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8, Witch is ready,
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校庭に差す西日の中に、小さな白衣が振り向く。
およそ日本人のそれとは言い難い、赤い髪の合間から眼鏡が覗く。何が楽しいのか、釣り上がった唇がますます喜色を深めるのを、エリアナは頭の痛くなる思いで見遣った。
「影宮さん――ですか?」
おずおずと声を投げたのは、エリアナの影にいたルディの方である。
結局、一日の大半を袖が吹き飛んだ服で過ごした彼女は、すっかりその状況に慣れてしまったようだ。眼前の魔女へ警戒心をあらわにしながらも、風にさらされる腕には目をやらない。
対する影宮月乃は――。
「そんな名前してましたっけ? 私」
――などと、瞳を細めて首を傾げた。
思わず頭を抱えたエリアナの憂鬱を気にも留めずに、赤髪が口許を歪める。どこかで歪んだ知識でも吸収したのか、出会ったときから変わらぬ貼りつけたような笑みは、ここまで崩れないといっそ恐ろしい。
「変えようと思うんですよ! ほら、この名前も二ヶ月ばかり! 私にしては持った方ではないですか? 前のは確か三日で変えましたね」
「貴女がたが名前変えるたびに、全校生徒を幻惑して回る私の身にもなりなさいよ」
思わず溜息が口をつく。
自身の体に術式を纏わせて姿を騙すことくらいは、魔女ならば誰にでもできることだ。エリアナとて幻惑だけが武器ではない。
しかし、広範囲に対して維持するとなれば話は別だ。
幻惑の力は本来戦闘に向いていない。類似の力を得意とする魔女は、以前契約した悪魔に習った力で生き残っているエリアナのほかは、早々に天使に屠られて死んでいる。この学園に関して言えば、大規模な魔術を扱えるのは彼女だけである。
であるから――。
改名後の処理や、卒業した魔女と悪魔の再入学については、彼女に一任されている。
彼女がクラスメイトとさえろくに関わらない理由は、ひとえにその面倒さにある。自身をよく知らない人間に新たな情報を上書きしてやる必要はないのだ。
それなりの利便性を確保するために、全校生徒の前に姿を晒している滴と百夜はともかく――奇怪な言動と目立つ外見で、学園中の噂になっている月乃に、そう力を遣ってやる義理はない。
「やっぱり洗脳なんだ、あれ――」
横でそう零すルディの声は聞かないことにした。代わりに、彼女を親指で示してやる。面白いように跳ねた肩に、好奇心で煌く魔女の瞳が向いた。
「ともかく、こっちの女王様が判別つけられるようになるまで、改名の件は保留」
その言葉を聞かないうちに、月乃の笑みが悪魔めいた色を孕んだ。
金色の瞳が細く歪む。口角に覗く八重歯は、ともすればそれだけで人外のようにも見える。その雰囲気にすっかり呑まれてしまったのか、ルディの手がエリアナの制服の袖を握った。
「お前が悪魔の女王ですか。私のことをご存知だという! ぎひひ、つい最近まで人間であったにしては殊勝な心掛けです!」
――まくし立てる声はひどく上機嫌なようである。
大層なことを言いながら自己紹介の言葉が欠けているあたりが、相変わらずの電波ぶりだった。
「えっと、悪魔のときのわたしの、知り合い――ですか?」
「いいえ!」
まさに破顔一笑といった風に、月乃の顔に喜色が浮かぶ。あまりに明瞭な否定に、表情を固めて言葉を失うルディをよそに、彼女は朗々と声を上げる。
「私はお前に会ったことがないのですよ。あの双子の――今は向こうが女王ですか? 紛らわしいですね。あれの契約者が取り次いでくれなかったもので」
