爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第308話 南の島

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 船内では意外と緊張感がなかった。船長のチカカは久しぶりの外洋に出れたのが嬉しかったようで、部下にこのときとばかりに指示を出して帆の動かし方などの練習をしていた。こういうときでないと出来ないことがあるからだと言っていたが、すでに部下たちは疲労困憊の様子なのが気になるな。これから危ないところに向かっているという認識がないのかもしれない。

 シェラは船室に引きこもってお昼寝をしていた。屋敷でも昼寝ばかりしていたらしく、エリスに怒られたらしい。子供に悪影響があるから、というものであったがシェラの昼寝癖は直らなかったが、一日の内数時間は屋敷から消えるらしい。どうやら秘密の昼寝場所に行っているのではないかということだ。惰眠を推奨するわけではないがシェラの昼寝は筋金入りだ。それを止めさせられるのは少し可愛そうだ。今度、屋敷の外に昼寝用の小屋でも作ってやるか。それくらいならエリスも許してくれるだろう。

 シラーは僕の側をずっと離れずに後ろに控えている。時折、船が揺れるとわざとらしく僕に抱きついてくるのが気になるな。おそらく僕の横にいるもう一人を意識しているせいだろう。その一人はもちろんクレイだ。完全武装の彼女は、どこから見ても立派な戦士だ。威風堂々としており、立ち姿も様になっている。しかし、顔は真っ青にして、いつ倒れてもおかしくない。それでも頑張っているのはシラーを意識しているからだろう。さすがにクレイは僕に抱きついてくるような余裕はないみたいだが。まったく、いつの間に二人が意識するような関係になったのだ。

 オリバはお気に入りの場所を見つけるとそこに陣取って、よく通る声で歌っている。この歌声に癒やされるものも少なくなく、手を止めて聞き入っているものもいた。まぁその直後にチカカから怒号が聞こえてくるんだけど。可哀想だ……。

 新村を出発してから数時間、周りに陸地は見えず海がひたすら続いている。何の目印もない中、船は迷うことなく一点を目指して進んでいく。僕は自分用に割り当てられた船室に入った。船室は至って簡単な作りだ。ただ他の船室とは異なるところは、やや広いということと机が備え付けられていることだ。応接間を作るかが議題に上がったらしいが、僕が断ったのだ。船で誰と会うというのだ? それに船長室にもあるのだから、それで十分だろう。

 そんなことがあり、空いた空間にはベッドがおかれることになった。巨大なベッドだ。一体何人が横になれるというのだ? それを指摘すると、チカカがふっと笑った。

 「ロッシュ公が使うと言えば、それを疑問に思うやつはいませんよ」

 皆からの認識を知って、愕然としてしまった。僕はベッドに横になりながら悩んでいたが、横を見るとクレイが限界のようで横たわると言うか気絶していた。さらにシラーもすでに寝間着姿で待機しており、オリバもいつの間にか部屋に戻ってきていた。シェラはずっと端っこで寝ている。うん。このベッドのサイズで正解だったな。

 夜になっても船は進んでいく。時折、大きな波に当たるのか大きく船体が縦に揺れることがある。そのたびにクレイが声にもならないうめき声を上げて、ちょっと怖い。この調子なら今晩は寝れないだろうな。クレイの背中を擦りながら、マグ姉からもらった酔い止めを飲ませると、ようやく眠りについてくれた。そして明け方、チカカの部下が島を目視できるところまで来たことを伝えにやってきた。

 僕は急ぎ服を着替え、甲板に上がった。すると、正面に遠くだが島を目視することが出来た。そこそこ高い山が目立ち、山頂から煙が出ているのが見える。島の周辺は波が穏やかで、水深が浅いように見える。このまま、この船で向かえば座礁してしまうかもしれないな。そばに立っていたチカカに小舟を出すように命じた。

 チカカはすばやく部下に指示を出すと小舟を数隻、船の横に付ける形で降ろしていく。ここまでは南の島周辺に動きはない。南の島周辺の海域で何かあるということはないようだな。そうなると島に何かあると考えるのが素直なところだな。

 小舟に乗り込むのは、船の運用に支障がない最低の人数を残し、全員である。小舟にぎっしりと人が乗り、オールで前に進んでいく。やはり、この辺りは急激に浅瀬になっているようだ。あのまま船で侵入していたら、船底に穴が開いてもおかしくなかったな。チカカの腕は素晴らしいものだ。しばらく進むと、オールが底にぶつかってしまうほど浅い。これだったら歩いたほうが早そうだ。皆は小舟から降り、何人かで小舟を紐で牽引していく。

 あと一キロメートルほどか。まだ島からの動きはない。もしかして無人島なのか? そうなると、過去に漁師たちが帰らなかった謎が付きまとうな。足元の海水をかき分けるのに夢中になって、注意力が散漫となったとき乗組員の数人が急に倒れた。

 僕は倒れた乗組員に近づくと肩に深々と矢が突き刺さっていた。僕は矢を一気に抜き去り、回復魔法を掛けると乗組員はすくと立ち上がった。さすが、海の男だ。強いな。僕はシラーに護衛を任せ、シェラに他の乗組員の回復を頼んだ。クレイは、まだ船酔いから立ち直れていないか。僕から離れないように指示をし、オリバにも同様に指示をした。

 矢の攻撃が続けて行われていたら非常にまずいことになったが、幸いなことに続くことがなく沈黙が続いていた。しかし、この距離で的確に射抜いてくるとは……やはりエルフなのか? この大人数で島に向かうのは的になりに行くようなものだ。ここは少数精鋭で挑むべきだろう。僕はチカカに屈強な者を選んでもらい、クレイとオリバ、シェラには残りの船員と残ってもらい何かあった時は守るように指示を出した。

