【完】婚約破棄?望みません。王子の土下座を所望です。

桜 鴬

文字の大きさ
1 / 10

しおりを挟む

 王座の前に膝を付き頭を垂れる。私は王座に座り頭上から声を放つ、王からの言葉に言葉を返す。

 「望みのままに。ですか? ならば! 」

 「ほう。やはりそなたにも欲はあるのだな? なんなりと申せ。世に叶えられぬことなどない」

 ふん!この腹ぐろたぬきが!

 「では遠慮なく。後から無理だの不敬罪だのなど、取ってつけないで下さいませ。決して無理難題ではございません」

 今日は隣国との戦争を終戦に持ち込み、戦勝国となった祝いの宴が開催されている。現在は武勲を立てた者たちへ、王からの労いの言葉と報奨が与えられている。

 「父上! この殺人鬼は! 我が国の民まで巻き込みんだのです! コヤツに報奨など必要は有りません! 国に献身するなど、当たり前のことではありませんか! 」

 まったく頭が悪すぎて困りものだわ。私の攻撃は確かに民を巻き込んだ。しかし巻き込んだ民には事前に、避難する指示を出していた。余裕はあったはず。私は無差別に広域破壊魔法を放ちなどしない。王子が避難のために指揮をとった、部隊がのろまだっただけ。

 己の指導力の無さを棚に上げないで!

 国への献身に報奨も出さぬなら、誰も国のためになんて動かないわよ!ほら周囲の貴族たちをご覧なさい。みな苦渋の顔をしているわ。たとえ私を疎んでいても、同じことが己の身に起きたら嫌だもの。

 「黙れ! 国に貢献したものに報奨を与える。当たり前のことではないか! 貴族ばかりではない。国民とて同じことだ。民は働き税を納め、国に力を与えることにより貢献する。我々はそれに報い、実のある生活を保証するのだ! 通常以上の働きに報いるのは当然であろう。お前は黙っておれ! 発言の許可は出していない! 」

 会場から拍手が沸き上がる。バカ王子を叱咤した王を褒め称えている。まあ誰もがバカ王子に不満を持っているから当たり前ね。でも喜び過ぎ!今のは腹ぐろ王の演出よ。飴と鞭というやつね。

 「騒がせたな。なんなりと申せ。まあそなたには地位も金も必要はなかろう。この国を去る以外の望みならば、可能な限り答えよう」

 ……やっぱりそこは抑えるわよね。だからこそ怒りで顔を真っ赤にしている、ボンクラ王子との婚約なのだろうし。私は天涯孤独だ。孤児であった私を第三とはいえ、王子を婚約者に据え楔とした。

 でもね?私はいざとなれば逃亡するから!ボンクラがストッパーになるわけがないじゃない。まあキャンキャン意気がり吠える駄犬も可愛らしいけど。

  「では。民に向けて、第三王子からの土下座を要求いたします」

 会場内がざわめく。王子に土下座など!という人たちが大半ね。

 「ふざけるな! なぜ私が貴様に土下座など! 孤児のくせに不敬だぞ! 父上! 私はこれと婚約破棄をします! こんな無礼な女と婚姻などできぬわ! 」

 私に土下座しろとは言っていませんか? 頭だけではなく、耳まで悪くなったのかしら?

 「ふむ。こやつの頭を床につけるだけで良いのか? 」

 「構いません。私は王子が蔑む様に、たしかにもと孤児です。だからこそ民の気持ちが理解できます。底辺から這い上がったからこそ、王子の慢心が起こした悲劇が許せないのです」

 周囲がザワザワと話し出す。悲劇の意味が理解できない様だ。

 「私がなにをしたと言うのだ! 」

 わからないから馬鹿なのよ!

 「お前は黙れ! まだその選民意識を治せぬのか! 民を守るのが貴族の役割り。王族は率先しなくてはならんのだ! しかも婚約破棄だと? 勝手なことをほざくな! 」

 王様の命令で王子が近衛兵たちに取り押さえられた。私の前にズルズルと引き摺られ、無理やり土下座の形を取らされる。苦虫を噛み潰した様な顔を真っ赤に染め、怒りに肩を震わせながら口を開く。私はそこで待ったをかけた。

