清朝の姫君:『川島芳子』は、ハッピーエンドです

あさのりんご

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第5章

梅の香り(40p)<エピソード>

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 松本市で講演をした翌朝、芳子は、まぶしい光で目を覚ました。カーテンを閉め忘れた窓から、松本城が見える。梅でも、見てこよう。温泉宿を抜け出し早朝の散歩に出かけた。美しい城が映る鏡のようなお濠を眺めながら、公園まで歩く。紅白の梅が満開で、芳子は、かぐわしい香りをいっぱいに吸い込んだ。

 宿に戻ると、女将が、駆け寄って来た。
「芳子様!ちょうど、よかった。頭山満とうやまみつる様からお電話です」
 女将は、ロビーの片隅にある、電話ボックスに芳子を案内する。

「頭山様、お久しぶりです」
「おお。芳子か。お前、外地にいたと聞いていたが、松本に帰って来たのか?」
「中国と日本を行ったり来たりです」
「そうか。では、外地行きの船に乗る前にワシの家によりなさい。話したい事がある」
「はい。喜んでお伺いします」

 芳子は、うれしそうに受話器をおいた。頭山は、芳子がまだ幼い頃、浪速の家に出入りしており、「芳子、芳子」と、孫のように可愛がってもらった人である。今は、博多に住んで、鉱山の経営で大金を動かしている。若い頃は、自由民権運動などで活躍したり、日露戦争では、馬賊軍団を率いて戦争に参加した事もある。
 
 アジア人同志が戦うのを嫌い、日本に亡命してきた、孫文(※1)を支援した事もあった。孫文の伝手つてで、頭山をたよって日本に来ていた蔣介石(※2)は、東京の頭山の家と隣同志。親しい仲であった。
 
 時はめぐり、今、蔣介石と日本は交戦状態にある。だが、蒋介石は、頭山となら、停戦交渉の話し合いに応じるかもしれない。芳子は、なんとか、戦争を避けようと模索していた。


 (※1)孫文:中国最初の共和制の創始者。日清戦争後、中国(清朝)で武装蜂起をして失敗。日本に亡命した。     

 (※2)蒋介石:孫文の後継者。中華民国の最高指導者。戦後、毛沢東率いる中国共産党に破れて1949年に台湾へ移る。
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