当然の話だ。魔女の中でも異端中の異端である月乃を女王に会わせれば、どうなることか分からなかった。
以前の女王というのは、ルディほど大人しくもなければ、温厚でもなかったのだ。
袖を引いた問題の女王は、エリアナの耳元に唇を寄せた。吐息の届く位置にある顔を一瞥すれば、ひどく困惑したような八の字の眉が見える。
「エリー、わたしと会長が双子なのって、そんなに知られてるんですか」
「そりゃね。よく似てるでしょ」
つり目がちの瞳に、黒い髪。独特の癖毛までもよく似ている。そのまま放っておけば、誰がどう見ても血縁者だと言うだろう。
しかし――それでは困るのだ。
百夜は名も顔もよく知られている。姉妹で苗字が違うということに、無神経な詮索が挟まったりすれば、それだけエリアナの力が頼られる機会が増える。いちいち魔術をかけるくらいなら、彼女そのものに認識を阻害する術式を与えておいた方が、面倒が少ない。
「私がごまかしてるの。ほんと、どいつもこいつも都合よく使ってくれちゃって」
「生き残っている魔女の中ではお前も新参じゃないですか! 新参者はこき使われるものだと本に書いてありました!」
「何の本よ、何の」
呆れに目を細めながら本を開く。
起動するのは、今から戦場に変わるグラウンドを見えないことにするための術式だ。事象を都合よく捻じ曲げて認識させる力は実に便利だ。
「――で、本題は?」
永久に終わりそうにない声を遮れば、月乃は目を瞬かせてから、思い出したように頓狂な声を上げた。
「見たところ、まだ女王としては目覚めていない様子。記憶のないまま戦う悪魔など危なっかしくてやってられません。ので、稽古をつけます」
「本心は?」
「女王の力に興味のない魔女はいません!」
――そんなことだろうと思った。
予想の的中に苦しむエリアナとは裏腹に、うろたえるのはルディである。
「そ、そんな! 戦えません、わたし――!」
危惧しているのは恐らくその力のことだろう。自分が恐ろしく強大な存在だと教えられた彼女は、一見して非力な眼前の少女に向けて、悪魔としての力を振るいたくはないのだ。
甘いことだと密かに溜息を吐く。優しいと言えば聞こえはいいが、悪魔と魔女とはそもそもが悪徳の塊だ。そんな情は捨てた方がいい。
しばらく理解できないとばかりに首を傾げていた月乃が、ようやく合点がいったとばかりに手を叩いた。大丈夫ですよ――と前置きする声は、現状にそぐわず軽やかだ。
「戦うのは私じゃありませんよ。私の可愛い悪魔の方です」
私が戦ってはお前も大変でしょうからね――。
同意を求めるようにエリアナを一瞥する金の瞳には、無言の肯定を返す。一方のルディは、魔女たちのやり取りには気づかないまま、周囲を見渡して眉根を寄せた。
「悪魔って、どこに」
「そこにいるじゃないですか! 女王ご自慢の嗅覚も、その体じゃ使えないとおっしゃる?」
月乃が指したのは、長く伸びたルディの影だった。
彼女がそちらへ目を遣った刹那。
ずるりと音を立てて――。
黒が這い出す。
ひ、と小さく声が上がった。慄然と目を見開くルディの眼鏡に、伸びた影がどろりと触れる。化け物めいた外見とは裏腹に、慎重に持ち上げた硝子の向こうをまじまじと見たように感じる。
そのまま、しばしの間があった。
「ああ――確かに、女王の顔だ」
響く声は穏やかである。ようやく瞬いたルディの目が、乾きに晒されたせいか潤んでいた。
現れたときと同じように、影はあっけなく沈む。次いで揺れた月乃の影から顕現するのが――。
「お呼びかい、僕の魔女」
「ええ、呼びましたとも、私の悪魔。手筈通りですよ」
長く伸びた銀の髪を湛える長身だった。緩慢な動作で契約者に寄り添う彼女の、深い憂いに沈んだ伏し目がちの瞳は、特別に何かを嘆いているわけではない。常にこの調子なのだ。
