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第101話 凶兆
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ウルカイザー滞在2日目。チャロアイトは早速ウルカイザー公国のお偉いさんと会合を持つらしく、その支度として書類やら何やらを自前の肩掛け鞄に詰め込んでいる。俺は魔剣他のちょっとした私物以外は手ぶらで良いんだよな?
「復習するわよ? 『現在バルジオンで使われている冒険者制度をウルカイザーでも採用してもらい、国を跨いだ冒険者匠合同士の交流を持ちたい』というのが、表向き私達の仕事。ここまでは良い?」
実はこの『冒険者制度』ってのは、バルジオン国内でも首都バルジオから離れると、途端に影響力が落ちてくる。
俺が始めに立ち寄ったラモグの町でも『冒険者』って連中は、『定職に就かない何でも屋』や『食いっぱぐれたその日暮らしの労務者』程度の意味でしか無かったのを思い出す。
当然ここウルカイザーもそれに近く、『冒険者』を名乗ってトラブル解決を持ちかけ前金を横領して逃げたり、山賊退治を依頼されても討伐対象の山賊と合流してしまったりと、なかなかにレベルの高い悪行ぶりらしい。
ちなみにウルカイザーでそういった悪辣な連中を裁定しているのが政府の役人ではなく、『盗賊匠合』という事だった。
始めは「盗賊が組合作って何をするんだろう?」と思っていたが、普段は金持ちや貴族連中の情報(金のある場所や警備状況、時間帯による変化等)を売り買いしているそうだ。
逆にそういった盗賊対策のアドバイザーも請け負っており、金持ち連中からは高評らしいが、それって限りなくマッチポンプな気がするぜ…?
更に余所からの盗賊の新規参入を防ぐ意味なのだろう、地元のヤクザよろしく仁義を通さない余所者を排除したり、貧しい人達に配給などもしているらしい。
まぁその予算は配下の泥棒達の盗んだ金から出ているかも知れないが、やらない善よりやる偽善かな? と思わないでもない。
チャロアイト… いやリーナの思惑としては、ゴロツキを『冒険者』として管理する事で、犯罪に走らずとも依頼をこなして金を稼げる様になるし、それが定職になれば悪さをしなくても生きていける様になる。
国の東にある『虚無』対策としても、以前にバルジオンがやった様に、貴族の子弟が多く含まれる正規軍よりも、金で使い捨てられる冒険者を傭兵代わりに使う方が「割が良い」とも考えられる。
相対的に治安も回復し、治安が良ければ政情や経済も安定するから、すなわちウルカイザー公国の為になる。という論調だな。
現にバルジオンの罪人や落ちぶれた冒険者がウルカイザーに密入国して悪さを続けている場合、バルジオンとウルカイザーのギルドで連携が取れれば、そいつらの摘発もしやすくなる。
とまぁ、諸々ウルカイザーとしても悪い話では無いだろうし、国内の犯罪者予備軍を『冒険者』の名で管理できるのも有益だよな。
バルジオンとしても、ウルカイザーとすぐに事を構えるつもりが無い以上、ウルカイザーの政情は安定していて欲しいはずだ。
「でも内容が何であれ、仲の悪いバルジオンからの提案をウルカイザーが飲むかねぇ?」
例えどんなに良い話でも、最後に物を言うのはやはり『信用』だ。バルジオンとウルカイザー両国はその『信用』がお互いに地に落ちている。
「それなのよねぇ… まぁ今回の主任務は『ガドゥの捜索』だから、冒険者匠合の話は『上手く行けば僥倖』くらいの気持ちで良いんじゃないかしら?」
諦めを含んだ白けた口調だが、チャロアイトも『成すべき事』の順列が出来ない女じゃない。
冒険者匠合どうこうはあくまでも表向き。俺たちの任務はガドゥの捜索と、可能ならばウルカイザーとの繋がりを暴く事だ。
☆
「国務大臣との会談の場に従者は入れませぬ。イクチナ・バリガ様のみご入場願います」
チャロアイトが会談する相手はウルカイザーの国務大臣、名前は聞いたが聞いて5分で忘れてしまった。まぁとにかくその人の屋敷に来たは良いが、受付の段階で俺だけ締め出される羽目になったのだ。
「私なら大丈夫。罠であってもそれなりに備えてあるからちゃんと戻れるわ。貴方はそうねぇ… ここに来る途中で酒場があったでしょ? そこで休んでて。終わったら行くから」
