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第88話 野望
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「この国の王として立つのです!」
ここに来てようやくティリティアの目的が判明した。彼女は俺をこの国の… バルジオン王国の国王に据えようなどと、トンデモない事を画策していたのだ。しかし一体何のために…? ティリティアは俺の知る限り、無駄に権威や権力を求める様なタイプの女じゃ無かったはずだ。
そりゃ俺だって「冒険者として成り上がり、いつかは領地を預かる貴族になって田舎の開拓でもやってみようかな?」とか思ってたよ? だがさすがに『国』はスケールが大きすぎるし、何より想定外すぎる。
「なぁティリティア、でもそれって要は『王位簒奪』って事だよな? しかも途中で企みがバレたら国賊扱いで即処刑じゃないのか? 何もそこまで…?」
「そうですよティア… 今の話は聞かなかった事にしますから、そんな恐ろしい考えは改めてちょうだい… それに近衛の人事権は私にはありません。そんな都合良く行きませんよ…?」
俺と王女様の2人がかりでティリティアに反論する。しかしティリティアは自信たっぷりの涼しい顔を崩さない。
「私もたくさん迷って悩みました… 勇者様、貴方はその手に触れた女性を虜にできる力がある、そうですわね…?」
ティリティアの真摯な瞳が俺を刺す。かつて教会で大司教と話した帰りにティリティアと話した時の様に、ティリティアは俺の魔剣の本質をほぼ完全に理解している。
でもそれを理解して尚、ティリティアが俺の側から離れなかったのは、『愛の力』の成せる技だと考えていたが、どうやら俺の思い過ごしだったらしい。
あんなに「大好きだ」と言っていた王女様を巻き込んでまでこんな陰謀めいた真似をしているティリティアの考えが、俺には心底わからない。それが余計に恐ろしい。
ティリティアは「クロニアやベルモには話さない方が良い」と言っていたので、今の状況は完全にティリティア単独の作戦だろう。
俺は浅はかな嘘を大人に見破られた子供の様に、オドオドしながら頷く事しか出来なかった。
「今度の勇者様の八面六臂の活躍で、王の近侍であるゴルツ氏の信頼は得られました。しかし勇者様が『邪神の加護を受けている』可能性は否めませんし、そんな方を『冒険者』として野に放っておくのは、逆に危険であるとカーノ陛下なら考えるはずです…」
確かに俺は魔剣のせいで、無駄に王やその側近から疑いの目で見られており、そのせいで死にそうな目に遭った事もある。
王女様の話を聞くに、一番頭の固そうなゴルツさんからの疑惑は解除出来たみたいだけど、魔道士のリーナさんに遣わされたチャロアイトの任務は「有事の際の俺の暗殺」だし、大司教のライクさんだって笑顔で接してくれてはいるけど、あれは理性と優しさで『作られた』対応であり、本心から俺を信頼しているかどうかはかなり怪しい。
何より国王本人からは、俺に対してまだ強烈な警戒オーラをビンビン感じる。
今後ほんの軽い事件、或いは誤解から生じたトラブルであっても、俺が国家認定犯罪者として追われる羽目になるのは想像に難くない。
ティリティアもそこを懸念しており、その結果が今回の行動に繋がるのだろう。
「ならばこそ、国の内側に入り込み、王の側で己の身の証を立てる事こそが、正道であり真理であると考えますわ。何よりも私達の命を繋ぐために…」
饒舌に語るティリティア。きっとかなり前からこの状況を画策していたのだろう。ヒーローに対して自分の計画を滔々と語る悪役博士みたいな雰囲気がある。
そして当然ながらティリティアのお腹の中には赤ん坊がいる。俺たちにはその子をちゃんと産み育ててやる義務がある。親が罪人では子が報われない。
「あまり大きな声では言えませんが、カーノ王の治世も永遠ではありえませんし、いつか誰かが国を継がねばなりません。その時に実の兄弟以上にお慕いしているミア姉様をお預け出来るのは勇者様の他にいない、と考えましたの…」
そこまで話して「どうですか?」と言わんばかりに俺と王女様を交互を見つめるティリティア。
確かに彼女の実家であるガルソム侯爵家には、ティリティアと前後して男子が2人いたはずだ。
その兄弟を差し置いてでも『俺』を推してくるティリティアの本心は、愛なのか権謀なのか魔剣の魅了なのか…?
ティリティアの意見も分かるし、今がその唯一無二のチャンスである事も分かる。
ただその作戦には不可解な部分も見受けられる。それは……。
「でもティア… それが貴女に何の益をもたらすのですか? 先ほどは王女の為、みたいな物言いをしていたけれど、貴女はそんな単純な動機で動く娘では無いはずです… 教えてティア、貴女の本当の目的は何…?」
まさしく『それ』だ。ティリティアがこれまで語っていた理由は、多分に本心も含まれていただろうが、大半は「それらしく粉飾された御為ごかし」だったろう。
ティリティアは王女様の言葉に一瞬驚いた様な顔を見せるが、すぐに優しい微笑みでその驚きを隠してしまった。
「さすがミア姉様には隠し事は出来ませんね… それほどの洞察力、凡百の男性貴族に捧げるには勿体ないですわね…」
ティリティアはそこで言葉を切ると、まだ外見的な変化の見られない腹部を愛おしそうに撫でてみせた。
「ミア姉様、勇者様… 私は《国母》になりたいのです。私の生んだ子が王となり、国の頂点に立って世を統べる… それこそがかねてより考えていた私の夢であり野望なのです…」
知性で物を考えていると思っていたティリティアは、予想以上に子宮で物を考えていた。たとえ『そう』であっても、そのハードルはかなり高いぞ…?