 僕とシラー、それに屈強な乗組員と共に島に向かって進んだ。慎重に進んでいるためになかなか島に上陸することが出来ない。それからも何本か矢が飛んできたが、警戒していればシラーが簡単に矢を薙ぎ払っていく。僕も風魔法で対処していくため、無傷のまま上陸することが出来た。

 見渡す限り砂浜が広がり、眼前には火山がそびえ立つ。その手前には森が広がり、矢を撃って来た者の姿を見ることが出来ない。僕とシラーが警戒に回り、乗組員に拠点を設置してもらうことにした。拠点が設置し終わると、僕達は砂浜を回り込むように島の状態を確認するところから始めた。

 砂浜は島を囲むように続いているようだ。島の外周は九キロメートルほどのようだ。慎重に進んでいたせいで四時間ほどかかってしまったが、ニ時間もあれば回れるほど小さな島だ。最後の攻撃からどれほどの時間が経っただろうか。僕達はひとまず拠点に戻ることにした。そうすると拠点は誰かによって荒されたのだった。

 物がいくつか消えており、その中に僕達の食料も含まれていた。僕はそれを見てニヤッと笑った。シラーも少しニヤついていた。

 「ご主人様。餌に引っかかりましたね」

 「そうだな。このような食料に乏しい島だ。食料をこれみよがしに置いたら絶対に奪取していくと思っていたぞ。むしろこれほど上手くいくとはな。ここに住むものはあまり知恵が高くないのかもしれないな」

 「これから探しに行きますか?」

 「そうだな。睡眠薬が聞いてくるのはしばらく掛かるだろう。僕達も食事をしてから行動に移ろう」

 「でも、食料は全部奪われてしまいましたよ」

 「何を言っているんだよ。あんなのは一部に過ぎない」

 僕はカバンから皆が食べられる量の食料を出して、ゆっくりと食事を堪能した。しかし、この島から見る海の景色は絶景だ。海は淡い青色で、透明度が高く、これほどきれいな海は街頭公告で見ることはできないだろう。ここにもう少し手軽に来れるようになるんだったら、行楽地を作ってみたいものだな。

 僕達が食事を終わらせると、盗んだ者を追いかけることにした。盗んだ者は間抜け者らしい。点々と物を落としていっているのだ。これでは後を追ってくださいと言わんばかりではないか。欲張りなのか、それとも手が小さいのか……。ある程度までいくと、さすがに物が落ちているということはなかったが、その必要もなかった。

 それは目の前に集落のようなものが広がっていたからだ。火山の麓で森が少し開けた場所に、掘っ立て小屋が何軒か建っていた。焚き火をしているのか、煙が立ち上っていたが火の側に誰もいなかった。そうなると、建物の中か?

 僕達は警戒を怠ることなく、ゆっくりと建物に近づいていった。するとガサガサと音がすると一人のエルフが出てきたのだ。ふらついた様子で手に持っていた弓に矢を番えようとするが手が震えるのか上手くいかない。そうしている間にエルフはふと意識を失い倒れこんできた。僕はその子供を倒れる直前で抱き上げた。僕の腕の中で小さなエルフがすやすやと寝息を立てていた。

 やはりエルフがいたようだ。しかし……エルフはエルフだろう。尖った耳に金色の髪をもち、瞳も緑色だった。リードと同じような特徴を持っている。しかし、違うところがある。肌の色だ。リードは透き通った白い肌を持っているが、この子は褐色というか黒い肌をしている。いわば、ダークエルフだ。この肌の色が二分した理由なのだろうか。

 まずはこの子を集落に運ぼう。僕は子供を船員に預け、再び歩みを始めた。建物に近づくと人の気配がしない。僕は一件ずつ回ることにした。すると、一つの建物に五人はいるだろうか。全部の建物を調べると五十人くらいか。全員が寝ていた。大人が数人で、残りは小さな体をしている。先程の子供だけでないく、ここにいる全員がダークエルフだ。

 とりあえず、この状況をどうするか……僕は一番の年長者になりそうな者に覚醒する薬を与えると目を覚まし、僕達を見ると警戒した様子で後ずさりしていく。年長のエルフはシワだからの婆さんだ。

 「急な来訪を許してくれ。僕達はここより北にある土地に住むものだ。上陸した時に攻撃を加えられたので反撃をさせてもらった。我々が悪いのは重々承知しているが、仲間を守るためにやむを得なかったのだ」

 年長のダークエルフは猜疑に満ち溢れた目を隠すことなく、僕達を睨みつけていた。

 「ここには何もない。用がないなら早々に出ていってくれ」

 と言っていると思う。なまりが強いせいか、いまいち伝わらない。

 「用がなければすぐに立ち去るつもりだったが、エルフが住んでいるとなれば話は別だ。君たちを助けに来たのだ。ハイエルフのリリというのを知っているか?」

 「リリ……様か? なにゆえ、人間がその名前を知っているんだ?」

 「話が早そうだな。僕はリリから手紙を授かっている」

 そういって、カバンからリリからの手紙をエルフに差し出した。ダークエルフはなかなか受け取りに来る様子がなかったので、投げるように手渡した。エルフは僕達に警戒しながらも手紙に目を落とした。その瞬間、ダークエルフから涙が溢れ出し、手紙を抱きしめていた。

 「これは、まさしくリリ様の手紙。そして、貴方達が敵でないことは分かりました。どうか、我々をお救いください」

 そういって、頭を深々と下げてきた。僕はとりあえず手紙の中身を教えてもらうことにした。リードにも読めない手紙には一体何が書いてあったのだ?

 ダークエルフが説明をしようとすると、僕達は急に現れたダークエルフに弓矢を向けられていた。

 「お前たち、一体何者だ!?」
 
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