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司祭様に案内されて入った部屋は、広々とはしていたが、家具らしい家具はベッドとベッドのそばにイスが一脚だけという、とても殺風景な部屋だった。
そして寒々しいほどに白い部屋だった。
真っ白な壁に真っ白な家具。
ベッドにも、やはり真っ白な天蓋が垂れ下がっていた。
「イルメラ様、こちらへどうぞ」
「はい……」
勧められるがままにベッドへと近付いて行く。
チラリと後ろを振り返ると、エド様は部屋の入り口を守る騎士のように、入り口そばの壁の近くに立っているのが見えた。
ーーその老人はそこに寝ていた。
呼吸により胸が上下していなければ、死んでいるのかと見間違ってしまっていたほどに、顔色は悪く生気が感じられなかった。
「……一体、どこが悪いんですか?」
司祭を振り返りながらたずねる。
「……分からないのです」
「……えっ?」
……いや、いくらなんでも分らないなんてことある?
完治しないにしたって、どの辺りを治した時にごっそり魔力持ってかれたなーとか、お腹辺りに魔法使うと顔色がよくなるから、きっと内臓だなーとか、なんかはあるじゃん⁉︎
ーー……まさかとは思うけど、具合が悪くなってからこんな状態になるまで、一回も治癒師が治して無いなんてことある?
ーーえ、老人虐待か? 出るとこ出るか⁇
「どこが悪いのか、それすらも不明なのです……ーー数人がかりで全身を回復させれば一時的に回復しますが、患部の特定には至らず……ーーそのような状況が続き……教会の治癒師は誰も手当てをしようとはしなくなりました……」
責めるような私の視線を受けて、司祭は悲しそうに目を伏せながら事情を説明し始めた。
「……したがらない?」
治癒師が、この状態の患者を前にして、手当てをしたがらない……?
そんなこと許されるの? えっ教会の治癒師たちは弱音を吐いても師匠に折檻されたりしないの⁉︎
「……ーーこの方はアルバ枢機卿」
「枢機卿……」
上の方から数えた方が早いくらいにはめっちゃ偉い人だぁ……
貴族ですらきちんとした敬意を払う身分の人……ーーえ、そんな偉い人の治療を拒否して、見殺しにしようとしてるってこと⁉︎
「ーー治療を施した結果、枢機卿をお救い出来なかったとなれば評価に傷がつきますゆえ……」
ギョッと目を剥いた私の言いたいことが伝わったのか、司祭はキツく手を握りしめ、怒りをやり過ごすかのように言った。
「……治療しなきゃ絶対に治らないのに……?」
「ーー秘密裏に他の治癒師を招き、治療を試みてはいるのですが……ーーやはり結果は変わらず……」
ーー本格的に教会の治癒師がクソ過ぎる……
大体、私たちが兵士たちの治療拒否なんてしたら、師匠におケツ叩かれちゃうよ?
ーーまぁ、私は叩かれた事ないけどー。
でも他の子たちは「気合い入れろ!」とか「泣き言いってるヒマがあったら治せ!」とか言われてベシコンされてるの見たことあるし、師匠ってば、いつでも叩けるように、後ろで木の棒ペチペチさせてんだから……
あれ、めっちゃ怖いんだよ……
ーーそれでも。
私たち治癒師は弱音なんて吐いちゃいけないんだ。
だって私たちが治せなかったら、その人の人生はそこで終わってしまうんだから……
だから「治せない」なんて言葉は、治癒師たる者たとえ死んでしまうことになったとしても、言ってはいけないって……
真っ先に叩き込まれる治癒師の精神を忘れたのか⁉︎
ーーゆるい師匠に教わるとそうなってしまうんだろうか……?
……この枢機卿を治したら、殺されちゃうとかならともかく、評価が悪くなるくらいなんだって言うんだ!
いいよ。 私が治してやんよっ!
ってか、これで治せず帰ったら、師匠にベシコンされちゃうよっ‼︎
「ーーでも……原因不明ってことになると……」
私は自分の服を見下ろして唇を噛み締めた。
「ーーやはり……?」
「えっ……まぁ、そうですね……?」
やだぁ、気が付かれてた……恥ずかしい。
ーーあ、でも治癒師と接する機会があるなら、そりゃ気が付くかー。
「そう……ですか……」
「ーー長期戦になりますので着替え用意して貰っても良いですか?」
「……はい?」
私のお願いを聞いた司祭は、まるで奇妙な生物を見るかのような目つきで私を見る。
ーーあれ? もしかしてこちらの事情を察した訳ではなかった……?
「……ええと、原因が分からない時は全部を治すじゃないですか? そうすれば原因がどこであっても治ってますし」
「……えっと……?」
「あ、原因がわからない時ってそうするんですけどね?」
「……はぁ」
「ーーそのためには……ーーこの服装ですと少々……」
「少々……?」
「ーー少々見栄を張っていたりしますので、長い間集中することが難しくてですね……?」
「ーーあっ……」
司祭様はなにかを察したような声を上げ、チラリと私のお腹あたりに視線を送った。
デリカシー! 紳士であるならばそこはグッと我慢してっ‼︎ 普通に見るのよくないっ‼︎
「そう……なのですか……ーーその、とてもそうとは……」
「あはー。 イケメンとのお出かけだったので、ちょっとだけ力入れすぎちゃいました……?」
「……なる、ほど?」
そう言った司祭は、やはりチラリと視線を後ろに送り、エド様を見る。
「なので動きやすい服装を貸していただければと……」
「ーーかしこまりました。 すぐにご用意させましょう」
そう言った司祭の顔はとても穏やかで輝いているように見えた。
ーー笑いを噛み殺しているのであれば話し合いの場を設けたいのですが……?
