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異世界
7. 旅立ち
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私の発情期が終わってから数日後、私たちは旅立つことにした。
“異世界あるある“のマジックバッグ(無限収納庫)がこの世界にもあり、その見ためはほとんどウエストポーチだった。
何がどうなっているのか、このウエストポーチから家の中にあるものもいつでも自由に取り出せるとのことで、旅の準備はほとんど必要なかった。
「でもこれ。これだけはリサが持っていてね」
そう言ってオウガが私の首にかけてくれたのは、元々リーザが持っていたと言う金色のカード状のもので、これがIDパスであり、クレジットカードであり、魔力が増えて使い慣れれば、情報端末としても使えるのだそうだ。スマホに近いものかな?
2ヶ月半ほど過ごした家の扉に魔法で鍵をかけ、リハビリで何度も散策した森の奥の、まだ行ったことがないほど奥へと歩みを進める。
そこに道は無いのに、オウガに迷いはない。私はただ、手を引かれながらついていく。
いつもならオウガは、転移陣とか、鳥系の魔物を使役させてそれに乗って移動したりするのだそうだけど、この世界のことを全く知らない私のために、今回はわざわざ徒歩での移動を選んでくれた。
「特にリミットも目的も無い旅だから、急ぐことも無いしね」
そう言って嬉しそうに笑う。
オウガにとっては“ツガイである私と手を繋いで歩ける“と言うただそれだけのことが、ただただ嬉しくて楽しくて幸せなことなのだそうだ。
歩きながら、道端に生えた草花の名前を教えてもらう。
異世界転移補正なのか、どの名前も元の世界と同じ名前がつけられてる。でも見ためは微妙に違う。
私がしょっちゅ気になって名前を尋ねるのは、どれも薬草の類だった。リーザが薬草を採取しながら旅を続けていたそうなので、元々リーザのものだったこの目は、そう言うのを探すのが得意みたい。
そして道すがら、簡易な魔法の使い方から手解きを受ける。
まずは一番魔力を使わない“鑑定“、そして“浄化“、“簡易結界“、“水を出す“魔法。
まるで魔法のような(あ、魔法だった)不思議なそれらの力は、少しの練習ですぐに使えるようになった。ただ、連続して使ったらすぐに魔力が底をつき、目の前がブラックアウトする貧血のような症状を起こして、思わずその場に座り込んでしまった。
「しばらく休めば自然と少しずつ回復するけど・・・」
と言いながら、オウガがキスをしてくる。舌を絡めるディープなヤツ。
すると、オウガのほわほわとした魔力が舌から喉へ、喉からお腹へと拡がり、貧血の症状が軽くなった。
「応急処置しといたよ」
「・・・応急処置で患者にキスすることもあるの?」
私が問うと、オウガは眉尻を思いっきり下げた。
「向こうの世界では、キスも愛の表現なの?」
「・・・挨拶としての頬へのキスはあるよ。でも、口と口を重ねるキスとか、今みたいなディープなキスは身体の関係がある人とするかな。だから、自分の伴侶が他の人としてたら、すごく悲しいし裏切られたような気持ちになる」
脳裏に悠斗と奴隷ちゃんがしていたディープキスの場面がリプレイされる。
例え治療とは言え、あんなふうにオウガが他の誰かとキスしてたら・・・、と考えただけで、じんわり涙が浮かんできてしまう。
遅ればせながら、いつの間にかオウガのことを好きになってる自分の気持ちに気がつく。
そもそも身体を許している時点で、もう好きになってたのかも。・・・と言うか、緒川くんのセクシーな笑顔にしょっちゅうドキドキしてたから、そもそも素地はあったのか。
この世界では今のところオウガ無しでは生きて行けないので、これはある種の依存なのかもしれないけれど・・・。
「あー、なるほど。ううう、むむむ、・・・うん、善処します。なんか、他の方法を編み出してみるわ」
唸り続けていたオウガが、苦笑いしながら私を抱きしめてきた。
「リサにとっては、オレに制限をかけるのが愛情表現なんだね。そう思うと、なんか嬉しいかも」
“制限をかけるのが愛情表現“・・・。
オウガのその言葉に、私は少し混乱した。
日も大きく傾いてきたので、結局その日はその近くにあった、森の開けた場所で野営することになった。
