387 / 408
第386話 公国の公館
しおりを挟む
レントーク滞在中はずっと七家筆頭当主の屋敷で寝泊まりしている。当主だったサルーンの戴冠式が行われるまでは王という身分ではなく当主となっているが、レントーク王ボートレが周囲に根回しを始めており、サルーンを王と見る風潮が次第に強くなっていった。
滞在も一週間ともなると、飽きてくる。レントークはいい意味で平和な土地だが、刺激が乏しいような気がする。楽しみと言えば料理となるが、その料理も三回に二回はサツマイモ料理が出てきてうんざりだ。美味しいのは美味しいのだが……どうして飽きやすいのだろうか。干し芋でも挑戦してみるか? そんなことを考えていると、やはりエリス達も暇を持て余し始めていたのが見えた。それにドラドが意外にも公国に帰りたい素振りを見せ始めていた。
「我はこの姿で寝るのは少々疲れてきた。本来の姿で悠々と寝たいものだ」
ドラドには窮屈な思いをさせて申し訳ないが、王国からの使者がやってくれば戦後処理の殆どが終わらせることができる。そうすれば帰れるということをここ数日、毎日のように言っている気がする。するとミヤがしびれを切らしたのか詰め寄ってきた。
「ねえ、ロッシュ。移動ドアを出してよ。まだドアノブは残っているんでしょ? というか、なんで今まで出さなかったの? 移動ドアがあれば、公国から簡単に物を運べたじゃない?」
そのうち言われるのではないかと思っていたが、最後の最後で言われてしまったか。それを思いついたのは、王国と砦で戦っている最中だった。その時は、なぜ気付かなかったのだと一瞬自分を責めたが、考えてみればここには設置出来ない。ということに気付いたのだ。
「ミヤは考えが甘いな。移動ドアは一見便利だけど、実は制約が多いのだ。まず、使うだけで魔石を使用してしまう。距離や運ぶもので魔石の大きさが変わる。それからこの扉は片道切符だ。次の日にならなければ帰ることが出来ない。公国とレントークの距離なら、大き目の魔石1個で、人くらいしか移動できないのだ。だからこそ、僕は移動ドアを設置しなかったのだ」
「そう。でも、食料が足りなくなったときに食料くらいは公国から運び込むことが出来たんじゃないの?」
む。やけに食いついてくるじゃないか。しょうがない。今も出さない理由を教えておこう。
「この扉は知っての通り、魔石を使えば誰でも移動ができる。それが敵でもだ。つまり、ドアを不用意に設置するということは、誰でも城に入れてしまうということだ。安心できる場所、敵が侵入しづらい場所など設置場所にも細心の注意を……」
「もういいわ。なんでそこまで熱くなっているのかわからないわ。でも今ならここは安心なんじゃないの?」
「ダメだ!! この地下にはバカ……王弟の嫡男がいる。万が一にも危険を冒す必要はない」
「そう……ここがダメなら……ちょっと、サルーン、来なさい」
一国の次期王に対して、なんという態度だ。ミヤを叱ろうとしたが、サルーンは何も気にする様子もなく、こちらにやってきた。一体どういうことだ?
「実は、ミヤ様が義兄上の奥方と知って、ちょっと聞いてみると魔王のご息女というではないですか。それでミヤ様には、王としての振る舞いについてご教授してもらっていたんです。私からすれば、先生のような方ですから」
まったく何をやっているんだ。サルーン、ミヤは魔界の者だぞ。それでいいのか?
