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間違い訂正!お次は?

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さてさて今回1番重要な事。何故先代勇者が旦那。今回の勇者がその息子。2代血縁が続いてしまったのか?そして本来ならこちらに来れない筈の、私が何故かここにいる。先代勇者の元妻で有り、今回の勇者の母の私がね。

「しかもチキンカツカレーとミカン付き。」

「それを言うなら祐太郎の黒歴史の袋もね。」

「おい!中見たのかよ!」

「そりゃ遺品だもの。当たり前じゃない。警察署で1つ1つ袋から出して確認させられたわよ。流石に刑事さんも気を使ってくれたわ。途中からは交代してくれて、婦警さんと一緒に確認したから大丈夫よ。」

・・・・・。

何が大丈夫なの?ねえ?母さん?あれを婦警さん達と広げてみたの?○○ちゃんのピ~や、○○ちゃんのピ~とか…。季節限定のマル秘水着の○○ちゃんグッズとか…。雑誌の目玉付録の、使える勝負グッズやフルーツ味と香りのアレコレとか…。

「婦警さんと確認したの?何で?何で女性が確認するの?」

「だって。幾らおばさんでも、若い刑事さん達とアレラを確認するのは嫌よ。処分するなら確認は要らないと言われたけど、死んでも抱えてた物を処分出来ないわ。渡せて良かった。」

・・・・・。

「でもいきなり彼女に使わないのよ?見せても駄目よ?直ぐに振られるわよ。自分に正直になるのは、ラブラブになってからよ。」

「母さん!脱線するなよ!今は何故血縁が喚ばれたのか?何故こちらにそれらが持ち込めたのか?だろ?」

はいはい。全く照れちゃって可愛いわね。早くソレラで一緒に遊べる彼女が出来る様に、母さんも影ながら応援するわよ。私的には余り賛成は出来ないけど、ツンデレさんの出方次第かしら?ねえ?扉の横の鏡に向いウィンクする。あらあら慌てちゃったかしら?気配を消さなきゃバレバレよ。

あちらも可愛らしいわ。中身ばあちゃんをなめるなよ?

「母さん?」

【はーい!ストップ!続きですよ!間違い訂正!お次は?!】

膨大な魔力補填を必要とする召喚用の魔方陣。これは異世界から勇者を召喚する魔方陣である。この世界ではそう思われて居るが、実は勇者を指定している訳では無い。特にこの国の魔方陣は、召喚する物を全く指定していない。術式に一部抜けている部分が有るそうだ。

魔方陣の使用法は簡単だ。規定量以上の魔力を注ぎ込む。その魔力を媒介に使用し、等価交換の理論で異世界から何かを召喚する。ただそれだけ。その規定量の魔力量だと、ほぼ人間が召喚される。たまたま人間だったが、動物や何らかの物体の恐れも有った。

「つまりカレーと祐太郎の黒歴史は、理論的には召喚されても可笑しくは無いの。込める魔力の少ない、簡易魔方陣を使用したからよ。但し覗かれてた私が気付き補助したから。普通は覗かれてる側は気付かない。だから異世界に魔力が流れても、何も召喚されない。」

「でも母さんは何故か覗かれたのに気付いた。そして簡易魔方陣では魔力量が少なく無理なのに召喚された。召喚は神様のお詫びだと言ったよね。」

「そう。宰相様の仕出かした誘拐劇のお詫び。私の家族を2人も奪ったからね。更には旦那が召喚されなければ、増えたであろう私達の家族もね。」

つまり母さんの召喚はイレギュラーって事何だね。神様が仲介してくれたから、母さんは此方に来れた。

・・・・・。

後は簡単だった。前勇者を召喚する為、魔方陣の魔力をほぼ使いきった。その後通常ならば、魔力を持つ者から魔力を買い上げたりし、再度魔方陣の魔力を補填する。満タンにするのにはかなりの時間がかかり、資金もかかる。毎回この資金繰りには、宰相も悩んでいた。しかも高魔力を持つ者が減り、中々魔方陣にたまらない。そんな中、前勇者の4人の子が生まれた。その4人は一般より多い魔力を持っていた。

「宰相様はね?4人の子達が3才の頃から、ずっと魔力を搾取してたの。剣士君のその腕輪よ。定期的に魔力が抜かれてる。他の姉弟もしてるでしょ?更には前勇者もね。前勇者は子が出来た後、かなりの魔力を搾取され軟禁されてた。両手両足に腕輪とアンクレットだそうね。それだけ抜かれりゃ、流石に次の子作る力も出ないわね。倦怠感で動けなくなるそうよ。宰相はその魔力を召喚魔方陣へ補填していた。婿と孫からの搾取ならタダだからね。」

「まさか!ほぼ前勇者と縁の者の魔力を使用したから、血縁者が喚び込び込まれたのですか?貴女が覗かれたのに気付いたのも、召喚魔方陣に補充した魔力を簡易魔方陣に流用したから?更には媒介の勇者の血液ですか!」

「そ…そんな馬鹿な…。わ…私が経費節約とばかりに、予算をケチったツケが出るとは…。」

正解でーす。召喚魔方陣の魔力をケチして流用しなければ、私は覗かれてるのに気付けなかった。簡易魔方陣に血液を垂らすのは、血縁者の近くに窓を開く為。覗くだけなら、どちらかを縁付けるだけで良かった。全てが私の縁の物だった事で、過剰に私との強い縁を繋いでしまった。

