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第387話 フォレインの最期
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王国からの使者はフォレイン侯爵だった。クレイとサルーンの腹違いの姉シスと結託して、レントーク王国から搾取の限りをし尽くした人物だ。関係性が証明されれば、フォレインも立派な重罪人だ。なにせ、王に毒を盛った者と繋がっているのだから。考えれば、よく来れたものだと感心する。それほど、自分の潔白を証明する自信があるともいえる。
会場は元七家筆頭の屋敷で行われることになった。七家と言えども、外国の使者を出迎える設備があるのはこの屋敷しかないのだ。こういうことがあるから、サルーンにはもう少し慎重でいてほしかったのだ。といっても、僕達はあれから屋敷をいじったわけではないから、使者への対応はつつがなく行われていた。
そして、ついに謁見という段取りとなった。謁見の間にはサルーンが堂々とした様子で当主の座に腰掛け、僕が横に座る形だ。レントーク王ボートレには使者から見えない位置にいてもらうことにした。使者の言葉に間違いが無いか、相手国と政治的取引が必要になった場合には、助言をしてもらうためだ。
アロンやニード、イハサにも出席してもらい、謁見の間にはレントーク王国、公国、アウーディア王国の衛兵や護衛も入り、かなり密度が高い空間となった。フォレインは恭しく頭を垂れ、サルーンに挨拶をしていく。
「お初にお目にかかります。私はアウーディア王国内務卿を拝命しております、フォレインと申します。サルーン様におかれましては……」
「そのような話は聞きたくない」
サルーンがフォレインの挨拶を途中で打ち切ったのだ。このような行為は外交上無礼と扱われる。実質的な王であるサルーンがするような行為ではない。しかし、サルーンの表情を見るとなんとなく分かるな。表面的には無表情に近いが、かなり怒りを秘めている感じだ。
「フォレインと言ったな。今回やってきた用向きだけ話してくれればいい」
「それならば……ミータス殿下をお返し願いたく参上いたしました」
「ミータス……だけか?」
「ええ、その通りです。我々はミータス殿下をあなたがたが拉致したものと考えております。兵についてはどのように処分しても構いません。ミータス殿下を守れなかった兵に対して、王は非常にお怒りですから。ミータス殿下さえ返していただければ、王国としては今回の全てについて、不問とするつもりであります」
「フォレインよ。お前はバカなのか? こちらが了承するとでも思っているのか?」
「はて? 我々は正当な主張をしているつもりです。我々とレントークとの間にはボートレ国王署名の降伏宣言書が取り交わされております。それにはレントーク領はすべて我々に属するとあります。軍を出したのも、レントーク領内の治安維持のためで、七家に糾弾される覚えはありませんな」
フォレインは一呼吸おいた。
「その正当な軍に対して、攻撃を仕掛けてきたのは七家軍と承知しております。本来は、我々が七家に対して損失についての賠償をしたいくらいです。しかし、王はレントークとの関係をこじれることを好んでおらず、今回についてはミータス殿下を速やかに返していただければ不問にする。という寛大なお考えなのです。私としては、サルーン様が速やかに決断を下すことをお薦めします」
「フォレインよ。お前の言う通りならば、我々の方に責を問うのは筋というものかも知れないな。しかし、今回のミータス軍の悪行はかなり行き過ぎていた。宝飾品の接収という略奪までは目をつぶれたが、領民の大量虐殺はやりすぎであろう。王国軍の狂気に対して我々は抵抗したまでだ。ところで、ボートレ王は王国に行っているのか? 我らが手を尽くしたが発見には至っていないのだ」
「なるほど。七家でも発見できていないわけですな……ボートレ王は残念ながら死にました。我らが手厚い葬儀をあげましたぞ。すでに体は年齢の割には衰えているように感じましたからな。今回の騒動で大きな心痛があったのでしょう」
「何⁉ 父上はお亡くなりになられたのか。だそうです。父上」