だそうだ。分かってはいたが、『冒険者』の身分では本当に軽く見られる。バルジオンでもそうなのだから、ウルカイザーじゃ本当に『野盗崩れ』くらいの認識しかされていない気がする。
まぁそれがそういう文化なのだから仕方ないよな。この任務で結果を出せば俺も貴族の仲間入りが出来る事だろうし、つまらない事でへそを曲げて全てをご破算にしてしまっては元も子もない。
という訳で俺は1人、酒場… というか「酒も出す町の食堂」と思われる店を訪ねた。カウンター席とテーブルが4つ、今いる場所はアッパータウンなのせいか、店は小綺麗で店の客層も悪くは無さそうに見える。ガラの悪いゴロツキでなく、常連と思われる近所の商店の親父さんとかがくつろいでいる感じ。
「これで適当に食べ物と水を」
俺は店の女将さんにチャロアイトから貰った小遣い銭を渡して注文をする。
ちなみにウルカイザーはバルジオンとは別にウルカイザー発行の硬貨を使って商取引をするが、基本の通貨単位はバルジオン同様『カイ』で、その為替もほぼ1:1だそうだ。
これは両国共に国教がアイトゥーシア教会である事から来ている話らしい。まぁ俺みたいな新参者には分かりやすくて助かるわ。
☆
「おい、なんかバルジオン臭ぇ奴がいるぜ…」
出てきたゴムみたいな歯ごたえの魚(うん、多分魚)料理を食べ終わろうか、というタイミングでガラの悪そうな輩が3人ほど入ってきた。
まぁ十中八九俺に絡みにわざわざ店に入ってきたとしか思えない展開だ。当然ながら俺は背中のマントにバルジオンの国旗を描いたりしていない。
もちろん『バルジオン臭』などという臭いがあるはずも無い。俺に残っているのはせいぜいチャロアイトの昨夜の残り香くらいだろう。
つまり俺がバルジオンからの渡航者である事を知りつつ、俺が1人になる瞬間を狙って絡んできたのは確実だ。
奴らの素性は分からないが、あまり騒ぎを起こすなとは言われている。別に俺が揉め事を起こしている訳じゃないんだけどね。
「ケンカなら外でやっておくれよ…」
女将さんは恐る恐る俺とチンピラを交互に見つつ、慄いて店の奥に引っ込んでしまった。
まぁしょうがないから『食後の腹ごなし的な意味で相手してやろうか』と立ち上がり彼らと向き合う。
「俺に用事があるなら外で聞くよ。店に迷惑かけたくない」
「話が早ぇ。従いてきな」
彼らの1人が先導し、残りの2人が三角形に囲む様に俺の後ろに付いて歩く。
…なんだか妙な違和感がある。彼らの目的が俺やバルジオンへの嫌がらせなら、町中で散々侮辱して挑発し乱闘事件にして、俺を加害者として晒し上げる方が効果的だ。
それをせずに俺を人気の少ない路地裏へ誘導しているのは、何か別の… 他の町民には見せたくない事情があると考えるのが自然だろう。
やがて裏路地の奥まった場所に着いたのだが、そこに待ち構えていたのは想定外の極みといった人物……。
「よぉブタ、久しぶりじゃん? まさか異世界人生が楽しくて、俺の顔を忘れたとか言わないよな…?」
「な… 新井、くん……?」
それは前世で俺をイジメていた奴らのリーダー格、俺の死因の間接的な原因でもある元クラスメイトだった……。
「復習するわよ? 『現在バルジオンで使われている冒険者制度をウルカイザーでも採用してもらい、国を跨いだ冒険者匠合同士の交流を持ちたい』というのが、表向き私達の仕事。ここまでは良い?」
実はこの『冒険者制度』ってのは、バルジオン国内でも首都バルジオから離れると、途端に影響力が落ちてくる。
俺が始めに立ち寄ったラモグの町でも『冒険者』って連中は、『定職に就かない何でも屋』や『食いっぱぐれたその日暮らしの労務者』程度の意味でしか無かったのを思い出す。
当然ここウルカイザーもそれに近く、『冒険者』を名乗ってトラブル解決を持ちかけ前金を横領して逃げたり、山賊退治を依頼されても討伐対象の山賊と合流してしまったりと、なかなかにレベルの高い悪行ぶりらしい。
ちなみにウルカイザーでそういった悪辣な連中を裁定しているのが政府の役人ではなく、『盗賊匠合』という事だった。
始めは「盗賊が組合作って何をするんだろう?」と思っていたが、普段は金持ちや貴族連中の情報(金のある場所や警備状況、時間帯による変化等)を売り買いしているそうだ。
逆にそういった盗賊対策のアドバイザーも請け負っており、金持ち連中からは高評らしいが、それって限りなくマッチポンプな気がするぜ…?
