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メリークリスマス♪③

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 皇太子様はヘキセンハウスとコアラークッキーをじっと見つめ、なにかをブツブツと呟きながら唸っています。いったいどうしたのでしょう?なんだか口も挟めない状況です。どうしたものかと考えていたら、超真剣な顔をした皇太子様の顔のドアップが目前に!私の両手を取り、なぜかギュッギュと握りしめ上下にブンブン振りまくり。しかも土下座しそうな勢いで捲し立ててきました。
 皇太子様のドアップ…………御馳走様です。美形なルイスとはまた違う、正統派キラキラ王子様的イケメンですね。そう言えば我が国の第二王子様に雰囲気が似ています。イケメン乙です!!なんて最近は私も、巷の若い子たちの言葉も知っているんですよ。ころポックル商会には、最近若い方々のお客様が増えました。もちろん食堂のころからの常連さんも、変わらずに通ってくれています。嬉しい限りです。特に若い女性客は、食堂とは別にオープンした喫茶に来店されるのです。採取された時のみ限定のラブリーパフェが一番人気ですが、最近は帝国産のスイーツの人気が急上昇中。特にアンミツやトコロテン。お団子にオカキなどなど……。お茶も我が国の紅茶とは違う製法で、緑茶や抹茶に玄米茶などの種類があります。特にアンコが大人気。甘いのに意外にヘルシーだと、若い女性が集っているのです。つまりメニュー開発と料理指導をしている私は!若い人たちのお話をたくさん聞いているのですよ。
 ………………背中に絡み付くイヤンな視線……
 はあ……もちろんルイスですよねー。
 ルイスさん?あんまり酷いと……私もお返ししちゃいますよ?
 女性は強いのです。最近は女性が男性をスイーツ店に誘うのが流行りだそうです。おかげ様で若い男性客も増えています。コーヒー豆を使用したスイーツが、男性には人気とのことです。つまり私は何が言いたいのか?前述の通りです。私には邪な気持ちはまったく無いのです。言いたいことがあるなら話して下さい?すべて論破してさしあげましょう。
 はあ…………?
 『己じゃない男性を見るな? イケメンだとか思うな? 』
 冗談ですか?真面目に言っているの?話をするのに相手の目をみるのは当然ですし、イケメンだとか優しそうだとか腹黒そうだとか……人の印象は大切ですよ。人の印象ですぐに惚れたりしません!ならすぐでなければほれるのか?って……もういい加減にして!ルイス!あげ足を取るな!人を浮気者みたいに言わないでよ!
 『私はイケメンなら誰にでも惚れちゃうのですか? 私には隙があるんですか?ほうほうなるほど解りました。まだいいい足りないのですね?ならばルイスは、己は顔だけだと宣言している訳ですね。それではルイスの嫌っていた、大神殿や貴族の女性的方と一緒です。つまりルイスの目も腐っているのです! 私は女々しくてしつこいルイスは嫌いです! 』
 そうじゃないの?ならいちいち焼きもちを妬かないで。あまりにしつこいと、ルイスさんの武勇伝を話しちゃうぞ。可愛いお嬢様方に色々と聞いているのよ。お相手の男性にもね。
 己は潔白だと?私のように誤解されるようなことは見に覚えがない!だから私だけ気を付けろと?まだいうの?ふーん……ねえルイス?
 第二王子様の侍女が突然辞めたんですって?本当に突然だったから、第二王子様のお手付きになったのかと騒がれたそうね?しかしそれはとんだ濡れ衣だったと。実はルイスに惚れてしまい、手紙やら待ち伏せやらをしていたそう。ルイスは第二王子様の侍女だからと、適当にあしらっていたらしい。しかし実はその侍女は、第二王子様の后狙いで貴族の親に潜りこまされていたの。それがルイスに惚れてしまった。しかも親には……私はルイスと結婚する。彼は私を可愛いと言ってくれたと宣言。貴族の親はルイスが娘に手を付けたと、ならば責任を取れと、第二王子様とルイスに食って掛かったそう。ルイス?あなたはなぜ、私には身重の妻がいると言わなかったの?疑ってはいないけど、もったいぶった態度が彼女に誤解をさせたのよ?私がイケメンだわーと、皇太子様を思ったのを責めるなら、あなたも誤解されるような態度は改めなさい!
 なんて感じで視線でバトルできてしまう己たちが怖い。でも間違いは絶対にないわ!ルイスのバカ!と思っていたら、ルイスの眉がさらにより目が据わってきてる……はっ!?
 「アリー嬢頼む。このヘキセンハウスを特注で作って貰えないだろうか? 」
 こっ皇太子様!興奮なされてるためか、顔が近すぎます!私は妙な誤解はしませんが……ルイスの視線が怖い……
 「皇太子様。落ち着いて下さい。余り顔が近すぎますと、エリー様に誤解されてしまいますよ」
 なんてごめんなさい。たぶんエリーは誤解しないわ。恋愛に関しては、たぶん私と同じタイプだもの。
 「エリザベートが誤解してくれるのか? 」
 皇太子様がチラリと隣の東谷を眺める。……ごめんなさい。誤解して欲しかったのね……ルイスのアホ!そのジト目しっかり見られたから!
 エリーはチラリとこちらを見たが、一瞥して買い物に戻っていた。
 「期待はしてなかったが……ルイス殿には絞め殺されそうだ。気を付けよう。私はエリザベート以外に女性としての興味はない。しかも一度試して失敗してるからな……」
