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【本編】交換留学編。
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しおりを挟む最初のお茶会から四ヶ月が経ちました。私たちの婚姻式までも、残すところあと二ヶ月あまりとなりました。交換留学はとても順調です。すでに十組もの婚約が成立しました。もちろん神の審判により、キチンと認められた婚約です。
私とグランデもと王子との婚約も、神の審判を受け認められたものだったのですが……神様も未来のグランデもと王子の気持ちまでは、理解できなかったのかもしれません。まあ政略的な婚約でしたから、国同士の利害の一致が認められたのでしょう。
「フランシス? ねえ聞いているの? だから婚姻が成立したんだってば! すでに既成事実もあるんだ。明日の夜会で発表するよ。一応君たちと同じく婚約としてだよ。式は天使国で挙げるから、君たちの後になるね 」
ええー!いきなりすぎるんですけど!
「イライゼさん? まさか無理強いされたのでは? お兄様はこう見えてかなりの腹黒なのです。だから……」
まさかお兄様とイライゼさんがすでに婚姻状態なんて! 神の審判に、なぜ私たちを同伴させなかったのよ!
「無理強いなんてことはありませんわ……たしかに突然ではありましたが……優しくしてくださりましたし、わっ私もねだってしまい……」
イライゼさんの顔が真っ赤に染まっている。やだ!可愛すぎるわ。これがお兄様の仰る、ギャップ萌えというものなのかしら?
しかもねだってって?
「伯爵家のバカ嫡男が、ライゼに媚薬を盛ったんだ! しかも速効性でかなり強い効果のでる薬だよ。異性の体液を体内に入れなければ、狂いよがり死ぬ様な品だ!彼女はなんとかその場から逃げ出して来たけど、私の顔を見て発作をおこしてしまってね……」
伯爵家のバカ嫡男っていうのは、たしか卒園後に嫁げと言われたという、監禁野郎のことよね?
「わっ私が襲ってしまったのです。しかしセイルリード様は冷静に対応してくださり、私を宥めながら神の審判を受けに連れていってくれたのです」
そうよね。神の審判を受けなければ、襲った側のイライゼさんに制裁が及んでしまうから……
「最初は婚姻が認められても、最後までするつもりはなかった。かなりハードにしなくてはならないけど、キスだけでも体液を送ることはできるからね。しかし媚薬の効果が強すぎて中々ぬけなくてね……ついつい私も我慢できずに、最後までことに及んでしまったんだ。ライゼには本当に申し訳なかったと思っている。しかし私はライゼを愛しているから、後悔はしていないよ」
お兄様……さりげなく愛称で呼んでいますね? イライゼさんは真っ赤になってプルプルと震えていますよ?お兄様の言葉がキザすぎて恥ずかしいのではありませんか?
「セイルリード王子……神の審判ですでに婚姻が成立し、既成事実までいけたのであれば、両国は反対などいたしません。しかしそれほどに強い媚薬ですか……その伯爵家の嫡男は問題ですね……」
そうよ! 成敗しなくちゃ! ザイルも協力して!
「女の敵は成敗しなくちゃ! 大切な妹を手込めにしようとしたのよ。盛大にざまあするわよ! 」
「フランシス様……私はあなたにあんな意地悪をしたのに……妹と言ってくださるのですか……」
「イライゼさんが国のための、力になりたかったのは良くわかるわ。なのに無理矢理、子を産むだけの道具にしようとした。そんな人たちは許せない。優秀で芯の強いあなたなら、お兄様の妃としても、外交に付き添い力を発揮することもできる。尽くす国は変わってしまうけど、イライゼさんの夢は叶うはず。そんな素敵な女性が、私のお姉様になるなんて本当に嬉しいわ。お兄様も見る目があるわね! 」
その後私たちは作戦会議を行った。決戦は明日の夜会です。
覚悟しなさい。悪人は成敗よ!