「そうか、そうか。私は死んでしまったのか。それは知らなかったな。フォレイン卿。久しぶりだな。お前は私が毒で意識が無くなっていたと思っていたようだが、私は全てを見ていたのだぞ。お前がシスと結託して、私に毒を盛り、降伏宣言書などふざけたものに署名させた。私は怒りで我を忘れそうになるぞ」
ボートレ王の登場に、フォレインは腰を抜かしそうなほど驚いていた。フォレインの悪巧みを知っているのはシスだけと高をくくっていたのだろう。
「げっ!! なにゆえボートレ王が……いや、それよりも死にかけのはず。なぜ、元気なのだ」
「随分の言いようだな。お前がシスを通じて、毒を盛ってくれたおかげで死にかける目にあったが、今はこの通り元気だぞ。むしろ、以前よりも元気なのが不思議なくらいだ。さて、フォレインよ。お前の罪はすべて私が見ている。どう、申し開きをするつもりだ?」
「ぐっ……しかし、すでに降伏宣言書は交付されている。お前らは王国の属国に過ぎないのだ。私にどのような罪があろうとも、お前たちに裁く権利などないわ」
サルーンは溜息を付いた。
「よいか? フォレイン。シスがお前からもらった毒で王に毒を盛り、降伏宣言書に署名したとあればそれを無効とすることも容易いのだ。そうすれば、お前が言っていた王国の正当性は全てなくなるのだぞ」
「ふん。私はまだ認めないぞ。シスという女と私が結託したという証拠を示したいのなら、シスをまずここに連れてこい。話はそれからだ」
フォレインには、シスがここにいない確信でもあるのか?
「そうか。ならばシスをここに」
それからの謁見の間は異常なものだった。シスは洗いざらい話し、フォレインはそれを否定する連続だった。しかし、すでにシスとフェレインを結ぶ証拠は十分すぎるほど揃っている。毒物についてもマグ姉に調べてもらうと王国にしか自生していない毒草から採取したものと判明した。
フォレインもさすがに観念したのか、罪を認めるような話をし始めた。その話は、公国を滅ぼすと同時に、レントーク王国の亜人を奴隷として手に入れるという壮大な計画であった。それが半ば成功していたのだが、最後の最後でレントークの反撃に遭い、フォレインは全てを失いかけたそうだ。それでもミータスさえ連れ戻せれば、不問にするということだった。
そうなると、ここにいるフォレインは何の権限もなく、自らの保身のためにやってきたただの人だ。王国の使者とは名ばかりのものだった。サルーンは、目の前にいる無用な男に声を掛けた。
「お前の言っていた降伏宣言書はすでに無効となった。従って、お前はレントークの法に則り処罰されることになる。最後に、王国は魔族を使って何かするつもりなのか?」
それに対してフォレインは無言を貫いた。観念したとはいえ、一応は王国の重鎮だった男だ。王国の秘密をべらべらと話すミータスとは訳が違う。サルーンはフォレインの姿を見つめ、話は終わりとばかりに立ち上がり、言葉をかけた。
「お前はもう王国には戻れない。王国内務卿として最後の仕事をするがよい。そこにいる衛兵に、改めて王国から使者を寄越すように言うのだ。それまではミータスと兵士二十万人の身柄は置いておく」
それを言った途端、フォレインはニヤッとした表情を浮かべた。どういう意味なんだ? まさか……。僕は去ろうといているサルーンを呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ。王国軍の捕虜二十万人については公国で面倒を見よう。それだけの兵士を養えるだけの食料はレントークにはあるまい。ちょうど、公国の鉱山開発に人手が必要だったのだ。フォレインも構わないな? さっき、兵士ニ十万人については好きに扱って構わないと言っていたしな」
「え、ええ」
「サルーンもいいな?」
「私も異存はありません。むしろ食事を与えなくて済むので助かります」
「そうか。しかし公国では、食べるためには何かの仕事に就かなければならない。働く者は例外を除いて、公国に帰属してもらう必要があるのだ」
この言葉に動揺したのが、フォレインだ。
「ちょ、ちょっとお待ちを。王国兵士を公国に帰属させるのはおかしいではないですか。一応は捕虜なのでしょ? いずれは王国に返していただくのですから、勝手に帰属先を変えられるのは困るのですが」
