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④悪魔公爵をファサネイト。
しおりを挟む冷たく冷えた体が、指先から徐々に温かくなる。指先に優しいぬくもりを感じてる。輝子だった頃にも感じだ事の無い心地よさ。
体内を何かの力が駆け回る。細胞の1つ1つに何かが満ちる。私が私で無くなる感覚。ううん違うね。新しい私になるんだ。
アブソルート様の力が私を生かす。
*****
私は階段から落ちて死んだ。ペチャンコにひしゃげて、まるで潰れた蛙の様に。でもアブソルートに生かされた。何故なら彼は、天界より放たれた煌めく魂の1つ。私の魂に呪いをかけた悪魔本人だったのだから。
彼に記憶を返された。私は全てを思い出した。私は前世で悪魔のアブソルート様と契約をした。死に逝く薄れた意識の中、私はあの公園の遊具の中で声をかけられた。
「死に逝く娘よ。お前は何を望む?死に逝く魂と引き換えで、どんな望みでも叶えよう。」と…。
私は即答した。
「粗食で良いの。私は飢えぬだけの食事が欲しかった。でももう死ぬのなら要らない。私の魂が代わりになるのなら、残った家族にあげて。優しかった家族が変わったのは、食事すらまともに出来なくなったから。食べられれば少しは違う筈だから。」
哀れな魂だな。だからこそひかれたのだろうが…。
悪魔が何かを呟くが聞こえない。
ぐらつく私の体を抱き上げ、悪魔が掌で私の目蓋を下ろした。私はこの時死んだ。私は魂だけとなり、彼の後について行く。到着したのは私の家。居間の電気は付いていた。部屋には母と兄と妹。そして玄関から入って来た影は…。お父さんだ!もしかして戻って来てくれたの?そして私を探してくれてたの?
「良く見ろ。あれが現実だ。お前はそれでも同じ事を望むか?」
家族の話し声が聞こえる。突如電話のベルがなる。驚き慌てる家族。しかしそれは一瞬で終わる。父が病院へ確認に行くと言う。頷く皆に、後は上手くやれ。と残して。
何を上手くやるの?
その晩私の遺体が見付かった。私にはかなりの保険がかけられてた。実は私は自分で己に保険をかけていたのだ。私の深夜のバイト料は、父に渡され私の保険の掛け金となっていた。父と母は離婚しては居なかった。私の居ない所で家族は会い、飢える様な生活は偽りだった。全ては私だけ。要らぬ子の私だけ。家族は全てを知っていた。小学生の妹でさえ。
この日兄はわざと私から先に給金を受け取った。母は真実を知りながら、私を真冬の外へ追い出した。飲まず食わずで学校へゆき、睡眠時間を削り働いていた私を何故?
同じ家族なのにどうして?私は一生懸命に働いた。お腹が空いても我慢した。お弁当が作れなくて、学校での昼休みが辛かった。皆がお弁当を食べる中、匂いがお腹に響くからとトイレに逃げ込んでた。何で?私だけ何が違うの?悪魔が淡々と真実を私に伝える。
「お前だけ母親が違うんだ。父親が浮気して出来たのがお前だ。家族は皆知ってる。でどうする?コイツらはお前の保険金で食べる物には困らなくなるだろう。お前の願いは完了だ。しかしそれで良いのか?今ならまだ願いを変えられるぞ。怨みをはらすか?」
悲しくて、哀しくて心が張り裂けそう。だけど要らぬ筈の私を育ててくれたの。家族として笑い有った時も有ったの。私は死んだんだからもういい。
「もういい。私が居なくなって幸せになったのよね?なら早く地獄へ連れてって。私はもうどうでも良いから!」
「あーあ。自己犠牲精神って言うの?それ1番嫌いなんだよ。お綺麗過ぎる魂は美味しく無い訳。まあだからこそ上質な魂な訳なんだけど、少しは本音を出しなよ。言えないなら私に任せてくれる?君の望む飢えないだけの食事を、君の元家族に与えよう。方法は私に任せてくれ。そして先の未来は家族次第だ。それで良い?」
「私は頷いた。保険金は永遠じゃ無い。でも飢えぬ食事を保証されるなら、生きていくのに楽な筈だから。」
「では君の家族のバストレコードを先送りするよ。家族の未来の映像だ。」
私の住んでた家から、黒いテープの様な物が陽炎の様に立ち上る。それが黒いパネルとなり、やがては未来の家族の姿を写し出した。
父と母は刑務所に居た。私を虐待し、保険金目当てで殺害した罪。毎日淡々と刑務所での生活をこなしている。粗食だが確かに3食餓えずに食べていた。
兄は大学を後少しの所で中退していた。その為就職も上手くいかず、私の保険金をあてにしてかりた借金が膨れ上がった。両親が刑務所にいる現在、兄が支払わねばならない。怪しげな所から借りた借金は、法律も兄を助けてはくれなかった。兄はヤクザに捕まり、山奥で最低限の食事を与えられ働かされて居た。