「先生とはいい響きね。それはともかく。レントークはこれから公国と交易を通じて、人や物、様々な交流をとおして関係を深めていくことになるでしょう。今回、ボートレが公国に来ることになったけど、公国からも公使の派遣があると思うの。しかし、レントークには公国の公館がありませんね。これは外交上大きな問題になるものです。すぐに用意しなさい」
「それは気づきませんでした。すぐに用意しましょう。といっても公国ほどの大恩ある国に対して、すぐに用意できる屋敷がありません」
「だったら、この屋敷でいいわ。すぐに明け渡しなさい」
それはいくらなんでも無茶だろ。ここは七家筆頭の屋敷。次期王が住む屋敷だ。それをおいそれと明け渡すわけが……。
「それはいい考えですね。どうせ、私が王都に移動すればこの屋敷は不要になりますから」
「サルーン。血迷ったか? ここは次期王の屋敷として使われるだけでは無く、由緒ある建物ではないか? それを不要だからと切り捨てるのはどうかと思うぞ」
「いいえ。義兄上。私は七家という仕組みをなくそうと考えているのです。この制度も建国以来普遍のことでしたが、七家という物を考え直す必要があると思うんです。もちろん、すぐに解体というわけではないですが七家筆頭が次期王である必要性はないと思うんですよ。国を思い、それを支えるものがいれば十分なんです。それにこの屋敷は王都の城を除けば、レントークでは一番の屋敷。公国の公館として、これほどふさわしい場所はないと思うんですよ」
サルーンの考えは分かる気がするが……しかし、この屋敷をか。いささか大きすぎるような気もするが。何度も言うが、この屋敷は城だ。見たことはないが、王都にある城と同じものだという。そんな屋敷を公国が使ってもいいものだろうか?
しかし、サルーンはあっさりとしたものだった。
「いいんじゃないですか? レントークと公国は姻戚関係ですし、公国は王国打倒の旗頭でレントークの上位に位置する国なのですから。私は何も気にしませんし、他の貴族も文句を言うものはいないと思うのですが」
「ほら。いいって言ってるんだから、もらっちゃいましょうよ。私は結構古臭いこの城が好きなのよね」
なんだか僕だけが意固地になっているような気がするが……サルーンに再度確認してから、筆頭当主の屋敷を公国の公館とすることにした。これは後日、発表されることになったがサルーンが言うように大した騒ぎにはならなかった。それよりも七家の中には自分の屋敷を譲りたかったという者もいるくらいだ。その理由をアロンに聞くと、ニヤッと笑った。
「それほど公国との間に関係を持ちたいといことでしょう。私もその一人ですが、個人的にはロッシュ公との関係をもっと深めたいと思います」
結局、押し切られる形になったが、レントークで屋敷を手に入れてしまった。サルーンの行動は早かった。自分の荷物だけさっさとまとめて、アロンの屋敷に行ってしまった。アロンの異常な喜び様は想像に難くないだろう。ミータスも王国に帰るまでの間、アロンの屋敷の地下牢で生活することになった。使用人もいなくなってしまい、無人となった元筆頭当主の屋敷には、僕と妻達が残されてしまった。それとボートレ王だ。ボートレ王はレントークの民に顔を見せられないと頑なになっているせいで、公国に向かうまではこの屋敷から離れないというのだ。
「私はどこでも構わないぞ。といっても、野外では風邪を引いてしまうかも知れないからな。使用人の部屋を貸してもらえるか?」
