【完】天使と悪魔の政略結婚。~真実の愛は誰のもの~

桜 鴬

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【本編】悪魔な王子 side。

【Ⅳ】本編・王子side・END

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 まさかそんな……このザイールとやらが俺の腹違いの兄……しかも母親は天使族の王女だと……しかも父王が悪魔族の非情な行いを制すため、神に願い神の審判と制裁が叶ったと言うのか……

 父王はザイールのために天使国との和平を目指した。そしてそのための俺とフランシスの政略結婚……

 「フラン。私が天使国へ行きたいと望んだんだよ。たとえ結ばれなくとも、フランの側にいたかったのです。私は天使族である母の体質を色濃く受け継ぎました。フランとのファーストキスでは制裁が発動せず、そのことをよけいに強く意識したのです。私は羽さえ出さねばハーフだとはわかりません。色彩も天使族に近いのです。目の色は悪魔族の父からですが……」

 「ザイール……」

 たしかに……この男の姿を見て、俺は悪魔族だとは微塵も思わなかった。ましてや兄だともな!

 「私は息子の望みを叶えた。天使国の王に託したんだよ。やがて息子が差別されない悪魔国を作ると決心してね。そしてようやく叶ったんだ。もうザイールを日陰者になんてさせやしない。姫とザイールの婚姻式では、我が妻エレノアのことも大々的に発表したい。エレノアだけが私の生涯の伴侶だ。元妻とは婚姻無効を神に認められている」

 父上!俺がいたのになぜ、母上との婚姻を無効にしたのです!

 「グランデよ。この話を聞いても、貴様はロゼッタとやらとの関係が、真実の愛だったと言えるのか? 貴様はなにを得たかったのだ? たしかに政略結婚を強いたのは私たちだ。しかし初めから愛はなくとも、信愛の情は育めたはずだ。お前が姫を大切にし、婚姻までたどり着いたならば、血は繋がらずとも王にするつもりだったんだよ」

 衛兵が俺の猿ぐつわを外す。やっと声がだせる!父上!

 「父上! 母上は病死だったのでは?なぜ処刑なんて! 母上がそんなに邪魔だったのですか? それに血が繋がらないとはどういうことですか? 私は父上と母上の子です! 」

 「お前は前宰相と元妃の子だ。私は悪魔国を差別のない国にし、やがてはザイールを王にするつもりだった。だから妃とは子を作らなかった。妃は気付かなかった様だが、義務の閨では私は避妊をしていたからね。魔法薬なので確実だよ」

 まさか……ならば俺は、前宰相の子なのか?

 「そんな! だが母上を蔑ろにしたあなたが悪いのではないのか? いくらなんでも刑が重すぎる! 」

 「宰相はもと妃の父方の従兄だ。宰相の勧めで召し上げたが、貴様とロゼッタとやらと同じく、学生のころからの仲だったそうだ。私は大切にしたつもりだよ。心はエレノアに残したから愛せない。だが信愛の情を育もうとはしたんだ。だが! 結婚後も宰相との関係は続いていた。王族には影がついている。まさか式の一週間後には、宰相と関係を持っていたとは恐れ入ったよ」

 母上は俺を王子だと偽った。それならばたしかに大罪だ。しかしならばなぜ!なにも知らせずに俺を育てたんだ!

 「そんな……嘘だ! ならなぜ私を王にしようなんて思うんだ! それになぜ一族郎党を下界落ちにしたんだ! 」

 「宰相と元妃の一族は、天使国との友好に難色を示していた。あわよくば私とザイールを弑逆し、宰相は己の子を王位につけ、己の傀儡にしようと目論んでいた。宰相の母は父王の姉君、つまり私たちは従兄弟だ。だからか良く似ていたし、黒髪赤目も同じ。だから解らないとでも思ったのだろう。しかし反逆は大罪だ。国を乱すものは間違いなく処刑だよ」

 まさか宰相と母上の一族は、悪魔国を乗っ取るつもりだったのか……

「 宰相は王家の血を引いている。さらには貴様とフランシス姫との婚約だ。私の血を引かぬとも、両国の血を受け継ぐ子が次期王となる。貴様が愚息でも、優秀な姫なら不足を補ってくれる。後継者に期待がもてる。そう考えたからだ! 姫と婚約破棄をした貴様はもう用なしだ! 」

 「ならば! フランシス! 私ともう一度婚約をしてくれ! お前だけを愛すると誓おう。真実の愛を捧げよう。どうだ? 嬉しいだろう。泣いて喜ぶが良い! ワハハハハ! 」

 フランシスが席から立ちあがり、室内の皆に正式な礼をした。二人の王が頷くと、その足で俺の方へ歩いてくる。

 「フランシス! やはり来てくれたのか! 早くこの縄を解いてくれ! そして直ぐにでも神の審判を受けよう。そのまま籠って子作り開始だ! 朝まで寝かせないからな! 」

 なぜか眉間に皺を寄せ、怪訝な顔をするフランシス。子作りなんて言葉を聞いて怖がっているのか?大丈夫だ。最初は優しく愛してやるぞ。楽しみは二回目以降だ。

 なんて妄想に耽っていたら、腹部に強烈な痛みを感じた。まさかフランシスにパンチを入れられたのか?目前には拳を握りしめる、フランシスの姿が見える。

 「グッ……グフゥ……なっ……何をするんだ……」

 縄でぐるぐる巻きにされているからか、思ったほど痛くはないが……

 「フランシス? 拗ねているのか? 私はロゼッタに騙されたのだ。私だけを愛していると言ったのに……しかし私は真実の愛に気付いたのだ! フランシスは気高い! たしかに体は貧弱だが、それは追々私が育ててやろう。だから気にすることはない。堂々と私との真実の愛を育もう! 」

