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第九章 Feed The Machine
真実—㉙—
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サキから“命熱波”の守護者が飛び出す。
“鶏冠の兜”の射手――“ヴァージニア”の右手の弓から、閃光が放たれた。
ロックの頭上を狙って落下する氷が閃光を孕み、爆散。
砕けた氷片を浴びるシャロンが、トルクの“コーリング・フロム・ヘヴン”――白い人型の“フロスト”を召喚した男に滑輪板で駆ける。
滑走した勢いに乗って、シャロンが男の前で跳躍。
乗っていた滑輪板を両足で突き出した。
眉毛を薄くした黒シャツ男――“力人衆”の首魁の間崎の頭に、シャロンの滑輪板越しのドロップキックが命中する。
正面からの一撃を全身に受け、白目を剝きながら黒シャツ男が倒れた。
「そういえば……間崎にもやられそうだったね。もし、外国人の保護を訴えたいなら、間崎と三条……どっちの首を差し出すか、今すぐ考えた方が良いんじゃない?」
サミュエルが、鎌の穂先を引き寄せる。
彼の手繰り寄せる刃の冷たさ――恐らく、それだけではないだろうが――による居心地の悪さで、山土師のこめかみに血管が浮き出ていた。
彼に宿るのは、怒りと羞恥だろうか。
「そういえば……こっちにも聞いとかないと、かな?」
サミュエルの鎌と同じ鋭い目線が、“政市会”の代表の尾咲に向かう。
非日常、且つ命の危険に長く晒されたのか、脂汗で蝶ネクタイとシャツはおろか、ジャケットとパンツすらも濡れていた。
「漏らしてないのだけは……“政声隊”よりは、度胸がありそうだな」
ロックは上万作学園のことを思い出す。
“祭壇”の入り口に集まり出した両団体の構成員が、ロックの言葉を聞いたのか、殺意と報復の視線を浴びせた。
「……お前達こそ、“UNTOLD”の脅威があるのに“ワールド・シェパード”社の幹部とこいつら反日勢力が繋がって、私たち日本人を危険に晒している!! 渡瀬政権は“日本人の誇り”の為に、反日勢力に立ち向かうために、今頑張っているんだ!! 何で、我々の邪魔をする!?」
唾、鼻水と脂汗を垂れ流しながら熱弁する、尾咲。
彼の熱意に、“ライト”が狼の混じる顔を引きつっている。
左腕の爪を突き立てているのが疲れているのもあるのだろう。
何より、肥満男からの汗や鼻水と生温かさに、げんなりしているのが伺える。
よく見ると、狼の鋭い爪の毛皮にフケも付いていた。
「……肝が据わっているというよりは、脂肪と面の皮が厚いだけ……か?」
尾咲の目に映るロックの顔は、心底汚いものを見るような眼をしていた。
「そう……日本人勢に伺うけど、尾咲の言葉に有難みや頼もしさ……感じる?」
「全く」
「ないな」
「恩恵も何も、覚えがない」
サミュエルの問いに、サキ、一平の評価に加え、龍之助の強い語気が“祭壇”に響いた。
「それどころか、俺らも攻撃されるわ、“スコット決死隊”というバカ外人どもが、我が物顔で、街中で人を殺しまくる……それこそ、“政市会”の奴らもな。日本人の為と言いながら、“ホステル”と繋がり、日本人を殺すってのは流石にやり過ぎだぜ?」
一平という高校生の言葉に、何も言い返せない尾咲。
ロックの劣等感を煽る発言も相まって、歯軋りの音と共に顔の怒り皺が奮えている。
「それどころか……どっちも“弱い者いじめ”しかしてないんじゃない?」
間崎の意識を刈ったシャロンが、赤い牛を召喚した。
薄桃色のトレーナーの少女に正論を突きつけられ、両団体の構成員たちが、視線の刃を向ける。
赤い牛から炎の吐息が鼻と口から洩れると、集団が引き下がった。