「我が国の法では、家督の後継順位の第一位は男女に関わりなく『長子』である、と決められています。それがたとえ庶子であっても…」
呆気にとられている俺と王女様を前にティリティアは更に言葉を繋げる。
「もちろんその為には勇者様を早急に貴族に押し上げる必要があります。冒険者としての位階も高まり、大きな戦功を上げた。更に王女の近衛として次期国王をお守りして見せれば勇者様は程なく『貴族』に列せられるでしょうし重婚も認められます… 別に私自身は本妻ではなく側室の1人で充分なのですよ…」
ティリティアなりに現実を見据えた野望と悲しい覚悟… ここまで言って、ティリティアに対して沈黙を守っていた王女様が、身を乗り出して来た。
「待ってちょうだいティア… 貴女の考えはよく分かりました。それでも私はこの国の姫として、その様な簒奪計画に乗る事は致しかねます… 今宵の事はお互いに『夢であった』として、忘れましょう… 帰って下さい、もうお会いする事も無いでしょう…」
言葉を選びつつ苦しそうに吐き出す王女様の台詞は、聞いているこちらも胸に詰まされる物があった様に思えた。仲の良い妹の様な存在から、家督の乗っ取りを提案されるのは心情的にもキツイと思うぞ…?
「…かしこまりましたわ姉様。本日はこれにて失礼させて頂きます。では『ごきげんよう』」
計画を袖にされたにも関わらず、余裕の態度で部屋を後にするティリティア。当然俺も彼女の後を追う。
「ティリティア、大丈夫なのか…? これ王女様が王様なりゴルツのオッサンにチクリでもしたら俺たち…」
先を進むティリティアに声を掛けたが、彼女の振り向き顔は少し怒っているのと呆れている感情が半々に宿っていた。
「しゃんとなさいませ、未来の王よ。大丈夫です、必ず姉様からまた呼ばれます…」
えー? あの状況から何でそんな自信たっぷりにそんなこと言えるの…?
話が理解できずに呆けている俺に、ティリティアはまた優しく微笑んでくれた。
「貴方はご自分の御力に無頓着ですね。姉様は今頃もう既に寂しくなってしまっているはずですわ。貴方から離れる事など無理なのですから…」
ティリティアの予言通り、翌日の午後には俺達は王女様からの招待状を受け取る事になった……。
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「なぁティリティア、でもそれって要は『王位簒奪』って事だよな? しかも途中で企みがバレたら国賊扱いで即処刑じゃないのか? 何もそこまで…?」
「そうですよティア… 今の話は聞かなかった事にしますから、そんな恐ろしい考えは改めてちょうだい… それに近衛の人事権は私にはありません。そんな都合良く行きませんよ…?」
俺と王女様の2人がかりでティリティアに反論する。しかしティリティアは自信たっぷりの涼しい顔を崩さない。
「私もたくさん迷って悩みました… 勇者様、貴方はその手に触れた女性を虜にできる力がある、そうですわね…?」
ティリティアの真摯な瞳が俺を刺す。かつて教会で大司教と話した帰りにティリティアと話した時の様に、ティリティアは俺の魔剣の本質をほぼ完全に理解している。
でもそれを理解して尚、ティリティアが俺の側から離れなかったのは、『愛の力』の成せる技だと考えていたが、どうやら俺の思い過ごしだったらしい。
あんなに「大好きだ」と言っていた王女様を巻き込んでまでこんな陰謀めいた真似をしているティリティアの考えが、俺には心底わからない。それが余計に恐ろしい。
ティリティアは「クロニアやベルモには話さない方が良い」と言っていたので、今の状況は完全にティリティア単独の作戦だろう。
俺は浅はかな嘘を大人に見破られた子供の様に、オドオドしながら頷く事しか出来なかった。
「今度の勇者様の八面六臂の活躍で、王の近侍であるゴルツ氏の信頼は得られました。しかし勇者様が『邪神の加護を受けている』可能性は否めませんし、そんな方を『冒険者』として野に放っておくのは、逆に危険であるとカーノ陛下なら考えるはずです…」
確かに俺は魔剣のせいで、無駄に王やその側近から疑いの目で見られており、そのせいで死にそうな目に遭った事もある。
王女様の話を聞くに、一番頭の固そうなゴルツさんからの疑惑は解除出来たみたいだけど、魔道士のリーナさんに遣わされたチャロアイトの任務は「有事の際の俺の暗殺」だし、大司教のライクさんだって笑顔で接してくれてはいるけど、あれは理性と優しさで『作られた』対応であり、本心から俺を信頼しているかどうかはかなり怪しい。
何より国王本人からは、俺に対してまだ強烈な警戒オーラをビンビン感じる。
今後ほんの軽い事件、或いは誤解から生じたトラブルであっても、俺が国家認定犯罪者として追われる羽目になるのは想像に難くない。
ティリティアもそこを懸念しており、その結果が今回の行動に繋がるのだろう。
「ならばこそ、国の内側に入り込み、王の側で己の身の証を立てる事こそが、正道であり真理であると考えますわ。何よりも私達の命を繋ぐために…」
饒舌に語るティリティア。きっとかなり前からこの状況を画策していたのだろう。ヒーローに対して自分の計画を滔々と語る悪役博士みたいな雰囲気がある。
そして当然ながらティリティアのお腹の中には赤ん坊がいる。俺たちにはその子をちゃんと産み育ててやる義務がある。親が罪人では子が報われない。
「あまり大きな声では言えませんが、カーノ王の治世も永遠ではありえませんし、いつか誰かが国を継がねばなりません。その時に実の兄弟以上にお慕いしているミア姉様をお預け出来るのは勇者様の他にいない、と考えましたの…」
そこまで話して「どうですか?」と言わんばかりに俺と王女様を交互を見つめるティリティア。
確かに彼女の実家であるガルソム侯爵家には、ティリティアと前後して男子が2人いたはずだ。
その兄弟を差し置いてでも『俺』を推してくるティリティアの本心は、愛なのか権謀なのか魔剣の魅了なのか…?
ティリティアの意見も分かるし、今がその唯一無二のチャンスである事も分かる。
ただその作戦には不可解な部分も見受けられる。それは……。
「でもティア… それが貴女に何の益をもたらすのですか? 先ほどは王女の為、みたいな物言いをしていたけれど、貴女はそんな単純な動機で動く娘では無いはずです… 教えてティア、貴女の本当の目的は何…?」
まさしく『それ』だ。ティリティアがこれまで語っていた理由は、多分に本心も含まれていただろうが、大半は「それらしく粉飾された御為ごかし」だったろう。
ティリティアは王女様の言葉に一瞬驚いた様な顔を見せるが、すぐに優しい微笑みでその驚きを隠してしまった。
「さすがミア姉様には隠し事は出来ませんね… それほどの洞察力、凡百の男性貴族に捧げるには勿体ないですわね…」
ティリティアはそこで言葉を切ると、まだ外見的な変化の見られない腹部を愛おしそうに撫でてみせた。
「ミア姉様、勇者様… 私は《国母》になりたいのです。私の生んだ子が王となり、国の頂点に立って世を統べる… それこそがかねてより考えていた私の夢であり野望なのです…」
知性で物を考えていると思っていたティリティアは、予想以上に子宮で物を考えていた。たとえ『そう』であっても、そのハードルはかなり高いぞ…?
「我が国の法では、家督の後継順位の第一位は男女に関わりなく『長子』である、と決められています。それがたとえ庶子であっても…」
呆気にとられている俺と王女様を前にティリティアは更に言葉を繋げる。
「もちろんその為には勇者様を早急に貴族に押し上げる必要があります。冒険者としての位階も高まり、大きな戦功を上げた。更に王女の近衛として次期国王をお守りして見せれば勇者様は程なく『貴族』に列せられるでしょうし重婚も認められます… 別に私自身は本妻ではなく側室の1人で充分なのですよ…」
ティリティアなりに現実を見据えた野望と悲しい覚悟… ここまで言って、ティリティアに対して沈黙を守っていた王女様が、身を乗り出して来た。
「待ってちょうだいティア… 貴女の考えはよく分かりました。それでも私はこの国の姫として、その様な簒奪計画に乗る事は致しかねます… 今宵の事はお互いに『夢であった』として、忘れましょう… 帰って下さい、もうお会いする事も無いでしょう…」
言葉を選びつつ苦しそうに吐き出す王女様の台詞は、聞いているこちらも胸に詰まされる物があった様に思えた。仲の良い妹の様な存在から、家督の乗っ取りを提案されるのは心情的にもキツイと思うぞ…?
「…かしこまりましたわ姉様。本日はこれにて失礼させて頂きます。では『ごきげんよう』」
計画を袖にされたにも関わらず、余裕の態度で部屋を後にするティリティア。当然俺も彼女の後を追う。
「ティリティア、大丈夫なのか…? これ王女様が王様なりゴルツのオッサンにチクリでもしたら俺たち…」
先を進むティリティアに声を掛けたが、彼女の振り向き顔は少し怒っているのと呆れている感情が半々に宿っていた。
「しゃんとなさいませ、未来の王よ。大丈夫です、必ず姉様からまた呼ばれます…」
えー? あの状況から何でそんな自信たっぷりにそんなこと言えるの…?
話が理解できずに呆けている俺に、ティリティアはまた優しく微笑んでくれた。
「貴方はご自分の御力に無頓着ですね。姉様は今頃もう既に寂しくなってしまっているはずですわ。貴方から離れる事など無理なのですから…」
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