レントーク王にそんなマネが出来るわけ無いだろうに。この人、分かっててやっていないか? レントーク王には、この屋敷の一番格式のある客室を提供することにした。僕はサルーンが使っていた部屋を使うことにした。歴史ある国だけに各部屋のベッドや調度品も立派なものだ。無駄に大きいというわけではなく、細工も施されており芸術品のようだ。
さて、そんなことに目を配っていると怒られてしまうな。適当な部屋からドアを取り外し、自分の部屋に持ってきた。一応、僕の部屋なのでこの屋敷の中では一番厳重な部屋となる。ドアノブを付け替え、ドアを開けた。
当たり前だが、城の一室に出ることが出来た。まだ城の部屋にそこまで愛着があるわけではないが、新築の木の匂いが広がり、なんとも幸せな気分になる。一歩踏み出そうとしたが、公国に帰ることをサルーンだけには伝えておかねばなるまい。次の日には戻るつもりだが、急に消えたと思ったら心配するかも知れないからな。
一歩出した足を引っ込めドアを閉めた。サルーンに言伝を頼むと、サルーンがすぐに駆け込んできた。
「義兄上。一体どういうことですか? 公国に帰るとは。もう少し居てもらわなければ困りますよ。それとも私達が何か粗相でも?」
一体、どんな伝え方をしたんだ? 移動ドアという存在を説明し、この扉の先には公国があることを告げたが、理解することが出来なかったようだ。仕方がない。ドアを開け、サルーンに覗き込んでもらった。
「どうだ? この先にあるのは僕の屋敷だぞ」
「どうやら本当のようですね。あのような建築物は見たことがありません。むむむ。しかし、このような物が公国にあるとは……。あの……私も連れて行ってもらえないでしょうか?」
それはダメだろ。サルーンが一日いなくなるのと、僕達が消えるのとは訳が違う。なんとか説得するとサルーンは寂しそうな顔をしていた。
「義兄上。絶対ですよ。次こそ連れて行ってくださいね。公国か……どんな国なんだろうか」
サルーンに別れを告げて、扉に入った。久しぶりの城だ。帰還を知ったオコトとミコトがすぐにやってきた。
「気配を感じましたが、やはりロッシュ殿でしたか。長旅お疲れ様でした。さっそく湯殿にお入りください」
気配だけで分かるとは。流石だな。それから留守番を頼んでいたマグ姉とオリバがやってきた。二人には変化がなくて少しホッとしたが考えてみれば、まだ出発してからひと月程度だ。変わっているわけがないか。二人は涙ぐみながら、抱きついてきた。マグ姉はライルとグルドが出発するときに話を聞いていたみたいだ。王国軍の大軍がレントークに向け動いたことを。
「ロッシュ。どれほど心配したか!! でも無事でよかった」
「ああ。マグ姉の薬は本当に助かった。皆が感謝していたぞ。オリバも元気そうだな」
「ロッシュ様。是非とも武勇伝を聞かせてくださいね。それをすぐに唄にして公国に広めたいと思いますから」
「それもいいが、今は風呂に入ろう」
久々に妻達と露天風呂に浸かった。レントークでのひと月。入浴が出来ずに川で体を洗うことが多かった。七家領でも風呂はなく、タオルで体を拭くだけの日々。それらの日々で溜めた汚れが一気に吐き出されていく。なんと気持ちのいいものなのだ。エリス達も湯船に浸かってご満悦の様子だ。
そんな気持ちのいい風呂を満喫していると、外が騒々しくなった。オコトが足早に風呂場に駆け込んできて、不審者を告げてきたのだ。この城に不審者とは珍しいな。あまりの気持ちよさに一瞬他人事のように感じてしまった……何!? 不審者だと!?