「さっき、兵士二十万人については好きに扱って構わないと言っていたではないか。いやなに。ただ、本人たちに聞くだけだ。帰属先を公国にすると、言ってもらうだけの簡単なものだぞ。別に正真正銘、公国に縛り付けるものではない。それくらいならば問題あるまい? こうしておけば、兵士たちも魔族に命を奪われずに済むであろう?」
「な……なぜ、それを」
「フォレイン。お前の話は裏が取れていれば粗末なものだ。一言、当分の間兵士を預かっていてほしいと願えば、違っただろう。しかし、お前は最初からレントークで兵士たちを処分することに拘っていた。だとすれば、二十万の命を魔族に捧げようとしているのは明白!! お前は、兵士たちを少しでも長くこのレントークの土地に置いておくのが役目だったのではないか?」
「終わりましたな……これで我が家も、何もかも無くなりましょう。ロッシュ公の言う通りです。私に与えられた役目は兵士をこの地に留め置くこと。この地で兵士が大量に死ねば、兵士の家族はレントークを恨むことになるでしょう。今回の戦で受けた王国の被害は甚大なものでした。信用も失われつつある。これを回避する方法は、これしかないと王弟は判断したのです。それを仕上げるために私がレントークに遣わされた。家族を人質に取られてな」
バカな男だ。公国とレントークを巻き込んだ博打を打たなくても、王国はその地位を安泰なものとしていただろう。この博打によって、公国とレントークには強い結びつきが出来、王国は弱体化することになってしまった。未だに王国の強さは残っているものの、公国とレントーク連合の戦力は、王国に肉薄する程になっている。
このまま王国が滅びるようなことになれば、フォレインは王国を崩壊に招いた男として歴史に残ることだろうな。もはや謁見の間にいる必要はないだろう。レントークの衛兵がフォレインとシスを連行しようとした時、王国の護衛がフォレインに切りつけた。フォレインの体に深々と剣が刺さり、その護衛はレント-クの衛兵に拘束された。フォレインに駆け寄ると瀕死の状態だった。
「これは私が受けるべき報いなのでしょう」
「何を言うか! この程度を貴様の報いと思うなよ」
フォレインに回復魔法を掛け、剣で受けた傷を治した。
「なるほど。これでボートレ王を治したのかということか。ロッシュ公……貴方を敵に回すべきではなかったのかも知れないな。貴方を敵に回したときから、王国は衰退する運命だったのだろうな」
「それは分からないな。どうなるかなんて誰もわからないだろう。お前の作戦も上手く行けば、公国もレントークもなくなっていた可能性だってあった。我々にとっても今回は本当に綱渡りだった。我らはかろうじて勝利を掴むことが出来た。そして貴様は敗者となった。それだけの話だ。敗者には敗者の報いを受けてもらわねばならない。剣で刺したくらいで死ねると思わないことだな」
「ふふ。ロッシュ公は恐ろしい方だ。私も願わくば公国に生まれたかったものだな。私の人生は常に裏切りばかりだった。本当に人を信じたことがない。ロッシュ公ならば違ったのかも知れぬな……王国は、魔族を大量に召喚して公国を潰す気だ。その対価は王国民となるであろう。それをなんとか阻止していただけないか。敵同士と言えども頼めるのはロッシュ公しかいない。あんな国でも私の祖国だ。国民の命が魔族に刈り取られるのだけは見ていられない。勝手な頼みだが……どうか、王国民の命を救ってほしい」
フォレインは必死な懇願をしてきた。この男のしてきたことを思えば、なんとも図々しい願いだと思ってしまう。それでも国を大切に思う気持ちが一片でもあることを最後に見れたのは良かった。フォレインの気持ちに応える気はないが。王国の元第一王子のルドと元第二王女のマグ姉がいるのだから、できる限りのことはしよう。
「僕は公国民のために動くつもりだ。だが、お前の願いは頭の片隅にでも置いておこう。お前には悩まされたが、最後は良い一面を見れて良かったぞ」
言葉をかけると、フォレインはふっと笑い衛兵に連れて行かれた。それからすぐに王国に対してボートレ王の名で降伏宣言書の撤回を行い、今回の首謀者二人の首と調書を衛兵に渡した。それに対して王国からは何の反応もなかった。そして、使者が訪れることも。