「……そういうテメェ等は、何のために俺たちに喧嘩売ってんだ!? 俺らの活動も自由があるんだよ!?」
「そうだ、自由だ!! 敵でもないなら、僕たちのことは放っておいても良いんじゃないのか!?」
山土師と尾咲が、それぞれ異論を掲げる。
“ライト”の腕の中で、刃に触れない様に暴れていた。
「自由だと……テメェ等の自由は何処にある?」
紅い外套を纏った戦士の姿を、“政市会”と“政声隊”の代表の二対の眼が映す。
「日本国憲法だよ!! デモも歩く“表現の自由”って保障されてんだよ!!」
「ついでに言うと、暴力も反対され、不当な拘束も否定されている!!」
「テメェ等、バカか?」
山土師と尾咲が、ロックの一言に押し黙る。
ブルースがその様子を見て、笑い出した。
「……何がおかしい?」
尾咲が訝しがると、
「面白いな。表現の自由は情報の送受信の自由……つまり、表現されたら人がそれを受け取って、肯定するのも、否定するのも自由なんだよ……人格陶冶……つまり、健全な人格の形成のためにな」
ロックの言葉に、二人の活動家が唖然とする。
「ミルだな。表現の自由の人格形成のためにな!!」
「それは分かるが……なら、どうして暴力が正当化されるんだよ!?」
山土師がブルースの解釈に、異議を捨てきれない。
「だって……お前らの今手にしている“政声隊”の“コーリング・フロム・ヘヴン”に“政市会”の“スウィート・サクリファイス”や“芝打”――所謂、“UNTOLD”は……日本国憲法で想定されてないし」
ブルースの言葉に、サミュエルが声を上げた。
「そうだね……確か、国際法って、国内法よりも原則優位だったよね……“グランヴィル協定”とか?」
「……原則な」
サミュエルとブルースの顔に笑みが含まれる。
彼らの声色に、“政市会”はおろか“政声隊”も邪悪な何かを感じ取っていた。
「……ああ、そういうことか」
シャロンの中にも、ブルース達の何かを察した。
最も、政治団体関係者から悪意が感染している様に見えたのか、彼らの笑顔に戦々恐々としている。
「ロック……もしかして……」
三条の背後のサキも、“政市会”と“政声隊”の両団体を取り巻く事情を把握し始める。
一平と龍之助は互いに顔を合わせ始めた。
分かりかねる顔をしていたので、
「“UNTOLD”自体が、そもそも“語られざるもの”だからな……それらに関する法規は、日本の法律では全く想定されていない」
「それは聞いたが、それならどの国も――そうか!!」
龍之助が大声を上げて、一平も彼の真意を悟った。
「つまり……日本国憲法を上位文書とするあらゆる法規が適応されない」
「“UNTOLD”自体が、“ウィッカー・マン”やそれに対抗できる技術……“グランヴィル協定”はその普及を段階的に進めていく」
“ワールド・シェパード社”のナオトが、暗黙の了解とも言えた敵対関係にあったロック達“ブライトン・ロック社”との公的な協力関係の意義をブルースが諳んじる。
「つまり……“UNTOLD”関係の衝突における加害者と被害者の法益の調整は、“グランヴィル協定”に基づいて進めるから、既存の法律は適用されない」
「流石に憲法以外の関連法規で適用されうるだろうけど、その法益の範囲も模索中。原則、法律の類推解釈の適用については、慎重にしなければいけない……特に刑法関連は」
サミュエルが大鎌の刃を突きつける山土師の怒りと恐怖の同居する顔に愉悦を覚えている。
ブルースの方は尾咲自身の吐いた言葉を口に戻さざるを得ない屈辱を肴にしていた。
「結論から言うと……“治外法権”や森羅万象を操る力を乱用する奴らを守る法律は、現時点ではどの世界にも存在しない!!」
「フォローするなら、TPTP関連法が彼らの拠り所となるけど……“ホステル”の関係者への関わりが深いとなったら、選択肢は……“グアンタナモ”か“銃殺刑”か? どの国家が一番温情あるかな……楽しみだね?」
