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第94話 密談
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「一旦場所を変えましょう。絶対に盗聴されない場所があるの」
そう言うチャロアイトに連れられて、俺とティリティアは裏通りの目立たない酒場へとやって来た。
看板には『片目の興梠亭』と書かれている。初めて来る場所だが、何だか聞き覚えがあるような…?
「よぉ、いらっしゃい。先客はもう来ているぜ。奥の部屋に行きな」
カウンターの奥に控えていた主人は、王様との謁見の時や出陣式の時に声を掛けてくれた痩せぎすで目つきの悪い不健康そうなオヤジさん、ディギールさんだった。
王様の元一党で、王様やゴルツさんが俺の事を『魔の手先』として警戒していた頃から、俺の事を信じて(?)対応してくれた人だ。
人相は悪いが、俺は心根は悪い人では無いと思っている。
「おいチャロアイト、先客って…?」
「安心して。貴方も知っている人よ…」
俺の質問には一顧だにせず、チャロアイトは奥の部屋とやらにずんずんと進んでいく。
イマイチ話が見えないのは不安だ。ティリティアもろとも俺を暗殺するべく場所を選んでいる可能性もある。
あのディギールってオッサンも俺の見立てでは腕利きの暗殺者か何かだ。魔剣の振れない狭い場所での戦いの不利はガドゥ戦で嫌というほど身に沁みている。
警戒は必要かもな…?
細い灯りに照らされた通路の奥の部屋でチャロアイトが扉をノックする。即座に「どうぞ」というくぐもった低い声が返ってきた。
チャロアイトが扉を開けたその奥には、かつて俺たちと合流する前にチャロアイトが身に付けていた魔導士の衣装を纏った人物が座っていた。
☆
「お久しぶりね、剣士くん。ティリティアちゃんもお元気?」
仮面を外した魔導士の中から、ティリティアと変わらない美少女が現れ、ニッコリとした笑顔で俺達を迎えた。
金髪のショートカットで一見活発そうな外見でありながら、深慮遠謀を備えた眼力を持つ年齢不詳の魔女、誰あろうチャロアイトの所属する『幻夢兵団』の頭領リーナだ。
「話が大きくなりそうだったので私が念話でお呼びしたのよ。私の独断で動かせる案件じゃないから…」
「そうよ~? チャロアイトったら淑女に支度する時間もろくに与えてくれないんだから、酷いと思わない?」
相変わらずこのリーナって人は、何を考えているのかよく分からない。
国の魔術研究と諜報機関を牛耳る要人でありながら、見かけは10代の少女に見えるし、その言動や態度も外見相応に軽い。
かつては現在40歳前後と思しき王様の冒険仲間であったそうなので、ミア姫と幾つも変わらない年齢と言うのは常識的にありえない。
恐らく魔術的、魔法薬的な処置で驚異的なアンチエイジングをして、現在の見た目にしているのだろう。年齢の事を揶揄したら火球が飛んでこないとも限らないな……。
「話のあらましはチャロアイトから聞いているけど、詳しい話を詰めに来たのよ。手を差し違えると冗談抜きで大事になりかねないからね…」
いつもみたいに「リーナちゃんですっ!」みたいな若作りしたアクションじゃなくて、実年齢相応と思われる大人のイントネーションで挨拶するリーナ。ここからはふざけるシーンじゃないみたいだな……。
☆
「まず今回の任務の説明をするわ。『非友好国への潜入調査』なんて仕事が冒険者匠合で認められる訳は無いので、名目上は『商用で訪れたギルド職員イクチナ・バリガの護衛』と言う形で仕事を依頼するわ」
リーナさんの口から語られる今回のお仕事。やはり表には出せない仕事なのね。ギルド経由じゃないから冒険者レベルを上げられない、とかは勘弁してくれよ?
しかし懐かしい名前だな『イクチナさん』。素顔のチャロアイトと初めて会った時に彼女が名乗った偽名だ。ちなみに本物のイクチナさんは冒険者匠合の投資等を始めとする資産運用の担当者で、俺達も世話になっている。
ていうか敢えてツッコまないけど、勝手に他人のふりして外国とか行っても良いのかよ?
「安心して。冒険者匠合にいるイクチナという女も本名じゃないから」
そうなのか? すると冒険者達の資産運用ももしかして幻夢兵団の仕事の一つとか、そういう話?
「話を続けるわね…」
更にリーナからチャロアイトの新しい任務に同行する事について、幾つかの注意を受ける。
なにせ『ウルカイザー公国』は外国であり、バルジオンの様な『冒険者制度』で国家がゴロツキを管理していない。
冒険者というフリーランスがトラブルを解決する慣習も無いそうで、つまる所「冒険者です」と自己紹介しても、野盗かせいぜい物乞い程度の認識しかされていない場所らしい。
「言うまでもないけどティリティアちゃんは連れていけないわよ? 機動力が必要となる任務に妊婦は連れていけないわ」
リーナの説明に頬を膨らませて「なぜですの?!」と抗議するティリティア。いやむしろ何でそんなハードな任務についてこようとしてんだよ?