兵はともかく、ミータスはどうするんだ? サルーンは王国との交渉は出来ないと踏み切り、ミータスを処刑した。首だけを王国に送りつけたが、やはり反応はなかった。とりあえず王国との戦後の処理はあらかた片付いたと判断し、僕達は公国に凱旋することとなったのだ。
会場は元七家筆頭の屋敷で行われることになった。七家と言えども、外国の使者を出迎える設備があるのはこの屋敷しかないのだ。こういうことがあるから、サルーンにはもう少し慎重でいてほしかったのだ。といっても、僕達はあれから屋敷をいじったわけではないから、使者への対応はつつがなく行われていた。
そして、ついに謁見という段取りとなった。謁見の間にはサルーンが堂々とした様子で当主の座に腰掛け、僕が横に座る形だ。レントーク王ボートレには使者から見えない位置にいてもらうことにした。使者の言葉に間違いが無いか、相手国と政治的取引が必要になった場合には、助言をしてもらうためだ。
アロンやニード、イハサにも出席してもらい、謁見の間にはレントーク王国、公国、アウーディア王国の衛兵や護衛も入り、かなり密度が高い空間となった。フォレインは恭しく頭を垂れ、サルーンに挨拶をしていく。
「お初にお目にかかります。私はアウーディア王国内務卿を拝命しております、フォレインと申します。サルーン様におかれましては……」
「そのような話は聞きたくない」
サルーンがフォレインの挨拶を途中で打ち切ったのだ。このような行為は外交上無礼と扱われる。実質的な王であるサルーンがするような行為ではない。しかし、サルーンの表情を見るとなんとなく分かるな。表面的には無表情に近いが、かなり怒りを秘めている感じだ。
「フォレインと言ったな。今回やってきた用向きだけ話してくれればいい」
「それならば……ミータス殿下をお返し願いたく参上いたしました」
「ミータス……だけか?」
「ええ、その通りです。我々はミータス殿下をあなたがたが拉致したものと考えております。兵についてはどのように処分しても構いません。ミータス殿下を守れなかった兵に対して、王は非常にお怒りですから。ミータス殿下さえ返していただければ、王国としては今回の全てについて、不問とするつもりであります」
「フォレインよ。お前はバカなのか? こちらが了承するとでも思っているのか?」
「はて? 我々は正当な主張をしているつもりです。我々とレントークとの間にはボートレ国王署名の降伏宣言書が取り交わされております。それにはレントーク領はすべて我々に属するとあります。軍を出したのも、レントーク領内の治安維持のためで、七家に糾弾される覚えはありませんな」
フォレインは一呼吸おいた。
「その正当な軍に対して、攻撃を仕掛けてきたのは七家軍と承知しております。本来は、我々が七家に対して損失についての賠償をしたいくらいです。しかし、王はレントークとの関係をこじれることを好んでおらず、今回についてはミータス殿下を速やかに返していただければ不問にする。という寛大なお考えなのです。私としては、サルーン様が速やかに決断を下すことをお薦めします」
「フォレインよ。お前の言う通りならば、我々の方に責を問うのは筋というものかも知れないな。しかし、今回のミータス軍の悪行はかなり行き過ぎていた。宝飾品の接収という略奪までは目をつぶれたが、領民の大量虐殺はやりすぎであろう。王国軍の狂気に対して我々は抵抗したまでだ。ところで、ボートレ王は王国に行っているのか? 我らが手を尽くしたが発見には至っていないのだ」
「なるほど。七家でも発見できていないわけですな……ボートレ王は残念ながら死にました。我らが手厚い葬儀をあげましたぞ。すでに体は年齢の割には衰えているように感じましたからな。今回の騒動で大きな心痛があったのでしょう」
「何⁉ 父上はお亡くなりになられたのか。だそうです。父上」
「そうか、そうか。私は死んでしまったのか。それは知らなかったな。フォレイン卿。久しぶりだな。お前は私が毒で意識が無くなっていたと思っていたようだが、私は全てを見ていたのだぞ。お前がシスと結託して、私に毒を盛り、降伏宣言書などふざけたものに署名させた。私は怒りで我を忘れそうになるぞ」