ロックの結論に、サミュエルが救いの道を示した。
聖書辺りが、“困難に直面した時に狭き門を選べ”と述べていたのをロックは思い出す。
最も、彼らの潜る狭き門の先には刃の林と炎の台風が控えているが。
「でも……彼らにも、唯一平等なのが――いや、対等になれるのがあるんじゃない?」
シャロンが、“政市会”と“政声隊”に囲まれる中で、笑顔を含める。
ロック達を囲う視線がその答えを促すと、
「そうだな……堀川、秋津!!」
ロックに促され、二人が銃口を構える。
二人の銃口の標的は、変わらず尾咲と山土師だ。
「“子どもの権利条約”、第一条……児童の定義は18歳未満“」
「同 第二条、差別の禁止。第十二条、意見を表す権利。第十三条、表現の自由と第十四条、思想と良心の自由!!」
二人の声が、機械に覆われる“祭壇”で反響した。
「そういえば……権利としては、生存権、発達権、保護権、参加権もあったな……」
龍之助が二人の前に立つ。
「何が言いたい……?」
山土師の口から、手負いの肉食獣を思わせる唸り声が放たれる。
「簡単だ……こいつ等には、自分の意見を大人へ対等に訴えられる権利がある」
ロックの当然という言葉に、
「無茶苦茶だ……君たちは、問題の深さを分かっていない!! 反日勢力や“UNTOLD”とか、日本を取り巻く状況は深刻だ!!」
「そうだぜ……国防を理由にした、在日外国人への差別や生活弱者への攻撃……軍事化の正当化、平和国家の日本として末期だぜ」
「……なら、お前らが国の危機を思いながら、何でそいつ等の側に立ってやらなかった?」
ロックは尾咲と山土師を睨みつける。
「……建前として、俺たちはTPTP関連法で“ブライトン・ロック社”としてテメェらを殺せる」
翼剣を握る右手の力を強め、三条の喉元に押し付ける。
「だが……テメェらの命なんざ興味ない」
「じゃあ……何のために――!?」
尾咲が、押し黙る。
満月を映す湖面の様に澄み、刀を思わせるロックの眼光が、尾咲の言葉を奪った。
「堀川と秋津。テメェ等の団体のあり方に疑問を呈した……たった二人でな」
ロックの中に浮かぶ“政市会”と“政声隊”へ立ち向かう意思。
上万作駅前で、拡声器越しに訴えていた堀川と秋津の二人の背中が浮かぶ。
「テメェ等の言う日本が、どういうのか分からんが……“政市会”だろうが“政声隊”だろうが、“一人の高校生がおかしいと訴えられない”!! “あいつ等”の居場所もない……そんな国なら、とっとと滅びやがれ!!」
ロックの鋼鉄の意思で、周囲の敵意を煽る。
だが、彼の視線を眼にした者たちは、殺気に押し黙った。
「若いとはいえ、随分……暴論ですね」
大和保存会の老獪――菅原が口を開いた。
好々爺の雰囲気の中の眼の輝き――鉄のそれ――をロックに向ける。
「……“へルター・スケルター”でしか、日本の平和を実現できないと考える奴が言えた口かよ……ここにいる奴ら団体問わず死にそうな目に合わせるがテメェは、腐った日本と共に安楽死の方が良いようだな?」
ロックの回答に、菅原も押し黙る。
徹底的な愛国者への叛意に、好々爺は口を歪ませた。
堀川と秋津に向けられる視線を、ロックに向いているのをサキの眼から見た。
ロックの過激な言葉をどう受け取るかは分からない。
だが、彼らの眼はロックの言葉を受けて、輝いている様だった。
サキ、ブルース、サミュエル、一平、龍之助もロックの言葉に異議は無いようである。
“バタリオン・ピース”の“ライト”と“バイス”も、言葉と行動の一貫性を見出したように、笑顔になっていた。
しかし、ロック達の決意に押し黙る敵対者たちの沈黙が破られる。
「アーハッハッハ!!」
ロックの翼剣の刃に晒される、三条の場違いとも言える、甲高い笑い声によって。
