魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

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第102話 旧友

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「なぁ、何もかもお前のせいで俺の人生ボロッボロなんだけどさ、どうしてくれるんだよ一体? あぁ?!」

 新井くん… 下の名前は何だったかな…? 坊主頭で異様に盛り上がった顎のエラ、爬虫類を思わせる様な邪悪さに満ちた三白眼、忘れるはずも無い……。
 
 とにかく彼はクラスの中で俺をイジメていた主犯格であり、俺が死んだ原因は彼に蹴られて便器に後頭部を強打した事だ。俺の方こそ彼のせいで人生を終わらせられた被害者なのだが、彼は何を言っているのだろう…?

 彼に「自分こそが被害者だ」と反論しようとしたものの、口も体も全く動かない。まるで蛇に睨まれたカエルの如く、俺は脂汗を垂らすだけで何も出来ないでいた。

「な… 何で新井くんがここに…?」

 それだけ絞り出すのが精一杯だった。俺達が今いるここは異世界だ。俺は死んでから異世界ここに『転生』として送り込まれた。という事は新井くんも死んで『転生』してきたのだろうか…?

 俺の問いが新井くんの求めていた答えだったのだろう。彼は自慢げにニンマリとしながら口を開いた。
 
「お前が体を捻って『自殺』したせいで、クラスの連中はその責任を全部俺にふっかけやがってよぉ、逆に俺がイジメの対象になっちまったんよ…」

 始めに言っておくが俺は自殺した訳じゃない。便器に顔を突っ込むのが嫌で体を捻っただけなんだ。それが結果的に俺の死に結びついた。その原因は紛れもなく目の前の彼にある。

 そう、「間接的とはいえ、俺はお前に殺されたんだぞ?」と思いっきり糾弾してやりたい気持ちは大きい。だが体が動かない。本当に自分の体じゃないみたいに指先一つ動かせない。
 
「さすがの俺もイジメには参っちゃってさぁ、学校にも行けなくなっちまった… そういやお前、頭打った時に爆睡してるみたいに豪快なイビキをかいていたんだぜ? 覚えてるか? あれウケたよなぁ…」

 それは爆睡じゃなくて脳が重大な損傷を負ったせいだと… ダメだ、何も言えない……。

 新井くんは、俺が沈黙している理由が彼への『畏怖』であると本能で理解している。その上で俺に聞かせるべく思い出話を楽しんでいるのだ。

「そんである日よぉ、イジメられて衰弱していた俺は、家の階段を踏み外しちまってよ、打ち所が悪かったのかそのまま死んじまったのよ…」

 動けない俺を前に新井くんの独演会は続いている。正直俺にとっては「知ったこっちゃない」のだが、その反論すら言葉に出来ないまま、汗だけが不自然に浮かんで流れていく。

「そしたら『力の神』とかいうデカいマッチョなオッサンが出てきて『転生』とかいうのをさせてくれるって話でな…」

 力の神だって?! それってまさか俺の魔剣を作ったとされる三柱の神の中の一柱なのか?
 
 変な所で変な奴から変な話が出てきたぞ… という事は俺と新井くんの再会は偶然に依るものでは無く、仕組まれた物である可能性があるのか…?

「その力の神から『お前の事を知っているか?』と聞かれてな。お前も神様に会って転生したって聞かされてよぉ、つい懐かしくなってオッサンとお前の話題で意気投合しちまったよ…」

 これは間違いなさそうだな… 『淫奔の女神』だけでなく、力の… いや『暴虐の神ガラド』がこの世界に介入を始めたという事だ。

「オッサンが言うには、なんでもお前『仕事をまるっきりサボっている』らしいじゃん? 何の仕事か知らねぇけど」

 …仕事? 何の話だ? 俺は転生した時に何の仕事も依頼されていない。「自由に生きろ」と言われただけだ。
 ただまぁ『暴虐』『策謀』『淫奔』の3神の力を得て好き勝手に生きるなら、今頃国の1つでも滅ぼしているのだろう、という考えだったと予想はつく。

「という訳でよ、お前が神様から預かっているその剣を回収してこいって俺が言われちゃったのよ。もちろん渡してくれるよな…? 友達だもんな…? 俺の事『可哀想』だと思うよな…?」

 そうか、例の3神は俺が大暴れしなかった事に業を煮やして、よりにもよって新井くんにその後釜を引き継がせようとしているのだ……。

 確かに彼なら魔剣の力を手にすれば、あっという間に魔王へと変わり果て、その力でウルカイザーやバルジオンを滅ぼしてしまうかも知れない。そんな人間に俺の魔剣は渡せない。

 これは正義感だけではなく、俺が魔剣を手放したらクロニアら女達への『魅了』も効果を失くしてしまう。それはこの世界に来てからの俺の『全て』を失うに等しい。それだけは到底受け入れられない。

「だ…」

 かろうじて絞り出した声に新井くんは不機嫌そうに「あ?」と返す。言外に『反抗してんじゃねぇぞこのブタ』という気持ちが溢れている。それくらいは魔法とかに頼らずとも、俺にも察せられる。
 
「…嫌だ! これだけは絶対に渡せない…!」

 俺は背中の剣を新井くんから隠す様に己の体を盾にして、渾身の想いを口に出した。新井くんにここまで強くでたのは初めての事だ……。

「ほぉん… ブタのくせに生意気じゃん… しばらく殴ってないから俺の怖さ忘れちゃった…?」

 ただでさえ細い新井くんの目が更に細まり、邪悪な念で満たされる。彼の爬虫類的な面相が歪み、本当にリザードマンの様なモンスターみたいに思えてくる。

「揉め事は外で頼むよ!」

 先ほど引っ込んだ女将さんの声が奥の厨房から響いてくる。俺が暴れたら仕事中のチャロアイトに迷惑がかかる。大人しく外に出るべきなんだろうな……。

「アライさん、こんなトロそうな奴、俺らだけでやりますよ? こんな奴、アライさんの手を煩わせるまでもねぇ…」

 最初に入ってきた、恐らくは新井くんの取り巻きのうちの1人が右腕を振り回しながら質問している。
 そういえばコイツらは何者なんだろう? 転生してから仲良くなった新井くんの子分とかなのかな?

「いや、『旧友』同士が久々に出会ったんだ。水入らずでやらせろよ」

 そんな邪悪な光に満ちた目で言われても、全然歓迎できないよね……。
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