【完結】回復魔法だけでも幸せになれますか?

笹乃笹世

文字の大きさ
47 / 48

47

しおりを挟む
 使者にご退出願ったあとの応接室。

 隣に座っていたエド様は、身体ごと私の方に向き直ると、かしこまった態度で声をかけてくる。

「イルメラ嬢、私が言えた立場ではないが……そこまで気を使わなくても……」

 そう気まずげに顔をしかめるエド様。

 ーーでもさ? 私わりと本気で、今の私があるのってエド様のおかげだと思ってるんだよねー。
 私を拒まず受け入れてくれなきゃ、このお屋敷に住めてないし、騎士団で雇ってくれなきゃ、ここまで回復魔法を扱えるようになんてなってなかっただろうし……
 ーーだから私がエド様に気を使うのとか、当たり前みたいなとこあるんだよねー。

 ーー……そして、私はわりと確信しているんですけどね?
 今回の件で誰よりも気をつかわなくちゃいけないのは実の父親なんですよ……? 全く使ってこないけどねっ!
 ……反面教師にするもん。
 私は他人に気をつかえる子になるもん!

 ーーそもそも、この結論自体、誰に強要されたものでもないし。
 色んなものを天秤にかけた結果がこうなったってだけで、私にとってはベストな判断だ。

「ーー私はここが好きです。 お屋敷の皆も騎士団の皆もーー優しくて親切なご近所さんたちも。 だからエド様やバジーレ領に迷惑をかけるつもりはありませんし、本当にさっき出した条件で満足なんですよ」

 なんたって、現役侯爵令嬢も嫌がる要求だもん。 ……かろうじての現役、だけどー。

「ありがとうございます! ありがとうございますっ‼︎」

 その言葉と同時に、モンティー商会のご夫婦は二人揃って私の前に走り寄ってくると、何度も何度も頭を下げる。

「あー……ーー先に私を助けてくれたのは女将さんたちの方ですし……ーーお茶会での話題を鵜呑みにして暴走したレベッカ嬢が全面的に悪いと思いますし……」

 お茶会って言われると“すごく格式の高いもの”みたいなイメージになるけど、結局は茶飲み話なわけですよ。
 元の世界に置き換えるなら、学校帰りに友達とマックや公園で食っちゃべってる時の会話みたいなものなわけで……

 ーーそれで、あの大暴走とかヤバすぎでしょ……
 ……そんな女の侍女として入学って行為が罰ゲームに見えるレベル……
 ーー頑張れ……エミリーちゃん超頑張れ……!

「お嬢様……」
「ありがとうございます、ありがとうございまずぅ……!」

 夫妻は、安堵からか謝罪の気持ちからなのか、互いに手を取り合い、その場に膝を付きながら涙ながらに言った。

「ーーおかみさんたちは、化粧水沢山売ってくれればそれでいいから! あと……あんまりエミリーちゃんを叱らないであげて?」

 この世界の教育方法バグってるんだよ……
 言葉が通じる相手をしかってるのに、ムチだのロープだの持ち出すんですよ……?
 そんなん教育じゃなくて拷問だって……
 
 ーーしかも今回の騒動は貴族に被害を出しちゃってるから、お店が無くなるどころか、命まで失いかねない大事件なので……かなり叱られる可能性が……

「お嬢様……しかし……」
「ーームチで叩かれなくても、口で言えば分かりますから……」
「ーーーーはい?」

 私の言葉に長い沈黙ののち、おかみさんはポカン……と呆けた顔で私を見上げて首を傾げた。

 ーー待って?
 え、待って⁇
 ……もしかして……ウチだけ……?
 私の常識は皆さんの非常識だったりしますか……⁇

「……お嬢様のおたっしですよ?」

 気がついてしまった事実に愕然としていると、場の収集をつけるためか、ジーノさんがそっと気づかうような声でおかみさん達に返事をうながした。

「ーーはっはい! その通りに‼︎」

 条件反射のようにコクコクと頷き合い、愛想笑いを浮かべるご夫妻。

 ……これは本格的に私の常識が間違っているんだな……?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』

鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」 王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。 感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、 彼女はただ――王宮を去った。 しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。 外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、 かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。 一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。 帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、 彼女は再び“判断する側”として歩み始める。 やがて明らかになるのは、 王国が失ったのは「婚約者」ではなく、 判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。 謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。 それでも―― 選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。 これは、 捨てられた令嬢が声を荒げることなく、 世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

処理中です...