【完】天使と悪魔の政略結婚。~真実の愛は誰のもの~

桜 鴬

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【本編】悪魔な王子 side。

【Ⅲ】

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 俺はもうなすすべがなかった。うつむき泣きたくなるのを堪えていた。

「さて。お見苦しいところをお見せして申し訳ない。天使国の皆様には深くお詫びを申し上げたい。此度は我が愚息が本当に迷惑をかけてしまった。愚息は継承権と王籍を剥奪の上、羽を落とし下界落ちとする。フランシス姫。本当にすまなかった」

 そんな……継承権はともかく……王籍剥奪……さらには下界落ちだと?

 「悪魔国の王よ。我が娘も困っておる。頭を上げて欲しい。とりあえずこれで婚約破棄の件は解決でよろしいか? ならば次の話し合いに移りましょう」

 俺を放置し二か国の王族たちの会議が始まった。俺とフランシスの婚約が破棄されても、今まで通りの和平協定は結ばれたまま。これからは今までよりも交流を増やし、合同で晩餐会などを開催。二国間での婚姻を国が推奨し、さらには婚姻が成立した者たちには、互いの王家からささやかなお祝いをだす。

 天使国と悪魔国の王様たちが立ち上り、互いに歩みよりしっかりと握手を交わしている。

 まさか俺の断罪は、最初から仕組まれていたのか?ロゼッタにさえ裏切られ、俺にはもう味方はいないのか?

 フランシス! フランシスがいるではないか! 

 俺はフランシスの背後に回り、背後から手のひらで口を塞いだ。驚いて騒がれても面倒だからな。そのままイスから引っ張り抱き止める。

 「フランシス! 貴様! フランシスからその汚ない手を離せ! 」

 フランシスとともにいた男が喚いている。フランシスもなにかを話したい様だ。塞いだ手のひらに熱い息を感じる。熱を帯びた吐息を漏らすほど、俺に抱き締められて感動しているのか?

 周囲は突然のことに驚き固まってしまっている。この隙にフランシスを手に入れる。フランシスもこの男から解放されて喜ぶだろう。

 「フランシス! 貴様は私を愛しているんだよな? ならばお前を王妃にしてやろう。それで元通りだ。神よ!聞いているか? 私とフランシスの婚姻を認めろ! 」

 フランシスを壁に押し付け唇を塞ぐ。もうコイツは俺のものだ。神に報告は済んだ。ならもう解禁だな。俺は舌先で遠慮なく、フランシスの唇を割り入る。唯一肌の見えている胸もとに、遠慮なく手を差し入れた。

 意外に有るじゃないか。これなら楽しめそうだな。唇を離すとフランシスと目が合う。なんだその憐れむような目は! なぜ恍惚とならん! 俺のテクは……ウッ……ウグゥ……なっなんなんだ?

 「ぐあぁぁぁ……くっ苦しい! いっ息ができん……ハッ、ハッ、ウッ、ウギャァァァ……やっ止めてくれー」

 なんだ?なにが起きたんだ?身体中に激痛が走り抜ける。立ち上がることさえできやしない。するとフランシスにあの男が駆け寄り、ハンカチで唇をゴシゴシと拭っている。おい貴様!俺はバイ菌ではないんだぞ!

 ウギャァァァー!いっ痛い!助けてくれ……

 「愚息よ……哀れすぎてかける言葉もないわ。しかし最後の情けだ教えてやろう。貴様は学園で学ばなかったのか? 家庭教師もつけたであろう?なにを勉強してきたんだ? 先の戦争での一部の悪魔族の悪行により、天使族と悪魔族は正式に婚姻せねば体液の交換に当たる行為はできない。それを犯せば神の審判が下るのだ」

 それは父王から先日説明を受けたぞ。しかし体液交換うんねんなど、聞いてはいないわ!

 「なっならば! 今すぐに婚姻を! 」

 「さきほど王子が神に願ったのでは? しかし神は答えなかった。この場からなら神に届いたはず。つまり婚姻は認められなかったのです」

 くそっ!フランシスめ! 俺への当て付けのつもりか!

