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【閑話】更正への道編。
❷ロゼッタ編・㊤
しおりを挟むロゼッタさんは犬に生まれ変わり、大人しい引っ込み思案な女の子のお友だちとして貰われて行きました。女の子は初めてのお友だちが嬉しくて、毎日甲斐甲斐しくお世話をします。そして時おり、己のおやつを分けてくれるのです。
「ロゼ? 今日はお客さまにクッキーを貰ったの。ロゼにもわけてあげたかったんだけど、お母さんがダメだというの。干しブドウとチョコが練り込んであるから、ワンちゃんには体に悪いんですって。でもこちらには入ってないからあげるわね。あとこれはミルクよ」
「ワウン! ワン! 」
「美味しい? なら良かった。あらこちらは駄目よ。体に悪いからね」
女の子は残りのクッキーの袋を持ち、お家へ戻ってしまいました。もとロゼッタ犬は不満顔です。他のクッキーも食べたかったからです。
その日の夕方もとロゼッタ犬は、家の玄関にあのクッキーの袋が置き忘れていることに気付きました。誰もいないのに安心したもとロゼッタ犬は、クッキーの袋を破き、中身をすべて食べ尽くしてしまったのです。案の定夜には具合が悪くなり、七転八倒する羽目になりました。
もとロゼッタ犬を看病したお母さんは、女の子を厳しく叱りつけ、お腹に優しい犬用のフードを購入してくれたのです。もとロゼッタ犬は大喜びです。だってこのフードはお高いだけあり高価な食材を使用し、柔らかく消化もよくとても美味しいのです。
しかし体調が良くなると、もとの普段のご飯に戻りました。もとロゼッタ犬は考えます。またあの美味しい犬用フードが食べたいと……
しかもお母さんに散々叱られてしまった女の子は、大丈夫な普段のおやつさえ分けてくれなくなりました。楽しみだったおやつがなくなり、余計におやつや犬用フードが食べたくなります。そんなときに女の子が庭先のイスに座り、お煎餅を齧っているのに気付きました。あれは甘くないけど、パリパリして美味しいのよ。と考えるもとロゼッタ犬。以前ならロゼッタにも一枚分けてくれたのです。なのに分けてくれない女の子に腹を立てたもとロゼッタ犬。女の子に体当たりし、お煎餅を奪い食べてしまいました。
するとまたまた夜になると体調が悪くなり……
「ネギ味噌のお煎餅を食べさせたのね! 犬に人間のお菓子を与えては駄目だと教えたでしょ! 」
女の子がお母さんにキツく叱られ、泣いている声が聞こえてきます。しかしもとロゼッタ犬は、これでまたあの美味しい犬用フードが食べられるとニンマリしていました。案の定体調が良くなるまで、犬用のフードが食べられたのです。これに味をしめたもロゼッタ犬。隙を見ては女の子からおやつを奪い始めました。しかしそうそう、犬の体に悪いものばかりはありません。
もとロゼッタ犬は考えました。そう!仮病を使ったのです。苦しそうな振りをしてキュンキュン唸る。すると皆が勘違いしてくれるのです。もとロゼッタ犬は、犬用のフードにご満悦。しかし女の子は毎回濡れ衣を着せられ、キツくお母さんに叱られるのです。しかしもとロゼッタ犬は己の欲望にのみに忠実で、女の子のことなんて考えもしません。
「ロゼ? 私が最初にお菓子を分けてあげたのがいけなかったんだよね。でも最近は普通のお菓子でも具合が悪くなるのはなぜ? もしかして仮病なの? なんて聞いても答えてはくれないよね。でも私はロゼを友だちだと思ってるの。だから苦しんでいるのを見るのが辛いんだよ……」
女の子はお母さんに叱られても言い訳はせず、もとロゼッタ犬の体調を心配しているのです。しかしもとロゼッタ犬は……
我関せずで変わりもせず、美味しいものを食べたい欲望を、叶えることしか考えていませんでした。
ある日もとロゼッタ犬は、香ばしい匂いで鼻をヒクヒクさせます。その日は家族で、お庭でバーベキューをしていました。網の上でジュウジュウと香ばしく焼けるお肉。串に色々なお野菜が刺さったものも焼かれています。もちろんもとロゼッタ犬にもお裾分けがありました。しかし少しのお塩で味を付けたお肉と野菜です。あの香ばしい香りのタレが絡んだものではありません。こんがり焼けた味の染みたお肉が食べたい……そんな欲望が頭をよぎります。
もう我慢ができません。もとロゼッタ犬は、女の子に飛びかかります。女の子は手に持っていたお皿を落としてしまいます。そのお皿からは、焼けて串から外したお肉やお野菜が飛び散りました。慌てて拾おうとする女の子にさらに体当たりをして吹き飛ばし、もとロゼッタ犬は散らばる食べ物を食べ始めました。