急いで風呂から上がると、不審者を捕らえたミコトが入ってきた。ミコトと一緒にいたのは……サルーンだった。
「すみません。義兄上。どうしても我慢できなくて来てしまいました。でも大丈夫ですよ。このことはちゃんとアロンに伝えてありますから。きっと上手くやってくれますよ」
そうか? そうだといいな。じゃあ、サルーンの後ろにいるのは誰だ? ため息をつき、その日はボートレを公使として紹介したり、サルーンとアロンが満喫できるほどの接待をしてやった。次の日、二人がレントークに戻ると大騒ぎになっていた。サルーンとアロンが駆け落ちしたなどとふざけた噂が出るほどだ。
二人が出てきたことですぐに騒ぎは沈静化したが、二人が駆け落ちしたという噂だけは、なぜか消えることはなかった。ちなみにマグ姉とオリバ、オコトとミコトもレントーク観光がしたいと言うので、付いてきた。その代わり、シェラとドラド、リードとルード、眷属達が公国に残ることになった。
そんな騒動が終わり、レントークでの生活に落ち着きが訪れたと思ったら、王国から使者が来たと告げられた。使者はどうやらフォレイン侯爵のようだ。さて、どんな面会になることやら。
滞在も一週間ともなると、飽きてくる。レントークはいい意味で平和な土地だが、刺激が乏しいような気がする。楽しみと言えば料理となるが、その料理も三回に二回はサツマイモ料理が出てきてうんざりだ。美味しいのは美味しいのだが……どうして飽きやすいのだろうか。干し芋でも挑戦してみるか? そんなことを考えていると、やはりエリス達も暇を持て余し始めていたのが見えた。それにドラドが意外にも公国に帰りたい素振りを見せ始めていた。
「我はこの姿で寝るのは少々疲れてきた。本来の姿で悠々と寝たいものだ」
ドラドには窮屈な思いをさせて申し訳ないが、王国からの使者がやってくれば戦後処理の殆どが終わらせることができる。そうすれば帰れるということをここ数日、毎日のように言っている気がする。するとミヤがしびれを切らしたのか詰め寄ってきた。
「ねえ、ロッシュ。移動ドアを出してよ。まだドアノブは残っているんでしょ? というか、なんで今まで出さなかったの? 移動ドアがあれば、公国から簡単に物を運べたじゃない?」
そのうち言われるのではないかと思っていたが、最後の最後で言われてしまったか。それを思いついたのは、王国と砦で戦っている最中だった。その時は、なぜ気付かなかったのだと一瞬自分を責めたが、考えてみればここには設置出来ない。ということに気付いたのだ。
「ミヤは考えが甘いな。移動ドアは一見便利だけど、実は制約が多いのだ。まず、使うだけで魔石を使用してしまう。距離や運ぶもので魔石の大きさが変わる。それからこの扉は片道切符だ。次の日にならなければ帰ることが出来ない。公国とレントークの距離なら、大き目の魔石1個で、人くらいしか移動できないのだ。だからこそ、僕は移動ドアを設置しなかったのだ」
「そう。でも、食料が足りなくなったときに食料くらいは公国から運び込むことが出来たんじゃないの?」
む。やけに食いついてくるじゃないか。しょうがない。今も出さない理由を教えておこう。
「この扉は知っての通り、魔石を使えば誰でも移動ができる。それが敵でもだ。つまり、ドアを不用意に設置するということは、誰でも城に入れてしまうということだ。安心できる場所、敵が侵入しづらい場所など設置場所にも細心の注意を……」
「もういいわ。なんでそこまで熱くなっているのかわからないわ。でも今ならここは安心なんじゃないの?」
「ダメだ!! この地下にはバカ……王弟の嫡男がいる。万が一にも危険を冒す必要はない」
「そう……ここがダメなら……ちょっと、サルーン、来なさい」
一国の次期王に対して、なんという態度だ。ミヤを叱ろうとしたが、サルーンは何も気にする様子もなく、こちらにやってきた。一体どういうことだ?
「実は、ミヤ様が義兄上の奥方と知って、ちょっと聞いてみると魔王のご息女というではないですか。それでミヤ様には、王としての振る舞いについてご教授してもらっていたんです。私からすれば、先生のような方ですから」
まったく何をやっているんだ。サルーン、ミヤは魔界の者だぞ。それでいいのか?