“野営“と聞いて、“ドラ○もんがお腹のポケットからひみつ道具を取り出すようにポーチからテントを引っ張り出す“ところを想像して、思わず期待しながらオウガの手元を見つめる。私の期待の眼差しには気付かぬままに、オウガはウエストポーチに手を突っ込むと、すぐにその手を出した。
と、目の前には一枚の扉が立っていた。驚くほどの、物凄い早技・・・。しかも
「どこで○ドア?!」
思わず吹き出してしまった。
その扉のデザインは森の中の家の扉とそっくりだったけど、ポケットから出てくるのが“ドア“だなんて、期待を裏切らないな。
「どこで・・・、何?」
そう言いながらオウガが扉を開けて、私を中に導いてくれる。
そこは、まさしく“森の中の、家の中“だった。
「ふふ。便利でしょ? あの扉と、森の家の扉を繋いであるんだ」
そう言って、扉を閉めてから入念に鍵魔法をかける。
「これで、向こう側からも扉の存在は見えなくなるから誰かに邪魔されることもないよ」
「え? 邪魔??」
それから、すっかり馴染んだいつものベッドで、オウガに優しくたっぷりと抱かれた。
好きな人に丁寧に抱かれるのは、物凄く幸せだった。
洗浄魔法をかけてもらって部屋着に着替え、2階のダイニングキッチンのイスに座らされる。
「ちょっと待っててね」と言って夕食の準備を始めたオウガに、「何か手伝う」と申し出ても、(いつものことだけど)「すぐに済むから大丈夫」と断られる。
実際に、準備らしい準備は必要ない。ダイニングテーブルの上に嵌め込まれているガラス状のプレートに必要情報を打ち込めば、すぐに食べたいものがその上に現れるのだ。
以前オウガにそのシステムについて尋ねたら、旅先で出会った美味しいメニューを出してくれたカフェや食堂とこの戸棚がリンクしていて、注文を打ち込むことによりいつでも届けてもらえるとのこと。支払いはプレートに登録してあるオウガのIDカードからのポイント引き落としなのだそうだ。
ざっくり言うと、ガラスプレートを介して互いの無限収納庫同士を一部つなげることにより、瞬時の注文と配達が可能になったらしい。
異世界デリバリーシステム! なんて便利なの!
葡萄酒に似た食前酒、プチトマト多めのサラダ、メインは魚介のパスタ。デザートはベリー系のソースがかかったバニラアイス。
どれもこれもオウガの好みのメニューのはずなのに、全てが私の舌にもぴったり合った。ツガイは嗜好も似通うのかな?
デザートを食べ終えて、食後のコーヒーを飲みながら、私は気になっていたことをオウガに訊いてみた。
「こんなに魔力が少なくて、魔法を使うのも苦手だったリーザさんって、どうやって今まで生活していたの? 旅をしていて、不便じゃなかったのかな?」
「あぁ、うん。リーザみたいに魔法が苦手な人はたまに居るし、魔力が使えるのにわざわざ使わない生活を好む人も一定数居るんだ。だから、そう言う人用の、魔法を必要としない道具がある。リーザはそう言うのを使ってたみたいだね。
旅行中は、いつもひとりでは行動してなかったらしくて、魔法がどうしても必要な時は旅の仲間に頼ってたらしい」
便利な魔法があるのに、それを使わない生活を好む・・・。
元の世界で言えばそれは、便利な都会から離れてわざわざキャンプに行って不便さを楽しんだり、田舎での自給自足の生活を楽しんでいるような人たちと同じような感覚なのかもしれない。
「じゃぁ、私も、リーザさんみたいに少ない魔力でもなんとか生活していけるよね?」
「オレが一緒に居る限り、まぁ大丈夫だね。・・・ふふ、他の誰かとセックスしなきゃいけないことに、やっぱり拒否感がある?」
「・・・うん。まだまだ割り切って気軽に、は無理」
「アセらなくて良いよ。とりあえず今の魔力容量でリサが困らないのなら良いんじゃない? オレも居るしね。オレはリサの意思を尊重するよ」
「ありがとう」
「どーいたしまして」
にっこり笑いながら、オウガが私のこめかみにキスしてきた。
「あと数日歩けば、ファルエストの街に着く。その前に、どうしても覚えておかなきゃいけないことがあるんだ。今夜はまず、この世界での挨拶の仕方について覚えようか」
さてそろそろ寝ようか、というタイミングで、オウガが何やら講義を始めた。
「挨拶の仕方?」
何か特別なしきたりとか作法とかがあるのかな?