“鶏冠の兜”の射手――“ヴァージニア”の右手の弓から、閃光が放たれた。
ロックの頭上を狙って落下する氷が閃光を孕み、爆散。
砕けた氷片を浴びるシャロンが、トルクの“コーリング・フロム・ヘヴン”――白い人型の“フロスト”を召喚した男に滑輪板で駆ける。
滑走した勢いに乗って、シャロンが男の前で跳躍。
乗っていた滑輪板を両足で突き出した。
眉毛を薄くした黒シャツ男――“力人衆”の首魁の間崎の頭に、シャロンの滑輪板越しのドロップキックが命中する。
正面からの一撃を全身に受け、白目を剝きながら黒シャツ男が倒れた。
「そういえば……間崎にもやられそうだったね。もし、外国人の保護を訴えたいなら、間崎と三条……どっちの首を差し出すか、今すぐ考えた方が良いんじゃない?」
サミュエルが、鎌の穂先を引き寄せる。
彼の手繰り寄せる刃の冷たさ――恐らく、それだけではないだろうが――による居心地の悪さで、山土師のこめかみに血管が浮き出ていた。
彼に宿るのは、怒りと羞恥だろうか。
「そういえば……こっちにも聞いとかないと、かな?」
サミュエルの鎌と同じ鋭い目線が、“政市会”の代表の尾咲に向かう。
非日常、且つ命の危険に長く晒されたのか、脂汗で蝶ネクタイとシャツはおろか、ジャケットとパンツすらも濡れていた。
「漏らしてないのだけは……“政声隊”よりは、度胸がありそうだな」
ロックは上万作学園のことを思い出す。
“祭壇”の入り口に集まり出した両団体の構成員が、ロックの言葉を聞いたのか、殺意と報復の視線を浴びせた。
「……お前達こそ、“UNTOLD”の脅威があるのに“ワールド・シェパード”社の幹部とこいつら反日勢力が繋がって、私たち日本人を危険に晒している!! 渡瀬政権は“日本人の誇り”の為に、反日勢力に立ち向かうために、今頑張っているんだ!! 何で、我々の邪魔をする!?」
唾、鼻水と脂汗を垂れ流しながら熱弁する、尾咲。
彼の熱意に、“ライト”が狼の混じる顔を引きつっている。
左腕の爪を突き立てているのが疲れているのもあるのだろう。
何より、肥満男からの汗や鼻水と生温かさに、げんなりしているのが伺える。
よく見ると、狼の鋭い爪の毛皮にフケも付いていた。
「……肝が据わっているというよりは、脂肪と面の皮が厚いだけ……か?」
尾咲の目に映るロックの顔は、心底汚いものを見るような眼をしていた。
「そう……日本人勢に伺うけど、尾咲の言葉に有難みや頼もしさ……感じる?」
「全く」
「ないな」
「恩恵も何も、覚えがない」
サミュエルの問いに、サキ、一平の評価に加え、龍之助の強い語気が“祭壇”に響いた。
「それどころか、俺らも攻撃されるわ、“スコット決死隊”というバカ外人どもが、我が物顔で、街中で人を殺しまくる……それこそ、“政市会”の奴らもな。日本人の為と言いながら、“ホステル”と繋がり、日本人を殺すってのは流石にやり過ぎだぜ?」
一平という高校生の言葉に、何も言い返せない尾咲。
ロックの劣等感を煽る発言も相まって、歯軋りの音と共に顔の怒り皺が奮えている。
「それどころか……どっちも“弱い者いじめ”しかしてないんじゃない?」
間崎の意識を刈ったシャロンが、赤い牛を召喚した。
薄桃色のトレーナーの少女に正論を突きつけられ、両団体の構成員たちが、視線の刃を向ける。
赤い牛から炎の吐息が鼻と口から洩れると、集団が引き下がった。
「……そういうテメェ等は、何のために俺たちに喧嘩売ってんだ!? 俺らの活動も自由があるんだよ!?」
「そうだ、自由だ!! 敵でもないなら、僕たちのことは放っておいても良いんじゃないのか!?」
山土師と尾咲が、それぞれ異論を掲げる。
“ライト”の腕の中で、刃に触れない様に暴れていた。
「自由だと……テメェ等の自由は何処にある?」