「先生とはいい響きね。それはともかく。レントークはこれから公国と交易を通じて、人や物、様々な交流をとおして関係を深めていくことになるでしょう。今回、ボートレが公国に来ることになったけど、公国からも公使の派遣があると思うの。しかし、レントークには公国の公館がありませんね。これは外交上大きな問題になるものです。すぐに用意しなさい」
「それは気づきませんでした。すぐに用意しましょう。といっても公国ほどの大恩ある国に対して、すぐに用意できる屋敷がありません」
「だったら、この屋敷でいいわ。すぐに明け渡しなさい」
それはいくらなんでも無茶だろ。ここは七家筆頭の屋敷。次期王が住む屋敷だ。それをおいそれと明け渡すわけが……。
「それはいい考えですね。どうせ、私が王都に移動すればこの屋敷は不要になりますから」
「サルーン。血迷ったか? ここは次期王の屋敷として使われるだけでは無く、由緒ある建物ではないか? それを不要だからと切り捨てるのはどうかと思うぞ」
「いいえ。義兄上。私は七家という仕組みをなくそうと考えているのです。この制度も建国以来普遍のことでしたが、七家という物を考え直す必要があると思うんです。もちろん、すぐに解体というわけではないですが七家筆頭が次期王である必要性はないと思うんですよ。国を思い、それを支えるものがいれば十分なんです。それにこの屋敷は王都の城を除けば、レントークでは一番の屋敷。公国の公館として、これほどふさわしい場所はないと思うんですよ」
サルーンの考えは分かる気がするが……しかし、この屋敷をか。いささか大きすぎるような気もするが。何度も言うが、この屋敷は城だ。見たことはないが、王都にある城と同じものだという。そんな屋敷を公国が使ってもいいものだろうか?
しかし、サルーンはあっさりとしたものだった。
「いいんじゃないですか? レントークと公国は姻戚関係ですし、公国は王国打倒の旗頭でレントークの上位に位置する国なのですから。私は何も気にしませんし、他の貴族も文句を言うものはいないと思うのですが」
「ほら。いいって言ってるんだから、もらっちゃいましょうよ。私は結構古臭いこの城が好きなのよね」
なんだか僕だけが意固地になっているような気がするが……サルーンに再度確認してから、筆頭当主の屋敷を公国の公館とすることにした。これは後日、発表されることになったがサルーンが言うように大した騒ぎにはならなかった。それよりも七家の中には自分の屋敷を譲りたかったという者もいるくらいだ。その理由をアロンに聞くと、ニヤッと笑った。
「それほど公国との間に関係を持ちたいといことでしょう。私もその一人ですが、個人的にはロッシュ公との関係をもっと深めたいと思います」
結局、押し切られる形になったが、レントークで屋敷を手に入れてしまった。サルーンの行動は早かった。自分の荷物だけさっさとまとめて、アロンの屋敷に行ってしまった。アロンの異常な喜び様は想像に難くないだろう。ミータスも王国に帰るまでの間、アロンの屋敷の地下牢で生活することになった。使用人もいなくなってしまい、無人となった元筆頭当主の屋敷には、僕と妻達が残されてしまった。それとボートレ王だ。ボートレ王はレントークの民に顔を見せられないと頑なになっているせいで、公国に向かうまではこの屋敷から離れないというのだ。
「私はどこでも構わないぞ。といっても、野外では風邪を引いてしまうかも知れないからな。使用人の部屋を貸してもらえるか?」
レントーク王にそんなマネが出来るわけ無いだろうに。この人、分かっててやっていないか? レントーク王には、この屋敷の一番格式のある客室を提供することにした。僕はサルーンが使っていた部屋を使うことにした。歴史ある国だけに各部屋のベッドや調度品も立派なものだ。無駄に大きいというわけではなく、細工も施されており芸術品のようだ。
さて、そんなことに目を配っていると怒られてしまうな。適当な部屋からドアを取り外し、自分の部屋に持ってきた。一応、僕の部屋なのでこの屋敷の中では一番厳重な部屋となる。ドアノブを付け替え、ドアを開けた。