表情の抜け落ちたような口許は、それきり声を発さない。ちらと一瞥する赤い目が瞬いた。
人でないことを隠そうともしない振る舞いといい、およそ人間世界に溶け込む気のない騎士装束といい、実に異様な悪魔である。
とはいえ、エリアナにとっては見慣れた顕現であり、見飽きた顔立ちだ。
――それよりも、驚いたことがある。
「貴女って、意外と可愛い声してたのね」
「それ褒めてるかい?」
目を丸くした幻惑の魔女の方へ、返答の代わりに一瞥が返る。そのまま銀の悪魔は硬直する少女の方を見た。
つられて見た先に、ひどく情けない顔をしたルディがいる。
ホラー映画さながらの体験をした彼女は、たっぷり間を置いて、ようやく唇をわななかせた。
「な、な、なん――何ですか、今の」
忙しなく動く瞳は、視線だけを眼前の女から離せずにいるようだった。夕日に赤く染め上げられた銀の髪が、異様な存在感を放ってそこにある。
それが分かっているから。
エリアナは、影に呑まれそうな彼女ににべもなく声を上げた。
「影の悪魔。正確な形も名前もないわ。なんて呼ばれてるんだったかしら?」
「ジェヴォーダンとでも」
返ってくる声に覇気はない。今から戦いに赴くとはとても思えない気だるさだ。
「ええと、八咲ルディです」
「どうも」
胸元を押さえ、震える声で届けた挨拶にも、いささかも揺るがない声が戻ってくる。言葉を持て余すように開閉するルディの口許が、何か応答を見つけるより早く、月乃の方が高らかに声を上げた。
「さあ、地球最強の女王! 武器を構えなさい。私の悪魔と戦って、お前の力を証明するのです!」
至極もっともらしい口上は、相変わらず得意なようだった。助けを求めるような赤い瞳には気づかないふりをする。
――言ったはずだ。
――彼女は満足するまで、絶対に好奇心の対象を逃さない。
「お手並み拝見だ」
西日に照らされたグラウンドに、ジェヴォーダンの静かな声が、わずかな歓喜を孕んで響いた。
およそ日本人のそれとは言い難い、赤い髪の合間から眼鏡が覗く。何が楽しいのか、釣り上がった唇がますます喜色を深めるのを、エリアナは頭の痛くなる思いで見遣った。
「影宮さん――ですか?」
おずおずと声を投げたのは、エリアナの影にいたルディの方である。
結局、一日の大半を袖が吹き飛んだ服で過ごした彼女は、すっかりその状況に慣れてしまったようだ。眼前の魔女へ警戒心をあらわにしながらも、風にさらされる腕には目をやらない。
対する影宮月乃は――。
「そんな名前してましたっけ? 私」
――などと、瞳を細めて首を傾げた。
思わず頭を抱えたエリアナの憂鬱を気にも留めずに、赤髪が口許を歪める。どこかで歪んだ知識でも吸収したのか、出会ったときから変わらぬ貼りつけたような笑みは、ここまで崩れないといっそ恐ろしい。
「変えようと思うんですよ! ほら、この名前も二ヶ月ばかり! 私にしては持った方ではないですか? 前のは確か三日で変えましたね」
「貴女がたが名前変えるたびに、全校生徒を幻惑して回る私の身にもなりなさいよ」
思わず溜息が口をつく。
自身の体に術式を纏わせて姿を騙すことくらいは、魔女ならば誰にでもできることだ。エリアナとて幻惑だけが武器ではない。
しかし、広範囲に対して維持するとなれば話は別だ。
幻惑の力は本来戦闘に向いていない。類似の力を得意とする魔女は、以前契約した悪魔に習った力で生き残っているエリアナのほかは、早々に天使に屠られて死んでいる。この学園に関して言えば、大規模な魔術を扱えるのは彼女だけである。
であるから――。
改名後の処理や、卒業した魔女と悪魔の再入学については、彼女に一任されている。