 「私への謝罪はいりません。王子とは夫婦になるのです。未来の旦那様にそんな無様なことはさせられませんわ」

 「私は! 貴様とは婚姻など結ばない! この人殺しの悪魔め!」

 まあ……駄犬はしつけがいがありそうですこと。

 「望まんのか? こやつは婚約者であるそなたを蔑ろにしてきた。てっきり婚約破棄を喜ぶと思ったがのぅ。まあ良い。そなたが望まぬのなら婚約の破棄は許さぬが……」

 もちろん望みません。駄犬とはいえ血筋は間違いありませんから。

 「愚息よ。戦での人死にはしかたあるまい。しかも今回は避難が遅れたことによるものだ。だが……」

 「しかしそれは! 敵襲で村まで到着するのが遅れたのだ! ならば村だけ範囲から外せば良いだろうが! 貴様は知っていて魔法をはなったのだろうが! 」

 敵襲で遅れた?単に王子が間抜けにも、落とし穴にはまっただけと聞いてるけど?皆が王子を置いて進もうとしたら、指揮官を置いていくのかと駄々を捏ねたそうじゃない。それに魔法は時限式なの。私が魔力を貯め始めたら止められない。遅延の連絡がきたときには、すでに放出寸前だった。だから……

 「父上! 民に謝罪しろと言うならします。だがこの女との婚姻だけは我慢できません。どうか婚約破棄を認めてください! そして私は隣国の王家の婿となります。私は王女と婚姻したい! 敗戦国とはいえ私が王配となれば、両国のためにもなります」

 人混みの中から女性が駆け出してきた。たしかに隣国の王女ね。戦争で兄である王太子が行方不明になったため、彼女に婿を迎えるのではないかと言われている。王女は恥ずかしくもなく王子に抱きつき、悲劇のヒロインを気どっている。

 「お願い! もう王子様を苦しめないで! あなたはどうして人を殺せるの? 私の兄までその手にかけた。人でなし! その血濡れた手で王子に触らないで! この殺人鬼が! 」

 王子と同類だし……戦争だっちゅうの!
 
 「隣国の王女よ。誰が発言を許した? しかも行方不明の兄を死亡扱いか? 仮にも死亡したのであれば、今は喪に服さねばならぬだろうが! そんな中に貴様らは不貞を働いていたのか? 王女にも婚約者がいたよな? 」

 「兄はこの人に殺されました! 私は兄を抱える、血濡れたこの人を見たのです! 兄を返して! 私は兄の婚約者でもあった、仲の良かった幼馴染みも亡くしているの。私は二人の意思を継ぐわ! 私が王子を王配として、王になり国を治める! すべてはあなたのせいよ! 」

 まったく……思い込みが激しすぎるし……なぜすべてが私のせいになるの?それにまだ王太子は行方不明じゃない。しかも王もまだ在位しているし……まさか王位簒奪者にでもなるおつもり?

 「だがいきなり婚約破棄など、いったいどうしたのだ? 本当にお前たちは付き合っていたのか? 」

 「「真実の愛を見つけたのです! 」」

 あ……隣国の大使がぶっ倒れた……まあそうなりたい気持ちもわかります。

 「王よ。不貞くらいは大目にみますわ。王女にも溺愛されているという、素敵な婚約者がいらっしゃいます。彼がいらないと言うのならば、婚約破棄も仕方がございません。不貞を公開した傷もの王女が婚約者に捨てられたなら、不貞相手である王子と、婚姻するしかないでしょう」

 王女がどうなるかなんて知ったことではない。政略結婚の意味も理解せず不貞を働くとは……

 「だが……本当に破棄せぬのか? 」

 王様?もしかして王女と聞いてぐらついたの?たしかに王配となれば、隣国の統治も簡単になるでしょう。腹ぐろもまだまだ甘ちゃんだこと。ここにきて息子が惜しくなったの?私と婚約させたときは、捨てゴマ同然だったでしょうに。
 
 「私からは婚約を破棄しません。王女の婚約者に先に聞くべきでは? 」

 さあ。この国の未来は王様の返答次第よ。

 復活した隣国の大使が、真っ青な顔をして私を見ていた。

 *******
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

婚約破棄は嘘だった、ですか…?

基本二度寝
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」 婚約者ははっきり宣言しました。 「…かしこまりました」 爵位の高い相手から望まれた婚約で、此方には拒否することはできませんでした。 そして、婚約の破棄も拒否はできませんでした。 ※エイプリルフール過ぎてあげるヤツ ※少しだけ続けました

婚約破棄はラストダンスの前に

豆狸
恋愛
「俺と」「私と」「僕と」「余と」「「「「結婚してください!」」」」「……お断りいたします」 なろう様でも公開中です。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

処理中です...