「そうやって私を除け者にしようとするのは止めてくださいまし。私だって十二分にお役に立て…」
「貴女はともかく、お腹の子に何かあっても責任取れないのよ? 途中の山道で転んだりするだけでも簡単に流産しかねないんだから…」
チャロアイトが横入りしてくる。その真摯な声には有無を言わせぬ圧力があった。まぁこの件に関しては俺もチャロアイトと同意見だ。ティリティアは何でも首を突っ込んで、何かと無理しすぎる傾向がある。
「それよりも貴女には別の仕事をお願いしたいの。故郷のガルソム侯爵に働きかけて、万が一戦争になった時に備えて欲しいのよ」
リーナの口から『戦争』と言う穏やかならざる言葉を聞いて、俺もティリティアも身を固くする。
俺達がこれからやろうとしているのは、詳細こそ聞いていないものの間違いなくスパイ行為だ。もし俺達がヘマをした場合、本当に国同士の争いに発展する可能性は多分にある。
「でも父や兄にそんな突飛な事を話しても、一笑に付されるだけですわ…」
「最悪それでも良いの。何も知らないまま奇襲を受けて蹂躙されるよりは、少しでも心の準備が出来ていれば何かしらの対応は出来るから」
確かに前もってティリティアが戦火の警告をしていれば、実際に対応しないまでも心構えは備えられる。
「ティリティア、俺からも頼む。いきなり戦争になる様な事は無いだろうけど、あのガドゥが動いているなら目的を突き止めて妨害しないと…」
俺とチャロアイトの2人に説得されて、ティリティアも目を伏せて小さく「はぁ…」とため息をつく。
「分かりましたわ。ついでにクロニア達にも王都ではなくガルソムの屋敷に来るように文を出しておきましょうか…」
分かってくれたらしい。しかもクロニア達と合流しといてもらえるならティリティアの身辺警護も安心だろう。恐らく彼らの持参した薬で、回復したベルモも一緒だろうしな。
「私自身、実家にはあまり近寄りたくないし、クロニアの叔父様のいらっしゃる衛兵隊本部にご注進申し上げるのも悪くないでしょう」
あー、まだ親父の侯爵様とのケンカは続いているのか… でも侯爵はまだティリティアを正確に勘当していないはずだから、帰っても邪険にされる事は無いと思うけどなぁ。
「私も職場放棄同然で王都まで行ってしまったので、一言お詫びのご挨拶をしたいですし、用事が済めばラモグの町あたりで待機していますわ」
まぁそれがベストかな? 下手にうろつかれてトラブルを起こされるよりは余程良い。でも俺、ラモグで指名手配されてるからなぁ… あれって解除されたのかな? されてないだろうなぁ……。
そう言うチャロアイトに連れられて、俺とティリティアは裏通りの目立たない酒場へとやって来た。
看板には『片目の興梠亭』と書かれている。初めて来る場所だが、何だか聞き覚えがあるような…?
「よぉ、いらっしゃい。先客はもう来ているぜ。奥の部屋に行きな」
カウンターの奥に控えていた主人は、王様との謁見の時や出陣式の時に声を掛けてくれた痩せぎすで目つきの悪い不健康そうなオヤジさん、ディギールさんだった。
王様の元一党で、王様やゴルツさんが俺の事を『魔の手先』として警戒していた頃から、俺の事を信じて(?)対応してくれた人だ。
人相は悪いが、俺は心根は悪い人では無いと思っている。
「おいチャロアイト、先客って…?」
「安心して。貴方も知っている人よ…」
俺の質問には一顧だにせず、チャロアイトは奥の部屋とやらにずんずんと進んでいく。
イマイチ話が見えないのは不安だ。ティリティアもろとも俺を暗殺するべく場所を選んでいる可能性もある。
あのディギールってオッサンも俺の見立てでは腕利きの暗殺者か何かだ。魔剣の振れない狭い場所での戦いの不利はガドゥ戦で嫌というほど身に沁みている。
警戒は必要かもな…?
