奴隷商貴族の領地経営〜奴隷を売ってくれ? 全員、大切な領民だから無理です

秋田ノ介

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第20話 奴隷商、途に迷う

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デリンズ卿との馬車での話し合い。

実に有意義なものとなった。

王宮の実情……それは相当酷いものとなっているみたいだ。

僕がいなくなってからというもの、ガトートスの権威は否応なく上がっていった。

次期王候補……しかも唯一の存在ともなれば尚更だ。

歯止め役としてのオークレック卿の失脚も大きい。

だが、ガトートスは大きな動きというのは見せていない。

ひたすら王宮内の権威を高めるだけの行動に徹していた。

諸侯はガトートスの挙動を静観しているだけだ。

自分の所に被害が及ばないように……

デリンズ卿もその一人とも言えた。

オーレック卿失脚の後、台頭してきたのがデリンズ卿だ。

もとはオーレック卿と二大貴族として君臨していたのだから当たり前と言えばそれまでだけど。

「分かりません。今や王宮ではデリンズ卿の権勢は凄いものでしょう? 僕に助けられるようなことはないと思うのですが」

率直な気持ちだ。

僕は所詮は奴隷商という立場に過ぎない。

辺境伯という地位はあるものの、王宮での発言力は皆無に等しい。

貴族同士であっても、それは同じだ。

「うむ。だが、奴隷商貴族となったイルス卿だからこそ頼むのだ」

一体、何を考えているんだ?

「その前に儂の息子を紹介しよう」

……護衛と思っていたが、息子?

「初めまして、イルス卿。私はライル=デリンズと申します。以後、お見知りおきを」

ますます分からない。

息子を出してきて、何がしたいのだ?

「これは極めて内輪の話になって恐縮だが……」

この人は何を考えている?

なぜ、僕にそんな話を打ち明けるのだろうか?

……バカなのかな?

話はよくある貴族の跡目争いだった。

長男と次男のどちらかに後継者とする。

普通に考えれば、長男となるだろう……

だが、デリンズ卿は次男を後継者にするつもりだった。

とはいえ、それも特段、不思議ではない。

勝手にするといいと思っていたが、次男に出自に耳を引かれた。

次男は正室から生まれた子ではない。

僕と同じだった。

僕も父……王が妾に産ませた子供だった。

僕は父の評価を得るために必死になって、時期王として認められた。

長男だったから、まだ非難の目は少なかったと思うが……

次男ともなれば……相当な覚悟がなければ、周りを納得させることは難しいだろう。

ますます、僕の出番はないと思うが……。

正直、勝手にやってくれ……。

「もちろん、ただとは言わぬ。イルス卿がお望みとあれば、王族への道筋を全力で支援しよう。我が神明をとして……」

これは凄いことになってきたな。

デリンズ卿の権力を持ってすれば、可能かも知れない。

ガトートスへの憎しみが体を支配する。

王族に戻ることが出来れば……

欲というものは恐ろしいものだ。

それも手に入らないと思っていたものほど、強く思い焦がれてしまう。

今一度、王族に戻れれば、ガトートスなど恐れるものではない。

「分かりました。僕がライルを後継者として、皆を納得させる算段を付けましょう」

「おお!! 本当にやってくれるのか?」

やると決めた以上は、絶対にやらなければならない。

だが、僕はあとで大きく後悔する。

二度と、跡目争いに加わりたくないと。

僕は王族という餌に釣られたバカな馬なんだと気付かされてしまった。

話はそれで終わろうとしていた。

「そういえば、僕との取引を中止するように要請を出していますよね?」
「おお。そうであったな。すぐに撤回しよう」

なんか、軽くないか?

取引中止の要請は言ってしまえば、やってはいけないことだ。

ましてや朝令暮改では混乱するだけだ。

デリンズ卿がそのことを知らないわけがないだろうに。

「それは助かります。理由を聞いても?」
「恥ずかしい話だが、イルス卿を足止めするためだけなのだ」

なんて、下らない理由なんだ。

確かに薬草ギルドで資金を得られれば、明日にでも出発していただろう。

そういう意味では成功と言えるかも知れない。

それでも……

「不躾ながら……他にいくらでも方法があったのではないですか? 衛兵にでも言伝を言うだけ、事足りたのでは?」

「イルス卿の言う通りだ。だが、儂にも体裁がある。奴隷商の扱いは知っておるだろ?」

……そうだったのか。

奴隷商貴族の扱いがこれほど酷いとは思ってもいなかった。

長年空位だったのが不思議だった。

僕のように立ち回れば、金に困ることはないと思っていたからだ。

奴隷商では稼げず、方法を考えても、すべて潰される……。

どんなに奴隷商が優秀であっても、飼い殺しのような目に遭うという訳か。

ただの奴隷運搬屋だ。

「承知しました。撤回も内々ということでしょうか?」
「無論。明日にでも当屋敷に薬草ギルドを呼ぼう。そこならば、衆目に触れずに済むからな」

資金が手に入れば、今はいい。

それにこのチャンスをつかめば、王族に戻ることだって……

「それでは明日、そちらに伺います。夜分がよろしいですか?」
「いや、それには及ばぬ。奴隷商の仕事として赴いてくれればな」

……なんとも気持ちの悪い終わり方だった。

奴隷商貴族ゆえか……。

黒塗りの馬車が遠ざかっていくのを見ていた。

「ご主人様。お体が冷えますので、中に戻りましょう」
「うん……サヤサはどう思う?」

なんとなく、自分だけでは決められないと思ってサヤサに聞いてみた。

「私には難しい話は分かりません。ですが、すこし寂しかったです」

何が?

「王族に戻られるということは、我々とはお別れということですよね?」

……死人扱い、エルフ、獣人、魔女……

たしかに王宮にはいない属性の人たちだ。

「お別れなんてことはないよ」

僕ははぐらかした。

正直、彼女たちを連れて王宮に戻ることは出来ない。

婚約者であるマギーでさえも。

「そうですか。それを聞いて安心しました」

心がとても痛んだ。

彼女はまだ会って間もないと言うのに、僕を体を張って守ろうとしてくれる。

それは疑いがないほど、真剣に……

おそらく、さっきの言葉は本心なのだろう。

僕はその言葉に適当に返してしまった。

……それで本当にいいのだろうか?

王族に戻ることはガトートスへの復讐だけを考えて、決めた部分が大きい。

彼女たちと別れることまで考えてのことではなかった。

……本当にそれでいいのか?

時分に問いかけても、すぐには答えが返ってこなかった。

にこやかな表情を浮かべたサヤサと共に宿に戻った。

僕の心は浮かなかった。
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