これは私の物語

笹乃笹世

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一章 村からの脱出

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「……兄さんの言う通りなのかも。 でもそれは兄さんだってそうでしょ?」
「それは……」
「――それに、それだけして街にたどり着けて……すぐに帰ってこられる?」
「……無理、だろうな」
「良いの? 結婚しようって約束したんでしょ?」
「したけど……――でもお前たちだけじゃ!」
「うん……きっとね? 兄さんが一緒ならすごく安心だと思う……でもさ? そのせいでリリーさんが悲しむのは違うし……――兄さんが約束破ってもいいことにはならないでしょ?」
「リリーが……」
「――来ちゃダメだよ」
「ダリア……」
「私たちのせいで兄さんとリリーさんがはなばなれになるのは違うよ」

 その言葉に兄さんは少し戸惑うが、やがて心配そうに顔を歪ませながら口を開いた。

「……本当に良いのか? 僕が残るってことは、お前が一番の姉ちゃんになるってことだぞ?」

 ここでの生活でまとめ役に、親代わりになるのは一番上の兄弟だ。
 お金の管理も料理や洗濯もこなさなくてはいけなくなる。 もちろん他の兄弟たちも手伝ってくれるだろうけど――私含めて、全員まだ身体が小さいからなぁ。 どうなるか……

「うん、不安だよ。 すっごく……でもやる。 だって今まで兄さんや姉さんにたくさん面倒見てもらったんだもん、ちょっとくらいなら出来るよ」

 そう言いながらウィリム、ロラン、プリムと視線を向けていく。 ウィリムは不安そうに顔をしかめて、ロランは不安そうにウィリムに引っ付いてたし、プリムも口をキュッと引き締めながら私に引っ付いていたけど、それでも兄さんとリリーさんが離れること、兄さんだけが我慢しなくてはいけないことを理解し、それはよくないことだと思ったのだろう、口々に「大丈夫……だと思う」「平気。 多分……」「プリム、出来るよ!」と答えた。
 それを聞いた兄さんは握りしめた手を震わせながら深くうつむく。 そして少しの時間を置いたあと、グッと顔をあげた。

「明日、リリーや親父さんたちと話してみる」
「――うん! 頑張れ!」

 そう答えると、ウィリムも後に続き、訳が分かっているのかいないのか、ロランとプリムも楽しそうに兄を応援し始める。

「……って、こんなこと言ってて、あっちに断られたら格好つかないけどな……?」
「……そしたらみんなでオルディン行こ?」
「――ここは「そんなことないよ大丈夫!」って励ますとこじゃないか……?」
「――……そんなことないよ! 大丈夫っ!」
「ったく……」
 
 ガリガリと頭をかく兄さんの肩が揺れ、それをきっかけに小屋の中に楽しげな笑い声が広がった。

 ――そして次の日。
 兄さんは無事にリリーさんと婚約。
 兄さんの年齢やまだ見習いと言うこともあり、結婚はちょっと先になるらしいが、跡を継ぐのだからと、その日から住み込みで大工の修行をすることになった、と伝えられた。
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