学園のダンスホールには、たくさんの人たちが集り談笑している。通常は社交のためのダンスレッスンに使用するホールだから、本物の夜会の会場の様にきらびやかではない。しかし綺麗に飾り付けられ、シンプルながらも素敵な会場に仕上がっている。学生たちが力をあわせて頑張ったのよ。
夜会開始の挨拶とともに、楽団の演奏が始まる。一番はじめは私とザイールが踊ります。その後はすでにパートナーの決まった人たちが踊り、他は気の合う人と手を取り踊るのです。この夜会は出会いがメインイベントです。そのため必ずしも、パートナー同伴で出席する必要はありません。
イライゼさんは壁際で、初めて会った時に一緒にいた女性と話しています。さて……伯爵家の嫡男とやらは……すでに入場済みなのは確認済みです。
あ!いました!キョロキョロと人を探している様ですね。きっとイライゼさんを探しているのでしょう。さあお兄様! 白馬の王子の登場です。イライゼさんを守りきってくださいな。
ダンスの曲が終わります。ここで重大発表となります。
「皆さん。夜会を楽しんでいますか? 実はすでに十組の婚約が成立しました。未来の夫婦の幸せを祈り、盛大な拍手で彼等を祝って欲しい」
ザイルが演説すると、会場からは大きな拍手の渦が起きた。腕を組んだり手を繋いだ男女たちが、幸せそうに微笑んでいる。私も一緒になり、掌が痛くなるくらいの拍手をした。
「さらにもう一組。我が悪魔国のパープル公爵家の令嬢である、イライゼ嬢が婚約しました。お相手は天使国の王族である第二王子です。彼女は私とフランシスの婚姻式ののちに天使国へ嫁ぎ、式は向こうで挙げる形となります。二人に惜しみない、祝いの拍手を送ってください」
再び会場内に、拍手の渦が巻き上がった。幸せそうに微笑みあい、手を繋ぎあう二人。そこに怒鳴り声が割り込んできた。やはりきたわね。
「意義あり! イライゼは俺様の婚約者だ! たとえ王子といえど、奪うことは出来ないはずだ! イライゼこちらへ来い! 貴様は俺様の子を産み続けるために存在するんだ! 」
怒鳴りながら男性はイライゼさんに近付き、その腕を無遠慮に掴み上げる。お兄様から引きはなそうと、無理矢理腕を己に引き寄せた。衝動でよろめき体制を崩すイライゼさん。その腰に腕をまわし、しっかりと受け止めたお兄様。会場中からため息が漏れる。
お兄様……お姫様を助ける王子様の様に素敵ですよ。
「それは困るな……ライゼは両国が認め、神をも認めた私の婚約者だよ。知識も豊富で私とともに歩んでくれる。素晴らしい女性たま。(仮)の婚約者はお呼びではない。ましてや女性を蔑視し所有物扱い。そんな輩には渡せないな。ライゼも私を愛してくれている。これが証拠だよ」
お兄様がイライゼさんを抱き締め、頬にキスをおとす。恥ずかしがり真っ赤になったイライゼさんに、お兄様はさらに貪る様な激しいキスを繰り返した。こら!お兄様!どさくさに紛れておさわりもしていますね!イライゼさんが悶えてモジモジしているではないですか!え?挑発するため?
まったく仕方がありません。イライゼさん。ご愁傷さまです。
「やめろ! 俺様の物に触るな! 貴様は制裁の発動しない、天使を娶れば良いだろうが! イライゼ! なぜ天使などに身を委ねているんだ! 俺様からは逃げて、その天使とは出来るのか! あんな状態でも逃走するとは! そんなに俺様が嫌なのか? 相手は天使だぞ! 」
あんな状態でもって……媚薬を白状した様なものじゃない。
「黙りなさい! イライゼ嬢は貴様のものではないのです。しかも女性をもの扱いするなど言語道断! 女性にも意思はあるのです。己を所有物扱いし、屋敷に監禁して子を産むだけの道具として扱う。そんな家に誰が嫁ぎたいと思いますか? 私も調べが甘かった様です。貴様の父君はまともだから、系統や息子にまで目が回らず……」
お父様はまともだった。しかし祖父は……彼はその血を濃く引いてしまったのかもしれません。ザイル……悔いるのはわかるけど、末端まで調べ尽くすのは難しいわ。
「だが! 俺様とイライゼは、正式に婚約しているんだ! なのになぜ勝手に天使と婚約なとしている! おかしいだろうが! 」
……思い込みがはげしいのでしょうか?ここまでくると少し哀れになってしまいますね。しかしこの方はクズです。遠慮はいりません。
「イライゼお姉様は、お兄様の婚約者です。神の審判にて認められております。あなたとの婚約は、まだお話の段階だったと聞いています。あなたの伯爵家も、お姉様の公爵家も、この婚約に賛成しております。あなたが騒いでもどうにもなりませんよ」
「……天使のくせに……女のくせに生意気なんだよ! 女は男に従い侍るのがつとめなんだよ! 智識なんて必要ない。くそー!くそ生意気なくそ天使を啼かしてヤりたいわ! 神の制裁さえなければ、死ぬほどよがらせてヤるのに! イライゼもだ! 貴様のその高飛車な顔をグチャグチャにしたかった。俺様がいなければ生きていけないくらいにな! 親父もなんでさっさと婚約を締結しなかったんだよ……」
さすがきもう口では勝てぬと悟ったのだろう。膝をつき項垂れる伯爵子息。
突如会場の扉が開く。
「親父! 助けに来てくれたのか? 公爵! イライゼは俺様の婚約者ですよね? 俺様にくれると言いましたよね? だから俺様はイライゼを……」
「この大馬鹿者ー! 王太子様と婚約者様に楯突きおって! 」
「ちっ父上! なぜ叩くのです! 」
「待たせたな……」
王様?
「遅くなりすまない……」
父上まで!
両国の王まで勢揃い。伯爵当主に、後ろには公爵家のご当主までいるじゃない。いったいなにがどうなったの?
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