 この俺がここまで折れているんだ。いい加減に素直になれよ。

 「ふざけないで! いい加減にしろ! 婚約者としての義務も果たさないバカが! なぜ己が愛されていると思えるの? 私は婚約者としての義務で付き合っていただけよ。あなたは前妃と同じことを私にしたの。私はあなたを愛そうと努力した。無理でも信愛の情を育もうとした。しかしそれを踏みにじったのは己じゃない! なのになぜ愛されていると思えるのよ。 この腐れ外道が! 地獄に落ちろ! 」

 フランシスがギュウギュウと、再度握りしめた拳を腹部に打ち込まれた。さすがに二度目は堪えた。痛い……

 「ウゥ……グッ……私が母上と同じことをを? 」

 「そうですよ。あなたは婚約者である私を蔑ろにし、公式の場で一度もパートナーをつとめてはくれなかった。今回だってそうです。一度お話しましたが、この私のドレスとお飾りはザイルから贈られたものです。己の色を相手に纏わせることで、相手は私のものだと周囲に知らしめるのです。この贈り物は男性側の婚約者としての義務なんですよ」

 「…………」

 知らなかった……

 「悪魔国の現王も、あなたの母上を信愛の情で寄り添おうと努力しました。しかしそれを裏切ったのはあなたの母上です。裏切ったのか、元からそのつもりだったのかは解りません。しかしあなたの母上にも、現王には愛がなかったのでしょう。あなたも母上も、政略結婚の意味を理解していなかったのです」

 「ならば今からでも……」

 「もう遅いんです。私はザイルの手を取りました。私を初恋だと言ってくれ、ずっと見守ってくれていたのです。私はザイルなら愛せます。いえ、たぶんもう愛していますわ。私にはザイルが真実の愛なのです。あなたはもうお呼びではないのです」

 男が背後からフランシスを抱き締めた。そして膝をつき、フランシスの手を取り愛を囁いた。

 「フランシス。私は悪魔国の庭であなたを受け止めたときからずっと、あなただけを愛して来ました。結ばれない運命だと諦めていたこの手を、今正式にとれる幸せが信じられません。どうか私と生涯をともに歩いてください。私はあなたしかいりません……」

 手の甲に軽いキスをし、輝くリングをフランシスの指に滑らした。

 「ありがとう。私もあのときの男の子が初恋だったの。あの子がまさかザイルだとは思いもしなかった。でもそれならば、私たちは初恋同士ね。とても嬉しい……それに家族でない男性からの贈り物なんて、このドレスとお飾りについで二度目よ。本当にありがとう……」

 男の顔が真っ赤に染まる。私が初恋……? などと悶えているが、気持ちが悪いから止めやがれ!

 「今日の会談前に贈れなくてすみませんでした。つい細工に拘ってしまい、納期がギリギリになってしまったのです。ドレスやお飾りは贈りたくて、以前から用意をしていたのですが、さすがにリングは……」

 男の言葉に、フランシスの目から涙がポロポロと流れ落ちてきた。泣くほど嫌なら俺の手をとれ!しかしそんなことを叫べる雰囲気ではない。さらにはフランシスが男の手をとり指先にキスをし、揃いのリングをその指に滑り込ませた。

 「婚約は突然だったんだもの仕方がないわ。なのにこんなに素敵な品を用意して貰えるなんて……至らぬ私ですが、あなたに相応しくあれる様に頑張ります。二人で幸せになりましょう」

 二人は互いに見つめあい、バードキスを繰り返しいちゃついている。俺はなにを見せられているんだ……

 「おおー! こりゃ神もせっかちだな。どうやら婚姻が成立してしまった様だぞ。今日は婚約の誓約予定だったのだが……まあめでたい! 天使国の王よ。早々に姫を貰い受けて悪いな。我が国で必ず幸せにすると誓おう。これからもよしなに頼む」

 は?また花びらが舞い始めた?いったいなんなんだこれは?しかも婚約を吹っ飛ばして婚姻だと?紅白の花びらにまとわりつかれかなり苛つく。

 「純白の花嫁と深紅の花婿。姫には純白の花嫁衣装が、ことのほか似合いそうだ。婚姻式は盛大にしなくてはな! ピンクの花束は孫の色だな。花束の薔薇の数ほど孫が抱けたら素晴らしいな! 楽しみにしているよ……」

 人々から拍手が沸き上がる。なにが孫だ!フランシスは俺の子を孕むんだ!

  互いに囁きあいいちゃつく二人に苛立ちを感じる。いつまでもチュッチュしてるんじゃない!しかし俺は呆然と眺めるだけしかできない……

 「ほら! 公衆の面前でいちゃつくな! ザイールよ。娘は初心者だ。お手柔らかに頼むぞ」

 天使国の王め!よけいなことを!

 「ザイール。若さに任せて抱き潰すなよ。女性は優しく扱わねばならん。だが式までは孕ませてはならんぞ。それだけはけじめだ。この約束を守れるなら抜けても良いぞ」

 父上!なぜ俺の味方をしないのです!そうか……俺は息子では……

 俺の目の前で、フランシスはザイールとやらに連れ去られた。我に返り大声でフランシスを呼び止める。しかし男の腕の中に収まったフランシスは、一度も俺を振り返らずに去っていった。

 二人はそのまま正式な夫婦となったそうだ。俺はロゼッタとともに神の審判を受けた。俺たちは特大の雷の直撃を受け、羽をもがれ下界に落とされた。

 俺は一度人間としての生を終えたらしいが……気付くと閻魔大王の前に立っていた。隣にはなぜかロゼッタが……どうやら人間界でも柵があったらしい。ロゼッタの疫病神め!

 このときの俺は、まったく反省などはしていなかった。

 俺は録でもない奴だったんだな……

  ※※※※※※※
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