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新世界

スタンピード

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「女と子供は中央の倉庫に逃げろ! 動ける奴は全員武器を持って戦え!」

 襲ってきた魔物の数は少なくとも百匹以上。ほとんどがゴブリンとかラビットみたいな弱い魔物だと言っても小さな村だと結構厳しい数だね……。

 そんな事を考えてると、村長さんがこっちに走ってきた。

「冒険者様。お二人ともまだ子供なので本当なら避難してもらう所ですが……お願いします!
 お礼ならなんでもします。どうかこの村を助けてください!」

 まぁこうなるよね……。この村で一番強いのは私達だけど、いくらなんでも魔物百匹は危ないんだけどな……。
 でもリリアちゃんは私の方を向いて言った。

「私は村の人を助けたいです! お願いです。ミズキさん!」

 あなたならそう言うと思ったよ。リリアちゃんにお願いされたなら仕方ないね。それに私も同じ気持ちだから。

「村長さん。ぜひ私達にも協力させてください! いくよ、ドーラ! サンド!」

 今日は出し惜しみしてられないし、対人戦のように複雑な指示はいらないから二匹同時の大盤振る舞いだよ! 

 リリアちゃんもドルちゃんとワンコロを収納から出した。

「ドーラとドルちゃんは足の遅いおじぃちゃんおばぁちゃんを倉庫まで運んであげて」

 魔物の足は早いからね。私達だってたくさん取り逃がしちゃうだろうし、まずは避難を先にしないと。全員守りきれるかな……不安になってきた。

 それでも私は全力を尽くそう。一人でも多く助けられるためにね。

 あっ、あっちの村人が危ない! このままじゃオークの剣に斬られちゃう!

「急いで剣を受け止めて!」

 なんとかサンドが間に入って剣を受け止めた。ふぅ……傷一つついてないね。
 流石、古代文明のゴーレム。うちのサンドの硬さはピカイチだよ!

「サンド! 反撃で魔物達に石の雨を降らせちゃって!」

 サンドが魔法でたくさんの岩を召喚して魔物に向かって投げ飛ばす。よし! 
 小さなゴブリンとコボルトを何体か倒せたよ! これで他の所で戦ってる村人達も楽になるはず。

 今回はどうなるかと思ったけど、弱い魔物がほとんどだったし、これなら危険もなく終われそう。良かった。

 そんな時、炎で明るくなった森の向こう側に砂埃が見えた。なにあれ?

「おい! あの砂埃はなんだ? 誰か見張り台から確認してくれ!」

 猟師さんも同じ事を考えてたみたい。一人のお兄さんが見張り台に登っていった。
 しばらく砂埃を見ていたお兄さんだけど、いきなり顔を真っ青にして叫んだ。

「まずい! あれも魔物だ! オーガもいるぞ! このままだと村が囲まれちまう!」

 嘘!? オーガなんて魔物なかなか遭遇しないものなのに……。

「冒険者様……勝算はどれくらいでしょうか?」

 村人達が不安そうな顔で聞いてくる。でもみんなの顔はどこかで希望を持っているようにも見えた。

 一度目の攻撃を耐え抜いたんだからと。
 でも……私はその期待に応える事は出来ない。

「数時間なら持ちこたえられるかも知れませんが……勝てる見込みは……ありません……」

 周りの村人達の顔が絶望に染まっていく。私ももう諦めたい。
 もし……今リリアちゃんと逃げ出せば……助かるかも知れない……。

 だって、私はもう十分頑張ったじゃん。サンドだって流石に傷ついてきたし、ドーラだってヘトヘトになるまで頑張った。

 本当に全力を出して頑張ったんだよ。だから仕方ないじゃん。

 でも村人さん達は強かった。涙も恐怖もこらえて私に聞いてきた。

「冒険者様。私達はまだ戦えます。だから……どうすれば助かるか教えてくれませんか?」

 そう質問してきたのは、さっきゴブリンに顔を殴られた若い男の人だった。
 鼻は折れ曲がって額から血を流しながらも、まだ槍を離さずに立っている。

「私も何だってします! 盾になる必要があるならなります! だから家族を助けてください、冒険者様!」

 そう言ったのは最近子供が七歳になったって夜ご飯の時に言っていた女の人だった。
 本当ならとっくに避難しているはずだけど、ここで剣を持っている。

 村人さん達は私達を頼ってきた。まだ会って一日の私達を。この中で一番強くて唯一戦う事に慣れている冒険者だからって。

 もしかしたら私達ならって……。
 仕方ないなぁ……。これじゃあ私が逃げるわけにはいかないじゃん。

 でもどうしようかな。流石に今いる私達と村人さんだけじゃ無理だよね。誰か助けを呼んでくるしかないけど……あちこちに魔物がいるのに危険すぎるよね……。

「私にも手伝わせてください! 私が助けを呼んできます!」

 振り向くとボランさんが手を高く上げていた。確か弱いからって、比較的安全な避難所の護衛だったはずじゃ……なんでここに?

「とても危険ですよ? 人数的に護衛をつける事も出来ません。」

「一度とある商人が私を恨んで嘘の情報を流した事がありました。面倒事に関わりたくない商会が私との契約を打ち切る中、この村の人達は私を信じてくれました。

 そのおかげで今も私は商人を続けられています。私はその恩に報いたいんです。任せてください。馬の速さなら誰にも負けません」

「分かりました。それではお願いします。ボランさんだけが頼りです」

 ボランさんはまだ魔物の少ない方向の道を走っていった。これで希望が出来たね。後は救助が来るまで耐えなきゃ。
 私は村人さん達に言った。

「皆さん。村を守るのは難しいでしょう。でも、無理ではありません! 助けが来るまで頑張りましょう!」
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