「そう。この挨拶の仕方をちゃんと理解しておかないと、リサにとってはかなり面倒なことになるから、しっかり覚えてね」
そう言うと、オウガは手に持っていたマグカップをテーブルに置いて、右手を差し出してきた。・・・握手?
「街のカフェとか食堂とか、あと公園のベンチとかに座ってると、隣に座った人からこうやって握手を求められることがある」
「うん」
私も右手を出して、オウガの右手を握る。するとオウガが、右手の指でさわさわと私の手の甲を撫で始めた。
「その時に、こうやって相手の肌を触ってみることを“肌感チェック“って呼んでる」
「はだかんチェック?」
「うん。この肌感チェックで、相手の肌を心地良いな、って思えたら、今度はキスする」
「えっ、ん!」
いきなりオウガが唇を重ねてきて、唇を私の唇の表面にさわさわと滑らせる。ちょっとゾクゾクする。
「で、もっと試してみたいと思ったら、今度は深く・・・」
舌を入れてくる。
えっ・・・・?
「ここまで来て、拒否感が無かったら、そのまま近くの部屋を借りてその相手とセックスする」
「えっ!? 待って、これ、会ったばかりの初めての相手と、だよね?」
「うん。前に話したけど、セックスはコミュニケーションの手段だし、魔力容量を増やすことも出来るし、簡易的に魔力循環調整も出来る。何より他人との魔力の交わりは、綺麗で刺激的で楽しいものだからね。そこはリサも分かるよね?」
「オウガも・・・」
「うん、今までそうやって魔力容量を増やしてきた。まぁ、ほとんど患者相手だったし、オレの魔力容量はとっくに限界を突破しちゃってるから、これから他の誰かとセックスしても増えることはないけどね」
「その・・・、ファルエストの街に着いたら、・・・オウガは他の誰かを抱くの?」
「正直、その時になってみないと分からないなぁ。・・・あ、でも勿論! リサがイヤだって言うならしないよ。うん、しない」
悪びれずに答えていたオウガが、途中からアセったようにあたふたし始める。
ツガイが居ても、他の誰かを抱いてしまうかもしれない、と言うこの感覚が、まだ私には理解出来ない。未だにそれを、“浮気“とか“裏切り“と思えてしまう。
・・・こんな私でも、いつかはこの習慣に慣れてオウガみたいな感覚になれるのかな?
「じゃぁ、もしも街のどこかで私が知らない誰かに肌感チェックをされて、でもその人とセックスなんてしたくない時にはどうしたら良いの?」
「あ、うん。その時は、スッと手を引いて。がっちり握られてて引けない時は、『ごめんなさい』って言えば良いから。それでもしつこく言い寄って来るようなヤツはまず居ないと思うけど、どうしても困った時とかどうして良いのか分からない時にはすぐにオレを呼んで。基本、オレはリサと一緒に行動するつもりだけど・・・」
そう言って、いつの間に取り出したのか、サファイアのような石が埋め込まれた銀のリングを私の右手の中指に嵌めてくれる。
「これは?」
「これは、魔石を埋め込んだリング。この魔石にキスしながらオレを呼んでくれたら、どこに居ても、どこからでも、転移陣を使ってリサの元に駆けつけるから」
「あ、待って。このリング、私の左手の薬指につけて?」
「左手の薬指? どうして?」
「元居た世界では、恋人や夫婦がお揃いのリングを左手の薬指につける習慣があったの」
「へぇ、面白いね。分かった。左手の薬指ね」
そう言って付け直してくれてから、オウガは私の左手を取ってリングにキスをした。すると、少し緩めだったリングがピタッと薬指にフィットする。
「これで、このリングはオレにしか外せないからね。・・・ふふ、良いね、これ。オレも付けようっと」
またまたいつの間に取り出したのか、今度はスミレ色の魔石が埋め込まれたリングを取り出して自分の左薬指にはめると、目尻を下げながら嬉しそうにそれを眺めた。
「なんかこれって、擬似的だよね。お揃いの首輪をお互いにかけて拘束しちゃってるって感じ」
“首輪をお互いにかけて拘束“・・・?