召喚魔方陣もそう。今までの様に多種多様な人々の魔力を補填してたなら、祐太郎を呼び出す事は無かった。召喚とは等価交換の様な物。異世界へ送る魔力とより近い物が選ばれる。その魔力の持ち主に血縁者が存在すれば、選ばれる確立は跳ね上がる。しかし通常ならば、異世界に血縁者は存在しない。

「祐太郎が私の手を繋いでくれた。最後に手は離れたけど、私は諦めきれなかった。覗き窓に体当たりしたら、世界の狭間とやらにに落ちちゃったのよ。そこで神様に助けられたの。全ての原因も教えて貰ってね。」

神様も流石に狭間の私を見殺しには出来なかった。そのままなら私は、永遠に狭間を漂っていたそうだ。

宰相様が項垂れてしまった。室内が静まり返る。

「前勇者を奥様と共に解放してあげて。召喚魔方陣をこのまま、再度彼の魔力で補填したら、世界に歪みが生まれるわ。4人の子が生まれた後、魔力を搾取され続けた前勇者。その彼を見捨てずに看病した貴女の娘の1人。その娘が漸く2人目を懐妊し、出産したのでしょ?つまり前勇者の体調も、最近はかなり回復したのよね?約10年の月日は長いわ。私も祐太郎を抱えての年月は長かった。娘さんも心を痛めてた筈よ。」

「あ!因みに私には、祐太郎が居なくなってからの月日も長かったわ。何せ還暦迎えたからね。貴方方にとって十数年前でも、私にとっては約40年前よ。旦那が死んで約40年!息子はこちらに来て数年よね?でも私にとっては20年以上だから!そう言えば2人のお葬式も出したのよ。でもあの遺体は贋物だそうね!神が帳尻あわせの為に作製したそうよ。手間をかけさせるなと、大層お怒りでしたわよ。」

・・・・・。

「全ては私の独断です。他の3人は子を引き取り、直ぐに再婚させました。だが下の娘だけは、彼を見捨てられないと別れと再婚を拒みました。腕輪で魔力を抜いている事は、本人達は知りません。装備品だと思っています。流石に前勇者様は気付かれてると思います。ほぼ寝たきりなのを余りにも娘が嘆く為、前勇者様のアンクレットを外しました。現在は屋敷内での生活には支障はございません。王も娘も何も知りません。責任は全て私が取ります。」

全ての宰相の独断なのね。

「責任なんて取らなくて良いわよ。だってこの世界に何か不都合は有ったの?無いでしょ?しいて言えば前勇者の元旦那だけど、神様が言うには今は満足してるみたいだしね。宰相様はケチして失敗したけど、それは国の為でもあるのよね?なら責任取るなら、追求は王様にも及ぶわよ。そうなると面倒くさいわ。だから必要なし。あ!でも宰相様は、私に相応の慰謝料を払って下さい。己が孫に恵まれてる中、自身の孤独死を案じていた私の事を、少しは考えて下さい。乳飲み子の祐太郎から、父親を奪った事を謝って下さい。これだけは宜しく。」

母さん…。

しかし宰相は余程謝りたく無いのか?母さんもしつこいけど、宰相のスルーもしつこいな。まあ俺は謝られても今更だけどな。

この後母さんは、宰相や魔術師達に散々説教とウンチクを垂れた。そして異世界からの召喚を止める約束をする。私も協力するから!と、母さんは宰相と変人魔術師達をビシバシ叩いていた。

あれは痛いぞ…。

【魔王を発生させぬ対策を立てよ。】

これが神からの御言葉だそうだ。

「あっ!その御言葉は、神様から母さんへの使命なの?」

「んーん?私に使命なんて無いわよ。神様は好きに生きて良いと言ってたわ。祐太郎みたいに、誰かに呼ばれた訳じゃ無いからね。」

母さんの素晴らしい笑顔と、俺の笑顔がバッチリ重なった。

「「ならスローライフ目指そう!」」

「「おー!!」」

「あ。ミカン食べる?お菓子も有るわよ。おかきやチータラもね。」

母さんの服のポケットから、食べ物がワラワラ出てくる。咄嗟に良く突っ込んできたな。ん?緊急避難袋も背負ってきた?何処に隠してたの?全く気付かなかったよ…。

「母さんは用意周到だったもんね。でも出すな!貴重な食料だ!コイツらに全て持ってかれるぞ!後で俺のスキルで作ってみるから仕舞え!」

「神様にこれだけ用意万端なら、狭間を自力で越えられたかもと誉められたわ!神様はプレミアムなチータラと甘納豆がお好みよ。献上したら、色々サービスしてくれたの。」

母さんは最強だよ。もうそれ以上は喋らない様にね。腹黒宰相様が復活しそうだから。

「母さん。本当に父さんに会わなくて良いんだね。」

「勿論よ。お邪魔虫になりたくないわ。」

父さん。何時かは会うかもしれない。でも今は会う時期じゃ無い。生まれた赤子と、奥さんを大切にしろよ。母さんが幸せになったら会おうな!

「宰相様は余計な事するなよ?」

「はい…。」

さあ母さん!

先ずは住む家を探しに行こう!

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