更に余所からの盗賊の新規参入を防ぐ意味なのだろう、地元のヤクザよろしく仁義を通さない余所者を排除したり、貧しい人達に配給などもしているらしい。
まぁその予算は配下の泥棒達の盗んだ金から出ているかも知れないが、やらない善よりやる偽善かな? と思わないでもない。
チャロアイト… いやリーナの思惑としては、ゴロツキを『冒険者』として管理する事で、犯罪に走らずとも依頼をこなして金を稼げる様になるし、それが定職になれば悪さをしなくても生きていける様になる。
国の東にある『虚無』対策としても、以前にバルジオンがやった様に、貴族の子弟が多く含まれる正規軍よりも、金で使い捨てられる冒険者を傭兵代わりに使う方が「割が良い」とも考えられる。
相対的に治安も回復し、治安が良ければ政情や経済も安定するから、すなわちウルカイザー公国の為になる。という論調だな。
現にバルジオンの罪人や落ちぶれた冒険者がウルカイザーに密入国して悪さを続けている場合、バルジオンとウルカイザーのギルドで連携が取れれば、そいつらの摘発もしやすくなる。
とまぁ、諸々ウルカイザーとしても悪い話では無いだろうし、国内の犯罪者予備軍を『冒険者』の名で管理できるのも有益だよな。
バルジオンとしても、ウルカイザーとすぐに事を構えるつもりが無い以上、ウルカイザーの政情は安定していて欲しいはずだ。
「でも内容が何であれ、仲の悪いバルジオンからの提案をウルカイザーが飲むかねぇ?」
例えどんなに良い話でも、最後に物を言うのはやはり『信用』だ。バルジオンとウルカイザー両国はその『信用』がお互いに地に落ちている。
「それなのよねぇ… まぁ今回の主任務は『ガドゥの捜索』だから、冒険者匠合の話は『上手く行けば僥倖』くらいの気持ちで良いんじゃないかしら?」
諦めを含んだ白けた口調だが、チャロアイトも『成すべき事』の順列が出来ない女じゃない。
冒険者匠合どうこうはあくまでも表向き。俺たちの任務はガドゥの捜索と、可能ならばウルカイザーとの繋がりを暴く事だ。
☆
「国務大臣との会談の場に従者は入れませぬ。イクチナ・バリガ様のみご入場願います」
チャロアイトが会談する相手はウルカイザーの国務大臣、名前は聞いたが聞いて5分で忘れてしまった。まぁとにかくその人の屋敷に来たは良いが、受付の段階で俺だけ締め出される羽目になったのだ。
「私なら大丈夫。罠であってもそれなりに備えてあるからちゃんと戻れるわ。貴方はそうねぇ… ここに来る途中で酒場があったでしょ? そこで休んでて。終わったら行くから」
だそうだ。分かってはいたが、『冒険者』の身分では本当に軽く見られる。バルジオンでもそうなのだから、ウルカイザーじゃ本当に『野盗崩れ』くらいの認識しかされていない気がする。
まぁそれがそういう文化なのだから仕方ないよな。この任務で結果を出せば俺も貴族の仲間入りが出来る事だろうし、つまらない事でへそを曲げて全てをご破算にしてしまっては元も子もない。
という訳で俺は1人、酒場… というか「酒も出す町の食堂」と思われる店を訪ねた。カウンター席とテーブルが4つ、今いる場所はアッパータウンなのせいか、店は小綺麗で店の客層も悪くは無さそうに見える。ガラの悪いゴロツキでなく、常連と思われる近所の商店の親父さんとかがくつろいでいる感じ。
「これで適当に食べ物と水を」
俺は店の女将さんにチャロアイトから貰った小遣い銭を渡して注文をする。
ちなみにウルカイザーはバルジオンとは別にウルカイザー発行の硬貨を使って商取引をするが、基本の通貨単位はバルジオン同様『カイ』で、その為替もほぼ1:1だそうだ。
これは両国共に国教がアイトゥーシア教会である事から来ている話らしい。まぁ俺みたいな新参者には分かりやすくて助かるわ。
☆
「おい、なんかバルジオン臭ぇ奴がいるぜ…」
出てきたゴムみたいな歯ごたえの魚(うん、多分魚)料理を食べ終わろうか、というタイミングでガラの悪そうな輩が3人ほど入ってきた。
まぁ十中八九俺に絡みにわざわざ店に入ってきたとしか思えない展開だ。当然ながら俺は背中のマントにバルジオンの国旗を描いたりしていない。
もちろん『バルジオン臭』などという臭いがあるはずも無い。俺に残っているのはせいぜいチャロアイトの昨夜の残り香くらいだろう。
つまり俺がバルジオンからの渡航者である事を知りつつ、俺が1人になる瞬間を狙って絡んできたのは確実だ。
奴らの素性は分からないが、あまり騒ぎを起こすなとは言われている。別に俺が揉め事を起こしている訳じゃないんだけどね。
「ケンカなら外でやっておくれよ…」
女将さんは恐る恐る俺とチンピラを交互に見つつ、慄いて店の奥に引っ込んでしまった。
まぁしょうがないから『食後の腹ごなし的な意味で相手してやろうか』と立ち上がり彼らと向き合う。
「俺に用事があるなら外で聞くよ。店に迷惑かけたくない」
「話が早ぇ。従いてきな」
彼らの1人が先導し、残りの2人が三角形に囲む様に俺の後ろに付いて歩く。
…なんだか妙な違和感がある。彼らの目的が俺やバルジオンへの嫌がらせなら、町中で散々侮辱して挑発し乱闘事件にして、俺を加害者として晒し上げる方が効果的だ。
それをせずに俺を人気の少ない路地裏へ誘導しているのは、何か別の… 他の町民には見せたくない事情があると考えるのが自然だろう。
やがて裏路地の奥まった場所に着いたのだが、そこに待ち構えていたのは想定外の極みといった人物……。
「よぉブタ、久しぶりじゃん? まさか異世界人生が楽しくて、俺の顔を忘れたとか言わないよな…?」
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