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劣勢Ⅰ
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ぐりふぉむが鳴いた。
これまでのように、鳴いた後にカカッと短く切るのではなく、遠吠えをする犬や、時を告げる雄鶏のように長く鳴いた。
しかし、喉を立てて鳴かない。
雑兵を軽々と蹂躙し、黄色と黒の丸い目で周辺を見回しながら鳴く。
声はどんどんと高くなり、ついに聞こえなくなった。
それでも、まだ鳴いているのか、ぐりふぉむは湾曲した嘴を大きく開いている。
そして、馬たちが暴れ始めた。
西の陣の馬たちが、突如いななき、狂ったように棹立ちになったのだ。
乗っていた武者たちが、次々と落馬する。
旗本が馬をなだめようとするが、馬は目を見開き、口の端から泡を吹いて荒れ狂う。
恐怖にわしづかみにされ、脅えているようであった。
何頭かは手綱を振り払い、あらぬ方向へと走り出す。
正面の主力陣地でも、同様のことが起こった。
さらに、西の陣へと向かっていた村沢主税たちにも……。
「落ち着け!
落ち着かぬか!」
棹立ちになった馬の首を平手で叩き、村沢は、なんとか愛馬を鎮めようとした。
隣では、柴原も同じく、急に暴れ出した馬をなだめようとしている。
周囲を見回すと、他の武者たちは、次々と馬から振り落とされていた。
「何だと言うのだ」
村沢は舌打ちをした。
……これでは、化け物の後背を突くことはできぬ。
……いったん退いて、態勢を立て直さねば。
忌々しそうな顔になり、馬をあやしながら、西の陣の化け物を確認するため、視線を前方に戻した。
西の陣に化け物はいなかった。
こちらに向かって、駆けてきている。
体が前方に伸び、鉤爪のある前肢が地面につく。
先行した上半身を追うように、背が曲がり、引き寄せられた後脚が前肢の両外につく。
その瞬間には、大きな波のうねりのように、しなやかな上半身が、再び前へと伸びていく。
通りが広すぎたことが裏目に出ていた。
化け物は、思う存分に巨体を動かし、一気に速度をあげた。
……あと、ひと伸び。
……次に、化け物が伸ばした前肢は、わしに届く。
村沢は、馬上で凍りつき、自身の死を覚悟した。
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