オウガのその言葉に、私はまたもや混乱してしまった。
“異世界あるある“のマジックバッグ(無限収納庫)がこの世界にもあり、その見ためはほとんどウエストポーチだった。
何がどうなっているのか、このウエストポーチから家の中にあるものもいつでも自由に取り出せるとのことで、旅の準備はほとんど必要なかった。
「でもこれ。これだけはリサが持っていてね」
そう言ってオウガが私の首にかけてくれたのは、元々リーザが持っていたと言う金色のカード状のもので、これがIDパスであり、クレジットカードであり、魔力が増えて使い慣れれば、情報端末としても使えるのだそうだ。スマホに近いものかな?
2ヶ月半ほど過ごした家の扉に魔法で鍵をかけ、リハビリで何度も散策した森の奥の、まだ行ったことがないほど奥へと歩みを進める。
そこに道は無いのに、オウガに迷いはない。私はただ、手を引かれながらついていく。
いつもならオウガは、転移陣とか、鳥系の魔物を使役させてそれに乗って移動したりするのだそうだけど、この世界のことを全く知らない私のために、今回はわざわざ徒歩での移動を選んでくれた。
「特にリミットも目的も無い旅だから、急ぐことも無いしね」
そう言って嬉しそうに笑う。
オウガにとっては“ツガイである私と手を繋いで歩ける“と言うただそれだけのことが、ただただ嬉しくて楽しくて幸せなことなのだそうだ。
歩きながら、道端に生えた草花の名前を教えてもらう。
異世界転移補正なのか、どの名前も元の世界と同じ名前がつけられてる。でも見ためは微妙に違う。
私がしょっちゅ気になって名前を尋ねるのは、どれも薬草の類だった。リーザが薬草を採取しながら旅を続けていたそうなので、元々リーザのものだったこの目は、そう言うのを探すのが得意みたい。
そして道すがら、簡易な魔法の使い方から手解きを受ける。
まずは一番魔力を使わない“鑑定“、そして“浄化“、“簡易結界“、“水を出す“魔法。
まるで魔法のような(あ、魔法だった)不思議なそれらの力は、少しの練習ですぐに使えるようになった。ただ、連続して使ったらすぐに魔力が底をつき、目の前がブラックアウトする貧血のような症状を起こして、思わずその場に座り込んでしまった。
「しばらく休めば自然と少しずつ回復するけど・・・」
と言いながら、オウガがキスをしてくる。舌を絡めるディープなヤツ。
すると、オウガのほわほわとした魔力が舌から喉へ、喉からお腹へと拡がり、貧血の症状が軽くなった。
「応急処置しといたよ」
「・・・応急処置で患者にキスすることもあるの?」
私が問うと、オウガは眉尻を思いっきり下げた。
「向こうの世界では、キスも愛の表現なの?」
「・・・挨拶としての頬へのキスはあるよ。でも、口と口を重ねるキスとか、今みたいなディープなキスは身体の関係がある人とするかな。だから、自分の伴侶が他の人としてたら、すごく悲しいし裏切られたような気持ちになる」
脳裏に悠斗と奴隷ちゃんがしていたディープキスの場面がリプレイされる。
例え治療とは言え、あんなふうにオウガが他の誰かとキスしてたら・・・、と考えただけで、じんわり涙が浮かんできてしまう。
遅ればせながら、いつの間にかオウガのことを好きになってる自分の気持ちに気がつく。
そもそも身体を許している時点で、もう好きになってたのかも。・・・と言うか、緒川くんのセクシーな笑顔にしょっちゅうドキドキしてたから、そもそも素地はあったのか。
この世界では今のところオウガ無しでは生きて行けないので、これはある種の依存なのかもしれないけれど・・・。
「あー、なるほど。ううう、むむむ、・・・うん、善処します。なんか、他の方法を編み出してみるわ」
唸り続けていたオウガが、苦笑いしながら私を抱きしめてきた。
「リサにとっては、オレに制限をかけるのが愛情表現なんだね。そう思うと、なんか嬉しいかも」
“制限をかけるのが愛情表現“・・・。
オウガのその言葉に、私は少し混乱した。
日も大きく傾いてきたので、結局その日はその近くにあった、森の開けた場所で野営することになった。
