【完】天使と悪魔の政略結婚。~真実の愛は誰のもの~

桜 鴬

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【本編】交換留学編。

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 耳もとで聞こえる優しい囁き。なぜかと思いながら振り向くと唇を塞がれた。まるで食べられてしまうのではないかと思うくらい、頭を抱え込まれ激しく貪られる。

 「ンッ……ンゥゥ……ハァ……ァンッ」

 「フランシス……私だから良かったものの……隙を見せては駄目ではありませんか……」

 やはりザイールなのね。

 「だっだって! 女子寮だし、警備は完全だと言ったじゃない」

 やあんっ!まさかここでするの?たったままなんて嫌よ……

 「それはそうですね。さすがに男性は入れないでしょう。フランに触れる不埒な輩は、私だけで良いのです。しかしあの令嬢たちは、警備のものたちにお金でも握らせたのでしょうか? フランを罵倒するなど許せません! 成敗しましょう」

 まって!イライゼさんは努力家みたいだし、悪気があった訳ではないわ。

 「まって! イライゼさんは適材適所よ。しっかり話せば理解してくれるわ。公爵令嬢としてこの学園で、天使族と悪魔族の人たちの、纏め役をして貰ったらどうかしら? 己も良きパートナーが見つかると思うのよ。監禁して自由を奪う様な婚約者は、さすがに可愛そうよ」

 「フランは優しいですね。では私の権限でよきに計らいましょう。ではご褒美をいただいても? 」

 いただいても?って!すでにいただいているじゃない!

 「制服がシワになっちゃうから……あとせめてお風呂に入ってから……お願い……」

 「……」

 イヤーなんで無言で早足になるの?ベッドでなら良いなんて言っていないわ。やだっ!制服の上から弄らないで!シワになっちゃうー。

 「大丈夫です。替えの制服はクローゼットに、たくさん用意してありますから……」

 もちろん私の希望は聞いては貰えず、美味しく戴かれてしまいました。

 「もう! なんでここにザイルがいるの? 結婚式までは、離れている話だったわよね? まさかお城を抜け出してきたの? なら早く仕事に戻りなさい! 」

 スッポンポンで私を抱え込んで微睡んでいるザイル。この腕の中はとても安心出来るのだけど、仕事から逃げ出してきたのなら容赦しないわよ!しかしどうやって来たのかしら?

 「フラン……早起きですね? もしかして足りなかったのですか? なら期待にそわねばなりませんね? 」

 「もうお腹一杯です! それよりどうしてここへ? 」

 ザイルも今晩の交流会に参加するの?王太子として挨拶をするための参加だそう。定期的に行われる交流会には参加し、若者たちと交流を深め、側近を探すんですって。

 「そうよね。ザイルは天使国にいたから、側近になる様な学友は居ないのよね? 悪魔国の学園にも少しは通ったの? 」

 一年だけ?なら優秀で親しい学友は無理かしら?

 「幼馴染みが二人います。フランの側にいたいからと、学園を中退することを伝えたら、とても心配してくれました。しかし決心が変わらないと知ると、二人ともに応援してくれたのです」

 そのお二人は現在、騎士団の副団長と魔術師団の副団長をつとめている。なので側近には出来ない。

 「他の同年のものたちは、ほぼグランデもと王子の腰巾着でした。なので私より年下にはなりますが、後輩からも抜擢することになったのです」

 でもなにもザイルが直接来ることはないじゃない。優秀な人材をピックアップして貰えば良いのよ。

 「父上が天使国との友好を反対する貴族を、ほぼ粛清しました。しかし個人的に差別意識や選民意識を持つものもいます。なので私は己を認めてくれる人材を、直に探しに来たのです。私を認めない様な者を側に置くのならば、置かずに文官に任せた方がマシですから」

 ザイル……

 「それにフランは妃教育も王妃教育も終えているとか? まさか悪魔国の貴族年鑑まで覚えてしまうとは脱帽です。しかしそのためにお城にいる必要がなくなり、今回離れ離れになってしまいました。私は少しでもあなたの側にいたいのです。それに……」

 それになに?なんだか嫌な感じが……

 「交流会でフランが見初められたらどうするのですか! まだ婚約だからと、良からぬ考えを起こす不届きものがいるかもしれません。ですから私がパートナーとして参加するのです! 」

 ザイル……交流会はいわばお見合い会なの。まあ私はすでに婚姻しているから対象には入らない。対外的には婚約だけど、常識のある貴族だったら、婚約者持ちには声をかけないわよ。

 天使国でだって私には婚約者がいたから、ダンスのお誘いすらなかったもの。たとえ婚約者が駄目王子でもね。

 「そうね。私たちが両国のカップル代表だと思えば良いわね。素敵なカップルが誕生する様に頑張りましょう。側近探しも頑張ってね」

 モゾモゾと私の体を撫で始めた、ザイルの手をペシリと叩き布団から出る。さっとガウンを羽織りお風呂へ向かった。ガウンをベッドの脇の棚に、たくさん置いておいて貰って良かったわ。お風呂は一人で入ると念を押す。恨めしそうなザイルを無視し、素早くお風呂を済ませ制服に着替える。たしかにたくさんの制服が……

 「半年も通わないのに、こんなに要らないわよ! 」

 「汚れますからね? 」

 「そんなに汚しません! 」

 「私が汚すのです。制服のフランは素敵すぎます。通わなくなっても、私の前でだけは着てください」

 ……もしかしてザイルって少し変態の気があるの?夜も最初は制服を着たままだったし……

 「フラン! 変なことを考えていませんか? 私はフランだから愛しいし抱きたいのです。服なんて関係有りませんよ」

 「ならこんなに制服はいらないじゃない」

 「……」

 「ザイル? 」

 「おっ男の事情です……制服はロマンなのです。だから! たまにで良いので……」

 「考慮します! 」

 もう……仕方ないわね……

 「私は朝食に行くけど、ザイルはどうするの? 」

 「私は転移ゲートで一度城に戻ります。また交流会の始まる時間の前に来ます。これからもそうなります。交流会のあとはフランと眠り、朝城に戻る形です」

 はて?なら今晩も泊まるの?なら昨晩は泊まる必要は無かったわよね?

 「昨晩は今晩が待ちきれなくて来ちゃいました」

 来ちゃいましたじゃないわよ。

 「……転移ゲートはどこにあるの? 」

 ザイルがムクリとベッドから起き出し、奥にある扉を開いた。そう言えば昨日は部屋を確認していないじゃない。その扉はリビングに行く扉かしら?

 「この部屋です。私の部屋に貰いました。転移ゲートも設置してあります」

 ちょっと!たかが半年のために、転移ゲートを設置したの?しかも己の部屋まで用意したの?

 結局半年も離れるつもりはなかったわけよね?

 「転移ゲートは私が術式を刻みましたし、機動魔力も己のものを使用しています。本体は己で購入しました。国庫からはびた一文も、拝借なんてしていませんよ」

 はいはい。ザイルは優秀なんですね。天使族の属性魔法も、悪魔族の属性魔法も使用できる。さらには付加魔法まで使えるなんて、本当に天才よね。

 「なら私は行くわね。お昼過ぎにまた会いましょう」

 玄関へ歩き始めると、ザイルが私をジッと見ている。はいはい。いつものですね。了解です!もう……

 「ザイル。お仕事頑張ってね。チュッ。チュッ。チュー」

 なんどしても恥ずかしい……己からキスするなんて……

 「フランも頑張ってください……」

 むうぅー、んんーくっ苦しい……

 「プップハー……」

 朝からザイルの愛が重すぎます。

 嬉しいですけど。

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