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⑤義理の弟をファサネイト。
しおりを挟む私はシャイン。今日で10才になったの。私のママとパパは大悪魔の夫婦。悪魔はとても長生きなの。何百年も生きるから、繁殖力が弱いんだって。だから今日の発表には、本当にみんながビックリしたの。
もうすぐ私に弟か妹が生まれるの。お誕生日プレゼントは沢山貰ったけど、これが1番のプレゼントよ。家族が増えるって嬉しいよね。
今日もアブソルート様がお家に来てくれたの。アブソルート様は私の婚約者なの。パパとママの上司なんだって。上司って偉い人の事ね。パパはアブソルート様が居ると気持ち悪い位に優しいのに、姿が見えなくなるとふんぞり返るの。ママはそんなパパを諌めてくれる。それで喧嘩しても直ぐに仲直りしてる。喧嘩するほど仲が良いんだって。悪魔は本気の喧嘩をすると殺しあいになっちゃう。その絶妙なバランスがとれる夫婦は珍しい。だから結婚をしない悪魔が多いんだって。
婚約者は大人になったら結婚する人の事。パパとママは好き同士だから結婚したの。アブソルート様は、こんな子供の私が好きなの?アブソルート様はモテモテで、女性には困らないと皆が噂してる。メイドさん達が、私を見ながらロリコンだと噂してる。
アブソルート様はロリコンなの?なら私が大人になったら、結婚したくなくなるんじゃ無いの?考えてたら何だか悲しくなって来た。でも私は泣けない。何故か涙が出ないの。何かの代償として支払ったらしいけど、私には思い出せない。アブソルート様はゆっくり思い出してくれと言う。それまで毎日会いに来てくれると約束してくれた。それが5才のお誕生日。あれから更に5年。
私は今日10才になった。でもまだ思い出せない。最近は何故か、思い出せない事が哀しくなる。
本当は私はパパのママの子じゃ無い。パパが人間界で拾って来たの。でも優しく育ててくれた。パパは嫌味っぽいけど頼りになる。ツンデレなのよ。ママは時々怖いけど優しい。
人間は悪魔を恐怖の対象にしてる。でも私の知ってる悪魔は、皆人間より素敵だ。だって私を捨てないもの!捨てられた私を育ててくれた。1度死んだらしい私の命を助けてくれたの。
私はそれらを覚えていない。全てを思い出せば、我々を憎むかもしれない。パパとママ。アブソルート様はそう言う。悪魔は気紛れ。己の興味に忠実。だから人間を玩具として扱う。お眼鏡に叶えば、偽りの愛も語るし玩びもする。気紛れに愛を囁き厭きれば捨てる。大悪魔を統べると言う悪魔公爵のアブソルート様。そんな素晴らしき方が、私ごとき人間を本気で娶る筈がない。煌めく魂の片割れに興味を持たれたから。片方は今や人間界の聖女様だから。しかし片割れは能無しの塵芥だからと。
周囲の悪魔が私を脅す。でも彼らは私に害を与えられない。私はアブソルート様のお気にいりだから。お気にいりの玩具を壊したら、壊した己達が玩具にされてしまうから。
でもそれが本当でも構わない。
それでも私は誰かに側に居てほしい。その代わりに厭きたら捨てて。必ず殺して約束よ。1つの願いが叶い、私は贅沢になってしまった。私を強欲にした責任を取って頂戴。
ここは私にとっての天国だもの。だって飢えないのよ?私は食物を口に入れずとも、ひもじい思いをする事も無くなった。
ひもじい思いをしたくない。
それは私が最初に願った、唯1つの願いだったのだから。
*****
悪魔公爵たるアブソルート様主催の舞踏会。出席者は悪魔伯爵家以上の者達。そんな中に私が混じるなんて、分不相応にしか思えない。だからか視線が痛すぎる。このドレスが私には派手すぎるのよ!成人前の私に、こんなセクシードレスをプレゼントしないで!もうすぐ15才になり成人する。せめてそのお披露目の時のプレゼントにくれたら良いのに。成人前の私には似合わないよ。アブソルート様のバカ!