ボートレ王の登場に、フォレインは腰を抜かしそうなほど驚いていた。フォレインの悪巧みを知っているのはシスだけと高をくくっていたのだろう。
「げっ!! なにゆえボートレ王が……いや、それよりも死にかけのはず。なぜ、元気なのだ」
「随分の言いようだな。お前がシスを通じて、毒を盛ってくれたおかげで死にかける目にあったが、今はこの通り元気だぞ。むしろ、以前よりも元気なのが不思議なくらいだ。さて、フォレインよ。お前の罪はすべて私が見ている。どう、申し開きをするつもりだ?」
「ぐっ……しかし、すでに降伏宣言書は交付されている。お前らは王国の属国に過ぎないのだ。私にどのような罪があろうとも、お前たちに裁く権利などないわ」
サルーンは溜息を付いた。
「よいか? フォレイン。シスがお前からもらった毒で王に毒を盛り、降伏宣言書に署名したとあればそれを無効とすることも容易いのだ。そうすれば、お前が言っていた王国の正当性は全てなくなるのだぞ」
「ふん。私はまだ認めないぞ。シスという女と私が結託したという証拠を示したいのなら、シスをまずここに連れてこい。話はそれからだ」
フォレインには、シスがここにいない確信でもあるのか?
「そうか。ならばシスをここに」
それからの謁見の間は異常なものだった。シスは洗いざらい話し、フォレインはそれを否定する連続だった。しかし、すでにシスとフェレインを結ぶ証拠は十分すぎるほど揃っている。毒物についてもマグ姉に調べてもらうと王国にしか自生していない毒草から採取したものと判明した。
フォレインもさすがに観念したのか、罪を認めるような話をし始めた。その話は、公国を滅ぼすと同時に、レントーク王国の亜人を奴隷として手に入れるという壮大な計画であった。それが半ば成功していたのだが、最後の最後でレントークの反撃に遭い、フォレインは全てを失いかけたそうだ。それでもミータスさえ連れ戻せれば、不問にするということだった。
そうなると、ここにいるフォレインは何の権限もなく、自らの保身のためにやってきたただの人だ。王国の使者とは名ばかりのものだった。サルーンは、目の前にいる無用な男に声を掛けた。
「お前の言っていた降伏宣言書はすでに無効となった。従って、お前はレントークの法に則り処罰されることになる。最後に、王国は魔族を使って何かするつもりなのか?」
それに対してフォレインは無言を貫いた。観念したとはいえ、一応は王国の重鎮だった男だ。王国の秘密をべらべらと話すミータスとは訳が違う。サルーンはフォレインの姿を見つめ、話は終わりとばかりに立ち上がり、言葉をかけた。
「お前はもう王国には戻れない。王国内務卿として最後の仕事をするがよい。そこにいる衛兵に、改めて王国から使者を寄越すように言うのだ。それまではミータスと兵士二十万人の身柄は置いておく」
それを言った途端、フォレインはニヤッとした表情を浮かべた。どういう意味なんだ? まさか……。僕は去ろうといているサルーンを呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ。王国軍の捕虜二十万人については公国で面倒を見よう。それだけの兵士を養えるだけの食料はレントークにはあるまい。ちょうど、公国の鉱山開発に人手が必要だったのだ。フォレインも構わないな? さっき、兵士ニ十万人については好きに扱って構わないと言っていたしな」
「え、ええ」
「サルーンもいいな?」
「私も異存はありません。むしろ食事を与えなくて済むので助かります」
「そうか。しかし公国では、食べるためには何かの仕事に就かなければならない。働く者は例外を除いて、公国に帰属してもらう必要があるのだ」
この言葉に動揺したのが、フォレインだ。
「ちょ、ちょっとお待ちを。王国兵士を公国に帰属させるのはおかしいではないですか。一応は捕虜なのでしょ? いずれは王国に返していただくのですから、勝手に帰属先を変えられるのは困るのですが」
