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第23話 帰還

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 ティリティアによる治療も終了し、クロニアは走るとまだ痛みが出るらしいが、普通に歩くくらいなら出来るようになったし、ベルモも矢毒の解毒は粗方出来たそうで、とりあえず『震え病(破傷風)』の危険は去ったらしい。

「勇者様の的確な応急処置が功を奏した結果です。お二人共、勇者様への感謝を忘れてはなりませんよ?」

 まぁその知識も聖剣の力なのだけれども、その辺は黙っていた方が良さそうだ。

「3人とも怪我は治っても体力は消耗したままだろ? 俺は1人で坑道の先を調べてくる。まだゴブリンがいるかも知れないしな。みんなはここで帰る準備をしながら休んでてくれ」

 聖剣の効能とかあまり詮索されたくないからな。適当な理由をつけてしばらく仲間達から距離を取らせてもらおう。

「待て! 独りは危険だぞ! もう少し時間をくれれば私達も…」

「いや、大丈夫だよ。すぐ戻るからそこに居てくれ」

 クロニアが呼び止めて来たが、真剣マジに俺1人の方が安全だし効率も良い。俺は単独で奥へと進んでいった。

 ☆

 結果から言うと奥にはゴブリンは居なかった。その代わり坑道の最奥に陣取っていたのは、全身を金属の様な甲羅に覆われた巨大なムカデに似た虫。俺の世界のゲームや小説だと「岩鎧虫ロックワーム」とか呼ばれそうな形状をしていた。

 この部屋の先は岩鎧虫の掘ったトンネルが数本伸びているみたいだが、受けた仕事の内容を考えると、そこまでの探索の必要は無いかなぁ…?
 
 なるほど確かにゴブリンはこれ以上進めないよな。岩鎧虫こいつの餌になっちゃうもんな。

 ゴブリン達の使っていた大広間とほぼ同じ大きさの部屋で俺は岩鎧虫とタイマンする羽目になった。逃げても良いんだが、もし追いかけてこられたらクロニア達をまた危険に晒しかねない。ここで退治しておくべきだろう。

 岩鎧虫はムカデの様な大きな牙で俺を食べようと攻撃を繰り出して来るが、場所の狭さが逆に敵の行動パターンを読みやすくしていた。
 岩鎧虫の甲羅もなかなか硬かったが、俺の聖剣の敵じゃない。まずは中心から半分に、次に頭部を斬り落として危なげなく勝利を収めた。

 こいつの甲羅は軽くて硬い為に、武具の素材に使えるかも知れなかったが、如何せん嵩張る上に通路が狭くて全部は持っていけない。仕方なくクロニアの盾に使えそうな大きさの甲羅と、ベルモの武器になるかなぁ? 岩鎧の牙、というか顎の骨を切り出して戦利品とした。

 ☆

「よっ、お帰り大将。何か暴れていた様な雰囲気はあったけど、怪我は… してないみたいだね。安心したよ」

 俺の帰還を真っ先に歓迎してくれたのはベルモだった。彼女達はすっかり出発の準備を整えて、時間潰しに俺の噂で盛り上がっていたらしい。

 俺はクロニアとベルモにお土産である怪物モンスターの死骸の一部を渡す。その軽さと堅牢さに2人とも概ね好感触で、町の鍛冶屋で武具として新生させるのが楽しみだそうだ。

「勇者様、わたくしには何も無いんですの…?」

 ティリティアが少しは拗ねた様な顔で俺に詰め寄る。

「あ~、ゴメン。ティリティアにはまた今度デッカイお土産を用意するから今回は…」

 慌てる俺を見て、ティリティアは満足そうに微笑んで俺に腕を絡めてきた。もう教義もへったくれもあったものではない。

「うふふ、冗談ですわ。勇者様にはゴブリン達からこの命を救って頂いただけでも最上の贈り物です… それにわたくしの浄化はまだ済んでいませんもの…」

「え…? そうなのか? どうすれば浄化出来るんだ…?」
 
 意外な情報に恐る恐る問うた俺に対して、ティリティアは俺の耳に口を寄せクロニア達に聞こえない大きさで耳打ちしてきた。

「勇者様の赤子ややを授かるまで、でしょうか…?」

 俺の子供?! いや確かに子供が出来るような事をしたけれども、そんな事… え? 俺に子供が出来るの…?

 正直言って心の準備が全く出来ていなかった。クロニアにしろベルモにしろ、もちろんティリティアにしろ(ひょっとしたらアイトゥーシアもか?)俺の子供を身籠る可能性はある。これまで避妊なんてしてなかったしね。

『子供』なんて予想だにしなかった俺が呆けて固まっているところを見て、ティリティアが急に笑い出した。

「軽い戯れですわ。あまり真剣にならないで下さいまし」

 目を細めて口元を緩めて俺を見るティリティア。だけどその瞳は全然笑ってなかったよね…?

 ☆

 結局討伐したゴブリンは、リーダーの妖術師シャーマンや子供5匹を含む22匹。これだけの集団が村を襲っていたらと考えると寒気がする。未然に防げて本当に良かった。
 
 パーティ全員が散々な目に遭った。特にティリティアの心の痛みは被害甚大だが、そこは俺も出来る限りフォローするし、何より時間が癒やしてくれるのを待つしか無さそうだ。

『大勝利』ではあったが、手放しで喜んでもいられない程度の喜びを抱えて、俺達はガルソム侯爵の屋敷へと進路を向けた。

 ☆

「1週間の期限を僅か3日で終わらせるとはさすがですな。確かにゴブリン22匹分の耳、受け取りました。約束通り『ベルモ傭兵団』と正式に契約を結び、ラモグ近くの森での狩猟と売買を許可します」

 ガルソム領の政務官はあっさりと了承し、晴れて『ベルモ盗賊団』改め『ベルモ傭兵団』は合法的に森で暮らせる事になった。

 ベルモは当初の目的を果たし、同時にそれを監視するクロニアの任務も終了した。
 この旅の成功は、すなわち2人との別れを意味していた……。
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