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参道死走

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 山門の向こうから、顔を覗かせている捕り方たちである。
 その中の何人かは、佐竹ではなく、佐竹の背後に視線を向けていた。
 恐怖に脅えた視線である。
 不吉なものを感じて、佐竹は振り返った。

 ……!
 佐竹は、すくみあがった。
 景山と後藤が、自分の後ろに迫っていた。
 そして、二人の背後には、本堂の前で寝そべっていた、あの化け物がいたのだ。
 
 追ってきている!
 自分が山門に着くまで、誘き出しは始まらないと勝手に思い込んでいたが、すでに、化け物は、背後に接近していた。
 狼狽した佐竹は、混乱し、自身が何をすべきかを見失ってしまった。
 逃げてはいかんと、踏みとどまってしまったのだ。
 
 私は三人目の囮になると、あの二人と約束をしたのだ。

 そう思い、必死になって踏みとどまった。

 ど、どうする?
 私は何をすべきなのか?
 か、刀を?
 ……い、いや、いや違う。
 止まってはいかん!
 佐竹は我に返った。

 私が囮になるのは、景山と後藤が倒れたときの話だ。
 今は違う。
 今、私がせねばならぬことは、あの二人の邪魔にならぬよう、逃げることなのだ!

 佐竹は、山門に向き直ると、慌てて走り始めた。
 頼りなく、がくがくと萎えそうになる足を懸命に動かす。
 立ち止ってしまったために、山門との距離は縮まらず、逆に、後ろから迫ってきていた、化け物との距離は縮まった。

 逃げ切れる気がしなかった。

    ◆◇◆◇◆◇◆◇

 逃げ切れる。
 振り返り、背後の化け物との距離を目算しながら、後藤はそう思った。
 
 化け物の動きは、巨体のためか、思っていたほど素早くは無かった。
 しかし、一歩一歩が大きい。
 そのため、少しずつ距離を詰められていた。

 それでも、最初に、宝蔵門で稼いだ距離が大きかった。
 このまま、山門を潜り抜けられる。
 そう確信した後藤は、顔を正面に戻した。

 ……!?
 後藤の顔が強張った
 前方に佐竹がいるのだ。

 よろよろと走ってはいるが、その足は遅い。
 このままでは、山門に着く前に追いついてしまう。
 佐竹に追いついた場合、そのまま追い抜かなければ、後ろから来る化け物に追いつかれてしまうのは明らかであった。
 
 だが、佐竹を追い抜いてしまえば、一人目に喰われてしまう者は、自分でも景山でもなく、佐竹になってしまう。
 これも明らかなことであった。


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