悪いな。僕は手紙を覗き込むとリードの態度に合点がいった。読めない。全くと言っていいほど読めない。なんだ、この文字は。いや、楽譜か?
「実は私にも読めません。おそらく古代のエルフ語だと思います。今は全く使っていませんが、昔は音で言葉を表現していたという話を聞いたことがあります。ちょっと信じられないですが、その手紙は実際にあったということなのでしょうね」
なるほどな。古代エルフ語か。なんとも良い響きだ。といっても全く読めないのであれば興味もわかないな。僕は手紙をカバンにしまい込み、南の島に向かうための準備を進めることにした。手紙を認め、ハトリに手渡した。エリスには出来る限りのお菓子を作ってもらうことにした。エルフって甘い物好きでしょ?
マグ姉には船酔いの薬を用意してもらい、シェラには回復要員として同行をお願いすることにした。ミヤは……いっか。魔の森の城と屋敷を運動がてら往復するだけの生活をさせているのが本人にとってはいいだろう。そうなると戦闘要員としてはシラーだけか。オリバには……、と僕が悩んでいるとオリバが同行を志願してきた。
「私も是非南の島までお供したいと思っています。特に何かできることはありませんが、料理もできますし歌だって歌えます。どうかお願いします」
頭を下げてお願いされてしまった。それでも危険な場所かも知れないのだ。踏み切れない僕を見てマグ姉が厳し目の口調で話を変えてきた。
「ロッシュ。オリバさんがこれほどお願いしているんだから連れて行ったら? 危険なのは覚悟の上でしょ? きっとロッシュの役に立ちたいのよ。こんな素敵な女性の気持ちがわからないなんて、やっぱりロッシュね」
む? なにか馬鹿にされたような気がしたが。仕方がないか。
「オリバ。連れて行ってもいいが、危険な真似だけはしないでくれよ?」
オリバは首を縦に振り、了承してくれた。
さて、残るは……オコトとミコトか。彼女らにはリースの子守と家事をお願いすることにしよう。これで準備は万端に整うな。あとはテドからの返信を待とう。それからしばらくしてから、テドから準備が整った旨の返信がやってきた。僕はシラー、シェラ、オリバを連れて、新村に向かった。
新村の船着き場に向かうと、クレイやテドが出迎えにやってきた。テドはいつも通りなのだが、クレイの様子がいつもと違う。完全武装という出で立ちだったのだ。
「ロッシュ様。これから危険な旅に出ると伺っています。不肖、私にも同行をお許しください。必ずやロッシュ様をお守りします。オリバさんに負けていられません!!」
おお、なんとも勇ましいな。確かにクレイは元は姫で戦士でもある。頼もしい限りだが……絶対、最後の言葉が同行する一番に理由な気がするな。オリバもそんなクレイの態度を見て失笑していた。テドも状況をなんとなく察したようで空気を変えるために僕に話しかけてきた。
「ロッシュ公。今回用意した船は長期航海に耐えられるように作ってあります。初めての外洋ですから、大型にして揺れをなるべく抑えるようになっています。あとはチカカが上手くやってくれると思いますから信じてやってください」
「テドには感謝しかない。急な要望によく応えてくれた。君たち夫婦にはなにか恩賞を与えたいところだが……何か要望はないか?」
「そう言ってくださるのはありがたいことです。それじゃあ、ひとつだけお願いを。私が初めてロッシュ公と会った時に話したと思いますが、別れ離れになった職人を探してほしいのです。きっと王国領にまだいるとは思うのですが。彼らがこちらに来てくれれば、三村への造船所の移転も早まると思うんですが」
「なるほど。それを願うのであれば全力を尽くさせてもらおう」
テドはすごく嬉しそうに礼を言ってきた。それほど思い残しがあったのだろう。見つかればよいが。テドから船の準備が出来たと言うので、船に乗船することになった。クレイは船に乗る時、すでに顔面蒼白となっていたが本当に大丈夫なのだろうか? 南の島に近づいたら海上で何かしらの行動があると聞いているが。
船上ではチカカが出迎えてくれて、今回の予定を説明してくれた。南の島まではまる一日かかる予定のようだ。チカカが号令を上げると船は静かに波を立てて、外洋に向かって進み始めた。これからどうなるのだろうか。
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