「ロゼ……食べちゃ駄目だよ……それはワンちゃんには毒なんだよ……」
ロゼッタは女の子の必死な声を無視して、ガツガツと食べまくります。驚く他の家族を尻目に、焼き上がったものを乗せた台にも飛び乗り、ガツガツと食べまくりました。
「キュゥ? キュゥ……キュウン……」
「ロゼ? ロゼ! 大丈夫? だから駄目だと言ったじゃない! お肉ならまたましも、玉ねぎや長ネギもあるのよ。ネギ類は危ないから駄目なのに……」
もとロゼッタ犬は数日苦しみ、美味しい犬用フードも喉に通らず死亡しました。悲しくて泣き崩れる女の子。しかし母親はもとロゼッタ犬を許しませんでした。
「こんな罰当たりな犬は裏山に捨ててきなさい! 弔いなんてする必要はないわ! 泣いてあげる価値もない! 」
飼い主である女の子を蔑ろにし、奪ってまで食べる食い意地に、家族は真相を知ったのです。もとロゼッタ犬は裏山に投げ捨てられ、獣たちに食べ尽くされました。
「……貴様は犬としての寿命さえまっとう出来ないのか! しかも食い意地の張りすぎで死亡だ? 情けなくて涙がでるわ! 」
閻魔大王に怒鳴られるロゼッタ。キョロキョロと周囲を見渡しています。
「なんだ? もと王子を探しているのか? アヤツはすでに輪廻の輪に戻った。犬として大往生し、最後には人助けして逝ったからな」
なら己も人助けして死ねば……と考えるロゼッタ。
「アホか! そう簡単に赦される訳がなかろう! 心から反省し改心し、煩悩や雑念を持たずに善行を行う。この心根が必要なのだ! 」
まったく説教臭い親父だわ……しかもあのちょび髭カッコ悪いー。なんて呑気に考えているもとロゼッタ犬。
「貴様は……そのふざけた頭をカチ割ってやりたいわ! 良く聞け! 貴様は少女の真心を踏みにじった。あの後貴様の死体は、母親により裏山に投げ捨てられた。それを嘆き悲しんだ少女が死体を探しに裏山に入り込み、村中で大騒動になったんだ」
ふーん。死んだ犬の体なんてどうしたいのかしら?もう魂は入ってないんだから、打ち捨てられたって構わないじゃない。バカな子よね。
「貴様は……少女は貴様を弔ってやりたかったんだよ! しかし報われんな。母親に濡れ衣で叱咤されても、お前を友だちだと思い弁解もせず庇っていたのにな……」
そんなの私のせいじゃないじゃないわよ。犬と友だちなんてちゃんちゃら可笑しいわ。でも閻魔大王って変よね?私ってば一言も喋っていないのに、まさか読心術でも使っているの?なら変態じゃない。勝手に心を覗かないでよ! などと、またまた嘯くロゼッタ。
「私は裁きの神だ! 変態ではないわ! 覗かなくとも貴様の本心などお見通しだ! でなければ裁きなどできぬであろうが! しかしどうするか……ここまで穢れた魂はもう抹消するしかないか? 更正の余地もなさそうだしな……」
途端に慌て出すロゼッタ。涙をホロホロ流しながら、胸を寄せ上げ手を組み、上目使いで閻魔大王を見上げます。
「色仕掛けなどが通じるか! この罰当たりものが! 」
ロゼッタに特大の雷が落ちます。悪魔だったころ、大層自慢だった漆黒の黒髪が、まるでアフロの様にチリジリになってしまいました。
「わははは! まるでチャウチャウ犬の様だな! そうだ! ならまた犬になるが良い。しかし今回は野良犬だ。自力で生き抜いてみよ。世間の荒波に揉まれ、己の傲慢さを悔いるがよい。これが本当に最後のチャンスだぞ」
嫌よ! 魂の末梢なんてイヤー! 私は悪魔に戻りたいのー!
悲鳴をあげるロゼッタが目を開くと、そこは川原に置かれた木箱の中でした。
「キュウウン……」
「おい! あそこに汚ない犬が箱に入ってるぞ! なんだ? 紙が貼ってあるぞ? なんて書いてあるんだ? 」
「貰ってくださいだってよ! まさか読めないのかよ! でもこんな張り紙したって、結局捨てたんじゃん。それに触るなよ。捨て犬は病気持ちらしいぞ! 」
「そうだよ。汚ないし危険だから、お役人に知らせて処分して貰うんだよ」
「ふーん。ならこのまま川に流しちゃおうぜ。どうせ殺されるんだろ?溺れ死んでも同じじゃん。運があれば犬かきで助かるかもよ」
男の子たちが木箱ごと、川に向かって投げ込みました。木箱はどんぶらこっこと流れて行きます。
木箱には徐々に水がしみ入り、浸水して行きます。
「ワ……ワゥン……キュウン……」
あわやもとロゼッタ犬の運命は如何に?
※※※※※※※
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