魔女が魔法を忘れたとき~The perfect illusion~

zenmai2

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最終章 蛇足

エピローグ

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 少女はベッドの上で目覚めた。

 頭がぼんやりとしている。ずきずきと鈍い痛みも覚える。
 随分と長いあいだ眠っていたようだ。はて、昨夜はいったい何をしていたんだっけか。

 あれ……?

 なんとなく奇妙な感覚。
 その正体が気になるも、ベッドに横たわったままでは埒が明かないので、少女は痛む頭を抑えつつ半身を起こした。

「パッヘルさま!」
「わっ!」
 飛びついてきたその異形の少女の姿を見て 少女の頭の中の霧がぱっと晴れていった。

「ア、アザミ……」
「パッヘルさま! 大丈夫でごわすか!?」

 ベッドの脇、アザミの反対側にはガナールもいた。

「ど、どうしたの? 二人とも」
「どうしたもこうしたも!」

 涙目になりながら、アザミが答える。

「なかなか起きていらっしゃらないので心配だったのです! 普段なら何も問題はないでしょうが、あの戦闘の後ですし……!」
「ああ……」

 そうだ。私は記憶を失くした魔女パッヘル。
 前日、国の討伐隊が隣国の魔導師団の強力を得てこの森へと攻め込んできた。
 圧倒的敗勢の中、私は奇跡的に魔力だけを取り戻し、強大な幻夢魔法を用いて兵士たちを退けたんだ。

 でも……

 パッヘルは自らの手の平を見つめた。

「どうしてか、魔法は使えなくなっちゃったんだっけ……」
「パッヘルさま!」
「ギャッ!」

 突然、冷たいものが身体に巻きついてきた。

「やっと起きたニョロん。さっさと玉座の間にいくニョロん」

 犯人は言うまでもなくニョルルンだった。
 ぶすっと不満げに彼を見つめる。それは単純に、驚かされたことに対しての抗議の意味でしかなかったのだが。
「ん? どうしたニョロん? ボクの顔に何かついてるニョロん?」
「え? いや……」

 どうしてだろう。目覚めた時の奇妙な間隔がぶり返してきたのだった。
 自分が記憶を失ってはいるのは百も承知だが、それとは別にまた何か大事なことを忘れているような。

「パッヘルさま」

 ベッドから立ち上がってとりあえず玉座の間へ向かおうとした時、アザミが小声で話しかけてきた。

「実は、グラントさまに手紙が届いているんですが」
「手紙?」
「はい」

 アザミは懐から一枚の便箋を取り出した。

「何か事情がありそうで、本人に渡すのをためらっておりまして……」

 パッヘルは二つ折りにされたその手紙を受け取り、中を開いてみた。上半身に巻きついたニョルルンも同時に文面を覗き込む。
 それは差出人の名もない、短い手紙だった。



「おはよう」

 食堂のテーブルのいつもの定位置にグラントはいた。シープルの淹れた茶を飲みながら、読書に勤しんでいるようだった。

「ふん」

 パッヘルの姿を認めるなり、彼はそう鼻を鳴らした。

「随分と遅いお目覚めじゃの。アザミたちが心配しておったぞい」
「あなたは心配してなかったの?」
「何を心配することがある」

 それだけ言って、グラントは再び書物に意識を傾けようとした。そんな彼の眼前に例の手紙を突きつける。

「なんじゃ?」
「手紙。あなた宛よ」

 グラントは手紙を開き、何度も何度もその文面を目で追った。そのうちに彼の表情は微妙に強張っていった。
 やがて、顔を上げる。

「これは誰が……?」
「さあ、分からない」

 パッヘルはきっぱりと答える。

「でも、すごく大事な手紙だって気がしてさ。私が直接あなたに渡そうって思ったの」
「そうか……」
「あのさ」

 もう一度手紙を読み返そうとするグラントを無視して、パッヘルは続けた。

「私、絶対にみんなのことを思い出すよ。もちろん、あなたのことも」
「なんじゃ? 改まって」
「とにかく、そう誓ったの!」

 パッヘルの顔をしばらく見つめたあと、グラントはまた一度ふんと鼻を鳴らした。 

 手紙には、こう書かれていた。
 
 グラントへ。
 ありがとう、さようなら。
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