妹はとある孤児院に居た。孤児院は教会に併設された、質素倹約を実現する様な所だった。毎日私の写真の前で懺悔の祈りを捧げなければ、1日は始まらず食事すら与えられない。しかしそれさえ我慢すれば、毎日ご飯が食べられる。決して飢える事は無い。
・・・・・。
「どうだ?餓えずに暮らしてただろ?保険金なんて、そんなに簡単に貰えるわけが無いんだ。この後の家族も見たいか?折角君が餓えずに暮らして行ける様にお願いしたのに、皆欲をかいて自滅するよ。元からそんな薄汚れた魂達なんだ。だから君は殺された。君の願いをこんな結果にした私を憎むかい?」
私は首を振った。だって悪魔は嘘をついていない。私の願いを叶えてくれた。毎日餓えずにご飯が食べたい。それだけが私の願いだったのだから。
でも何だか悪魔が素敵に見えた。私の本音を見透かされた様な気がしたから。本当は私の死後に、家族に幸せになってなんて貰いたく無かったから。幸せな輪の中に、自分が入って無いのが悔しかったから。悪魔はそんな私の心に気付いたのだろう。
「ああ。お綺麗なだけじゃ無くなったな。因果応報だ。自己犠牲何て美しくない。君ももっと強欲になるべきだ。さてじゃあ行こうか?悪魔の国も案外楽しいぞ。」
私は食べられるんじゃないの?
「まさかー。熟れたらそう言う関係になる悪魔も居るけど、私は無理強いはしない。相手は幾らでもいるからね。君は好きな事をすれば良いんだ。私が飽きたら輪廻に還すよ。あ!もしかしてムシャムシャ食べるの方?それこそ有り得ない。下級悪魔は人の魂を食べて位を上げるけど、私には必要ない。上級以上の悪魔の暇潰しだよ。がっかりした?」
私は首を横に振る。ガッカリなんてしてない。正直で却って清々しい感じだ。私の家族は仮面を被ってた。私を皆で欺いてた。そんな人間よりも、対価を求め暇潰しと言い切る、この悪魔の方が信用できる。
私に手を伸ばす悪魔の手を取る。悪魔が漆黒の翼を広げ、天へと羽ばたく。
綺麗…。まるで闇の王ね。暗闇の支配者。これからは私の絶対者になる。飽きるまでは側にいてくれる。それが凄く嬉しい。
繋いだ手が発光する。悪魔は慌てて私の手を振り払った。落下する私の体。しかし悪魔が横抱きにキャッチしてくれた。
「お前今何をした?私は名のって居ない筈。しかもこれは伴侶契約?まだガキだから仮契約だが…。しかし何故?まさか私がこのガキを認めたのか?」
どうしたの?怖い。私が何か悪い事をしたの?ごめんなさい!お願いだからぶたないで!私を捨てるの?なら魂を消滅させてよ!飽きるまで側にいてくれるって言ったじゃ無い!
突如天から光が舞い落ちる。その光が私を絡み取る。私は天に引き摺られて行く。悪魔に手が届かない。
「飽きるまで側にいてくれるって言ったのに!私の闇の王。絶対者になってくれるんじゃ無かったの?やはり悪魔もウソつきなのね!バカー!」
「絶対者!?それか!何て場合じゃねえ!時間をかけすぎて天使に見付かったか!もう間に合わん。お前は必ず煌めく魂になる筈だ。私が悪魔の半分になる呪いをかける。割れたどちらかにお前の記憶の一部を託す。一部ですまない。それ以上は天使に見付かるし、かなりの代償が必要だ。全てでは重すぎるんだ。お前がお前で無くなるから渡せない。だが別れた魂のどちらがお前でも、私は絶対に間違えない。必ず私が輝子を見付けてやる。強欲になって良いと言ったのは私だ。責任はとろう。だから安心して逝け!私はアブソルートだ!」
いきなりどうしたの?された事無いけど、これじゃまるで愛の告白みたいじゃ無い。怒ってたんじゃ無いの?
アブソルート?かっこ良い名前だね。私は今時輝子だよ…。
でも探してくれるの?なら待ってるよ。何だかもう記憶が曖昧だよ。
「大天使様。こちらの魂は全て浄化完了です。地上に放ってOKです。」
「ほう。今回は中々上質なのが混じってるじゃないか。悪魔に見付からねば、久々の英雄の誕生だ。いや、女子だから聖女か。ツバつけとくか?」
「大天使様!」
「わはは。冗談じゃ。では無垢な魂達よ。新たなる命に祝福を。」
*****
「おんぎゃー。おぎゃぁー。」
「おんぎゃー。おぎゃぁー。」
禁忌の双子…。
私は魔の森の祠に捨てられた。
そして悪魔に拾われた。
大天使の祝福役に立たねー。
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