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【閑話】更正への道編。
❸ロゼッタ編・㊥
しおりを挟むあわれもとロゼッタ犬。生まれ変わった早々に、命の危険に晒されています。流れに揉まれ水はどんどん浸水し、体も半分が水に浸かってしまいました。寒さでブルブルと震えてしまいます。あっ危ない!
ガッシャーン!
川底から飛び出した大岩にぶつかり、木箱は大破してしまいます。あわれ川の水の逆流にのまれ、このまま儚くなってしまうのか……激流に身を任せながら、もうこのまま死んじゃおうかな……と考えるもとロゼッタ犬。
駄目よ! またすぐに死んだら、今回こそ魂を消滅させられちゃう。まったくあの鬼畜な閻魔大王め! バーカ!ハーゲ! ちょび髭エロジジイめ!脳内で閻魔大王を口汚く罵るロゼッタ。
「ワウンッ! ギャウンッ! 」
もとロゼッタ犬の頭上に雷が直撃だ!
あのクソ閻魔大王め……覗くなエロジジイが!またまた……まったく懲りません。
ドンガラガッシャーン!
再度雷の直撃だ!ヒクヒクと痙攣し、浮き上がるもとロゼッタ犬。しかし体の力が抜けたのが幸いしたのか、川の曲がり角で岸に打ち上げられます。しかし寒さで凍えて一歩も動けません。さらには体が痺れているのです。
もう駄目だ……
でも! 生きなきゃ! 魂の消滅だけは嫌だと、必死にもがくもとロゼッタ犬。しかし中々川辺から離れられず……やがて気を失い再度目を覚ますと……なにか汚ない布地が己にかけられていました。
汚ないし臭いからと、その毛布をグイグイと蹴りつけ端へ寄せるもとロゼッタ犬。
「あ! 起きたんだ? 死ななくて良かったよ。あのままだったら、朝までに凍死してたよ。はいこれ」
薄汚れた少年が、なにかの器を渡してくれます。中を見ると少しの肉片と野菜の浮いた、まるで水のようなスープでした。嫌そうに後ずさるもとロゼッタ犬。
「ごめんね。今月はもう食べ物がないんだ。明後日になれば届くから、今はこれで我慢してね」
顔をしかめるもとロゼッタ犬でしたが、空腹には勝てませんでした。一気にスープを飲み干し、その晩はあの少し臭う一枚の毛布にくるまれ、少年の腕にに抱かれて眠りについたのです。
翌朝川のせせらぎの音で目を覚まし、慌てて毛布を剥ぎドアに体当たりして外にでます。するとそこは川から少し離れた、林の中の山小屋でした。
「あ! 早起きだね。朝ごはんはこれね。固形物はもうこれだけなんだ。明日まで我慢してね」
少年はもとロゼッタ犬の前に、パンを一つをちぎりお皿に乗せたものを置きます。さらには昨晩の残りのスープをよそってくれました。大人しく食べるもとロゼッタ犬。
「僕はこれから食べ物を探してくるよ。君はここにいて良いよ。うーん……君ってのも変だよね。僕はカール。君は……女の子だからロゼがいいね。良し!君は今日からロゼだよ」
「キュウン……」
そう言いながら、カールは山小屋を出て行きました。もとロゼッタ犬は臭いに顔をしかめながらも、寒いので毛布にくるまり再度惰眠を貪りました。
「いてててて……」
お昼を少し過ぎたころ、身体中をスリ傷だらけにした少年が戻って来ました。手にはなにか白い丸いものを持っています。さらには甘酸っぱい香りが漂ってきます。
「ロゼただいま。ちょっと待っててね。今すぐに作るからね」
言われるように大人しく待っていると、カールは手早くなにかを作ってくれています。暫くすると、黄色いフワフワなたまご焼きと、真っ赤な粒々のベリーが目の前に出されました。
「親鳥に抵抗されてこれしか取れなかったんだ。でも栄養をつけないとね。はい。食べて良いよ」
もとロゼッタ犬は、喜んでがっつきます。最後にはお皿まで綺麗に舐めとりました。それを満足そうに見た少年は戸棚から大切そうに、銀色の蓋のビンを取りだします。どうやらぬり薬の様で、蓋を開け己の傷に塗り始めました。夜ご飯には再度昨晩のスープの残りに、卵を割りいれたものでした。
少年はまるで暖を取るように、夜はもとロゼッタ犬を抱き締めて眠りに落ちました。