“野営“と聞いて、“ドラ○もんがお腹のポケットからひみつ道具を取り出すようにポーチからテントを引っ張り出す“ところを想像して、思わず期待しながらオウガの手元を見つめる。私の期待の眼差しには気付かぬままに、オウガはウエストポーチに手を突っ込むと、すぐにその手を出した。
と、目の前には一枚の扉が立っていた。驚くほどの、物凄い早技・・・。しかも
「どこで○ドア?!」
思わず吹き出してしまった。
その扉のデザインは森の中の家の扉とそっくりだったけど、ポケットから出てくるのが“ドア“だなんて、期待を裏切らないな。
「どこで・・・、何?」
そう言いながらオウガが扉を開けて、私を中に導いてくれる。
そこは、まさしく“森の中の、家の中“だった。
「ふふ。便利でしょ? あの扉と、森の家の扉を繋いであるんだ」
そう言って、扉を閉めてから入念に鍵魔法をかける。
「これで、向こう側からも扉の存在は見えなくなるから誰かに邪魔されることもないよ」
「え? 邪魔??」
それから、すっかり馴染んだいつものベッドで、オウガに優しくたっぷりと抱かれた。
好きな人に丁寧に抱かれるのは、物凄く幸せだった。
洗浄魔法をかけてもらって部屋着に着替え、2階のダイニングキッチンのイスに座らされる。
「ちょっと待っててね」と言って夕食の準備を始めたオウガに、「何か手伝う」と申し出ても、(いつものことだけど)「すぐに済むから大丈夫」と断られる。
実際に、準備らしい準備は必要ない。ダイニングテーブルの上に嵌め込まれているガラス状のプレートに必要情報を打ち込めば、すぐに食べたいものがその上に現れるのだ。
以前オウガにそのシステムについて尋ねたら、旅先で出会った美味しいメニューを出してくれたカフェや食堂とこの戸棚がリンクしていて、注文を打ち込むことによりいつでも届けてもらえるとのこと。支払いはプレートに登録してあるオウガのIDカードからのポイント引き落としなのだそうだ。
ざっくり言うと、ガラスプレートを介して互いの無限収納庫同士を一部つなげることにより、瞬時の注文と配達が可能になったらしい。
異世界デリバリーシステム! なんて便利なの!
葡萄酒に似た食前酒、プチトマト多めのサラダ、メインは魚介のパスタ。デザートはベリー系のソースがかかったバニラアイス。
どれもこれもオウガの好みのメニューのはずなのに、全てが私の舌にもぴったり合った。ツガイは嗜好も似通うのかな?
デザートを食べ終えて、食後のコーヒーを飲みながら、私は気になっていたことをオウガに訊いてみた。
「こんなに魔力が少なくて、魔法を使うのも苦手だったリーザさんって、どうやって今まで生活していたの? 旅をしていて、不便じゃなかったのかな?」
「あぁ、うん。リーザみたいに魔法が苦手な人はたまに居るし、魔力が使えるのにわざわざ使わない生活を好む人も一定数居るんだ。だから、そう言う人用の、魔法を必要としない道具がある。リーザはそう言うのを使ってたみたいだね。
旅行中は、いつもひとりでは行動してなかったらしくて、魔法がどうしても必要な時は旅の仲間に頼ってたらしい」
便利な魔法があるのに、それを使わない生活を好む・・・。
元の世界で言えばそれは、便利な都会から離れてわざわざキャンプに行って不便さを楽しんだり、田舎での自給自足の生活を楽しんでいるような人たちと同じような感覚なのかもしれない。
「じゃぁ、私も、リーザさんみたいに少ない魔力でもなんとか生活していけるよね?」
「オレが一緒に居る限り、まぁ大丈夫だね。・・・ふふ、他の誰かとセックスしなきゃいけないことに、やっぱり拒否感がある?」
「・・・うん。まだまだ割り切って気軽に、は無理」
「アセらなくて良いよ。とりあえず今の魔力容量でリサが困らないのなら良いんじゃない? オレも居るしね。オレはリサの意思を尊重するよ」
「ありがとう」
「どーいたしまして」
にっこり笑いながら、オウガが私のこめかみにキスしてきた。
「あと数日歩けば、ファルエストの街に着く。その前に、どうしても覚えておかなきゃいけないことがあるんだ。今夜はまず、この世界での挨拶の仕方について覚えようか」
さてそろそろ寝ようか、というタイミングで、オウガが何やら講義を始めた。
「挨拶の仕方?」
何か特別なしきたりとか作法とかがあるのかな?