当たり前だが、城の一室に出ることが出来た。まだ城の部屋にそこまで愛着があるわけではないが、新築の木の匂いが広がり、なんとも幸せな気分になる。一歩踏み出そうとしたが、公国に帰ることをサルーンだけには伝えておかねばなるまい。次の日には戻るつもりだが、急に消えたと思ったら心配するかも知れないからな。
一歩出した足を引っ込めドアを閉めた。サルーンに言伝を頼むと、サルーンがすぐに駆け込んできた。
「義兄上。一体どういうことですか? 公国に帰るとは。もう少し居てもらわなければ困りますよ。それとも私達が何か粗相でも?」
一体、どんな伝え方をしたんだ? 移動ドアという存在を説明し、この扉の先には公国があることを告げたが、理解することが出来なかったようだ。仕方がない。ドアを開け、サルーンに覗き込んでもらった。
「どうだ? この先にあるのは僕の屋敷だぞ」
「どうやら本当のようですね。あのような建築物は見たことがありません。むむむ。しかし、このような物が公国にあるとは……。あの……私も連れて行ってもらえないでしょうか?」
それはダメだろ。サルーンが一日いなくなるのと、僕達が消えるのとは訳が違う。なんとか説得するとサルーンは寂しそうな顔をしていた。
「義兄上。絶対ですよ。次こそ連れて行ってくださいね。公国か……どんな国なんだろうか」
サルーンに別れを告げて、扉に入った。久しぶりの城だ。帰還を知ったオコトとミコトがすぐにやってきた。
「気配を感じましたが、やはりロッシュ殿でしたか。長旅お疲れ様でした。さっそく湯殿にお入りください」
気配だけで分かるとは。流石だな。それから留守番を頼んでいたマグ姉とオリバがやってきた。二人には変化がなくて少しホッとしたが考えてみれば、まだ出発してからひと月程度だ。変わっているわけがないか。二人は涙ぐみながら、抱きついてきた。マグ姉はライルとグルドが出発するときに話を聞いていたみたいだ。王国軍の大軍がレントークに向け動いたことを。
「ロッシュ。どれほど心配したか!! でも無事でよかった」
「ああ。マグ姉の薬は本当に助かった。皆が感謝していたぞ。オリバも元気そうだな」
「ロッシュ様。是非とも武勇伝を聞かせてくださいね。それをすぐに唄にして公国に広めたいと思いますから」
「それもいいが、今は風呂に入ろう」
久々に妻達と露天風呂に浸かった。レントークでのひと月。入浴が出来ずに川で体を洗うことが多かった。七家領でも風呂はなく、タオルで体を拭くだけの日々。それらの日々で溜めた汚れが一気に吐き出されていく。なんと気持ちのいいものなのだ。エリス達も湯船に浸かってご満悦の様子だ。
そんな気持ちのいい風呂を満喫していると、外が騒々しくなった。オコトが足早に風呂場に駆け込んできて、不審者を告げてきたのだ。この城に不審者とは珍しいな。あまりの気持ちよさに一瞬他人事のように感じてしまった……何!? 不審者だと!?
急いで風呂から上がると、不審者を捕らえたミコトが入ってきた。ミコトと一緒にいたのは……サルーンだった。
「すみません。義兄上。どうしても我慢できなくて来てしまいました。でも大丈夫ですよ。このことはちゃんとアロンに伝えてありますから。きっと上手くやってくれますよ」
そうか? そうだといいな。じゃあ、サルーンの後ろにいるのは誰だ? ため息をつき、その日はボートレを公使として紹介したり、サルーンとアロンが満喫できるほどの接待をしてやった。次の日、二人がレントークに戻ると大騒ぎになっていた。サルーンとアロンが駆け落ちしたなどとふざけた噂が出るほどだ。
二人が出てきたことですぐに騒ぎは沈静化したが、二人が駆け落ちしたという噂だけは、なぜか消えることはなかった。ちなみにマグ姉とオリバ、オコトとミコトもレントーク観光がしたいと言うので、付いてきた。その代わり、シェラとドラド、リードとルード、眷属達が公国に残ることになった。
そんな騒動が終わり、レントークでの生活に落ち着きが訪れたと思ったら、王国から使者が来たと告げられた。使者はどうやらフォレイン侯爵のようだ。さて、どんな面会になることやら。
10
あなたにおすすめの小説
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる