魔女が魔法を忘れたとき~The perfect illusion~

zenmai2

文字の大きさ
23 / 37
第四章 襲来

1 身体が重い

しおりを挟む
 一瞬だけ、暗い森の中に閃光が走ったような気がする。
 稲光だろうが、木々のカーテンを突き抜けてくるということはなかなかに強い光だということだ。
 ところが、いくら待っても雷鳴は響かない。その代わりに、かすかに女の子の笑い声のようなものが聞こえたような気がする。

 いや、そんなことよりも何か別の違和感が……

 館を飛び出したアザミは雨の中、びしょ濡れになりながら幻夢の森を駆け回っていた。
 自分に最低限できることとして、森の魔物たちに討伐隊の撃退を手助けしてもらえるように頼んで回っているのだった。

 しかし――

「おう、ちびっ子じゃねえか」
「あっ、生首さん」

 ふと出くわしたのは、とにかく見た目が不気味な生首の魔物である。始めはアザミも恐ろしがっていたが、いざ話してみると意外と気さくで今ではよく世間話などをしている。

「あの、大変なんです! パッヘルさまが……」
「おう、妖精どもから聞いたよ。パッヘルの調子が悪いんだろう? んでもって、そんなタイミングでお国の兵士どもが攻めてくるってんだろう?」
「そ、そうです……」

 そうなのだ。このように、先ほどからどの魔物もすでに事情を把握しており、今のところアザミの行動は徒労に終わっている。
 おそらくはグラントの差し金だろう。朝の時点ですでに妖精たちに根回ししていたのかもしれない。相変わらず芸が細かい人である。

「ただよお」

 そう言って生首は眉を寄せた。

「俺もなんか調子が悪いみたいでよ。身体が重いっつーか―ーさっきまではなんともなかったんだけどなあ」

 アザミははっとした。
 身体が重い――先ほど覚えた違和感の正体はこれだ。そして、この感覚を覚えるのは初めてではなかった。森の外へ出る時、彼女はいつもこの感覚に陥っていた。

 森の瘴気の力が、弱まっている?

 そうだ。幻夢の森の瘴気は、魔物を強化する効果もある。常にこの瘴気の中で生活している為、森の外へ出るとぐったりと身体が重く感じるのだ。

 では、いつからこうなった? おそらくはあの――

「おーい、アザミー!」

 自分を呼ぶ声に振り返ると、ガナールがこちらに向かってどしどしと走り寄ってきていた。

「うひゃあ、オーガだ! 逃げろー!」
「あ、ちょっと!」

 ひらりと生首はどこかに飛んでいってしまった。過去の天敵だったらしく、彼はオーガが苦手なのだ。

「はあはあ……アザミ、何処へ行ってたでごわす?」
「ええ、ちょっと……ところで、ガナールさん、随分と息を切らしていますが……」
「そ、そうなんでごわす」

 膝に手をつきながらガナールは答える。

「さっきから身体が思い通りに動かないんでごわす。うう、何もこんな時に……」

 やはり……
 先ほどの閃光は、ただの稲光ではなかったのかもしれない。

「ガナールさん、グラントさまはどこに?」
「パッヘルさまと一緒だと思うでごわすが?」
「急いで報告にいきましょう! この森に何かおかしな力が働いています!」

 駆け出しながらアザミは言う。

「おかしな力って、どういうことでごわす!?」

 ガナールもアザミのあとに続こうとするが……
 アザミが急に立ち止まる。

「ん? どうしたでごわす?」
「あの……」

 彼女はもじもじとしばらく言いあぐねていたが、やがてぽつりと口を開いたのだった。 

「パッヘルさま、やはり怒っておられましたか?」

 ガナールはしばらくきょとんとしていたが、やがて大きな口をにんまりと曲げた。

「大丈夫でごわす! パッヘルさまは一ミリも怒っていないでごわすよ! むしろ、飛び出していったアザミの心配をしてるでごわす!」
「そうですか」

 ホッと胸を寝で下ろすと同時に、じわじわと罪悪感が再燃する。

「拙者、どうしてあんなことを言ってしまったのでしょう。パッヘルさまは記憶を失くされて、誰よりも心細いはずだと分かっていながら……」
「うむ! ならば今からちゃんと謝るでごわす!」

 そう言ってガナールは、大きな手でアザミの小さな背中を押した。

「パッヘルさまなら、きっとアザミの気持ちを理解してくれるはずでごわす!」
「は、はい!」

 そして、二人がまた同時に駆け出そうとした時だった。
 何かが爆発したような、とてつもない轟音が森の中に響いたのである。

「なっ!?」
「なんでごわすか!?」

 同時に森がざわめき始める。あちらこちらで魔物たちの悲鳴や慌ただしい足音がこだまする。

 続いて、二度目の轟音――

「まさか、そんな……!」
「もう始まったんでごわすか!?」 

 戦慄を覚え立ち尽くす二人の前に、一つの影が立ちはだかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

処理中です...