彼女がクラスメイトとさえろくに関わらない理由は、ひとえにその面倒さにある。自身をよく知らない人間に新たな情報を上書きしてやる必要はないのだ。
それなりの利便性を確保するために、全校生徒の前に姿を晒している滴と百夜はともかく――奇怪な言動と目立つ外見で、学園中の噂になっている月乃に、そう力を遣ってやる義理はない。
「やっぱり洗脳なんだ、あれ――」
横でそう零すルディの声は聞かないことにした。代わりに、彼女を親指で示してやる。面白いように跳ねた肩に、好奇心で煌く魔女の瞳が向いた。
「ともかく、こっちの女王様が判別つけられるようになるまで、改名の件は保留」
その言葉を聞かないうちに、月乃の笑みが悪魔めいた色を孕んだ。
金色の瞳が細く歪む。口角に覗く八重歯は、ともすればそれだけで人外のようにも見える。その雰囲気にすっかり呑まれてしまったのか、ルディの手がエリアナの制服の袖を握った。
「お前が悪魔の女王ですか。私のことをご存知だという! ぎひひ、つい最近まで人間であったにしては殊勝な心掛けです!」
――まくし立てる声はひどく上機嫌なようである。
大層なことを言いながら自己紹介の言葉が欠けているあたりが、相変わらずの電波ぶりだった。
「えっと、悪魔のときのわたしの、知り合い――ですか?」
「いいえ!」
まさに破顔一笑といった風に、月乃の顔に喜色が浮かぶ。あまりに明瞭な否定に、表情を固めて言葉を失うルディをよそに、彼女は朗々と声を上げる。
「私はお前に会ったことがないのですよ。あの双子の――今は向こうが女王ですか? 紛らわしいですね。あれの契約者が取り次いでくれなかったもので」
当然の話だ。魔女の中でも異端中の異端である月乃を女王に会わせれば、どうなることか分からなかった。
以前の女王というのは、ルディほど大人しくもなければ、温厚でもなかったのだ。
袖を引いた問題の女王は、エリアナの耳元に唇を寄せた。吐息の届く位置にある顔を一瞥すれば、ひどく困惑したような八の字の眉が見える。
「エリー、わたしと会長が双子なのって、そんなに知られてるんですか」
「そりゃね。よく似てるでしょ」
つり目がちの瞳に、黒い髪。独特の癖毛までもよく似ている。そのまま放っておけば、誰がどう見ても血縁者だと言うだろう。
しかし――それでは困るのだ。
百夜は名も顔もよく知られている。姉妹で苗字が違うということに、無神経な詮索が挟まったりすれば、それだけエリアナの力が頼られる機会が増える。いちいち魔術をかけるくらいなら、彼女そのものに認識を阻害する術式を与えておいた方が、面倒が少ない。
「私がごまかしてるの。ほんと、どいつもこいつも都合よく使ってくれちゃって」
「生き残っている魔女の中ではお前も新参じゃないですか! 新参者はこき使われるものだと本に書いてありました!」
「何の本よ、何の」
呆れに目を細めながら本を開く。
起動するのは、今から戦場に変わるグラウンドを見えないことにするための術式だ。事象を都合よく捻じ曲げて認識させる力は実に便利だ。
「――で、本題は?」
永久に終わりそうにない声を遮れば、月乃は目を瞬かせてから、思い出したように頓狂な声を上げた。
「見たところ、まだ女王としては目覚めていない様子。記憶のないまま戦う悪魔など危なっかしくてやってられません。ので、稽古をつけます」
「本心は?」
「女王の力に興味のない魔女はいません!」
――そんなことだろうと思った。
予想の的中に苦しむエリアナとは裏腹に、うろたえるのはルディである。
「そ、そんな! 戦えません、わたし――!」
危惧しているのは恐らくその力のことだろう。自分が恐ろしく強大な存在だと教えられた彼女は、一見して非力な眼前の少女に向けて、悪魔としての力を振るいたくはないのだ。