「シャインー!また壁の花になってる!シャインはアブソルート様の婚約者なんだよ。だからお誘い可能なダンス席に居ないと、誰もが遠慮して誘ってくれないよ!」
グランツ…。
「私はダンスは良いわ。だからここに居るのよ。でもグランツってば、もう私より大きいじゃ無い。まだ5才なのよね?」
「悪魔に年令は関係無いよ。弟だけど血は繋がっていない。シャインと結婚だって出来る。何なら永き命を繋ぐ契約は僕とする?僕の力は伯爵の父と母を凌いでる。侯爵になれるかも。お買い得だよ?」
グランツがスルリと私の腰に手を回す。そのままホールにエスコートされた。ダンスを踊る人々の波が割れる。音楽が始まり、私たちも踊り出した。
「グランツ?ちょっとくっつき過ぎじゃ無い?踊りにくいわ。」
「これ位普通だよ。ほら見て。皆シャインに見とれてる。ねえ笑って?僕はシャインの笑顔が大好きだよ。僕なら氷のマリオネット何て言わせない。毎日シャインに笑顔をあげたい。シャインに笑顔をあげられない公爵なんて止めちゃおうよ。ダンスだって…。」
グランツ…。全く甘えん坊何だから。相変わらずお姉ちゃん思いの弟なのね。チラリとホールの中央を見る。相変わらずアブソルート様は、妖艶な美女と密着して踊っている。
夜会が始まってからずっとだ。代わる代わる女性とダンスをしている。
「アブソルート様は主催者ですもの。リクエストにはお応えしなくては。」
曲がかわった。話を上手く切れず、私達はそのままダンスを続ける。
「そうかもね。でもファーストダンスは、パートナーと踊るのが常識だ。婚約者たるシャインが居るのに、今晩は侯爵の娘と踊ってた。しかも3曲続けた。今もチェンジしてなかった。これはマナー違反だよね?」
そうね。通常ダンスは同じ相手で2曲まで。それ以上はパートナーとのみ。3曲続けて踊るのは、相手を特別な人と認めてると言う事になる。
「いくら公爵様でも、シャインを蔑ろにし過ぎだ!シャインも何故怒らないの?だから氷のマリオネット何て言われるんだよ!シャインの笑顔は本当に素敵なのに!見ろよ!会場の男は皆シャインを見てるよ。シャインと踊りたがってる。でも公爵様に遠慮してるんだ。なのに1曲も踊らない…。」
グランツ…。それはちょっとシスコン過ぎね。誰も遠慮何てしてないわよ。でも心配してくれて嬉しいわ。
「ほらほら。私は大丈夫。グランツだってモテモテじゃ無い。お嬢様方が踊って欲しくてウズウズしてるわよ。私は少し休んで来るから、皆さんと踊ってあげなさいな。」
丁度曲が終了した。早く抜けなくちゃ。グランツ?グランツが私の腕を離さない。伴奏が始まった。どうしよう。曲が始まる。グランツは私の腕を力強く引き寄せ、くるりと回転させた。そのままクルクル回転し、ホールの中央に踊り出た。
中央には、先程と同じ女性と踊るアブソルート様が…。
「抜けるタイミングを外したね。シャイン?だから踊ろう。公爵様も3曲目に突入の様だよ。今晩のお相手に決定かな。本当に愛してるなら、何故成人まで待てないんだ!」
アブソルート様とあの女性が…。でも私は人間だから…。命を助けて貰ったのに、贅沢なんて言えない。でも本当は心の中では叫んでる。
お願い私だけを見て!他の女性に触らないで!誰かを抱き寄せた腕で、私を抱っこしないで!誰かと重ねた唇で私のおでこにキスしないで!