「さっき、兵士二十万人については好きに扱って構わないと言っていたではないか。いやなに。ただ、本人たちに聞くだけだ。帰属先を公国にすると、言ってもらうだけの簡単なものだぞ。別に正真正銘、公国に縛り付けるものではない。それくらいならば問題あるまい? こうしておけば、兵士たちも魔族に命を奪われずに済むであろう?」
「な……なぜ、それを」
「フォレイン。お前の話は裏が取れていれば粗末なものだ。一言、当分の間兵士を預かっていてほしいと願えば、違っただろう。しかし、お前は最初からレントークで兵士たちを処分することに拘っていた。だとすれば、二十万の命を魔族に捧げようとしているのは明白!! お前は、兵士たちを少しでも長くこのレントークの土地に置いておくのが役目だったのではないか?」
「終わりましたな……これで我が家も、何もかも無くなりましょう。ロッシュ公の言う通りです。私に与えられた役目は兵士をこの地に留め置くこと。この地で兵士が大量に死ねば、兵士の家族はレントークを恨むことになるでしょう。今回の戦で受けた王国の被害は甚大なものでした。信用も失われつつある。これを回避する方法は、これしかないと王弟は判断したのです。それを仕上げるために私がレントークに遣わされた。家族を人質に取られてな」
バカな男だ。公国とレントークを巻き込んだ博打を打たなくても、王国はその地位を安泰なものとしていただろう。この博打によって、公国とレントークには強い結びつきが出来、王国は弱体化することになってしまった。未だに王国の強さは残っているものの、公国とレントーク連合の戦力は、王国に肉薄する程になっている。
このまま王国が滅びるようなことになれば、フォレインは王国を崩壊に招いた男として歴史に残ることだろうな。もはや謁見の間にいる必要はないだろう。レントークの衛兵がフォレインとシスを連行しようとした時、王国の護衛がフォレインに切りつけた。フォレインの体に深々と剣が刺さり、その護衛はレント-クの衛兵に拘束された。フォレインに駆け寄ると瀕死の状態だった。
「これは私が受けるべき報いなのでしょう」
「何を言うか! この程度を貴様の報いと思うなよ」
フォレインに回復魔法を掛け、剣で受けた傷を治した。
「なるほど。これでボートレ王を治したのかということか。ロッシュ公……貴方を敵に回すべきではなかったのかも知れないな。貴方を敵に回したときから、王国は衰退する運命だったのだろうな」
「それは分からないな。どうなるかなんて誰もわからないだろう。お前の作戦も上手く行けば、公国もレントークもなくなっていた可能性だってあった。我々にとっても今回は本当に綱渡りだった。我らはかろうじて勝利を掴むことが出来た。そして貴様は敗者となった。それだけの話だ。敗者には敗者の報いを受けてもらわねばならない。剣で刺したくらいで死ねると思わないことだな」
「ふふ。ロッシュ公は恐ろしい方だ。私も願わくば公国に生まれたかったものだな。私の人生は常に裏切りばかりだった。本当に人を信じたことがない。ロッシュ公ならば違ったのかも知れぬな……王国は、魔族を大量に召喚して公国を潰す気だ。その対価は王国民となるであろう。それをなんとか阻止していただけないか。敵同士と言えども頼めるのはロッシュ公しかいない。あんな国でも私の祖国だ。国民の命が魔族に刈り取られるのだけは見ていられない。勝手な頼みだが……どうか、王国民の命を救ってほしい」
フォレインは必死な懇願をしてきた。この男のしてきたことを思えば、なんとも図々しい願いだと思ってしまう。それでも国を大切に思う気持ちが一片でもあることを最後に見れたのは良かった。フォレインの気持ちに応える気はないが。王国の元第一王子のルドと元第二王女のマグ姉がいるのだから、できる限りのことはしよう。
「僕は公国民のために動くつもりだ。だが、お前の願いは頭の片隅にでも置いておこう。お前には悩まされたが、最後は良い一面を見れて良かったぞ」
言葉をかけると、フォレインはふっと笑い衛兵に連れて行かれた。それからすぐに王国に対してボートレ王の名で降伏宣言書の撤回を行い、今回の首謀者二人の首と調書を衛兵に渡した。それに対して王国からは何の反応もなかった。そして、使者が訪れることも。
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