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 着替えの準備が整うまでのあいだに、エド様に近付き、簡単に状況の説明を伝えておく。
 見栄を張って締め上げたところは当然、黙秘だ。

「くれぐれも無理はしないで下さい」

 ギュッと眉間にシワを寄せつつ、心配そうに声をかけられたが……

「治癒師は無茶してなんぼなんですよ? 人を治す時は無理でも通さないといけないんです!」

 胸を張って鼻息も荒く言ったが、冗談めかして声をひそめ、少しだけエド様に顔を近づけて話を続けた。

「ーーじゃないと師匠にベシコンされちゃいます」
「ーーあの方は……」

 私の言葉に頭を抱えるエド様。
 ……もしかして、私にまで木の棒を使ったのかと勘違いさせちゃった……?
 ま、後ろでペシペシされてめっちゃ怖かったけどー。



 司祭様が用意してくれたシスターさんたちに手伝ってもらいながら、シスター服に着替え、髪もほどいて一括ひとくくりにまとめる。
 あれだけ練習したお化粧はなんだか勿体無くて、口紅だけ拭き取っとり、あとは軽く押さえる程度にした。

 ーーシスター服って一回着てみたかったんだよねっ!
 ……今の私ってば、まんま聖女様みたいじゃ無い⁉︎
 この服、もらえたりとかするかなぁ……? これがあればコッソリ続けている聖女ごっこも一段と本格的になるのに……
 ーーこの人をちゃんと治せたら、快く譲ってもらえるかも……?
 治し終わったあと、コルセット閉めるとかイヤだし……



「さてと……やりますかー」

 そう呟いて、グッと手を握り気合を入れる。
 そしてイスに腰かけると、そっとアルバ枢機卿の手をとった。

 目を閉じて大きく深呼吸してから、魔法を発動させるため、ゆっくりと魔力を集めていく。
 そして魔法を発動させると、繋げた手のひらから、ゆっくりと魔法を流し込んでいく。
 悪いところが分かっていれば、そこに直接手をかざすのが早いんだけど、全身治すなら、こうして手から流すのが私流だ。 頭からの人や心臓からの人、肩からって人もいたりする。

 ーー途中経過はなんでもいいのだ。 最後に治っていれば。

 手からジワジワと浸透させるように魔法を流していく。
 頭のてっぺんから足のつま先までゆっくりと……ぐるぐると循環じゅんかんさせて臓器や血管も修復イメージで。
 どこかの臓器にダメージが蓄積していたのか、臓器を治そうとした瞬間から、ごっそりと魔力が持っていかれる感覚がした。

 ーーでもこれは回復させただけで治せては無さそう……
 こう……ーー健康な人からは感じる、魔力の押し返しみたいな反発がやってこないのだ。
 これが無い時は、大抵どこかに問題がある。

「これで治らないなら……」

 呟きながら師匠の教えをしっかりと思い返す。

 治そうと思って治せないなら、次にやるべきことはバランスを整えること。
 これも頭から足まで全て。
 血管の中や内臓に至るまで全てのバランスを整えていく……

 身体にとって悪いものだからって、それだけ消して終わりにしてはいけない。
 その人の身体は、治療されるその瞬間まで、悪いもの込みでバランスを保ってとうとしているのだ。
 だから悪いものを消して終わりにしてはいけない、例え身体にとっていいものであっても、多すぎれば毒になることもあるからだ。
 だから、治したはずなのに治っていないなら、そのバランスを整えるのが大切。

 ーー例え、体に害があるものでも、ある程度ならば人の身体は大丈夫に出来ている。
 むしろそれと戦う事で、人の体は強く健康になっていく。
  ーーそこを見誤ってはいけない。

 ですよね師匠!
 私ちゃんと覚えてるよっ‼︎

 バランスを整えるイメージで魔法を広げていくと、やはり内臓の辺りで先ほどよりもずっと多くの魔力が、ごっそりと奪われる感覚がして、それから弱々しいものではあったが、ほんの少しの押し返しを感じた。

「ーーお?」

 手に伝わった感覚に、思わず声をあげる。

「なにか問題でも……? 大丈夫なんですか⁉︎」

 すぐ近くで聞こえた切迫せっぱ詰まったような司祭の声に、いつのまにか閉じていた目を開けた。
 司祭は不安そうな顔をしながら、枢機卿と私をオロオロと見比べている。

 司祭に状況を伝える前に、念のためもう一度魔力を流してみる。

 確認は大切。
 しっかりやらないとベシコンされる……!

 何度か魔力を込めてみたが、やはりその都度つど、弱々しいけれどハッキリとした押し返しを感じた。
 ーーうん。 間違い無いな。
 私は大きく息を吐きながら、司祭に笑いかけると、

「治ったと思います」

と、声をかけた。

「なお ーー…………は?」
「もちろん治したばかりですので、すぐに立ち上がって元気ハツラツ!  ーーとはなりませんけど、これからしっかりと回復なさるはずですよ」
「ぇ……っと……ーーえっ?」
「はあぁぁぁ……久々にこんなにちから使ったー……」

 すると同時に、ものすごい倦怠感に襲われる。
 本当はちゃんと詳しい説明をすべきなんだけど、魔力の使いすぎたせいで、思いのほか怠く、手足が少し痺れ始めていた。

 ーー許されることなら、すぐにでもオフトゥンに抱きしめてもらいたい……
 あ、布団ふとんは無いけど…… その代わりに少し行儀はよろしく無いが、フラーっとイスの背もたれに背中を預けようと身体の力を抜いた瞬間だった。
 急に頭を動かしたのがいけなかったのか、力を抜いた瞬間から、グラグラとひどい目眩に襲われる。

「あやや…………?」
「ーーいっイルメラ様⁉︎」

 司祭の驚いたような声を聞きつつ、どこかに捕まろうと伸ばした手は、残念なことにどこを掴むことも出来ず、私はイスごと床の上にに倒れこんだのだった。

  ……この床石で出来てるから、すごく固そう……
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