でも私は玩具だから。飽きられたら、壊され捨てられるだけ。だから何も言えない。マリオネットでも良いの。
私はアブソルートが好き。命を救ってくれたからだけじゃ無い。それならパパだって私を助けてくれたもの。魔の森の祠で冷たくなる筈だった私を拾ってくれた。でも私が欲しいのはパパじゃ無い。
だから私は仮面を被る。
氷のマリオネットになる。
中央でクルクル踊る。アブソルート様達と何度もすれ違う。アブソルート様は私を見ない。代わりに女性が口角をつり上げた笑みで私を見る。
「公爵様は趣味が悪いね。あの下品な笑みが見えないの?なにあの勝ち誇った顔。醜悪過ぎて気持ち悪い。目が腐ってるんじゃない?」
「・・・・・。」
ダンスの終わりが近付く。曲の終わりが近付く。今度こそ外れよう。私はグランツの隙を見て手を離した。
「ほら!若いんだからまだまだ踊れるでしょ?私は休むから!お先に失礼!」
壁際の軽食スペースに駆け込む。飲み物とデザートを見繕い、壁際のイスに腰掛けた。
悪魔の眷族になり、食べる必要は無くなった。でも食べられない訳では無い。悪魔は人間に紛れて遊ぶ事も有る。つまり食事も出来る。純粋な悪魔にとっては遊戯の1つなのかもしれない。でも人間だった私には味覚を感じる事が出来る。例えそれが疑似感覚だとしても、美味しい食べ物は嬉しい。
下を向き、黙々と食べる私のお皿に影がさす。見上げると女性が数人。
あっと言う間に私は囲まれ空き部屋に連れ込まれた。私も毎度の事だから慣れている。黙って罵倒を聞き逃し、痛みを我慢するだけ。だってこの人達は私を殺せない。アブソルート様のご機嫌を損ねたら、己達が処分されるから。
でも今回は何かが違った。
満足げに女性達が1人。また1人と去ってゆく。最後の女性が私に言う。
「全く泣きもしない。可愛いげの無い女ね。公爵様と永き命を繋ぐ契約なんてさせない!貴女には契約の代償を失って貰う。貴女は公爵様を裏切るのよ。成人まで待った公爵様がお可哀想ね。私達がしっかりお慰めして差し上げるわ。この薄汚れた泥棒猫が!」
女性の背後から、馬や牛の頭をした悪魔達が入ってくる。完全に人型になれぬ悪魔…。理性もほぼ無いと言う下級悪魔達…。
「可哀想なマリオネット。罪の楔をその身に受け続けなさい。灼熱の楔で己の罪を贖うのね。手足を引き裂かれながら、最後のダンスを踊りなさいな。これ等に理性は無い。貴女が何処まで壊れるか見物だわ。踊れなくなった頃にまた来るわね。」
無情にもドアがしまる。先に散々甚振られた体では、大声を出すのも難しい。しかもここは出会い専用の逢い引き部屋だろう。まだ人気も無い筈。
声にならぬ下品な笑いと、鼻息も荒く生臭い息遣いが、狭い部屋の中に充満している。沢山の悪魔達の手が、私に縦横無尽にのびてきた。
引き裂かれるドレス。何かが肌に触れる感触に、背筋に悪寒が走り抜ける。
いや!助けて!私は死にたくない!私は何度死ねば良いの?ううん違うの。
私は…。
「アブソルート様助けて!私は貴方を愛してる!玩具でも良いの!飽きるまで側に居てくれるって言ったじゃ無い!嘘つき!また約束を破るの!」
ドガンッ!ドアをぶち破る音と共に、私を襲う下級悪魔達が粉々になり吹き飛んだ。血と肉片まみれになる室内と自分に呆然とする私。
「今回は間に合ったな!しかしスッポンポンに血肉のアートか?折角のドレスもビリビリだ。呆けてるけど良いのか?大事な所が丸見えだぞ。しかしコクヨウが良く嘆いてたが…。流石にオムツでは無いが、大股開きでは色気も感じんぞ?」
へ?はぁ?私は自分を見る。
「いやー!!間に合って無い!この変態悪魔!何か服貸してよー!!」
それでこそ輝子だ。何て呟きながら上着を脱ぐアブソルート様。同時に頭上に、フワリと上着が飛んで来た。羽織って駆け出す。
「待て!ちょい待て!クリーンかけるまで待て!己が仕出かした事だが、血生臭くてたまらん。」
待てん!煩いわ!構わずしがみつく。
「私はシャインよ?」
「解ってる。」
「なら…。アブソルート様…。」
「輝子…。いや、シャイン。本当にすまなかった。もう大丈夫だ。」
アブソルート様の腕の中で、私は約14年ぶりに泣いた。
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