細い灯りに照らされた通路の奥の部屋でチャロアイトが扉をノックする。即座に「どうぞ」というくぐもった低い声が返ってきた。
チャロアイトが扉を開けたその奥には、かつて俺たちと合流する前にチャロアイトが身に付けていた魔導士の衣装を纏った人物が座っていた。
☆
「お久しぶりね、剣士くん。ティリティアちゃんもお元気?」
仮面を外した魔導士の中から、ティリティアと変わらない美少女が現れ、ニッコリとした笑顔で俺達を迎えた。
金髪のショートカットで一見活発そうな外見でありながら、深慮遠謀を備えた眼力を持つ年齢不詳の魔女、誰あろうチャロアイトの所属する『幻夢兵団』の頭領リーナだ。
「話が大きくなりそうだったので私が念話でお呼びしたのよ。私の独断で動かせる案件じゃないから…」
「そうよ~? チャロアイトったら淑女に支度する時間もろくに与えてくれないんだから、酷いと思わない?」
相変わらずこのリーナって人は、何を考えているのかよく分からない。
国の魔術研究と諜報機関を牛耳る要人でありながら、見かけは10代の少女に見えるし、その言動や態度も外見相応に軽い。
かつては現在40歳前後と思しき王様の冒険仲間であったそうなので、ミア姫と幾つも変わらない年齢と言うのは常識的にありえない。
恐らく魔術的、魔法薬的な処置で驚異的なアンチエイジングをして、現在の見た目にしているのだろう。年齢の事を揶揄したら火球が飛んでこないとも限らないな……。
「話のあらましはチャロアイトから聞いているけど、詳しい話を詰めに来たのよ。手を差し違えると冗談抜きで大事になりかねないからね…」
いつもみたいに「リーナちゃんですっ!」みたいな若作りしたアクションじゃなくて、実年齢相応と思われる大人のイントネーションで挨拶するリーナ。ここからはふざけるシーンじゃないみたいだな……。
☆
「まず今回の任務の説明をするわ。『非友好国への潜入調査』なんて仕事が冒険者匠合で認められる訳は無いので、名目上は『商用で訪れたギルド職員イクチナ・バリガの護衛』と言う形で仕事を依頼するわ」
リーナさんの口から語られる今回のお仕事。やはり表には出せない仕事なのね。ギルド経由じゃないから冒険者レベルを上げられない、とかは勘弁してくれよ?
しかし懐かしい名前だな『イクチナさん』。素顔のチャロアイトと初めて会った時に彼女が名乗った偽名だ。ちなみに本物のイクチナさんは冒険者匠合の投資等を始めとする資産運用の担当者で、俺達も世話になっている。
ていうか敢えてツッコまないけど、勝手に他人のふりして外国とか行っても良いのかよ?
「安心して。冒険者匠合にいるイクチナという女も本名じゃないから」
そうなのか? すると冒険者達の資産運用ももしかして幻夢兵団の仕事の一つとか、そういう話?
「話を続けるわね…」
更にリーナからチャロアイトの新しい任務に同行する事について、幾つかの注意を受ける。
なにせ『ウルカイザー公国』は外国であり、バルジオンの様な『冒険者制度』で国家がゴロツキを管理していない。
冒険者というフリーランスがトラブルを解決する慣習も無いそうで、つまる所「冒険者です」と自己紹介しても、野盗かせいぜい物乞い程度の認識しかされていない場所らしい。
「言うまでもないけどティリティアちゃんは連れていけないわよ? 機動力が必要となる任務に妊婦は連れていけないわ」
リーナの説明に頬を膨らませて「なぜですの?!」と抗議するティリティア。いやむしろ何でそんなハードな任務についてこようとしてんだよ?
「そうやって私を除け者にしようとするのは止めてくださいまし。私だって十二分にお役に立て…」
「貴女はともかく、お腹の子に何かあっても責任取れないのよ? 途中の山道で転んだりするだけでも簡単に流産しかねないんだから…」
チャロアイトが横入りしてくる。その真摯な声には有無を言わせぬ圧力があった。まぁこの件に関しては俺もチャロアイトと同意見だ。ティリティアは何でも首を突っ込んで、何かと無理しすぎる傾向がある。
「それよりも貴女には別の仕事をお願いしたいの。故郷のガルソム侯爵に働きかけて、万が一戦争になった時に備えて欲しいのよ」
リーナの口から『戦争』と言う穏やかならざる言葉を聞いて、俺もティリティアも身を固くする。
俺達がこれからやろうとしているのは、詳細こそ聞いていないものの間違いなくスパイ行為だ。もし俺達がヘマをした場合、本当に国同士の争いに発展する可能性は多分にある。
「でも父や兄にそんな突飛な事を話しても、一笑に付されるだけですわ…」
「最悪それでも良いの。何も知らないまま奇襲を受けて蹂躙されるよりは、少しでも心の準備が出来ていれば何かしらの対応は出来るから」
確かに前もってティリティアが戦火の警告をしていれば、実際に対応しないまでも心構えは備えられる。
「ティリティア、俺からも頼む。いきなり戦争になる様な事は無いだろうけど、あのガドゥが動いているなら目的を突き止めて妨害しないと…」
俺とチャロアイトの2人に説得されて、ティリティアも目を伏せて小さく「はぁ…」とため息をつく。
「分かりましたわ。ついでにクロニア達にも王都ではなくガルソムの屋敷に来るように文を出しておきましょうか…」
分かってくれたらしい。しかもクロニア達と合流しといてもらえるならティリティアの身辺警護も安心だろう。恐らく彼らの持参した薬で、回復したベルモも一緒だろうしな。
「私自身、実家にはあまり近寄りたくないし、クロニアの叔父様のいらっしゃる衛兵隊本部にご注進申し上げるのも悪くないでしょう」
あー、まだ親父の侯爵様とのケンカは続いているのか… でも侯爵はまだティリティアを正確に勘当していないはずだから、帰っても邪険にされる事は無いと思うけどなぁ。
「私も職場放棄同然で王都まで行ってしまったので、一言お詫びのご挨拶をしたいですし、用事が済めばラモグの町あたりで待機していますわ」
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