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1章

玉子ごはん

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 ロビンとノアが家の門をくぐると、ばあちゃんが、かがんでニワトリにえさをいていた。おおぜいのニワトリが地面をつついて、えさを食べている。ばあちゃんは、ふたりに気がついて「あら、おかえり。ずいぶんと早いねぇ」と立ち上がった。

 ノアは、ばあちゃんに体をすり寄せて「アイス、まだある?」と聞く。
ぼうアイスが残ってるよ」ばあちゃんは、ノアにだけとってある優しい声で答えた。


 甘え上手なノアがうらやましい。ぼくは、どうせ不愛想だ。ロビンは「腹へった。ごはんまだ?」とぶっきらぼうに聞く。

「……?ああ、そうだった。明日から夏休みだもんね。給食無かったんだ。すぐ、ごはんにするから」

 ノアは家に入るなり荷物を投げ出した。手も洗わずに冷蔵庫から棒アイスを取り出すと、ガリガリとかじり始めた。行儀ぎょうぎが悪いが、ばあちゃんは文句を言わない。ノアには、からっきし甘いのだ。
 
 ロビンは、手を洗ってからノアの荷物を片付けはじめた。たく、要領ようりょうがいいヤツだ。たった一本残ってた棒アイス。ぼくが、食べたかった。

 10分後、テーブルには、ご飯と玉子が並んでいる。ロビンとノアは、顔を見合わせた。又、玉子ごはんだ。ふたりは、あきらめたように、玉子を割ってご飯にかけ、お醤油しょうゆを注ぐ。

「あらら。玉子をかける前に、ご飯に穴をあけなさい。こんな風にするんだよ」

ばあちゃんは、ご飯の真ん中にはしを突き刺してぐるりと回し、穴にお醤油と玉子をぶっかけて、豪快ごうかいに食べ始めた。

「ああー。おいしいねぇー」

 シーン。

「あら?どうしたの?あんた達、やけに、しずかじゃない?」

「べつにーーー」

「わかった。”又、玉子ごはんだ”と思ってる」

「「ピン・ポーン」」

贅沢ぜいたくな事を言っては、いけません。
 こうやって三人そろって食べれば、何を食べても御馳走ごちそうですよ。玉子は栄養があるんだから」

ばあちゃんは、トマトが山盛りになったザルを「デザートは、これだよ」と持ってくる。
ノアは、真っ赤なトマトにかぶりついた。
「おっ、うまい!」
「でしょう?ばあちゃんが作ったんだよ」

 ロビンは、トマトを食べる気がしなかった。毎日トマト。さすがにきる。口をとがらせて文句を言った。
「給食のデザートは、ゼリーとかプリンだよ。おかずだって、ハンバーグや、からげなんか、いろいろ出るんだ」

「ごめんね。ばあちゃんは、そういうの作れない。お母さんじゃないからね」

「あのさぁー。ぼく達の親って、どこにいるの?」

「ロビン、又その話かい?」

うわさを聞いたんだ。ぼく達は、タライ船に捨てられていたって、ほんと?」

「とうとう、聞いてしまったんだねぇー。あんた達を見つけたのは、ばあちゃんだよ。
しかたがない。ちゃんと、話す日が来たようだ」
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