奴隷商貴族の領地経営〜奴隷を売ってくれ? 全員、大切な領民だから無理です

秋田ノ介

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第19話 奴隷商、密談を交わす

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領都ロームの薬草ギルドは王都と比べても見劣りするものではない。

中に入ると、やはり客らしい人からは嫌な顔をされ、店を離れていってしまった。

まぁ、慣れているからどうということはない。

「すみません。薬草を売りたいのですが」

受付の人はひどく怖がっている様子だ。

まぁいいか。

「す、すみません。一般の方から薬草は買い取りできません。冒険者ギルドを通して頂かないと……」

ここまでは思ったとおりだな。

僕はすっと免状を差し出す。

さすがに受付の人も驚いていた。

一言断って、奥へと行ってしまった。

すぐにやってきたのは、年配の人だ。

「私はここの支部長をしております。お話は私が」

「ありがとうごまいます。この免状があれば、薬草を売ることが出来ると伺っています。その点で問題はありますか?」

支部長は首を横に振った。

「免状も本物の様子。問題はありません」

良かった。

これで断られていたら、大変なことになっていた。

考えていたプランが全て台無しになってしまう。

「じゃあ……」

僕はシェラから大袋を受け取り、テーブルに載せる。

「これを買い取ってもらいたい。薬草については、この者から説明を受けてくれ」

支部長は大袋の紐を緩め、中を覗き込む。

「……これは……すごいですな」

これは買取価格が期待できそうだな。

あとはシェラにいい感じに説明をしてもらえば……

「申し訳ありません。買い取りは出来かねます。お引き取りを願いします」

なぜ……。

「この免状があれば……」
「もちろんでございます。しかし、デリンズ侯爵様が奴隷商との取引の一切を禁じております。それに逆らうことは出来ません。申し訳ありませんが……」

そんなバカな……

ギルドには専売権がある。

それには領主と言えども口出しは出来ない。

たとえ、王であっても。

そうでなければ、安心して取引など出来ないから。

だが、ここではそれが罷り通るのか……

「分かった。だが、領主の許可があれば、問題はないな?」
「もちろんでございます。見たところ、上質なものとお見受けいたします。出来れば、我々としても取引をしたいのです」

支部長からは不満げな気持ちが顔ににじみ出ている。

シェラの薬草はそれだけ価値があるということなのだろう……。

「それでは、また来る」
「お待ちしております。ロッシュ様」

さてと、ああは言ったものの……。

どうしたものか。

領主に会うなど、簡単に……

「止まれ!! 何しに来たのだ。奴隷商風情が」

……やはり、こうなるか。

僕は奴隷商だ。

「奴隷商として来た。引き渡しの契約をしたい」
「くっ……こっちだ」

奴隷商の特権はこういう時に使える。

『奴隷商は奴隷の取引を行う際は領主の許可無く入城も許される』

「これが奴隷だ。さっさと連れて行け!!」

売り先の商会が記載された書類にサインをして、奴隷を連れ歩いた。

この動きは必ず侯爵の耳にも入るはず。

そうすれば、動いてくれるはずだ……。

わざわざ全ギルドに奴隷商との取引を禁止しているくらいだ。

なにか、思惑があるはずだから……。

商会へは簡単に引き渡しが完了した。

久しぶりの取引ということもあり、とても喜んでいた。

この時にもらえる特別収入は本当に助かる。

金貨10枚……有難くいただきます。

さてと……僕は特に行動を移すこと無く、宿へと戻った。

やってくるであろう客人を待つために……。

五人の晩餐は質素ながらも、楽しいものだった。

マギーがシェラとサヤサに食事作法を教えている姿は本当の姉妹のようで。

しばらくすると控えめなノックが聞こえてきた。

「私が」

サヤサが身軽な動きでドアを開く。

用件を聞き、すぐにドアを締めた。

「ご主人様。デリンズ侯爵様がお会いになりたいそうです。非公式にとのことで、夜中に迎えに来ると」

夜中か……随分と失礼な招待だな。

だが、何かが動いている証拠なのだろう。

奴隷商になった僕に会いたい理由……。

僕は向かえが来るまでにいくつか決めることにした。

最悪、この街を強行してでも脱出する必要がある。

侯爵との話が決裂すれば。

なるべく、そうならないようにするが、時にはどうしようもない時がある。

「サヤサ。君だけ僕に付いてきてくれ」
「かしこまりました。ご主人様は私がお守りします」

頼もしいな。

「シェラはマギーとマリーヌ様の護衛を。すぐに馬車に乗り込めるように準備も頼む」
「わかった」

ひとまず、安全に避難できる最善策だ。

あとは侯爵の動き次第だが……

「ロッシュ。気をつけてね。侯爵は……ガトートスと繋がりがあるというのが噂よ」

分かっている。

侯爵は僕が王子だった頃、何かとぶつかってきた相手だ。

というよりもオーレック公爵家が嫌いと言うべきか。

僕がマギーを婚約者にした時からぶつかる運命のような家だ。

ガトートスと繋がっているというのは、僕憎しから来ている。

「ああ、気をつける。だが、急に襲ってこないところを見ると別の腹づもりがあるのだろう。それを聞いてくるつもりだよ」

マギーが僕の手を握ってくる。

その直後に迎えがやってきた。

黒塗りの馬車は闇に溶け込んでいる。

僕とサヤサは促されるまま、馬車へと入り込む。

まさかな……

「こんなところでお目にかかるとは。お久しぶりです。デリンズ卿」
「うむ。王宮以来だな。今はイルス卿と呼んだほうがいいか?」

「ご自由に」

屋敷に向かうと思ったが、まさか、ここで話をするとは。

だが、これは好都合だ。

屋敷に行けば、マギーたちと距離がその分離れてしまう。

ここなら目と鼻の先だ。

それにいざとなれば……。

デリンズ卿を人質にも出来る……。

サヤサにも目配せをする。

「さて、お話とはなんでしょう? 僕もいささか困っているんです」
「分かっておる。取引中止にしたのは私の本意ではないのだ」

どういうことだ?

「最近、王宮に顔を出したか?」
「まさか。僕の立ち位置は卿がよくご存知でしょ」

金貨一枚握らさられてから一度も足を運んだことはない。

いつも遠目には見ていたけど。

「王宮では政変が起きている。あのオーレック卿の失脚でな」

それはそうだろう。

ある意味、オーレック卿で王宮は支えられていたと言っても過言ではないだろう。

王は王宮の結論にサインをするだけの存在だ。

実際に国を動かしているのはオーレック卿のような優秀な諸侯達だ。

その中心人物がいなくなれば……

「話は変わるが、マーガレット嬢は真に残念であったな。まだ、非公式だが伝え聞いていたのだ」

覚悟はしていたが、マギーはそういう扱いだったのか。

今は話を合わせよう。

まだ、彼を信じられる段階ではないのだから……

「実はイルス卿には我が領を助けてもらいたい……」

一体、どんな話が始まるのだろうか……

このときは何も分からなかった。
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