 婚約破棄の件ですね。エリーに聞きました。確かに試したのは駄目です。しかしエリーもちょびっとは、反省しているのです。あのときは変態から逃げることしか考えていなかった。しかし己からも理解しあえるように、少しでも行動を起こしていれば良かったと。
 「エリーは皇太子様のことを好きだと思いますよ。焼きもちを妬かないのは、皇太子様を信じているからだと思えませんか? 伴侶として支えあい共に歩きたい。嫌いだったら言えない言葉です。ただあからさまというか……ルイスもですが束縛がキツいのでは? 己のことを考えて見て下さい。噂としてかなり聞きましたが、皇太子様もかなり浮き名を流していましたよね? もちろんすべて女性側の一方的なものだったのも知っています。エリーも知っていますよ。なのにエリーの周囲の男性に対して、明らかに恋愛対象で無くても厳しいですよね? 己が自然に感じていることを、細かく詮索されるのはキツいです。あれ見て解りません? 今でこそあまり気にならなくはなりましたが、正直まだまだキツいですよ。」
 私は振り向きルイスを見る。皇太子様も見る。さっと顔をそらすルイス。たぶん聞き耳立ててたなー。
 「だからエリーを信じてあげて下さい。エリザベート様としてだけでなく、エリーとしても見てあげて下さい。ダンジョンや魔の森でのエリーも素敵ですよ。ドリルヘアーは貴族としての戦闘服だそうです。縦ロール姿では無いエリー。マーガレットブランド代表のエリー。そしてドリルヘアーのエリザベート様。皇太子様がすべてを受け止めてこそ、エリーの気持ちも変わるのではないでしょうか? 」 
 皇太子様はジッと考え込んでいる。私も生意気なことを言ってしまったのかしら?
 「愛情はお互いを信じあえて生まれるものだと思うんです。私も初めはルイスのことをなんとも思っていませんでした。だってダンジョンの最下層に置き去りにしたんですよ。正直マイナススタートです。でも徐々に信じられるようになりました。側にいるのが当たり前すぎて、いないと寂しくなったんです。皇太子様とエリーは、側にいるのは当たり前……これは既にクリアされていますよね? 後は相手を信じる気持ちです。お互いに思い合えれば愛も生まれますよ。きっと 」
 皇太子様が顔をあげる。
 「そうだな。私はエリザベートのことは良く知っている。しかしエリーとしてのことはあまり知らない。いや知ってはいるが見たことが殆んどない。私は中々城の外に出れぬ。たまに我慢できずに脱走しては、エリーに邪魔をするなと追い返されるのだ……」
 「そっそれは……公務を放り出して来るからでは?なにも一緒にダンジョンに潜れとか、魔物の討伐に行けと言っているのでは有りません。少しでもエリーを感じて欲しいのです。きっと知らないエリーが魅力的すぎて、過剰に束縛してしまうのでは? 例えば今です。エリーは朝からドリルヘアーです。戦闘服を纏っている。つまり気持ちは公務中なのです。しかし今日は夜の晩餐会とパーティーまでは、普通の髪型でも良かったのでは? 」
 エリーはお城に滞在するなら、それは公務にあたる。だからドリルヘアーなのだと言ったそう。ならば!
 「でしたら今晩は我が家に泊まりませんか? 元血統の魔道具を設置した為に、防犯や警備は厳重です。なにしろ我が国の重鎮がちょくちょく借りにきて、ついでとばかりに泊まってゆくんですよ。商会の中でも色々と楽しめますし、知り合いを呼んでお茶会をしても良いですよ。どうですか?良ければ王さまに許可を取りますが? 」
 「あらそれは嬉しいわ!なら今晩の晩餐会とパーティーも、違う髪型で出てあげる。明日お城に居ないなら、もうドリルヘアーにする必要は無いわ。終えたら直ぐにアリーのお宅に行きましょう。若い子に人気だというスイーツに、お洒落な魔道具やらも販売しているのよね? 私も魔道具は作るけど、デザインがイマイチなのよ。冒険者がするには性能第一だけど、貴族には宝飾品としての魔道具は最高よ。魔道具とバレずに身を守れる。素晴らしいアイデアだわ。楽しみだわー」
 エリーいつの間に後ろに?私の恥ずかしいうんちくを、いったいどこから聞いていたのでしょう。
 「アリーのお話はかなり私的には恥ずかしいことばかりだったけど、大筋はバッチリよ。エドワード? 頑張ってね? アリーにもお礼をしなくちゃ。明日を楽しみにしていて? 直ぐに用意させちゃう」
 …………お礼をされることなんて……なんだか怖いかも……

 夜はクリスマスをテーマにしたお料理での晩餐会。お料理は王宮の料理人の皆さまでしたが、とても繊細で目にも鮮やかでした。デザートのブッシュドノエルは、まるで丸太のように巨大なケーキでした。お客様がそれぞれお皿に切り分ける。そのまま食べ終わった方々からダンス会場へ。楽しいクリスマスとなりました。

 明日はお二人にはのんびりして貰い、お昼過ぎにお茶会を開催。貴族用の宝飾品としての魔道具のデザインを知りたいとの要望により、ライラや知り合いを呼ぶ予定です。転移の魔道具の使用許可も戴いてきましたので、帰国は皆さま心配しないで下さいね。

 それから皇太子様……了解です。キチンと明日までに作製しましょう。前回焼いた時に、型を作っておいて良かったです。
 
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