清朝の姫君:『川島芳子』は、ハッピーエンドです

あさのりんご

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第7章

残留孤児:小雲子(シャオユンズ)(62p)<エピソード>

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 1951年、初夏。
 芳子は、五歳の少女小雲子シャオユンズに「いろはにほへと~」と日本語を教えていた。ユンズは、利発な瞳を輝やかせて、芳子の口真似をする。日本語を知らない彼女には、覚えきれない。だが、間違いながらでも、懸命に繰り返していた。

「とても良く覚えたわね。今日は、ここまでにしましょう」
「ふー疲れちゃった。おやつは?」
「あんこの入ったお饅頭があるわ。一緒に、たべようか」
「うん。ユンズが持ってくるね」
 ユンズは、うれしそうに、台所に走っていく。

 しばらくして、ユンズは、お盆に、お饅頭を載せて、そろり、そろりと運んできた。
「方ママ、どうぞ」と、机の上にお盆を置く。

「ユンズ、綺麗なお皿に、載せたのね」
 ユンズは、お饅頭をほうばりながら、こくんとうなずいた。芳子は、ユンズに麦茶を持ってくる。
「喉つまりしちゃうから、ゆっくりと食べるのよ」

「ほら、おじちゃんが、帰ってきた!」
 ユンズは、窓を覗いて指をさす。芳子は、窓に駆け寄った。山家が芳子を見つけ、大きく手をふっている。


「ユンズ、おみやげを買って来たぞ」
 山家は、リュックサックを開いて、色紙や、お菓子、絵本などを取り出した。ユンズは大喜びである。
「あら?私のおみやげは……」
 芳子は、空っぽになったリュックサックを逆さにしてみるが、何もない。
「ごめん、わすれちまった」
「もう。ユンズ、ばっかり」
 山家は、笑いながら、ポケットから小箱を取り出した。
「いい薬を見つけて来た。これで、痛みがとれる」
「まぁ!ありがとう」
「よかったね。方ママ」
「ユンズは、方おばさんじゃなくて、方ママと呼ぶんだね」
「うん。大好きなんだ」
「そうか…こうしていると、親子三人暮らしって感じがするな」
「ユンズ、ここで、暮らしたいな。いいでしょう?方ママ?」

 芳子は、ユンズが可愛くてたまらない。ユンズの育ての親である、連祥れんしょうに相談した。そして、芳子と山家が長春に滞在している時は、ユンズと暮らす事にしたのである。

 ユンズの両親は、日本人で、長春で日本語の教師をしていた。だが、敗戦して、日本に引き上げる事になった。当時、ユンズの母親は、産後の肥立ちが悪く寝たきり。しかも、ユンズの上に三人の幼子がいた。生まれたばかりのユンズをつれて、日本への逃避行は危険すぎる。追手に見つかって、身を隠しても、いつ泣きだすか分からない赤子は、周りの日本人までも、危険にさらしてしまうだろう。日本に帰らなければ、家族は皆殺しになる。辛い選択ではあるが、ユンズを餓死させるしか、手はなかった。
 そんな時に、手を差し伸べたのが、連祥れんしょうだったのである。

 1972年、日中国交が復活してから、日本の赤十字や、政府が中国政府に働きかけて、中国に残した日本人の子供が、日本に渡って、日本人の親と会う事が出来るようになった。その人達は、約2700人。そのうち2500人が、日本に永住帰国したのである。
 
 ユンズの場合は、連祥れんしょうの妻が、自分の子供として育てており、ユンズに出生の秘密を打ち明ける事はなかった。

芳子は、両親、そして、祖国を失ったユンズが、かわいそうでも、あった。心に染み付いている日本の歌なども、教えていたのである。
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