【完結】回復魔法だけでも幸せになれますか?

笹乃笹世

文字の大きさ
26 / 48

26

しおりを挟む
 そんなことを思いつつ、すぐに襲ってくるはずの衝撃にギュッと身を固くした。
 床に倒れこむその瞬間、なにかが肩と頭にれた気がした。

「え……?」

 ……抱きしめられている……?

 襲ってくるはずの衝撃も無ければ、痛みも無く、ソロリ……と目を開けると、そこには、呆れたような顔でこちらを見ているエド様の顔面があった。

「ーー貴女は……」
「ぅぇ……っ⁉︎」

 超至近距離にあるエド様のお顔に、私の喉から奇妙な音が漏れ出た。

 ーー眉間のシワも薄くなったし、クマも消えてお肌ツルピカ……ーーグッジョブ私だけど、こんなにイケメンだと正気を保てないのですか⁉︎

「魔力のほとんどを使い切り、あれだけ急に動けば目眩も起こるっ!  だからこそ貴族の令嬢は魔力切れを起こすほど魔法を使ってはいけないんだっ‼︎」
「…………はつみみ」

 ーーあ、人前で使うなって言われてたのって、そんな理由があったからなんだ……?

「ーー……以後、肝に命じてください」

 私の答えに、グググッと奥歯を噛み締めて何かを我慢したエド様は、ゆっくりと口を開くと、小さな子供に言い聞かせるかのように言った。

「了解です……」

 その威圧感に思わず頷きながら返事をしたが、呂律ろれつはろくに回らず、軽く頷いたはずの頭も自分の頭だということを疑うほどズシリと重たかった。



「アルバ枢機卿! 目が……お目覚めなのですか⁉︎」

 エド様の手を借りつつ、ゆっくりと体を起こしていると、アルバ枢機卿の意識が戻ったらしく、司祭がベッドの側で熱心に話しかけていた。

「ーーこんなに清々しい目覚めは久しぶりだ……」
「枢機卿……良かった……」
「……ーーすまないが、水を」
「ーーっはい……はいっ!」

 司祭は涙を堪え、グズグズと鼻を鳴らしながら枢機卿の世話を焼き始める。

 そんな会話を横目に、私はエド様に抱えられるようにしてなんとか立ち上がる。
 ーー抱きしめられたと思えればトキメキもするんだろうけど……確実に介護のそれなんだよなぁ……

 魔力が切れるとこんなことになるのか……ーーこれは皆が魔力温存するわけだわー……魔力が切れた治癒師なんて、文字通りお荷物でしか無いぞ……?


 立ち上がったあともエド様が支えていてくれるのに甘て、そのまま差し出された手を握りしめ続ける。

 ーーゆっくりとなら一人でも歩けそうだったけど、バランス崩したら危ないから。 念のためにね?
 それにご令嬢的には、人前で倒れるのとか、お恥ずかしい事だから!
 イルメラ貴族だから仕方がないよ‼︎

 ……相手が介護認識だって構わない。
 ファンサは思い込みだって誰かが言ってた!
 
 ーーそれに真剣な話、今回の件は原因を作った教会も、私をエスコート中のエド様にも原因の一端が無いとも言い切れないわけで……
 私は文句なんて言わないけど、エド様からしたら“ちゃんとエスコートしてましたから”って空気は絶対に出しておきたいんだと思うんだよねー。

「あっ……イルメラ様……ご気分は、その……」

 ようやく私の存在を思い出した司祭は、気まずそうな顔をしながらたずねる。

「大丈夫ですよー」

 きっとこの司祭にとってアルバ枢機卿はとても大切な人なんだろう。
 大切な人の病気がようやく治って、意識まで取り戻したんだもん、そりゃそののことなんて忘れちゃうよねー……

 ーー大丈夫イルメラちゃんと分かってるよ?
 気になんてしてないから。
 本当、全然してないから。


「ーーそちらは?」

 アルバ枢機卿がゆっくりと顔をこちらに向けて司祭にたずねる。

「こちらはベラルディ侯爵家ご令嬢、イルメラ様です」
「侯爵家の……?」

 その紹介にアルバ枢機卿は、だいぶ困惑を含んだ顔つきで司祭様にたずね返した。

「ーー……私、まだかろうじてその括りに入ってますよね……?」
「ーーその確認では無い。  今の君の格好はシスターにしか見えない。 ……それに貴族のご令嬢が本当に、見ず知らずの他人のために力を使ったのか? という確認も含まれているのだろう」
「あ、そういう……?」
「……べラルディ侯爵家、イルメラ様でございます」

 私たちの会話を横目に、司祭が念を押すように、もう一度私の紹介をした。

 なんでや。 アルバ枢機卿は疑って無いんだよって話を今していたところだっただろうが。

「ーー貴女が治療を……?」

 そう言いながら起きあがろうとする枢機卿をジェスチャーで止めつつ、口を開く。

「はい、無事に治せて良かったです」
「ーーなんと慈悲深い……ーー貴女はのようなお優しい方を私は他に知りません」

 うっすらと涙を浮かべつつ、大袈裟にお礼を言ってくれる枢機卿に、気恥ずかしくなり、キョドキョドと視線をさまよわせながら慌てたように答える。

「そんな、やめてくださいっ! 私はおにぎりが食べたかっただけなんです‼︎」
「ーーおに……?」

 キョトンとしたアルバ枢機卿の呟きと共に、耳元から「はあぁー……」と、いう大きなため息が聞こえてきた。
 チラリとそちらに視線を送ると、片手でひたいを頭を押さえながら首を横に振っていた。

 ーーどうして私の口はこうもお嬢様でいてくれないのかと……
 お嬢様は咄嗟とっさにおにぎりの話とか出さないんだって!

「ーー……私の力が多少なりともお役に立てたのであれば、嬉しく存じます」

 今からでもどうにかならないかと、すまし顔で取り繕ってみる。

「……なかなかに個性的なお嬢様のようで……?」

 困惑したようなアルバ枢機卿の言葉に、ムダな抵抗だったことをさとったのだった……
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』

鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」 王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。 感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、 彼女はただ――王宮を去った。 しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。 外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、 かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。 一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。 帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、 彼女は再び“判断する側”として歩み始める。 やがて明らかになるのは、 王国が失ったのは「婚約者」ではなく、 判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。 謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。 それでも―― 選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。 これは、 捨てられた令嬢が声を荒げることなく、 世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

処理中です...