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【本編】交換留学編。
6・本編・交換留学編・END。
しおりを挟む突如両国の王が現れたことにより、会場は静寂に包まれた。まだ学生である生徒たちは、王のお顔をこれほど側で拝謁するのは初めてでしょう。緊張感に包まれた会場の空気を、ザイルの声が破った。
「発言をお許しいただきたい。両国の王よ」
「堅苦しくしなくてよい。ここは学園だ。生徒たちの学び舎なのだ。自治は生徒たちに任せておる。現在ここでの代表は管理者であるフランシス王女と、学園の理事であるザイール王子だ。私たちは証言者だと思いなさい」
「では遠慮なく。ありがとうございます」
「私も両国の和平のために証言に来た。息子が嫁を貰う。そのための証言者だよ。天使国の王としてではなく、ただの親バカだと思ってくれてよい」
「父上……私とイライゼのために、わざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます」
お兄様とイライゼさんが、二人揃ってお辞儀をした。
「まずこれは決定事項です。天使国の王族である第二王子と、悪魔国の公爵令嬢との婚約を発表いたします。二人はすでに神の審判により、婚約を認められております。意義の申し立ては、神への暴虐と判断します」
会場内に拍手が沸き上がる。
「パープル伯爵当主と公爵家の当主に事情を聞きました。伯爵家は公爵家に縁談の釣書を送っています。公爵家の当主は王家と縁を結べなかった娘を心配し、その縁談を娘にすすめました。しかし娘は首を縦に振りません。そのため不思議に思い、伯爵子息の素行調査をしたそうです。公爵? 間違いはありませんか? 」
「はい。はじめは爵位が低くなるため嫌がっていると思ったのです。なにしろ娘には王族に嫁ぐためにと、厳しい教育をしてきました。そのためプライドが高く、失礼ではありますが、格下の相手には嫁ぎたくないのかと……しかし違いました。まさか監禁紛いをする子息だとは思わず……娘は厳しい教育に耐え頑張って来たのです! 子を産むだけの道具にされるなど! 私は絶対に許しません! 」
「お父様……」
イライゼさんが涙ぐんでいます。父上は努力を認めてくれていたのですね。本当に良かったです。
「それで婚約を保留し、のちにお断りしたわけですね 」
当たり前よ! 娘を不幸にさせたいわけがないじゃない。
「すみません。それは私がお話します。私は息子の願いを汲み、格上であると知りながら、一縷の望みをかけて公爵家へ釣書を送りました。私と公爵は学生時代の学友でした。お互いの性格を知り合う仲で、私はとても良くしていただいたのです。なのでもし公爵のお嬢様を娘と呼べたなら……などと無謀な夢を見てしまったのです。まさか息子が先代の悪癖を受け継いでいたとは、微塵も思いませんでした。しかも知らぬは私だけ。周囲ではその様な家系だと、私まで同類に扱われていたのです。調べた公爵に話を聞くまで、まったく気づきもしませんでした」
でもそれは仕方ないかもしれません。ザイルと現王でさえ気づけなかったのです。伯爵子息は辱しめた女性に多額の金銭を握らせ口封じをしていたそうです。言うことを聞かない女性には、体罰を与え娼館に売り飛ばしたりも……そんな不幸な目にあわされた女性たちの口から、下々のものたちに噂として広まっていたそうです。
「私は……彼の私を値踏みする様な視線が嫌でした。そしてある日修道院へ慰問へ行った際に、修道女の一人に聞いたのです。彼女は彼に監禁され辱しめられ、飽きたら娼館に売られそうになったと……娼館への移動中に隙を見て逃げ出し、あの修道院へ逃げ込んだそうです」
酷い……女性をなんだと思っているの!