 「フランシス! いい加減に素直になれ! たしかに私は浮気をした。しかし浮気は男の甲斐性だ。私を愛しているなら、少しくらいは多目にみてくれ。ファーストキスもセカンドキスも済ませた仲ではないか! 」

 「ふざけないでください。フランシスのファーストキスもセカンドキスも、どちらも私が戴きました。貴様のキスなど、虫に刺された様なものです」

 なんだと!やはら浮気をしていたのか!

 男がフランシスを引き寄せ唇を重ねる。フランシスもそれに答えて反応を返している。互いにしっかりと抱き締めあい、濃厚なキスを交わしている……なぜだ!フランシス!

 「衛兵よ! ならず者のグランデを捕らえよ! ロゼッタとやらと一緒に神の審判を受けさせよ」

 衛兵たちが俺をを取り囲み縄をかけた。

 「父上! 私がいなくなれば、誰が王になるのですか! 父上には私しか居ないではないのですか? 」

そうだ!直系の男子は俺だけだ。他に王位を継げるものはいない。

 「愚息が心配することではない。王太子にはフランシス姫の婚約者である、ザイールを指名する。つまり次期王はザイールだ。フランシス姫は次期王妃となるな。二人とも悪魔国をよろしくたのむぞ。神よ! この未来ある二人に祝福を! 」

 王の言葉で突如花びらが舞い始めた。なんだ?この花びらは!なぜ室内にいきなりふるんだ!

 「神の審判が通ったようだな」

 とたんに盛大な拍手が鳴り響く。衛兵たちまで一緒になり拍手喝采だ。いつまでも拍手はなりやまない。やめろ!その拍手を止めてくれ……

 「なっなぜあの男を次期王に……」

 「王族ですらなくなった貴様に教える義理はない。兵士たちよ。さっさと牢へ繋いでこい! 」

 「父上! 父上ー! フランシス! 愛する私を助けるのだ! まさか王妃の座に目が眩んだのか! 真実の愛を捨て去る気かー! 」

 フランシスを見つめるが、その瞳は氷の様に冷え冷えとし冷たかった。まるで凍りつきそうな……

 「王妃の座なんて今知ったばかりで、私こそ困惑しております。それよりもしつこいですよ。私は愛してなどいません。政略結婚だからと、良いところを見つけようと努力はいたしました。しかし微塵も見つかりません。己は私に愛されることをした覚えがあるのですか?」

 「それは……しかし今日とて私のために着飾ってくれたのではないのか? 」

 「違います! ザイールのためですわ。このドレスとお飾りを見ておわかりになりませんか? ザイルの髪と瞳の色です。彼から色あわせをして贈られたものです。彼は私の色を纏っております。パートナーたる婚約者からの贈り物です。あなたは私に一度も贈ってはくださらなかった。これは婚約者としての義務ですよ」

 ……たしかにザイールという男とお揃いの生地で色違いだ。しかもフランシスだけでなく、男も彼女の色を纏っている……だが!

 「煩い! 煩い! 煩ーい! 結局貴様は王妃の座に目が眩んだに違いない! 」

 「貴様の方が煩いわ! ザイールが悪魔国の次期王で、フランシス姫が王妃なのは変わらん事実だ。フランシス姫には、これらのことはなにも知らせていない。さぞ不思議がっていることだろう。ああそうだな。なら別れの土産に愚息にも教えてやろう。衛兵よ。そこのイスに愚息をくくりつけよ。ついでに猿ぐつわもな。まったく煩くて叶わん」

 そうだ!キチンと説明をしろ!

 悪魔国の王に天使が即位できるはずがない!

 やはり俺が王に一番相応しいのだ!

 まずは無礼なその男を処分しよう。フランシスの唇にも触れたからな。もちろんフランシスにもお仕置きが必要だな。俺に二度と逆らわない様に、厳しく調教してやろう。

 そのザイールとやらはみせしめのためにも、城の下男として使ってやってもよいな。いや、俺とフランシスの寝室の掃除係として働かせるか?新婚の激しさを見せつけてやろう。

 ああ。楽しみだ……
 
※※※※※※※
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