「そう。この挨拶の仕方をちゃんと理解しておかないと、リサにとってはかなり面倒なことになるから、しっかり覚えてね」
そう言うと、オウガは手に持っていたマグカップをテーブルに置いて、右手を差し出してきた。・・・握手?
「街のカフェとか食堂とか、あと公園のベンチとかに座ってると、隣に座った人からこうやって握手を求められることがある」
「うん」
私も右手を出して、オウガの右手を握る。するとオウガが、右手の指でさわさわと私の手の甲を撫で始めた。
「その時に、こうやって相手の肌を触ってみることを“肌感チェック“って呼んでる」
「はだかんチェック?」
「うん。この肌感チェックで、相手の肌を心地良いな、って思えたら、今度はキスする」
「えっ、ん!」
いきなりオウガが唇を重ねてきて、唇を私の唇の表面にさわさわと滑らせる。ちょっとゾクゾクする。
「で、もっと試してみたいと思ったら、今度は深く・・・」
舌を入れてくる。
えっ・・・・?
「ここまで来て、拒否感が無かったら、そのまま近くの部屋を借りてその相手とセックスする」
「えっ!? 待って、これ、会ったばかりの初めての相手と、だよね?」
「うん。前に話したけど、セックスはコミュニケーションの手段だし、魔力容量を増やすことも出来るし、簡易的に魔力循環調整も出来る。何より他人との魔力の交わりは、綺麗で刺激的で楽しいものだからね。そこはリサも分かるよね?」
「オウガも・・・」
「うん、今までそうやって魔力容量を増やしてきた。まぁ、ほとんど患者相手だったし、オレの魔力容量はとっくに限界を突破しちゃってるから、これから他の誰かとセックスしても増えることはないけどね」
「その・・・、ファルエストの街に着いたら、・・・オウガは他の誰かを抱くの?」
「正直、その時になってみないと分からないなぁ。・・・あ、でも勿論! リサがイヤだって言うならしないよ。うん、しない」
悪びれずに答えていたオウガが、途中からアセったようにあたふたし始める。
ツガイが居ても、他の誰かを抱いてしまうかもしれない、と言うこの感覚が、まだ私には理解出来ない。未だにそれを、“浮気“とか“裏切り“と思えてしまう。
・・・こんな私でも、いつかはこの習慣に慣れてオウガみたいな感覚になれるのかな?
「じゃぁ、もしも街のどこかで私が知らない誰かに肌感チェックをされて、でもその人とセックスなんてしたくない時にはどうしたら良いの?」
「あ、うん。その時は、スッと手を引いて。がっちり握られてて引けない時は、『ごめんなさい』って言えば良いから。それでもしつこく言い寄って来るようなヤツはまず居ないと思うけど、どうしても困った時とかどうして良いのか分からない時にはすぐにオレを呼んで。基本、オレはリサと一緒に行動するつもりだけど・・・」
そう言って、いつの間に取り出したのか、サファイアのような石が埋め込まれた銀のリングを私の右手の中指に嵌めてくれる。
「これは?」
「これは、魔石を埋め込んだリング。この魔石にキスしながらオレを呼んでくれたら、どこに居ても、どこからでも、転移陣を使ってリサの元に駆けつけるから」
「あ、待って。このリング、私の左手の薬指につけて?」
「左手の薬指? どうして?」
「元居た世界では、恋人や夫婦がお揃いのリングを左手の薬指につける習慣があったの」
「へぇ、面白いね。分かった。左手の薬指ね」
そう言って付け直してくれてから、オウガは私の左手を取ってリングにキスをした。すると、少し緩めだったリングがピタッと薬指にフィットする。
「これで、このリングはオレにしか外せないからね。・・・ふふ、良いね、これ。オレも付けようっと」
またまたいつの間に取り出したのか、今度はスミレ色の魔石が埋め込まれたリングを取り出して自分の左薬指にはめると、目尻を下げながら嬉しそうにそれを眺めた。
「なんかこれって、擬似的だよね。お揃いの首輪をお互いにかけて拘束しちゃってるって感じ」
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