「知らん! 俺様は哀れな下民に情けをかけただけだ! 贅沢をさせてやったんだ! 金がないなら、体で払わせてなにが悪い! 女は黙って男に従えば良いんだ! だがさすがに後継は下民に産ませるわけにはいかない。だからイライゼを選んだ。気位の高い女を痛め付けるのは快感だからな! 」
このバカ子息が!開き直ったわね。
「この馬鹿者が! 私は己の父親を憎んでいた。母親を監禁し続け、暴力を奮い日々辱しめた。母は病んで自殺したよ。私は母を助けられなかった。そして父は私の妻、そうお前の母親まで辱しめたんだ! だから私は父を見捨てた。不正を暴き断頭台へ送ったんだ! お前だけは! まともに育てようと……愛情もかけてきたつもりだ! なにがいけなかったんだ? どこで私は間違えたんだ? なあ教えてくれよ……お前の母は最後までお前を心配していた。妻はお腹に二人目の子がいるにも関わらずに父き暴力を振るわれた。そのためお前の弟を早産して死んだんだ……」
伯爵が泣き崩れた。その事件は貴族新聞で読んだわ。先代は暴虐な人柄で、妻と嫁を殺したと……その息子は父を断罪し、新しく伯爵家の当主となったと……
「それは! だが俺様は殺すまではしていない! 殺したら金にもならんし、楽しめないからな! 母たちは女のくせに逆らったのだろう。ならば躾られてもしかたないわ! 」
静まり返る会場内……
「これは反省する気配もないな。悪魔国の現王である私が宣言する。我国のイライゼ公爵令嬢と天使国のセイルリード第二王子との婚約は、先に宣言された様に、すでに神にも認められ成立している。悪魔国もこの縁組を、素晴らしい縁だと思っている。必ず国からも祝儀を贈ろう。二人とも幸せにな」
「この者は神の審判を受けさせ、やはり下界落ちとするのが良いでしょう。伯爵家は弟君が継げばよい。多少病弱だそうだが、フランシスの回復魔法ならかなり良くなるだろう」
会場中から拍手が沸き上がります。もと伯爵令息は縄を打たれ牢へと連れて行かれてしまいました。
さあ!私もラスト頑張りますよ!
「皆さん! 夜会を中断してしまい、本当に申し訳ありません。奥に新しいデザートを用意しました。一つは天使国特産の天使のほっぺと言われる、みずみずしいピーチを贅沢に使用したタルトです。もう一つは悪魔国特産の漆黒の宝石と言われるビターなチョコレートと、深紅の宝石と言われるザクロの実をあわせた、大人の味のチョコケーキです。ぜひ食べてみてくださいね。さあダンスを再開しましょう! 」
私がザイルに目配せをすると、ザイルが楽団に手を振り音楽を開始させる。自然に私たちは近より互いの手をとり、ダンスフロアの中心に踊りでた。お兄様とイライゼさんも寄り添い踊りでる。それにあわせて次々とカップルが加わり、フロアは色とりどりのドレスに埋め尽くされた。
私が在学している約半年の間に、十五組の婚約が成立しました。残りの半月で、さらにカップルが誕生したらうれしいですね。
そしてとうとう今日は、私とザイールの婚姻式です。
「「「フランシス様ー! 凄く綺麗ですー。幸せになって下さいねー」」」
式を終えブーケトスをしようと振り返った私に、三人娘の声が聞こえて来ました。
「私は幸せよ。幸せ過ぎて心配になってしまうくらいよ……」
三人娘も悪魔族の男性と婚約しました。お相手はとても優秀な方々で、ザイールの側近となることが決定しています。
青空に向かいブーケを投げます。そのブーケは……
イライゼさんと一緒にいた、あの女性の手元に落下しました。
ナイスキャッチです。
彼女はイライゼさんの乳母の娘さん。イライゼさんが天使国へ嫁ぐ際にも同行するそうです。彼女にも幸せが訪れます様に。
「フランシス……愛しています。今晩からようやく解禁です。タップリと私の愛を差し上げます。早くフランに良く似た可愛い子に会いたいですね」
解禁って……
「ザイール? 私も愛しています。私はザイルに良く似た格好の良い子に会いたいわ。でも優しくしてね。眠れないのは嫌よ」
「ザイール王太子様ー!おめでとうございますー! 」
「フランシス王太子妃様ー!おめでとうございますー! 」
お城のバルコニーからお披露目のために手を振る私たち。たくさんの人たちに祝われ、私は本当に幸せです。
悪魔国と天使国はまだ友好を結んだばかり。私たちは両国の架け橋となり、これからも国のために頑張って行きたいと思っています。
争いのない世界になります様に。
私はザイールとともに歩んで行きます。より良い国を作れます様に。
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