甘いことだと密かに溜息を吐く。優しいと言えば聞こえはいいが、悪魔と魔女とはそもそもが悪徳の塊だ。そんな情は捨てた方がいい。
しばらく理解できないとばかりに首を傾げていた月乃が、ようやく合点がいったとばかりに手を叩いた。大丈夫ですよ――と前置きする声は、現状にそぐわず軽やかだ。
「戦うのは私じゃありませんよ。私の可愛い悪魔の方です」
私が戦ってはお前も大変でしょうからね――。
同意を求めるようにエリアナを一瞥する金の瞳には、無言の肯定を返す。一方のルディは、魔女たちのやり取りには気づかないまま、周囲を見渡して眉根を寄せた。
「悪魔って、どこに」
「そこにいるじゃないですか! 女王ご自慢の嗅覚も、その体じゃ使えないとおっしゃる?」
月乃が指したのは、長く伸びたルディの影だった。
彼女がそちらへ目を遣った刹那。
ずるりと音を立てて――。
黒が這い出す。
ひ、と小さく声が上がった。慄然と目を見開くルディの眼鏡に、伸びた影がどろりと触れる。化け物めいた外見とは裏腹に、慎重に持ち上げた硝子の向こうをまじまじと見たように感じる。
そのまま、しばしの間があった。
「ああ――確かに、女王の顔だ」
響く声は穏やかである。ようやく瞬いたルディの目が、乾きに晒されたせいか潤んでいた。
現れたときと同じように、影はあっけなく沈む。次いで揺れた月乃の影から顕現するのが――。
「お呼びかい、僕の魔女」
「ええ、呼びましたとも、私の悪魔。手筈通りですよ」
長く伸びた銀の髪を湛える長身だった。緩慢な動作で契約者に寄り添う彼女の、深い憂いに沈んだ伏し目がちの瞳は、特別に何かを嘆いているわけではない。常にこの調子なのだ。
表情の抜け落ちたような口許は、それきり声を発さない。ちらと一瞥する赤い目が瞬いた。
人でないことを隠そうともしない振る舞いといい、およそ人間世界に溶け込む気のない騎士装束といい、実に異様な悪魔である。
とはいえ、エリアナにとっては見慣れた顕現であり、見飽きた顔立ちだ。
――それよりも、驚いたことがある。
「貴女って、意外と可愛い声してたのね」
「それ褒めてるかい?」
目を丸くした幻惑の魔女の方へ、返答の代わりに一瞥が返る。そのまま銀の悪魔は硬直する少女の方を見た。
つられて見た先に、ひどく情けない顔をしたルディがいる。
ホラー映画さながらの体験をした彼女は、たっぷり間を置いて、ようやく唇をわななかせた。
「な、な、なん――何ですか、今の」
忙しなく動く瞳は、視線だけを眼前の女から離せずにいるようだった。夕日に赤く染め上げられた銀の髪が、異様な存在感を放ってそこにある。
それが分かっているから。
エリアナは、影に呑まれそうな彼女ににべもなく声を上げた。
「影の悪魔。正確な形も名前もないわ。なんて呼ばれてるんだったかしら?」
「ジェヴォーダンとでも」
返ってくる声に覇気はない。今から戦いに赴くとはとても思えない気だるさだ。
「ええと、八咲ルディです」
「どうも」
胸元を押さえ、震える声で届けた挨拶にも、いささかも揺るがない声が戻ってくる。言葉を持て余すように開閉するルディの口許が、何か応答を見つけるより早く、月乃の方が高らかに声を上げた。
「さあ、地球最強の女王! 武器を構えなさい。私の悪魔と戦って、お前の力を証明するのです!」
至極もっともらしい口上は、相変わらず得意なようだった。助けを求めるような赤い瞳には気づかないふりをする。
――言ったはずだ。
――彼女は満足するまで、絶対に好奇心の対象を逃さない。
「お手並み拝見だ」
西日に照らされたグラウンドに、ジェヴォーダンの静かな声が、わずかな歓喜を孕んで響いた。
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