そして寒々しいほどに白い部屋だった。
真っ白な壁に真っ白な家具。
ベッドにも、やはり真っ白な天蓋が垂れ下がっていた。
「イルメラ様、こちらへどうぞ」
「はい……」
勧められるがままにベッドへと近付いて行く。
チラリと後ろを振り返ると、エド様は部屋の入り口を守る騎士のように、入り口そばの壁の近くに立っているのが見えた。
ーーその老人はそこに寝ていた。
呼吸により胸が上下していなければ、死んでいるのかと見間違ってしまっていたほどに、顔色は悪く生気が感じられなかった。
「……一体、どこが悪いんですか?」
司祭を振り返りながらたずねる。
「……分からないのです」
「……えっ?」
……いや、いくらなんでも分らないなんてことある?
完治しないにしたって、どの辺りを治した時にごっそり魔力持ってかれたなーとか、お腹辺りに魔法使うと顔色がよくなるから、きっと内臓だなーとか、なんかはあるじゃん⁉︎
ーー……まさかとは思うけど、具合が悪くなってからこんな状態になるまで、一回も治癒師が治して無いなんてことある?
ーーえ、老人虐待か? 出るとこ出るか⁇
「どこが悪いのか、それすらも不明なのです……ーー数人がかりで全身を回復させれば一時的に回復しますが、患部の特定には至らず……ーーそのような状況が続き……教会の治癒師は誰も手当てをしようとはしなくなりました……」
責めるような私の視線を受けて、司祭は悲しそうに目を伏せながら事情を説明し始めた。
「……したがらない?」
治癒師が、この状態の患者を前にして、手当てをしたがらない……?
そんなこと許されるの? えっ教会の治癒師たちは弱音を吐いても師匠に折檻されたりしないの⁉︎
「……ーーこの方はアルバ枢機卿」
「枢機卿……」
上の方から数えた方が早いくらいにはめっちゃ偉い人だぁ……
貴族ですらきちんとした敬意を払う身分の人……ーーえ、そんな偉い人の治療を拒否して、見殺しにしようとしてるってこと⁉︎
「ーー治療を施した結果、枢機卿をお救い出来なかったとなれば評価に傷がつきますゆえ……」
ギョッと目を剥いた私の言いたいことが伝わったのか、司祭はキツく手を握りしめ、怒りをやり過ごすかのように言った。
「……治療しなきゃ絶対に治らないのに……?」
「ーー秘密裏に他の治癒師を招き、治療を試みてはいるのですが……ーーやはり結果は変わらず……」
ーー本格的に教会の治癒師がクソ過ぎる……
大体、私たちが兵士たちの治療拒否なんてしたら、師匠におケツ叩かれちゃうよ?
ーーまぁ、私は叩かれた事ないけどー。
でも他の子たちは「気合い入れろ!」とか「泣き言いってるヒマがあったら治せ!」とか言われてベシコンされてるの見たことあるし、師匠ってば、いつでも叩けるように、後ろで木の棒ペチペチさせてんだから……
あれ、めっちゃ怖いんだよ……
ーーそれでも。
私たち治癒師は弱音なんて吐いちゃいけないんだ。
だって私たちが治せなかったら、その人の人生はそこで終わってしまうんだから……
だから「治せない」なんて言葉は、治癒師たる者たとえ死んでしまうことになったとしても、言ってはいけないって……
真っ先に叩き込まれる治癒師の精神を忘れたのか⁉︎
ーーゆるい師匠に教わるとそうなってしまうんだろうか……?
……この枢機卿を治したら、殺されちゃうとかならともかく、評価が悪くなるくらいなんだって言うんだ!
いいよ。 私が治してやんよっ!
ってか、これで治せず帰ったら、師匠にベシコンされちゃうよっ‼︎
「ーーでも……原因不明ってことになると……」
私は自分の服を見下ろして唇を噛み締めた。
「ーーやはり……?」
「えっ……まぁ、そうですね……?」
やだぁ、気が付かれてた……恥ずかしい。
ーーあ、でも治癒師と接する機会があるなら、そりゃ気が付くかー。
「そう……ですか……」
「ーー長期戦になりますので着替え用意して貰っても良いですか?」
「……はい?」
私のお願いを聞いた司祭は、まるで奇妙な生物を見るかのような目つきで私を見る。
ーーあれ? もしかしてこちらの事情を察した訳ではなかった……?
「……ええと、原因が分からない時は全部を治すじゃないですか? そうすれば原因がどこであっても治ってますし」
「……えっと……?」
「あ、原因がわからない時ってそうするんですけどね?」
「……はぁ」
「ーーそのためには……ーーこの服装ですと少々……」
「少々……?」
「ーー少々見栄を張っていたりしますので、長い間集中することが難しくてですね……?」
「ーーあっ……」
司祭様はなにかを察したような声を上げ、チラリと私のお腹あたりに視線を送った。
デリカシー! 紳士であるならばそこはグッと我慢してっ‼︎ 普通に見るのよくないっ‼︎
「そう……なのですか……ーーその、とてもそうとは……」
「あはー。 イケメンとのお出かけだったので、ちょっとだけ力入れすぎちゃいました……?」
「……なる、ほど?」
そう言った司祭は、やはりチラリと視線を後ろに送り、エド様を見る。
「なので動きやすい服装を貸していただければと……」
「ーーかしこまりました。 すぐにご用意させましょう」
そう言った司祭の顔はとても穏やかで輝いているように見えた。
ーー笑いを噛み殺しているのであれば話し合いの場を設けたいのですが……?
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