「グー……ググゥ……グウゥゥゥ……」
なによ煩いわね? もとロゼッタ犬は、妙な物音で目を覚まします。どうやら少年のお腹の音の様です。
なんで?気にはなりましたが、眠気には勝てず再度眠ってしまいました。翌日食料が届きました。
「今回はこれだけなの? 」
「施してやるだけありがたく思えとのお言葉です。可愛そうですが、どうやら貴方には死んで貰いたい様ですね。力及ばずこれくらいしか、私にはお力になれません。申し訳ございません」
「いいよ。殺されるところをここへの追放を提案し、命を繋いでくれたのは君だよ。監視の目をかいくぐり、薬を忍ばせたりするのも大変だろう。大切に使っているよ。今日はパウンドケーキと毛布だね。本当に感謝する」
「殿下……」
「僕はもう一平民だ。その呼び方は禁句だよ。あの人に聞かれでもしたら、君の命も危ないからね」
聞き耳を立てるもとロゼッタ犬。話を聞いて不思議そうにしている。
「あはは。聞かれちゃったね。実は僕はこの国の王太子だったんだよ。しかし弟が僕を断罪したんだ。それで僕は廃嫡の上王籍を剥奪されたんだよ。もちろん僕には断罪される覚えはない。しかし婚約者は僕に蔑ろにされた上、酷い暴力を振るわれたと証言した。さらには弟王子に公務を押し付け浮気三昧だと言い、弟に荷担したんだよ。僕は見捨てられたんだ……」
「キュウーン……」
「ロゼは暖かいね。ロゼって言うのはね。バラ色って言う意味があるんだ。だからロゼには幸せになって欲しいんだ。ロゼの未来はバラ色に染まって欲しい。もう少し体力がついたら、さっきの人に村に連れていって貰おうね。ロゼを大切にしてくれる飼い主を探して欲しいと頼んだんだよ」
……弟王子の所業に、グランデ王子のフランシス姫への仕打ちを思い出す、もとロゼッタ犬。あのときは己も調子に乗っていたことが身に染みます。悪魔のロゼッタは、本気で王妃になれると思っていたのです。
弟王子はグランデ王子と、似たようなことをしでかしました。そしてロゼッタもカールのもと婚約者と同じようなことをしでかしていたのです。たとえ己がフランシス姫を貶めていなくとも、グランデ王子に加担したことは間違いないのです。
ようやくもとロゼッタ犬は気づけたのです。
「キューン……キュウーン……」
カールはロゼを抱き上げ小屋へ戻り、温かな野菜たっぷりなリゾットを作ってくれました。中には鶏肉もたくさん入っています。
「熱いから少し冷ましてから食べてね」
カールはロゼに言葉をかけ、お風呂を沸かしに向かいます。山小屋のお風呂を沸かすには、炎の魔石というものが必要なのです。消耗品のため、月に数度しか沸かせません。また水は川から運びます。二つのバケツで四往復。かなりの重労働です。
「ふう。ようやく準備ができたよ。さあ一緒にお風呂に入ろうか。綺麗に洗ってあげるよ。ロゼは美人さんだから、きっと綺麗になるね」
ジタバタと暴れて抵抗するもとロゼッタ犬。男性の裸なんて、悪魔のころに見慣れているはずです。しかし恥ずかしくて仕方がないようです。
こんな感じで日々が過ぎてゆきます。カールに救われて約一ヶ月後、もとロゼッタ犬は、すっかり元気になりました。林の中に入り狩りをしたり、食べられるキノコや貴重な薬草を見つけて来たり。食事もかなり良くなりました。ある晩お風呂で洗われるもとロゼッタ犬に、カールは寂しそうな声で言いました。
「明日は食料が届く日なんだよ。ロゼをめいいっぱい綺麗にしなくちゃね。明日は彼について行くんだよ。優しい飼い主が見つかったんだって。可愛がって貰えるよ。僕はいつまでも、ロゼのバラ色の未来を願っているからね……」
「キュ……キュウーン……」
互いにしんみりしてしまうけど、こればかりは仕方がありません。カールは新しい毛布を取り出しもとロゼッタ犬にかけ、抱き締めたままベッドで眠りにつきました。
カールともとロゼッタ犬の別れはすぐそこに迫っていました。
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