紅い外套を纏った戦士の姿を、“政市会”と“政声隊”の代表の二対の眼が映す。
「日本国憲法だよ!! デモも歩く“表現の自由”って保障されてんだよ!!」
「ついでに言うと、暴力も反対され、不当な拘束も否定されている!!」
「テメェ等、バカか?」
山土師と尾咲が、ロックの一言に押し黙る。
ブルースがその様子を見て、笑い出した。
「……何がおかしい?」
尾咲が訝しがると、
「面白いな。表現の自由は情報の送受信の自由……つまり、表現されたら人がそれを受け取って、肯定するのも、否定するのも自由なんだよ……人格陶冶……つまり、健全な人格の形成のためにな」
ロックの言葉に、二人の活動家が唖然とする。
「ミルだな。表現の自由の人格形成のためにな!!」
「それは分かるが……なら、どうして暴力が正当化されるんだよ!?」
山土師がブルースの解釈に、異議を捨てきれない。
「だって……お前らの今手にしている“政声隊”の“コーリング・フロム・ヘヴン”に“政市会”の“スウィート・サクリファイス”や“芝打”――所謂、“UNTOLD”は……日本国憲法で想定されてないし」
ブルースの言葉に、サミュエルが声を上げた。
「そうだね……確か、国際法って、国内法よりも原則優位だったよね……“グランヴィル協定”とか?」
「……原則な」
サミュエルとブルースの顔に笑みが含まれる。
彼らの声色に、“政市会”はおろか“政声隊”も邪悪な何かを感じ取っていた。
「……ああ、そういうことか」
シャロンの中にも、ブルース達の何かを察した。
最も、政治団体関係者から悪意が感染している様に見えたのか、彼らの笑顔に戦々恐々としている。
「ロック……もしかして……」
三条の背後のサキも、“政市会”と“政声隊”の両団体を取り巻く事情を把握し始める。
一平と龍之助は互いに顔を合わせ始めた。
分かりかねる顔をしていたので、
「“UNTOLD”自体が、そもそも“語られざるもの”だからな……それらに関する法規は、日本の法律では全く想定されていない」
「それは聞いたが、それならどの国も――そうか!!」
龍之助が大声を上げて、一平も彼の真意を悟った。
「つまり……日本国憲法を上位文書とするあらゆる法規が適応されない」
「“UNTOLD”自体が、“ウィッカー・マン”やそれに対抗できる技術……“グランヴィル協定”はその普及を段階的に進めていく」
“ワールド・シェパード社”のナオトが、暗黙の了解とも言えた敵対関係にあったロック達“ブライトン・ロック社”との公的な協力関係の意義をブルースが諳んじる。
「つまり……“UNTOLD”関係の衝突における加害者と被害者の法益の調整は、“グランヴィル協定”に基づいて進めるから、既存の法律は適用されない」
「流石に憲法以外の関連法規で適用されうるだろうけど、その法益の範囲も模索中。原則、法律の類推解釈の適用については、慎重にしなければいけない……特に刑法関連は」
サミュエルが大鎌の刃を突きつける山土師の怒りと恐怖の同居する顔に愉悦を覚えている。
ブルースの方は尾咲自身の吐いた言葉を口に戻さざるを得ない屈辱を肴にしていた。
「結論から言うと……“治外法権”や森羅万象を操る力を乱用する奴らを守る法律は、現時点ではどの世界にも存在しない!!」
「フォローするなら、TPTP関連法が彼らの拠り所となるけど……“ホステル”の関係者への関わりが深いとなったら、選択肢は……“グアンタナモ”か“銃殺刑”か? どの国家が一番温情あるかな……楽しみだね?」
ロックの結論に、サミュエルが救いの道を示した。
聖書辺りが、“困難に直面した時に狭き門を選べ”と述べていたのをロックは思い出す。
最も、彼らの潜る狭き門の先には刃の林と炎の台風が控えているが。
「でも……彼らにも、唯一平等なのが――いや、対等になれるのがあるんじゃない?」
シャロンが、“政市会”と“政声隊”に囲まれる中で、笑顔を含める。
ロック達を囲う視線がその答えを促すと、
「そうだな……堀川、秋津!!」
ロックに促され、二人が銃口を構える。
二人の銃口の標的は、変わらず尾咲と山土師だ。
「“子どもの権利条約”、第一条……児童の定義は18歳未満“」
「同 第二条、差別の禁止。第十二条、意見を表す権利。第十三条、表現の自由と第十四条、思想と良心の自由!!」
二人の声が、機械に覆われる“祭壇”で反響した。
「そういえば……権利としては、生存権、発達権、保護権、参加権もあったな……」
龍之助が二人の前に立つ。
「何が言いたい……?」
山土師の口から、手負いの肉食獣を思わせる唸り声が放たれる。
「簡単だ……こいつ等には、自分の意見を大人へ対等に訴えられる権利がある」
ロックの当然という言葉に、
「無茶苦茶だ……君たちは、問題の深さを分かっていない!! 反日勢力や“UNTOLD”とか、日本を取り巻く状況は深刻だ!!」
「そうだぜ……国防を理由にした、在日外国人への差別や生活弱者への攻撃……軍事化の正当化、平和国家の日本として末期だぜ」
「……なら、お前らが国の危機を思いながら、何でそいつ等の側に立ってやらなかった?」
ロックは尾咲と山土師を睨みつける。
「……建前として、俺たちはTPTP関連法で“ブライトン・ロック社”としてテメェらを殺せる」
翼剣を握る右手の力を強め、三条の喉元に押し付ける。
「だが……テメェらの命なんざ興味ない」
「じゃあ……何のために――!?」
尾咲が、押し黙る。
満月を映す湖面の様に澄み、刀を思わせるロックの眼光が、尾咲の言葉を奪った。
「堀川と秋津。テメェ等の団体のあり方に疑問を呈した……たった二人でな」
ロックの中に浮かぶ“政市会”と“政声隊”へ立ち向かう意思。
上万作駅前で、拡声器越しに訴えていた堀川と秋津の二人の背中が浮かぶ。
「テメェ等の言う日本が、どういうのか分からんが……“政市会”だろうが“政声隊”だろうが、“一人の高校生がおかしいと訴えられない”!! “あいつ等”の居場所もない……そんな国なら、とっとと滅びやがれ!!」
ロックの鋼鉄の意思で、周囲の敵意を煽る。
だが、彼の視線を眼にした者たちは、殺気に押し黙った。
「若いとはいえ、随分……暴論ですね」
大和保存会の老獪――菅原が口を開いた。
好々爺の雰囲気の中の眼の輝き――鉄のそれ――をロックに向ける。
「……“へルター・スケルター”でしか、日本の平和を実現できないと考える奴が言えた口かよ……ここにいる奴ら団体問わず死にそうな目に合わせるがテメェは、腐った日本と共に安楽死の方が良いようだな?」
ロックの回答に、菅原も押し黙る。
徹底的な愛国者への叛意に、好々爺は口を歪ませた。
堀川と秋津に向けられる視線を、ロックに向いているのをサキの眼から見た。
ロックの過激な言葉をどう受け取るかは分からない。
だが、彼らの眼はロックの言葉を受けて、輝いている様だった。
サキ、ブルース、サミュエル、一平、龍之助もロックの言葉に異議は無いようである。
“バタリオン・ピース”の“ライト”と“バイス”も、言葉と行動の一貫性を見出したように、笑顔になっていた。
しかし、ロック達の決意に押し黙る敵対者たちの沈黙が破られる。
「アーハッハッハ!!」
ロックの翼剣の刃に晒される、三条の場違いとも言える、甲高い笑い声によって。
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毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
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